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【第二部】三章 激動なのか、激情なのか
三十五、一言で表すならそれは
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「エド! イアン! ブライトル殿下」
「フルーリア王女殿下」
城内の賊が全員捕らえられたと通信が入っても、イアンとブライトルは警備を続けることになった。一足先に救護院へ行こうとしていると、わざわざフルーリア王女が小走りでやってきた。
「大丈夫? 怪我とかない?」
僕が次の一言を口を開くよりも先に、イアンが王女を迎えに走る。隣のブライトルが「へぇ?」と訳知り顔をしている。まあ、気持ちは分かる。
二人並んでゆっくりと歩いてくる様子を眺める。怪我をしている様子はない。侍女に視線で尋ねると、笑顔で首を横に振られた。ホッとすると同時に、傷の痛みが酷くなってくる。
「エド、怪我をしたのですね……」
「自分で選んだ怪我ですから、大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「フルーリア王女殿下、彼に一言言ってあげてもらえませんか? わざと怪我することを選んだのですよ」
「ブライトル殿下っ」
「エド、どういう事ですか?」
三人三様に僕を見つめる。ブライトルは確実に分かっていて言わせる気だ。相変わらず、いい性格をしている。
「狼煙を上げると、必要以上の戦力が集まる可能性があるでしょう……? 状況を考えれば、イアンとブライトル殿下が来てくれることは分かっていたので、大丈夫だろう、と……思いました」
「そんな……。エド、貴方はたまに自己犠牲の強すぎることがありますよね。怪我をしてはみなが心配します。気を付けてくださいますか?」
「殿下……」
「でもきっと、二人への信頼の証でもありますよね」
「信頼の、あかし……」
両手の指先を合わせたフルーリア王女の言葉に、僕等は三人で声を重ねてそれぞれの反応を返した。
イアンは嬉しそうに僕を振り仰ぎ、僕は思い切り眉間に皺を寄せて、ブライトルは、
「だからって無茶をしていい理由にはなりません……。今回は打ち身程度のようですが、もし間に合わなかったらと思うとゾッとします」
分かりやすく落ち込んだ、フリをした。憂いを含んだ横顔に潤んだトーカシアブルー。こ、の男……! わざとらしく味方を作ろうとしている! 僕は口角がヒクつくのが分かった。
純朴なイアンが、見事に騙されて同情の視線をブライトルへ送る。労わるような声で「殿下……」なんて言っている。フルーリア王女は何かを感じ取ったのか、困ったように笑っていた。
「ぁー、僕が悪かった。気を付ける」
チラッと見られて謝る以外の選択肢を消されてしまった。僕の不承不承と言った声に、ブライトルが満足そうな笑みを浮かべる。
「そう言えば、アンタの専用機を初めて見たな。武器は片手剣か。ずいぶんシンプルだ」
「うん、まあ、他にも色々、ね。それより、それはこっちのセリフだ。どう見てもまだ装備に慣れていないのに、本当に、無茶をする……」
ブライトルの右手が僕の頬に触れた。小さな声が「腫れてる」と呟く。多分、さっき殴られたところだろう。そう言えば、平手打ちもされたな。同じ場所を。
無言で見下ろしながら、指先で腫れているらしい場所をスリスリと辿られる。少し、ピリリと痛い。
「ブライトル……?」
「他の傷は?」
「肩と脇腹くらいだ。ああ、後は、脳が揺れたからか少し吐いた。一応頭も診てもらうつもりだ」
頬を辿っていた指先がピタリと止まった。モカト粒子に照らされて、いつもより本当に宝石みたいな深い青色が丸々と見開かれる。そして、それはゆっくりと。本当にゆっくりと細められた。
「頭?」
「ブ、ブライ……」
「頭をぶつけたのか?」
「いや、顎を……」
その瞬間、僕の体は傾いていた。口から勢いよく「はぁっ?」と声が零れる。また? またお姫様抱っこなのか!?
「あんた! いい加減にっ、」
「いい加減にするのはお前だっ」
「ぁ、……」
突然の剣幕に言葉を失った。声を、荒げた? ブライトルが?
「っ、はぁ……。悪い。とにかく急いで救護院に向かう。これ以上動くのは禁止する。命令だ。モクトスタも解除しろ。体の負担を可能な限り減らせ」
「わ、かった……」
「イアン! 私は後で合流する! 彼を急ぎ救護院へ連れて行くことになった」
「は、はい! 分かりました!」
イアンの声が焦っている。アイツもブライトルのこんな姿は初めて見るだろう。僕は素直にモクトスタを解除して、体を預ける。
「……怒っているのか」
「……そうだな。怒っているし、悲しんでもいるな。悔しくもある」
「そんなに色々あるのか……?」
「分からないか?」
できるだけ揺れを抑えられていた歩みが止まる。頭上の表情は、確かに今彼が言った通りの感情で歪んでいるように思えた。全部混ぜてぐちゃぐちゃにした顔だった。これは、まるであのときのようだ。薄暗い寝室。抱きしめてきた熱い両腕。
「死ぬつもりなんて、なかった。自信があった。それに、あんたと生きるって決めている」
「分かってるさ。でも、絶対はない。そうだろ? 心配する。不安にもなる。当り前だろ」
「ブライトル……」
「エドマンド、無茶するなとは言わない。言えない。お前がマスターな限り、逃れられない義務も生じる」
「……ああ」
「それでもいつだって前線に立つのはお前で、俺はその場にいないことばかりだ。自分が不甲斐ないと感じることすらあるよ」
パチリと瞬いた。モカト粒子に照らされたブライトルの顔は、とても綺麗だった。僕を見つめていた瞳が正面を向く。
「なあ、ブライトル。人を好きになるのは、大変だな……」
「ふ、今ごろ知ったのか?」
僕のアッシュゴールドの髪が流れる。風景が動く。余りにも揺れが少ないから、歩き始めていることに気付かなかった。ブライトルの密やかな声が耳に心地いい。
「うん……。最近、知った……」
「そうか」
「うん……」
ああ、顔と腹部が痛い。肩も脇腹も痛いし、そう言えば、さっきから少し頭痛もする。直接頭を打ったわけじゃないから、多分大丈夫だろう。けれど、でも、ベッドで休む時間が増えれば増えるほど、ブライトルと過ごす時間は減るのか。それは盲点だったな。
僕は段々と重くなっていく瞼に逆らわず、そっと両目を閉じた。
「フルーリア王女殿下」
城内の賊が全員捕らえられたと通信が入っても、イアンとブライトルは警備を続けることになった。一足先に救護院へ行こうとしていると、わざわざフルーリア王女が小走りでやってきた。
「大丈夫? 怪我とかない?」
僕が次の一言を口を開くよりも先に、イアンが王女を迎えに走る。隣のブライトルが「へぇ?」と訳知り顔をしている。まあ、気持ちは分かる。
二人並んでゆっくりと歩いてくる様子を眺める。怪我をしている様子はない。侍女に視線で尋ねると、笑顔で首を横に振られた。ホッとすると同時に、傷の痛みが酷くなってくる。
「エド、怪我をしたのですね……」
「自分で選んだ怪我ですから、大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「フルーリア王女殿下、彼に一言言ってあげてもらえませんか? わざと怪我することを選んだのですよ」
「ブライトル殿下っ」
「エド、どういう事ですか?」
三人三様に僕を見つめる。ブライトルは確実に分かっていて言わせる気だ。相変わらず、いい性格をしている。
「狼煙を上げると、必要以上の戦力が集まる可能性があるでしょう……? 状況を考えれば、イアンとブライトル殿下が来てくれることは分かっていたので、大丈夫だろう、と……思いました」
「そんな……。エド、貴方はたまに自己犠牲の強すぎることがありますよね。怪我をしてはみなが心配します。気を付けてくださいますか?」
「殿下……」
「でもきっと、二人への信頼の証でもありますよね」
「信頼の、あかし……」
両手の指先を合わせたフルーリア王女の言葉に、僕等は三人で声を重ねてそれぞれの反応を返した。
イアンは嬉しそうに僕を振り仰ぎ、僕は思い切り眉間に皺を寄せて、ブライトルは、
「だからって無茶をしていい理由にはなりません……。今回は打ち身程度のようですが、もし間に合わなかったらと思うとゾッとします」
分かりやすく落ち込んだ、フリをした。憂いを含んだ横顔に潤んだトーカシアブルー。こ、の男……! わざとらしく味方を作ろうとしている! 僕は口角がヒクつくのが分かった。
純朴なイアンが、見事に騙されて同情の視線をブライトルへ送る。労わるような声で「殿下……」なんて言っている。フルーリア王女は何かを感じ取ったのか、困ったように笑っていた。
「ぁー、僕が悪かった。気を付ける」
チラッと見られて謝る以外の選択肢を消されてしまった。僕の不承不承と言った声に、ブライトルが満足そうな笑みを浮かべる。
「そう言えば、アンタの専用機を初めて見たな。武器は片手剣か。ずいぶんシンプルだ」
「うん、まあ、他にも色々、ね。それより、それはこっちのセリフだ。どう見てもまだ装備に慣れていないのに、本当に、無茶をする……」
ブライトルの右手が僕の頬に触れた。小さな声が「腫れてる」と呟く。多分、さっき殴られたところだろう。そう言えば、平手打ちもされたな。同じ場所を。
無言で見下ろしながら、指先で腫れているらしい場所をスリスリと辿られる。少し、ピリリと痛い。
「ブライトル……?」
「他の傷は?」
「肩と脇腹くらいだ。ああ、後は、脳が揺れたからか少し吐いた。一応頭も診てもらうつもりだ」
頬を辿っていた指先がピタリと止まった。モカト粒子に照らされて、いつもより本当に宝石みたいな深い青色が丸々と見開かれる。そして、それはゆっくりと。本当にゆっくりと細められた。
「頭?」
「ブ、ブライ……」
「頭をぶつけたのか?」
「いや、顎を……」
その瞬間、僕の体は傾いていた。口から勢いよく「はぁっ?」と声が零れる。また? またお姫様抱っこなのか!?
「あんた! いい加減にっ、」
「いい加減にするのはお前だっ」
「ぁ、……」
突然の剣幕に言葉を失った。声を、荒げた? ブライトルが?
「っ、はぁ……。悪い。とにかく急いで救護院に向かう。これ以上動くのは禁止する。命令だ。モクトスタも解除しろ。体の負担を可能な限り減らせ」
「わ、かった……」
「イアン! 私は後で合流する! 彼を急ぎ救護院へ連れて行くことになった」
「は、はい! 分かりました!」
イアンの声が焦っている。アイツもブライトルのこんな姿は初めて見るだろう。僕は素直にモクトスタを解除して、体を預ける。
「……怒っているのか」
「……そうだな。怒っているし、悲しんでもいるな。悔しくもある」
「そんなに色々あるのか……?」
「分からないか?」
できるだけ揺れを抑えられていた歩みが止まる。頭上の表情は、確かに今彼が言った通りの感情で歪んでいるように思えた。全部混ぜてぐちゃぐちゃにした顔だった。これは、まるであのときのようだ。薄暗い寝室。抱きしめてきた熱い両腕。
「死ぬつもりなんて、なかった。自信があった。それに、あんたと生きるって決めている」
「分かってるさ。でも、絶対はない。そうだろ? 心配する。不安にもなる。当り前だろ」
「ブライトル……」
「エドマンド、無茶するなとは言わない。言えない。お前がマスターな限り、逃れられない義務も生じる」
「……ああ」
「それでもいつだって前線に立つのはお前で、俺はその場にいないことばかりだ。自分が不甲斐ないと感じることすらあるよ」
パチリと瞬いた。モカト粒子に照らされたブライトルの顔は、とても綺麗だった。僕を見つめていた瞳が正面を向く。
「なあ、ブライトル。人を好きになるのは、大変だな……」
「ふ、今ごろ知ったのか?」
僕のアッシュゴールドの髪が流れる。風景が動く。余りにも揺れが少ないから、歩き始めていることに気付かなかった。ブライトルの密やかな声が耳に心地いい。
「うん……。最近、知った……」
「そうか」
「うん……」
ああ、顔と腹部が痛い。肩も脇腹も痛いし、そう言えば、さっきから少し頭痛もする。直接頭を打ったわけじゃないから、多分大丈夫だろう。けれど、でも、ベッドで休む時間が増えれば増えるほど、ブライトルと過ごす時間は減るのか。それは盲点だったな。
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