うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第4章 魔導都市レーヴァテイン

最後は力技のようです

 無情な音が暗闇となった通路に響き渡った。
 ごとり、ごとりと落ちた四肢の肉片が耳に届く。
 僕が女性の『譲渡士』のセライと融合していた時であれば、思わず想像だけで吐き気をもよおしていたかもしれない。

「くっ──」

 無念そうにラゴスが、息絶えた同僚達のことを思い下を向いた。

「ほら!邪魔者もいなくなったし行こうよ」

 メーシェは、悪いことをしたという気持ちは全くないようだ。
 僕だって、追手が迫って来たら戦闘になることは避けられないことは分かっていた。
 そういう意味では、迎える結論は同じだった。
 それにメーシェに対して嘘をついている僕には、彼女を非難する資格はなかった。

「うん、分かったよ」

 僕は力が抜けたように返事をする。
 メーシェの破壊した扉をくぐると、そこには緑色の光を放つボーリング大の球体が、部屋の中央に設置されていた。
 球体は頑丈な台座にはめ込まれ、放つ魔素がビリビリと肌を打った。

「よし、これを壊そう。今度は僕がやるよ」

 リズには、この装置を壊すように説明を受けている。
 機能を停止させるだけであれば、ドルトンであれば再稼働させることができるためだ。
 メーシェは不機嫌そうに口を尖らせたが、僕は構わず制御装置の前に立った。

「フッ!」

 一息に右手に握った剣を一閃する。

 ──キインッ

 澄んだ音と共に、刃は球体を横薙ぎに両断した。
 突如、バチッと静電気が弾けたような音が室内に響くと、制御装置が放っていた魔素はたちまち消えてしまった。

「やった、ゲームクリアだね!」

 無邪気に笑うメーシェを見て僕は重い気分になる。
 目的は果たした。
 これで、外にいるリズ達は城の結界が消えたことを悟って城内を目指すだろう。

「あーあ、このオーブとってもウザかったんだよ。でも、これでドルトンさんに怒られることもなく、外に出ることができるよ。ね?あれ壊したのは私じゃないから、私怒られないよね?」

「まるで幼子だな⋯⋯」

 メーシェの言葉にラゴスが嘆息混じりに呟いた。

「むぅ、子供扱いしないで!これでも年は15になったんだから!フーシェお姉ちゃんよりは若いけど、魔族の女からしたら立派なレディーよ!」

 フンッと胸を張ったメーシェ。
 僕は、メーシェがフーシェの名前を出したことで、危惧していたことが現実になったと目眩を覚えた。

「む、どうした?顔色が悪いが」

 ラゴスが僕の様子に気付いたのか声をかけてくる。

「なんでもないよ、これでみんなも入ってこれるかな。早くここから出よう」

 僕の言葉にラゴスが相槌を打った。

「そうだな、早くリズ様をお迎えにあがらねば」

「あれ?もしかしてそっちのトカゲのオジサン。今、リズって言わなかった?」

 僕達が破壊された扉に向き直った瞬間、まるで氷の様に冷たい言葉がメーシェの口から漏れた。

 ──しまった

 失言に気付いたラゴスが左目で僕にアイコンタクトを送った。
 だけど、口から出た言葉を戻す術はない。
 この瞬間、完全にメーシェはドルトン側の人物であることが確定した訳だ。

「もしかしてお兄ちゃん、リズの仲間なの?」

 その声には冷たさだけではない、悲しげな口調が含まれていた。

 僕が嘘をついたからか──

 きっと、メーシェはと思ってやったことが、僕につかれた嘘だと分かって落胆しているんだ。

 勿論、あの短時間でメーシェの背景を量ることはできないやしない。
 でも、敵対することになったとしても、嘘をつくべきではなかった。
 その後悔が胸に押し寄せる。
 きっとこのことは、彼女の心に僕が裏切ったという事実を残すだろう。

 僕は、最悪の一手を選んでしまったことを悔いつつもメーシェに向き直った。
 そこには、嘘をつかれたことへの悲しみと、怒りをぶつけたいと我慢するかのような表情が混ざり合っていた。

「ごめん、メーシェの言うとおり、僕はこの城の城主であるリズの仲間だよ。僕はこの城を奪還するためにやってきたんだ」

 僕の言葉に、メーシェの表情がみるみると敵意に満ちた物へと変わる。

『警告です。メーシェのスキル、『消失エリミネーション』は、『レベル9999』でも触れてはいけません。あれは、フーシェさんの『神喰らいゴッドイーター』と同じ性質の物です』

 脳内にセライの忠告が響き渡った。
 セライの言葉は、僕の想像と合致していた。

 こんな狭い室内で、メーシェがスキルを発動させてしまっては逃げ場はない。
 僕だけ逃げ切ることは可能だが、この場合、ラゴスは犠牲となってしまう。リズの理解者であるラゴスを失う訳にはいかない。

「うぅ、楽しいことって聞いたから協力したのに⋯⋯。お兄ちゃん、私のことを騙したんだね!」

『警告!スキル発動を感知!』

 セライの言葉と共に僕は前方に飛んだ。
 レベル2000を超えた、瞬きにも満たないスピードで一気に数メートルの距離を詰めると僕はメーシェの首筋に手刀を叩きこんだ。

「──カッ」

 メーシェは、 口元から僅かな息を吐き出すと四肢から力を失った。

「ごめんね」

 僕は、自分の行いを悔いつつも、倒れかかるメーシェを抱きとめる。

「お主──まさか、連れて行く気か?」

 僕は倒れるメーシェを抱きかかえると、そのまま背中に彼女を背負った。

『危険です。0距離でスキルを発動されれば避けることができません!』
『そうだ、危ないって!』

 セライの二人共が反対の声をあげる。
 本当なら、ここに彼女を置いていくほうが良いのかもしれない。
 それに、メーシェをフーシェと会わせてしまわないためには、それが一番の得策だった。

「でも、これ以上メーシェに嘘をついたままだと、何か大変なことになりそうな気がするんだ」

『直感』というスキルを持つ人は、どうしようもない差し迫った時に、天啓の様に二者択一を選択ができると聞いたことがある。
 僕にはそんなスキルはない。
 でもこの時確かに、僕は彼女を置いていかない方が良いと、確信にも感じる物があった。

「だが、気を取り戻す前にリズ様とは会わせないようにしなくてはいかないな。それと⋯⋯、さっきは失言してしまい本当に申し訳ない」

 頭を下げるラゴスに僕は首を振る。

「いいんだ。メーシェに嘘をついたから、こんなことになっちゃったのは僕に責任があるから。それより、早くここを出よう。ドルトンがやってくるかもしれないから」

 制御装置が破壊されたことは、最早ドルトンの知るところだろう。

 ドルトン本人か兵士かは分からないが、直ぐにでもここに人が来ることは予測できた。

 僕とラゴスは、『光球ライトボール』を再び灯すと廊下へと飛び出した。

『き、──える?』

 廊下に出た僕の脳内に、セライとは異なる声が聞こえてきた。

『きこえる?ゆ──ずき』

 リズの『念話』だ!
 声は遠いが、はっきりとリズの声と分かる音声が脳内に響いた。

「ラゴス、リズから念話が来たよ」

 僕の言葉にラゴスの瞳が大きく見開かれた。
 その眼は、薄暗い通路の中でも分かるほど嬉しそうに見えた。

 残念だけど、『念話』スキルを持たない僕には、リズの言葉は一方通行で聞こえるだけだった。

『ユズキ、やったわね。私達は──、確認でき──へ、向かうわ』

 少し言葉は明瞭に聞こえたが、まだ全文が聞き取れるようなものではなかった。ただ、予め制御装置を破壊した後の合流地点は決めていた。

「ごめん、ラゴス。ちょっとメーシェを預かってて」

 戸惑うラゴスに、僕は有無を言わさず背中のメーシェを預ける。
 ラゴスは困惑しながらも、メーシェを抱きかかえると、意識が戻らないかどぎまぎした様な表情でメーシェを覗き込んだ。

 ここから入口に戻るとなると、絶対に接敵する可能性がある。
 それはリズからもらった脳内の地図からも伺うことができた。

「なら、僕がやることはここを撃ち抜いて天井から脱出するだけだ」

 僕は、右手に魔力を集中させる。
 身体中から魔素をかき集める感覚、僕の習った魔法は正直『初級魔法』に分類される物ばかりだ。

 でも、圧倒的な魔法力と魔力量があれば、威力は格段に上昇する。

『初級魔法『水球ウォーターボール』の威力、魔法力が既定値を突破。スキル『水槍アクアランス』へと疑似ランクアップ──、『水槍アクアランス』が既定値を突破、更に──ランクアップ、最高ランクスキル『水光アクアレイ』と疑似ランクアップを果たしました』

 レベルと魔法力を注ぎ込んだ力技。
『初級魔法』を限界まで威力を高めることで擬似的に最高スキルと同様の威力を引き出すことを僕は行った。

「お主、まさか──」

 僕の右手の前に現れている魔法術式は、間違いなく『初級魔法』の『水球アクアボール』そのものだ。
 ただ一点、禍々しいまでの魔力がそこに込められていることを除けばだ。

「うん、そのまさかだよ。衝撃に備えて!」

 僕はラゴスがメーシェの上に覆いかぶさりつつ、自らも武器で頭部を保護したことを確認して、圧縮された右手の魔法を天井高くに掲げた。

『疑似スキル『水光アクアレイ』発動!!』

 脳内でセライが叫ぶ。
 次の瞬間、金属音の様な音をたてて僕の右手から放たれた水の柱は、薄暗い天井を文字通りくり抜くために、天高く駆け昇った。
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