うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第2章 交易都市トナミカ

クラーケン討伐を行うようです⑥

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「二人は大丈夫そうかな⋯⋯」

 僕はレグナント号のヤードの上から、甲板の上で立ち回るイスカとフーシェの様子を見て呟いた。

「兄ちゃんのお仲間スッゲェなぁ。クラーケンの方を任せられていたけど、アテがあるのか?」

 僕よりも頭上にある見張り台で、見張り役をしている魔族の男が僕に話しかける。
 そうなのだ、イスカとフーシェに任せられたのは良いのだけれど、いざあの小さな山の様な大きさのクラーケンに太刀打ちできるかといえば、現状僕のスキルだけでは単独で打ち破ることは困難だ。
 そんな葛藤に襲われる僕の脳裏に、セラ様の空間で出会ったもう一人の女神さま、アマラ様の言葉を僕は思い出した。

『──貴方はセラの世界において誰よりも強いけど、最強ではないわ』

「⋯⋯そうか」

 アマラ様の言葉を僕は頭の中で反芻する。
 すると、突然頭の中の靄が晴れたような気分が僕を襲った。

「どうした?」

 見張りの男の声が届くが、僕は今感じた感覚を忘れないように考えをまとめる。
 そうだ、僕は
 この意味をちゃんと理解はしていなかったのだ。
 なまじ武器を持っているために、自分でどうにかしようという考えを捨てきれていなかった。

 女神さまの前では、自分を戦略家のように動けば良いと言ってみたものの、アースドラゴン戦だって本当に倒すための立役者となったのはフーシェだ。ワイバーン戦の時はイスカや『城壁の守護者』パーティーのアルティナ、そしてサユリだ。

 考えろ。
 どうすれば一番の効果が得られるのかを。
 イスカとフーシェはクラーケンベビーを相手にすると言った。
 つまり彼女達こそ、僕がいくら強化を行おうともクラーケンには効果的な攻撃手段を持っていないと自覚していたのだ。

 ──ドゴンッ!

 また、一艘の船がクラーケンの巨大な足によって沈められる。
 時間はない、クラーケンは手当り次第に近場の船を攻撃しているようだが、レグナント号とクラーケンの距離もさほど離れてはいないのだ。

「ヒッ!」

 焦る僕の耳に眼下から、耳に残る声が聞こえてきた。

 ──そうだ!

 僕は甲板を逃げ回る、魔族のドグを視界に収める。ドグは、戦場と化した船の上で魔法を使うこともせず、慌ただしく逃げ回っていた。
 その動きは俊敏だが、彼は一向に仲間を助けようとする気配はなく、ただただ保身のために走り回っていた。
 その動きに内心僕は腹を立てたが、彼の魔法こそが、この状況を打開する一石になるのではと閃いた。

「行ってくるよ!」

 僕は見張り台の男の返事を待たずに、ヤードの上から飛び降りた。
 軽くマストを蹴っているため、加速のついた僕の身体は自由落下よりも早く、デッキの端で震えているドグの目の前に着地した。

「ヒ、ヒッ!──旦那!!」

 ドグは、突如眼前に降ってきた僕の姿に面食らったのか、ギョロギョロとした瞳を大きく見開いた。

「ドグ!君の力が必要だ!その魔法の力を貸してくれないか!?」

 僕の言葉にドグは眼を丸くする。
 しかし、次の瞬間には両手を目の前でヒラヒラとさせながら叫びだした。

「無理じゃ、無理!ヒッ、儂の魔法は狙いも下手くそで、こんな所じゃ撃つこともできんのじゃ!こんな役立たずを当たるより、他を当たれぃっ!」

 なるほど、仲間を巻き添えにしないために、魔法も使えなかったのか。

魚人族フィッシャーマンの時だってそうじゃ。しこたま撃って、当たったのが2発!こんなところで使ったら仲間を氷漬けにしてしまうわい!──って、旦那、後ろ後ろ!」

 ドグが恐怖に満ちた顔で、僕の後ろを指差す。
 振り向くと、3メートル級のベビーの2本足が僕を目掛けて伸びてきていた。
 しかし、その足は僕に到達する前に、一人の人影によってバラバラにされることとなった。

「ん。セーフ?」

 漆黒の双剣、『アースブレイカー』を身体の一部の様に振り回したフーシェが、僕の目の前に着地する。
 その刀身は、ベビーの足を斬ったのに汚れ一つついていない。

「ありがとう、フーシェ」

 僕がお礼を言うと、フーシェは少し嬉しそうに頷きながら、再び甲板を蹴った。
 どうやら、ようやく『アースブレイカー』を振れることが嬉しいらしい。
 次々と獲物に向かって行く姿は、遊び相手を見つけた肉食獣のようだ。

「さて、ドグ。大丈夫だよ、仲間に誤射してしまうことはないよ」

 僕はドグに向き直る。怪訝な顔をする彼に、僕は砲撃を受けながらも怯むことのないクラーケンを指差した。

「狙ってもらうのはクラーケンだ。思う存分撃っていいんだ」

 僕の言葉に、ドグは気は確かかという風に、乾いた笑いをあげた。

「ヒ、ヒヒッ!馬鹿言っちゃいけねぇ。ワシの魔法なんぞ、20メートル飛べば御の字じゃ!あんなに離れとるやつなんぞ撃っても届きゃせん!届いても吸盤一個が固まれば拍手喝采万々歳じゃ!」

 口から唾を飛ばしながら熱弁するドグを見て、僕は頭を悩ませる。

「あそこまでは僕が連れて行くよ。レグナント号に乗り込むのを見ただろう?すれ違いざまに一発打ち込んでくれればいいんだ」

 あまり時間はない。
 クラーケンが砲撃の隙間を縫って、移動を開始しようとしていた。

「やらんと言ったらやらん!あんな近くまで寄ったら死ににいくようなもんじゃ!」

「ここにいたって、このままだと死ぬんだぞ!」

 ドグの言葉にいらついた僕は、思わず語気を強める。

「ヒッ!死ぬ場所をなんで旦那に決められなきゃならんのじゃ!同じ死ぬなら、可愛いトナミカの嬢の上で死にたいわい」

 ウットリと眼を閉じるドグを見て、僕はその顔を引っぱたきたくなる気持ちをなんとかこらえる。
 このままでは拉致があかない。

『ユズキさん、こういった場合『知性』を上げてみることをお勧めします』

 脳内にセラ様AIの声が響き、僕に語りかけてきた。
 躊躇している暇はない。 
 僕はセラ様AIを信じることにした。

「『能力値譲渡アサイメント』!」

 有無を言わさず、僕はドグに向かってスキルを打ち込む。
 譲渡するのは、『知性』と勿論『魔法攻撃力』だ。僕の右手から迸る青い光がドグを貫く。

「ふほっ!!」

 驚きと共に素っ頓狂な声をあげる。
 変な声があがったが、聞きたくない色っぽい物ではなかったのは良かったというべきか⋯⋯

 能力を譲渡されたドグは、背筋を伸ばすと慌てたように身体を触り、どこにも異常がないことを確認すると安堵したように息を吐いた。

「旦那、なんてことをするんです。ちゃんと、やる前には声をかけてくださいよ」

 ──ん?
 なんか、キャラが変わっているんだけど。

 ドグの瞳には文字通り知性が宿り、あの耳にさわるような笑い声もでない。
 折れ曲がった背筋もしゃんと伸び、言葉遣いも丁寧なことに僕は驚く。

「さて、あのクラーケンに私の氷魔法を打ち込むのですね?ですが、問題があります。私の最大魔法『氷結の吐息フロストブレス』は対象を凍らせますが、有効射程距離は5メートルしかありません。そして、先程も言いましたが、私はクラーケンの所まで辿り着く手段がありません。旦那は、その点を解決してくれるのでしょうか?」

 スラスラと現状把握と自身の能力を分析し始めるドグの反応に、僕は面食らってしまった。

「あ、あぁ。僕がクラーケンまで運ぶよ」 

「分かりました。次の問題はレベル差です。クラーケンが『災厄級』の魔物であることから、レベルは少なくとも60台、高くて70台と推測されます。私の魔法では、足を少し凍傷にするレベルです。先程頂いた力で強化されていますが、それでも一回の魔法で凍らせられるのは足の一本が限度です。それも、一回で魔力を全て使い果たしてしまうでしょう。この船にはマナポーションもありません。この点は旦那はどのように考えますか?」

 最早別人だ。的確な戦力分析は、本当に僕から譲渡された能力なのだろうか?
 だとしたら、僕の頭の回転ももう少し早くなっても良いものだが⋯⋯
 ドグの変貌に、自分の頭があまり良くなっていないことを自覚して、僕は軽いショックを覚えた。

「僕の魔力譲渡でマナポーションの代わりができる。多分足と頭部の回数分を合わせて9回くらいならドグの魔法を撃てるようにするよ」

「それは旦那がレベル99と仮定しても消費魔力と旦那の魔力総量が釣り合っていません。嘘をついてはいませんか?」

 うわ、これは逆に面倒くさいやつだ。
 理詰めで来られると、時間がない中での押し問答程不毛なものはない。

「ドグ!やらなきゃ死ぬんだ!ここで問答をするより、試して活路を見出した方が生き残る確率は高まるよ!」

 僕が業を煮やして叫ぶと、ドグは理解したという風に頷いた。

「なるほど、やらぬ後悔よりも試した方が確率は少しでも上がりますものね」

 なんか、失敗すること前提なのだけど、やる気になってくれたのならしめたものだ。

「あぁ、いつでも撃てるように頼むよ」

 ドグが頷くと同時に、僕はドグの身体を抱きかかえる。
 ⋯⋯正直臭い。
 近距離での余りの臭気に顔をしかめたくなるが、これもトナミカ船団の乗組員の命と比べると安いものだ。

「あぁ、不衛生でしたね。この場合、アルコールによる消毒を簡易的にした方が⋯⋯」

 あぁ、時間がないんだ!
 僕の『魔力譲渡』は5分しか保たないのだ。
 ブツブツと考え込み始めるドグを無視して、僕は助走する。

「待ってられないから行くよ!いつでも 『氷結の吐息フロストブレス』を撃てるようにしておいてよ!」

 そう言い終えると僕は、今やレグナント号をも射程距離に捉えようとしているクラーケンに向かって跳躍する。

 レールガンのように空中に放り出されたことで、鼻につくドグの悪臭が紛れたことが唯一の救いだ。
 さて、それではクラーケンを冷凍させに行こうじゃないか。

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