11 / 166
第1章 中立自由都市エラリア
女神さまでも怒られるようです
しおりを挟む
「えっと、つまりユズキさんはセラ様のクシャミによって死ぬことになったということですね?」
女神さまと僕とイスカは今、神様の空間で光る椅子に腰をかけながら話をしている。
椅子は何もない世界に、女神さまが出してくれたものだ。
「はい⋯⋯」
「ぼ、僕も流石に女神さまのクシャミが原因で死ぬなんて、女神さまの権威を考えて言えずに──」
1番の被害者であるはずの僕が、女神さまをフォローするという謎展開だけど、なんかこう流石に女神さまが哀れに思えて。
今も肩と背中の翼をすくめて、顔を真っ赤にさせる女神さまは、可愛いだけに衆人の前で大恥をかいてしまったアイドルの様だ。
「えっと──、私如きでセラ様のことを何か言えることはないのですが⋯⋯ユズキさんは納得してるのですか?」
女神さまから、僕の転生の経緯を聞いたイスカは、困ったような表情で僕を見つめる。
でも、何で転生者でもないイスカが女神さまの世界までついてくることになったのだろう?
「僕は──前の世界に未練がないというのは嘘になるけど、こうやってイスカを助けることができて、一緒にいられるのだから。僕は転生させてもらって本当に良かったと思っているよ」
確かに、まだ前世には見知った人もいて、友人もいた。
でも、その世界で暮らしていたのであれば、イスカを助けることはできなかった。もしかしたら今この瞬間、僕が転生しなければイスカは奴隷として売られていたのかもしれないのだ。
そう思うと、前世のことがどうと思い返すより、転生させてもらってイスカに巡り合わせて頂いた女神さまには感謝の念しかない。
イスカは、僕の答えを聞くと少し困ったように耳をピコピコとさせた。
「わ、私はユズキさんが納得しているのであれば何も言えないです。だって、セラ様がユズキさんを転生させなければ、私はユズキさんに出会わないだけでなく、人族に奴隷にさせられていましたから」
「イスカさん~」
イスカも理解を示してくれたことが嬉しいのは分かるけど、創造神の貴女が祈りの姿勢を取ったら、威厳なんてなくなりますよ!
「だって、こうポンコツばかりしてると、また先輩に怒られますから──」
僕の心を読んだのはいいですけど、自分をポンコツと言っちゃ駄目でしょう!
僕はいいけど、イスカなんて正真正銘貴方の世界の民なんですよ!
「そうなのよぉ。この娘ったらいつまでたってもポンコツでごめんなさいねぇ、お二人方」
──!!
僕の心の中の突っ込みを捉えたのは、女神さまでもなくイスカでもなかったらしい。
突如、女神さまの後ろの空間が薄緑に光ったかと思うと、その光の中からすらりとした背の高い一人の女性が現れた。
170は超えるであろう長身。肌の色は、透き通るような肌を持つセラ様とは対象的で、褐色の肌は大地のような力強さを感じる。純白の衣は胸元がザックリとV字にカットされており露出が高い。しなやかな肢体はほっそりとしながらもアスリートのような洗練された筋肉が宿っていることが一目で分かった。
ここは、神の空間。そこに現れるということは彼女も──
「その通り、私は別の世界を司る女神。アマラよ」
「せ、先輩!?」
アマラと名乗った長身の女神は、フワリと女神さま──、いや女神さまが二人だから、セラ様とアマラ様と呼べばいいのか。
アマラ様はセラ様の後ろに降り立つと、ガタガタと震えるセラ様の肩にポンと手を置いた。
「ひ、ひいっ!!」
肩を触れられ、セラ様はビクッと身体をすくめ涙でいっぱいになった目をアマラ様に向ける。
「セ~ラ~、先輩が来たのに座っているなんていい度胸ね」
「は、はいぃっ!立たせて頂きます!!」
信じられないスピードで直立不動になったセラ様の足は少し震えている。
ヤバい、これが前に感じていた体育会系の女神さまの世界!
慌てて僕とイスカも直立不動になる。
それを見たアマラ様はクスリと笑う。
「ふふっ、いいのよ。貴方達は私の世界の住人でもないのだから、私を敬うなんていいのよ。セラにも強く当たりすぎたかしら、私も座るから貴方達は座りなさい。あ、セラ。貴女は立っておくのよ」
「も、勿論であります!」
もう、初めてお会いした時の荘厳さや威厳と言うものがどこにも見当たらない。完全に高校3年生の先輩に怯える新一年生といった縮図があった。
「さてと」
アマラ様が腰を下ろすと同時に、どこから現れたのかと思うほど立派な木製の玉座が出現すると、アマラ様はフカフカのクッションが敷かれた椅子へと腰を下ろした。
座ると同時に脚を組んだため、艶めかしい脚が衣からこぼれ落ちるのだから悩ましい。
「ふふっ、貴方が聞きたがっていた答えを担当直入に言うわ。貴方が手にした職業『譲渡士』っていうのは、私の世界で使われる職業なの」
ビシッと人差し指を僕に向けたアマラ様はニヤリと笑う。
「え?」
当惑する僕とイスカを見て、アマラ様は面白がっているのか、僕達の反応を楽しみにしているのか、顔には少し意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
女神さまというよりは頼れる姉御肌といった雰囲気が合っているなぁ。
「そこのエルフ、私のことを少し怖いと思っているでしょう?」
僕の心の中ではなく、イスカの心の中に反応したのか、アマラ様はイスカを指差して笑う。
「あわ、あわわ。すみません、不敬でした」
慌てるイスカにアマラ様は笑う。
「いーのいーの。女神がいちいち一人一人の心の中にコメントしてたら身体がいくつあっても足りないわ。で、貴女がこの神の空間に来られたのは、ユズキ。貴方のスキルのせいね」
え、僕のせい?スキル?
思い当たる節と言えば──
「あ、『レベル譲渡』!」
「ふふっ、そうよ。譲渡士のスキル、『レベル譲渡』を受けたイスカにはユズキの力が宿っているわ。女神から直接与えられた力は、この世界へと繋がっている⋯⋯、だからユズキの力をもらったイスカもこの世界へと繋がることになったのかしらね」
フッと、笑うだけで慈愛に満ちた表情を作り出せるのも、女神さまの力なのか。
諭すように話すアマラ様はとても優しいように感じる。
「あの、アマラ様?質問してもよろしいでしょうか?」
イスカの質問にアマラ様は優しく頷く。
「遠慮しないで言ってごらんなさい。管轄していない世界の住人と話すのなんて、滅多にないことだから私も楽しいのよ」
「えっと、それでは⋯⋯。私にレベルを譲渡することでユズキさんは弱くなってしまわないのですか?ユズキさんのレベルが表示されないことが心配で!」
イスカの質問内容に僕は驚く。
もともと、僕がセラ様に質問しようと思っていたことを、アマラ様に聞いてくれるなんて。
イスカの質問を聞いて、アマラ様はニヤリと笑う。
「うん、いいわ。惚れた男を大事に思うその気持ち。でもまぁ、大丈夫よ。だってその子、ユズキのレベルは9998だから」
「?」
「?」
多分、僕は今この世界に来て1番の間抜け顔をしている自身がある。
だってねぇ、レベル9998ってゲームで言うカンスト手前。あ、1レベルイスカに譲渡しているから、9999だった?
もうカンストしてるじゃん。
横を見れば、信じられないことを聞いたという風にイスカがガタガタと震えてしまっている。
⋯⋯
ふぅ。ちょっと思考停止しちゃったけど、うん。分かっちゃったなぁ。
「セラ様の世界って、結構高レベルの世界なんですね」
にこやかに言ったつもりだけど、ツンツンと横から突かれて僕は我に返る。
「レベル40台のミドラさんがS級パーティーの世界ですよ。ユズキさん、現実逃避をしないでください」
⋯⋯
ですよねー。やっぱり、これはセラ様がやらかしたとしか思えないよね。
「ハハハッ!ほんと、セラが間違えて恩寵を与えた相手がユズキみたいな人で良かったわよ!ねぇ、セラ!貴女の失敗を聞いた時は本気でお仕置きしてやろうと思ったけど、命拾いしたわね」
僕達のやり取りを見て、アマラ様は面白くて仕方ないといった風に膝を叩いた。
「うぅ、すみません先輩──ユズキさん、私の世界の最高のレベルは99なんです」
え、桁2つくらい違わないですか?
どこをどう間違えたらそうなるの?電卓で0を押すところ間違って00キーを押したレベルですよ?
「セラ?」
パチンとアマラ様が指を鳴らす。
「はい!私がクシャミをしてしまったせいで、アマラ先輩の世界で使える固有スキルと職業を間違えて、ユズキさんに付与してしまいました!」
あー、やっぱりセラ様のクシャミのせいなのですね。
なんか、こう予想がつくといえばつきましたが⋯⋯
「そうなのよ、この子こんなにポンコツなのに神の力だけば特級でね。クシャミ1つで、神の力で作られたセキュリティを破壊して、私の世界のスキルや職業選択ボタンを押すんだもの。慌てて飛んでくることになったわよ」
「はぃぃ、その節は本当にご迷惑をおかけしました」
アマラ様の冷ややかな視線にセラ様はますます身体を小さくさせる。
「つまり、ユズキ。貴方はセラの世界において誰よりも強いけど、最強ではないわ。今日はそれを伝えておこうと思って」
桁2つ違うカンストぶりなのに最強ではないとは?
僕とイスカの心の中を読んだアマラ様は笑う。
「そうね。譲渡士は、基本的には有り余るレベルを仲間に分け与えて、仲間を強化する。ある意味、付与師エンチャンターのようなものよ。今の貴方は『譲渡』しか覚えていないけど、『回収』を覚えれば仲間のレベルを戦況に合わせて調整することができるわよ」
アマラ様の説明に、おずおずとセラ様が説明を加える。
「すみません、なのでユズキさんに正々堂々一対一で勝てる相手は基本的にはいないのですが、そこは相手のスキルの特性によって不利なことはあります。また、先輩に教えてもらったのですが、譲渡士は高レベルの魔法を覚えることがありません。つまり、戦争や殲滅戦のような時に大規模殲滅魔法を打てないため、個としては勝てても戦いには勝てないことがままあるのです」
うーん、つまり殴り合いのタイマン最強だけど、僕一人で相手にできる数は限られている。そのため、仲間を適切に強化することを生業としているってことか。
なんか、戦略家みたいだね。
「そ、そんなとこよ」
アマラ様は、僕の心を読み取り頷く。
「そして、野心がないことも1つ救いね。もしユズキに野心があれば世界を救う勇者にも、世界を跪かせる魔王にもなれたのよ。なんせ、現役の勇者と魔王より貴方の方がよっぽどレベルが高いのだから。でも、貴方はそれを選ばない」
そう。僕はそんなことは選ばない。
身の丈に合わない地位や力はろくなことにはならない。
実際、僕の性格は人の上に立つというより、プロジェクトでも人をサポートする方が得意だった。そういう意味では、頂いた職業は適切なのかもしれない。
世界の命運をかけた戦いは勇者様に任せるよ。
「そうですね。僕の願いはイスカが笑って生きていけることが1番ですから」
僕は隣に座るイスカの右手を握る。
僕が握る強さと同じ強さで握り返してくれるイスカの温もりを感じながら、僕達はセラ様とアマラ様を真っ直ぐに見つめる。
「良かったわねセラ。転生者がユズキで」
アマラ様が意地悪そうにセラ様を見ると、たまらず背中の羽で顔を覆い隠してしまった。
「さてと、私はもう行くけど。最後にセラ」
「はいっ!!」
名前を呼ばれて、直立不動になるセラ様。
「私はスキルと職業を渡した人間の人となりを見れたから満足だけど、セラのクシャミの連発は、神としての体調不良を起こしているのかもしれないと上は判断しているわよ。何らかの対処が施されるでしょうね」
「え!?そんなぁ」
泣きそうになるセラ様に対し、アマラ様は苦笑いをする。
「仕方ないでしょ。神の力が特級に高い貴女が神界でクシャミを連発することが問題なのよ。とりあえず、長老会には顔を出さなくては駄目でしょうね」
長老会と聞いて、ますますセラ様は震え上がってしまった。
本当にこの女神さまに子供がいるのだろうか?
「え?誰です子供って?」
今まで、震え上がっていたセラ様がピタリと動きを止めた。
え、もしかして僕地雷踏んだのかな?
「あの、私達。ラクサス教の方々が祀る神様、ラクサス様がセラ様の息子だとお聞きしたもので」
咄嗟にイスカがフォローに入ってくれる。
しかし、セラ様は今度は顔を真っ赤にして怒ってしまった。
「ち、違います!私もラクサス教なんてもの知ってますが、なんですかあの嘘っぱち!私はまだ男神の誰とも交際をした経験なんてありません!あれは、人族が私の名前を語って金儲けに作った悪どい──」
怒りに任せて熱弁するセラ様の頭は、顔を引きつらせたアマラ様によってガシッとその手に掴まれることになった。
「セ~ラ~。私達、女神は基本中立。育った子供たちの中で宗教が変わることはよくあることよ。その民の目の前で、貴女がラクサス教なんて嘘だと言っても良いものなのかしらねぇ」
傍目でも分かるほどにセラ様を掴むアマラ様の手に力が込められているのが分かる。
「いた、いた、痛いです先輩!頭千切れます!」
食い込む指の力を緩めようと、セラ様が必死にアマラ様の手をほどこうとする。
そして、ラクサス様というものは、つまるところ人族が生み出した妄想の産物だったとは⋯⋯
なんだか、宗教における知ってはいけない禁忌を知ってしまったということは、本当に気をつけないとリアルに信徒に消されかねない。
「さて、貴方がたはこのポンコツが何か余計なことを口走らないうちにおゆきなさい。何、そこのエルフ、イスカだっけ。セラは貴女が心配するような処分にはならないから安心しなさい。──まぁ、そうね。どっちかというと面白いことになりそうだけど」
イスカの心の中を読み取ったのか、アマラ様はイスカの方を振り向くとウインクする。
その、仕草はとても魅力的なんだけど、万力のような力でセラ様の頭を握っている姿は、ヤンキーが絞め上げながらガンを飛ばしているようにしか見えないから恐ろしいよね。
「はい、行った行った」
僕の心の中を読んだアマラ様は、早く行けと言う風に手をヒラヒラとさせる。
「あの、お二方。色々とありがとうございました!」
「セラ様にお会いできて光栄でした!あの、ちょっとイメージと違いましたが。とても親しみやすい創造神様だと思いました」
イスカさん⋯⋯それ、褒めてないよ。
そうは思いつつ、手を握り合っている僕達は深々と頭を下げた。
そっと頭を上げた僕の眼には、優しそうに笑うアマラ様と、涙目ながらも必死に微笑むセラ様のお顔が見え──
そこで、僕の意識は再び暗転した。
女神さまと僕とイスカは今、神様の空間で光る椅子に腰をかけながら話をしている。
椅子は何もない世界に、女神さまが出してくれたものだ。
「はい⋯⋯」
「ぼ、僕も流石に女神さまのクシャミが原因で死ぬなんて、女神さまの権威を考えて言えずに──」
1番の被害者であるはずの僕が、女神さまをフォローするという謎展開だけど、なんかこう流石に女神さまが哀れに思えて。
今も肩と背中の翼をすくめて、顔を真っ赤にさせる女神さまは、可愛いだけに衆人の前で大恥をかいてしまったアイドルの様だ。
「えっと──、私如きでセラ様のことを何か言えることはないのですが⋯⋯ユズキさんは納得してるのですか?」
女神さまから、僕の転生の経緯を聞いたイスカは、困ったような表情で僕を見つめる。
でも、何で転生者でもないイスカが女神さまの世界までついてくることになったのだろう?
「僕は──前の世界に未練がないというのは嘘になるけど、こうやってイスカを助けることができて、一緒にいられるのだから。僕は転生させてもらって本当に良かったと思っているよ」
確かに、まだ前世には見知った人もいて、友人もいた。
でも、その世界で暮らしていたのであれば、イスカを助けることはできなかった。もしかしたら今この瞬間、僕が転生しなければイスカは奴隷として売られていたのかもしれないのだ。
そう思うと、前世のことがどうと思い返すより、転生させてもらってイスカに巡り合わせて頂いた女神さまには感謝の念しかない。
イスカは、僕の答えを聞くと少し困ったように耳をピコピコとさせた。
「わ、私はユズキさんが納得しているのであれば何も言えないです。だって、セラ様がユズキさんを転生させなければ、私はユズキさんに出会わないだけでなく、人族に奴隷にさせられていましたから」
「イスカさん~」
イスカも理解を示してくれたことが嬉しいのは分かるけど、創造神の貴女が祈りの姿勢を取ったら、威厳なんてなくなりますよ!
「だって、こうポンコツばかりしてると、また先輩に怒られますから──」
僕の心を読んだのはいいですけど、自分をポンコツと言っちゃ駄目でしょう!
僕はいいけど、イスカなんて正真正銘貴方の世界の民なんですよ!
「そうなのよぉ。この娘ったらいつまでたってもポンコツでごめんなさいねぇ、お二人方」
──!!
僕の心の中の突っ込みを捉えたのは、女神さまでもなくイスカでもなかったらしい。
突如、女神さまの後ろの空間が薄緑に光ったかと思うと、その光の中からすらりとした背の高い一人の女性が現れた。
170は超えるであろう長身。肌の色は、透き通るような肌を持つセラ様とは対象的で、褐色の肌は大地のような力強さを感じる。純白の衣は胸元がザックリとV字にカットされており露出が高い。しなやかな肢体はほっそりとしながらもアスリートのような洗練された筋肉が宿っていることが一目で分かった。
ここは、神の空間。そこに現れるということは彼女も──
「その通り、私は別の世界を司る女神。アマラよ」
「せ、先輩!?」
アマラと名乗った長身の女神は、フワリと女神さま──、いや女神さまが二人だから、セラ様とアマラ様と呼べばいいのか。
アマラ様はセラ様の後ろに降り立つと、ガタガタと震えるセラ様の肩にポンと手を置いた。
「ひ、ひいっ!!」
肩を触れられ、セラ様はビクッと身体をすくめ涙でいっぱいになった目をアマラ様に向ける。
「セ~ラ~、先輩が来たのに座っているなんていい度胸ね」
「は、はいぃっ!立たせて頂きます!!」
信じられないスピードで直立不動になったセラ様の足は少し震えている。
ヤバい、これが前に感じていた体育会系の女神さまの世界!
慌てて僕とイスカも直立不動になる。
それを見たアマラ様はクスリと笑う。
「ふふっ、いいのよ。貴方達は私の世界の住人でもないのだから、私を敬うなんていいのよ。セラにも強く当たりすぎたかしら、私も座るから貴方達は座りなさい。あ、セラ。貴女は立っておくのよ」
「も、勿論であります!」
もう、初めてお会いした時の荘厳さや威厳と言うものがどこにも見当たらない。完全に高校3年生の先輩に怯える新一年生といった縮図があった。
「さてと」
アマラ様が腰を下ろすと同時に、どこから現れたのかと思うほど立派な木製の玉座が出現すると、アマラ様はフカフカのクッションが敷かれた椅子へと腰を下ろした。
座ると同時に脚を組んだため、艶めかしい脚が衣からこぼれ落ちるのだから悩ましい。
「ふふっ、貴方が聞きたがっていた答えを担当直入に言うわ。貴方が手にした職業『譲渡士』っていうのは、私の世界で使われる職業なの」
ビシッと人差し指を僕に向けたアマラ様はニヤリと笑う。
「え?」
当惑する僕とイスカを見て、アマラ様は面白がっているのか、僕達の反応を楽しみにしているのか、顔には少し意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
女神さまというよりは頼れる姉御肌といった雰囲気が合っているなぁ。
「そこのエルフ、私のことを少し怖いと思っているでしょう?」
僕の心の中ではなく、イスカの心の中に反応したのか、アマラ様はイスカを指差して笑う。
「あわ、あわわ。すみません、不敬でした」
慌てるイスカにアマラ様は笑う。
「いーのいーの。女神がいちいち一人一人の心の中にコメントしてたら身体がいくつあっても足りないわ。で、貴女がこの神の空間に来られたのは、ユズキ。貴方のスキルのせいね」
え、僕のせい?スキル?
思い当たる節と言えば──
「あ、『レベル譲渡』!」
「ふふっ、そうよ。譲渡士のスキル、『レベル譲渡』を受けたイスカにはユズキの力が宿っているわ。女神から直接与えられた力は、この世界へと繋がっている⋯⋯、だからユズキの力をもらったイスカもこの世界へと繋がることになったのかしらね」
フッと、笑うだけで慈愛に満ちた表情を作り出せるのも、女神さまの力なのか。
諭すように話すアマラ様はとても優しいように感じる。
「あの、アマラ様?質問してもよろしいでしょうか?」
イスカの質問にアマラ様は優しく頷く。
「遠慮しないで言ってごらんなさい。管轄していない世界の住人と話すのなんて、滅多にないことだから私も楽しいのよ」
「えっと、それでは⋯⋯。私にレベルを譲渡することでユズキさんは弱くなってしまわないのですか?ユズキさんのレベルが表示されないことが心配で!」
イスカの質問内容に僕は驚く。
もともと、僕がセラ様に質問しようと思っていたことを、アマラ様に聞いてくれるなんて。
イスカの質問を聞いて、アマラ様はニヤリと笑う。
「うん、いいわ。惚れた男を大事に思うその気持ち。でもまぁ、大丈夫よ。だってその子、ユズキのレベルは9998だから」
「?」
「?」
多分、僕は今この世界に来て1番の間抜け顔をしている自身がある。
だってねぇ、レベル9998ってゲームで言うカンスト手前。あ、1レベルイスカに譲渡しているから、9999だった?
もうカンストしてるじゃん。
横を見れば、信じられないことを聞いたという風にイスカがガタガタと震えてしまっている。
⋯⋯
ふぅ。ちょっと思考停止しちゃったけど、うん。分かっちゃったなぁ。
「セラ様の世界って、結構高レベルの世界なんですね」
にこやかに言ったつもりだけど、ツンツンと横から突かれて僕は我に返る。
「レベル40台のミドラさんがS級パーティーの世界ですよ。ユズキさん、現実逃避をしないでください」
⋯⋯
ですよねー。やっぱり、これはセラ様がやらかしたとしか思えないよね。
「ハハハッ!ほんと、セラが間違えて恩寵を与えた相手がユズキみたいな人で良かったわよ!ねぇ、セラ!貴女の失敗を聞いた時は本気でお仕置きしてやろうと思ったけど、命拾いしたわね」
僕達のやり取りを見て、アマラ様は面白くて仕方ないといった風に膝を叩いた。
「うぅ、すみません先輩──ユズキさん、私の世界の最高のレベルは99なんです」
え、桁2つくらい違わないですか?
どこをどう間違えたらそうなるの?電卓で0を押すところ間違って00キーを押したレベルですよ?
「セラ?」
パチンとアマラ様が指を鳴らす。
「はい!私がクシャミをしてしまったせいで、アマラ先輩の世界で使える固有スキルと職業を間違えて、ユズキさんに付与してしまいました!」
あー、やっぱりセラ様のクシャミのせいなのですね。
なんか、こう予想がつくといえばつきましたが⋯⋯
「そうなのよ、この子こんなにポンコツなのに神の力だけば特級でね。クシャミ1つで、神の力で作られたセキュリティを破壊して、私の世界のスキルや職業選択ボタンを押すんだもの。慌てて飛んでくることになったわよ」
「はぃぃ、その節は本当にご迷惑をおかけしました」
アマラ様の冷ややかな視線にセラ様はますます身体を小さくさせる。
「つまり、ユズキ。貴方はセラの世界において誰よりも強いけど、最強ではないわ。今日はそれを伝えておこうと思って」
桁2つ違うカンストぶりなのに最強ではないとは?
僕とイスカの心の中を読んだアマラ様は笑う。
「そうね。譲渡士は、基本的には有り余るレベルを仲間に分け与えて、仲間を強化する。ある意味、付与師エンチャンターのようなものよ。今の貴方は『譲渡』しか覚えていないけど、『回収』を覚えれば仲間のレベルを戦況に合わせて調整することができるわよ」
アマラ様の説明に、おずおずとセラ様が説明を加える。
「すみません、なのでユズキさんに正々堂々一対一で勝てる相手は基本的にはいないのですが、そこは相手のスキルの特性によって不利なことはあります。また、先輩に教えてもらったのですが、譲渡士は高レベルの魔法を覚えることがありません。つまり、戦争や殲滅戦のような時に大規模殲滅魔法を打てないため、個としては勝てても戦いには勝てないことがままあるのです」
うーん、つまり殴り合いのタイマン最強だけど、僕一人で相手にできる数は限られている。そのため、仲間を適切に強化することを生業としているってことか。
なんか、戦略家みたいだね。
「そ、そんなとこよ」
アマラ様は、僕の心を読み取り頷く。
「そして、野心がないことも1つ救いね。もしユズキに野心があれば世界を救う勇者にも、世界を跪かせる魔王にもなれたのよ。なんせ、現役の勇者と魔王より貴方の方がよっぽどレベルが高いのだから。でも、貴方はそれを選ばない」
そう。僕はそんなことは選ばない。
身の丈に合わない地位や力はろくなことにはならない。
実際、僕の性格は人の上に立つというより、プロジェクトでも人をサポートする方が得意だった。そういう意味では、頂いた職業は適切なのかもしれない。
世界の命運をかけた戦いは勇者様に任せるよ。
「そうですね。僕の願いはイスカが笑って生きていけることが1番ですから」
僕は隣に座るイスカの右手を握る。
僕が握る強さと同じ強さで握り返してくれるイスカの温もりを感じながら、僕達はセラ様とアマラ様を真っ直ぐに見つめる。
「良かったわねセラ。転生者がユズキで」
アマラ様が意地悪そうにセラ様を見ると、たまらず背中の羽で顔を覆い隠してしまった。
「さてと、私はもう行くけど。最後にセラ」
「はいっ!!」
名前を呼ばれて、直立不動になるセラ様。
「私はスキルと職業を渡した人間の人となりを見れたから満足だけど、セラのクシャミの連発は、神としての体調不良を起こしているのかもしれないと上は判断しているわよ。何らかの対処が施されるでしょうね」
「え!?そんなぁ」
泣きそうになるセラ様に対し、アマラ様は苦笑いをする。
「仕方ないでしょ。神の力が特級に高い貴女が神界でクシャミを連発することが問題なのよ。とりあえず、長老会には顔を出さなくては駄目でしょうね」
長老会と聞いて、ますますセラ様は震え上がってしまった。
本当にこの女神さまに子供がいるのだろうか?
「え?誰です子供って?」
今まで、震え上がっていたセラ様がピタリと動きを止めた。
え、もしかして僕地雷踏んだのかな?
「あの、私達。ラクサス教の方々が祀る神様、ラクサス様がセラ様の息子だとお聞きしたもので」
咄嗟にイスカがフォローに入ってくれる。
しかし、セラ様は今度は顔を真っ赤にして怒ってしまった。
「ち、違います!私もラクサス教なんてもの知ってますが、なんですかあの嘘っぱち!私はまだ男神の誰とも交際をした経験なんてありません!あれは、人族が私の名前を語って金儲けに作った悪どい──」
怒りに任せて熱弁するセラ様の頭は、顔を引きつらせたアマラ様によってガシッとその手に掴まれることになった。
「セ~ラ~。私達、女神は基本中立。育った子供たちの中で宗教が変わることはよくあることよ。その民の目の前で、貴女がラクサス教なんて嘘だと言っても良いものなのかしらねぇ」
傍目でも分かるほどにセラ様を掴むアマラ様の手に力が込められているのが分かる。
「いた、いた、痛いです先輩!頭千切れます!」
食い込む指の力を緩めようと、セラ様が必死にアマラ様の手をほどこうとする。
そして、ラクサス様というものは、つまるところ人族が生み出した妄想の産物だったとは⋯⋯
なんだか、宗教における知ってはいけない禁忌を知ってしまったということは、本当に気をつけないとリアルに信徒に消されかねない。
「さて、貴方がたはこのポンコツが何か余計なことを口走らないうちにおゆきなさい。何、そこのエルフ、イスカだっけ。セラは貴女が心配するような処分にはならないから安心しなさい。──まぁ、そうね。どっちかというと面白いことになりそうだけど」
イスカの心の中を読み取ったのか、アマラ様はイスカの方を振り向くとウインクする。
その、仕草はとても魅力的なんだけど、万力のような力でセラ様の頭を握っている姿は、ヤンキーが絞め上げながらガンを飛ばしているようにしか見えないから恐ろしいよね。
「はい、行った行った」
僕の心の中を読んだアマラ様は、早く行けと言う風に手をヒラヒラとさせる。
「あの、お二方。色々とありがとうございました!」
「セラ様にお会いできて光栄でした!あの、ちょっとイメージと違いましたが。とても親しみやすい創造神様だと思いました」
イスカさん⋯⋯それ、褒めてないよ。
そうは思いつつ、手を握り合っている僕達は深々と頭を下げた。
そっと頭を上げた僕の眼には、優しそうに笑うアマラ様と、涙目ながらも必死に微笑むセラ様のお顔が見え──
そこで、僕の意識は再び暗転した。
102
あなたにおすすめの小説
Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜
橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる