a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ

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【第二部】三章 激動なのか、激情なのか

三十四、トーカシア国王城防衛戦③

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「ハハハハハ! さすが王子様だなぁ! 言うことがデカイわ。それで? ガキが三人集まって何ができる? グロリアスも性能だけで使いこなせなきゃ意味はねぇ!」
「お前からしたら確かにまだまだガキだが、ここにいるのはニュドニアの英雄だ。一人一人の実力はもう分かっているのだろう? ……それに。お前はモクトスタに余り好かれていないようだ」

 ブライトルがあざ笑う。ディオンも同じように笑って返した。

「その程度で俺が動揺すると思ってんなら、調査不足だなぁ? 時間稼ぎに付き合うほど暇じゃねぇなっ!」

 やっぱりバレてるか。座り込んでいた体勢から腰を浮かせると、僕はショートソードを構える。

 ジャリ、と砂を踏みしめる音が聞こえた。未だに王城の至る所で怒号や衝撃音は響いているし、港の火災も鎮火はしていない。避難民の嘆きの声や、誘導の叫び声なんかも響いているだろう。なのに、そんな小さな音が聞こえた。
 月が雲に隠れてもモカトの粒子で相手の様子はしっかりと見えた。なら当然、ディオンも僕等がよく見えていることだろう。

 一斉にブーストトリプルを使用していた。多分、全員が長期戦にはならないと分かっていた。

 イアンが空中に飛び上がり、上空からかぎ爪を振りかぶる。
 ブライトルが正面から切りかかる。
 僕は腰を低くして足を狙って踏み出した。

 キィィィィン……!

 モカト同士で激しくぶつかり合う音がする。ロングソードが止めたのはイアンのかぎ爪で、その剣先で何と、ブライトルの剣さえも受けていた。

 でも、腕は二本だ。二人の力を抑え込むためには僕まではさばき切れなかった。ディオンの足部分のモクトスタに微かにヒビが入る。でも、やはり硬い。ディオンの武器はロングソードと小型のナイフのみ。しかも放出系の動作にモカトを使用することが少なかったように思う。その分、防御に振っているのだ。トイメトアでの僕とは逆に。

「くっ……!」
「ぅわっ!」

 予備動作なしで振りかぶられたロングソードによって、イアンとブライトルが後退させられる。ブンッ! と大きな風の音がして、そのまま剣先がこちらに向かってくる。僕はそれを避けながら、初手の勢いを殺さずに手を軸に体を回転させていた。後ろ側へ回ると上半身の力だけで振りかぶり、左膝裏に両方のショートソードを横凪ぎに叩き込んだ。モクトスタがぶつかり合う高い音の後に、バキンッとヒビの入る音がする。

「ぐっ……!」

 頭上から小さなうめき声が落ちて来た。効いている。可動部と言うのは、どうしても装甲が薄くなる。
 そして、その隙を見逃す二人じゃない。

 飛び上がったイアンがかぎ爪でディオンの頭を引っかけたまま前へ勢いよく倒しにかかる。ブライトルが首を狙って横なぎに剣を振るって、僕は再度左膝の裏、さっきの傷にショートソードを押し来んだ。

 ガキィィィン! 膝裏のモクトスタがボロボロになって、生身の足が垣間見える。同時にディオンはイオンによって地面へ引き倒されて、ブライトルの剣によって殴打されると、また小さなうめき声を上げて項垂れた。
 や、った……。
 ブライトルがすぐに剣を消して、普通の縄を取り出す。僕は急いで妨害装置を見つけて破壊した。

「ぁ……」
「イアン? どうし、」

 倒れ込んだディオンの体からモクトスタが解除されて、キラキラと残されたモカトの粒子が空へ登っていく。男の背中には、服ですら隠せないほどの多数の傷跡が見えていた。

「この傷って……」
「拷問の跡だね」
「やっぱり、そうなのか……」

 顔をしかめて見下ろす僕たちに、ディオンを縛り上げたブライトルが近寄る。手にはモクトスタの埋め込まれたドッグタグがあった。

「それが非合法モクトスタですか? それに、拷問って……」
「詳しい話は後にしよう。まずはこの男を兵へ引き渡してからだ。それに……」

 ブライトルが僕をじろっと見る。マズイな。これは割と怒っているかもしれない。僕はふらつく頭に添えていた手をそっと下ろした。

「エドマンド」
「なんだ……?」
「その怪我はどういうことだい?」
「……僕一人でディオンを抑えるのは大変だったもので」
「何故狼煙を上げなかった? 全員が所持していたはずだが?」
「それは……」

「あ、あの! ブライトル殿下! エドマンドはきっと他にも強い敵がいる可能性も考えて、ですね……!」
「イアン、黙っていてくれないか?」
「あ、はい……」
「その件についても、後でしっかり聞くからな。まずはお前は怪我の治、りょう、……伏せろっ!」

 突然の声にも関わらず、僕とイアンは咄嗟に地面へ伏せていた。頭上を青白い粒子を纏った光線が通って消えていく。モカト砲の物だ。

 すぐにディオンを見れば、いつの間にか縄を解いてかなり小型のモカト砲を構えていた。完全に油断した。僕らはモクトスタを装備しているから、仮に何かあってもやられることはないと高を括っていたのかもしれない。相手の経験値は僕等三人を合わせても上を行く。縄抜けくらいできて当然だった。砲口がスローモーションのようにディオンの側頭部に当てられる。

 イアンとブライトルが走り出す。

「いい!!」

 僕の声に二人は足を止めて構えだけを取った。その横を球体が高速で飛んでいく。
 キィィィン! 余程高密度のモカトで造られた物だったようだ。特有の音を立てて、モカト砲が弾き飛ばされ、光線によって木が二本なぎ倒された。

「クソッ! クソがぁ!」

 直後にまた走り出したイアンとブライトルによって、ディオンが取り押さえられる。

「クソガキどもっ! エドマンド! お前は! どこまで俺の邪魔をすればいい! お前のせいで! お前のせいだ! お前のせいで全て失った! お前が! フィッツパトリックが!」

 血を吐くような叫びだった。月は雲に隠れて暗いのに、イアンとブライトルの二色のモカト粒子のお陰で、血走った目も、歪んだ表情も、傷だらけの体も全てが良く見える。
 目の前をリバティのモカト粒子が勢いよく立ち上って消えて行く。僕は強く拳を握りしめた。

「僕のせい、だと言うのか……? この大火災も、襲撃も、全て?」
「エドマンド……」
「僕を恨むことと、こんな襲撃に加担するのは全く関係ないだろ。決めたのはお前だ。お前の責任だ。自分の道を、人に委ねるなんて、そんな……。そんな無責任なことが、よく、よくできたな……」

 一歩進むごとに足元から、腕から、全身からモカト粒子が湧き出る。ああ、僕は、今、怒っているのか……。

 ディオンの足元で立ち止まり、見下ろす。藍色の目が僕を睨み上げる。二人の拘束から逃げようと身を捩るたびに、イアンとブライトルが必死に抑え込んでいる。

「お前は、お前の行動が、どれだけの人に影響するのか、考えたことがないのか。自分の行動一つで、無関係な誰かが死ぬかもしれない可能性を今まで一度も、気付きもしなかったのか……? 僕は傲慢だ。自覚がある。お爺様もそうだ。僕たちはお前に何かしたのかもしれない。でも、お前は自分が傲慢じゃないと、何でそう思えるんだっ」

 ディオンは何も言わなかった。何も言わずに、ただ僕を殺したい。鋭い視線がそう言っていた。そのまま、やってきてた兵に連行されて行くまでの短くない時間、僕らはずっと睨み合っていた。
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