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【第二部】三章 激動なのか、激情なのか
三十三、トーカシア国王城防衛戦②
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遅れて落下してくる僕をただ待つわけもなく、ディオンはロングソードを顔の横へ構えた。見事な花壇の花々がモカトの粒子に照らされていっそ幻想的だ。こんなときでもなければ、ブライトルと楽しむのも悪くなかったかもしれない。
ディオンの行動を少しでも制限するために球体を操作し続ける。傷一つ付けられないことは分かっていたけれど、僕から目を逸らすこともないまま、それらの全てが右に左に避けられ、手で、腕で受け流されていく。
僕は球体を一度手元に戻すと、相手の射程圏内ギリギリのところで、わざとブーストを解いた。そして、ショートソードを逆手で構えてもう一度ブーストトリプルを掛ける。
僕の落下する速度に合わせて振ろうとしていたのだろう。ロングソードが大きく揺れた。
このまま突き刺す! 避ける際に少しでも傷を負わせられれば、と左右と後ろから球体を飛ばした。
「甘い」
「っ……!?」
今にも突き立てる、その直前でディオンが急に斜め後ろへ飛び上がった。……全ての球体を叩き落として。完璧なタイミングだった。あとコンマ一秒早ければ僕に対応できる隙を与える。遅ければ攻撃を受けざるを得なくなる。そんな、瞬きすら遅く感じる一瞬だった。
僕は咄嗟に反応できなくて、一拍遅れて眼球がディオンを追う。その瞬間、視界が揺れた。恐らく、顎を蹴り上げられた。真上に月が見える。
「がっ……!」
さらに左頬にも衝撃が走る。蹴り飛ばされ、気付けば城壁に背中を強打していた。顔はモクトスタでカバーするのが難しい部分だ。ズルズルと壁伝いに地面へ落ちながら、ぼやけた視界の中、攻撃の手を休める気のない男が迫って来る。
「くっ……!」
視界が揺れる。何とか立ち上がっても、目の前にはすでにディオンの拳が迫っていた。何とか体ごと頭を捻って避ける。また目の前が揺れる。力の乗ったパンチに頬が切れて血が噴き出す。男が腕を振り抜いたことでできた一秒だけ目を閉じて、思い切り開く。脇をすり抜けて後ろに回った。
「見かけによらずタフだな」
ディオンの言葉尻が遠のく。ブーストトリプルを使って一気に後ろへ離脱したのだ。自分の喘鳴が聞こえる。喉が引き攣る。
見誤った……! 僕のモクトスタの装備限界までにはまだ時間がある。でも、この男は、モクトスタではなく、僕の体を破壊しにきている。
「甘いって言ったろ?」
「ぐぁっ……! が、がはっ……!」
すぐに追いついてきたディオンにロングソードで思い切り胴体を弾き飛ばされた。ビキッと脇腹に痛みが走り、モカト粒子が溢れ出る。頭が、動かない。受け身が取れない……! 薙ぎ払われるままに吹き飛んだ体が、地面の上を数度バウンドする。最初にぶつけた肩の装甲が砕けて消えた。
「ぅ、ぐぅぇっ! ……がはっ! げほっ、ごほっ」
目が回る。視界が歪む。体中を引っ掻き回されたかのようだ。でも、吐いたことで少し楽になった。グイッと手の甲で口元を拭うと、ギッと正面を睨み上げた。男はブーストすら使わず、数歩先から立って見下ろしてきていた。僕はよろよろと立ち上がり、二歩進んだ所で頬を張られる。王城の明かりが残像になって流れていった。
一瞬だけ世界が暗転して、目を開けるとさっきまでいた花壇が遠くに見えた。どうやら僕は仰向けに倒れているらしい。ゆっくりと目を正面へ動かすと、足が振り下ろされようとしていた。
……ディオン・ハインズ、強いな。恐らく、アーチー・カメルに匹敵する。手も足も出なかった。
アーマーの性能はリバティの方がはるかに上だ。マスターとしての実力も僕の方が上だ。ゲノム適正と言う点に置いても。唯一で絶対の違いは、戦場における経験値だ。判断力と柔軟性の高さがこんなにも重要なのだと嫌でも分からされた。
そもそも、僕の知るモクトスタ戦闘は、何よりも先に装備限界を狙うのがセオリーだ。装備さえ解除されてしまえば、生身の人間が敵うことはないからだ。なのに、この男は『僕自身を』確実に殺しにきている。
訓練場での士官の言葉が蘇る。『実戦経験が少ないのがすぐ分かる』と、あの人の言った通りだった。事前知識があったからこそ、アーチーとはある程度戦うことができた。でも――。
「ぐはっ……!!」
「悪くはねぇよ、お前。正直強ぇ。まだ十六かそこらだろ? それでこれなら天才だ。……でも、死んだら無意味だよ、なっ」
思い切り鳩尾を踏みしめられて、モクトスタが砕けていく。こんな状態で躊躇なくブーストを使うのか……。あきらかに人を傷つけることに慣れている。足の力が段々と強く、重くなっていく。僕の口からは「あ、がっ……!」と声にならないうめき声だけが漏れる。迷いなくダブルまで使ったところで、とうとう腹部が破壊され、ズンッと男の足が腹にめり込む。
「ぐぁっ!」
「はは!」
笑い声と共に微かに力が弱まって呼吸が楽になる。左手が伸びてきて前髪を思い切り掴み上げられた。「ぅぐ、」と喉が鳴る。ディオンが右手に小さなナイフを持って僕を見下ろしている。その頭上には、中途半端に太った月が光っていた。
何だか、僕はこんなことばっかりだな。フッと力を抜いて目を伏せる。
「俺は猶予を与えねぇよ。それが戦場で生き抜くコツだ。お前には死んでもらわなきゃならねぇ。恨み言はお前のクソジジイに言えな」
「はっ、はっ、はっ、ぐっ、げほっ……!」
ジジイ……? 誰のことだ? 僕の?
「まさ、か、お爺、様、か……?」
「…………さあな」
本当に猶予を与えてくれる気はないらしい。ナイフがモクトスタと首の隙間に差し込まれて、横に――――。
「……チッ!」
いきなりディオンが僕の正面から横へ飛び退った。その背後に赤いモカト粒子とシルバーの髪がキラキラと光っていた。
「――お前、気付いてたのか」
「はぁ、僕一人で勝てるとは、ゲホッ、思っていなかった……」
それに、ブレイドのモカトはよく目立つ、とは口が動かなかった。僕は何度か咳をしながら腕の力を抜く。その前にはイアンとブライトルが武器を構えて立っていた。
「いいのか? こんなところに戦力を集中させて。今頃国王様が危険な目に合ってるかもしれないぜ?」
「構わないさ。お前が今回の作戦で一番強いことは分かっている。……ディオン・ハインズ」
ブライトルの言葉に、ディオンが奥歯を噛み締める。どうやら、もうディオンの身元は分かっているようだ。
「火災が想定より早く収まり始めたと通信が来たんだ。城内の敵も制圧されてきてたのに、エドマンドだけが通信に出ないから……」
「お前個人の狙いはエドマンドのようだが、お前の裏にいる者はどうなのだろうな? トーカシアの信用失墜か、要人の命か、それとも他に何かあるのか……。ぜひ、詳しく教えてもらおうか」
ディオンの行動を少しでも制限するために球体を操作し続ける。傷一つ付けられないことは分かっていたけれど、僕から目を逸らすこともないまま、それらの全てが右に左に避けられ、手で、腕で受け流されていく。
僕は球体を一度手元に戻すと、相手の射程圏内ギリギリのところで、わざとブーストを解いた。そして、ショートソードを逆手で構えてもう一度ブーストトリプルを掛ける。
僕の落下する速度に合わせて振ろうとしていたのだろう。ロングソードが大きく揺れた。
このまま突き刺す! 避ける際に少しでも傷を負わせられれば、と左右と後ろから球体を飛ばした。
「甘い」
「っ……!?」
今にも突き立てる、その直前でディオンが急に斜め後ろへ飛び上がった。……全ての球体を叩き落として。完璧なタイミングだった。あとコンマ一秒早ければ僕に対応できる隙を与える。遅ければ攻撃を受けざるを得なくなる。そんな、瞬きすら遅く感じる一瞬だった。
僕は咄嗟に反応できなくて、一拍遅れて眼球がディオンを追う。その瞬間、視界が揺れた。恐らく、顎を蹴り上げられた。真上に月が見える。
「がっ……!」
さらに左頬にも衝撃が走る。蹴り飛ばされ、気付けば城壁に背中を強打していた。顔はモクトスタでカバーするのが難しい部分だ。ズルズルと壁伝いに地面へ落ちながら、ぼやけた視界の中、攻撃の手を休める気のない男が迫って来る。
「くっ……!」
視界が揺れる。何とか立ち上がっても、目の前にはすでにディオンの拳が迫っていた。何とか体ごと頭を捻って避ける。また目の前が揺れる。力の乗ったパンチに頬が切れて血が噴き出す。男が腕を振り抜いたことでできた一秒だけ目を閉じて、思い切り開く。脇をすり抜けて後ろに回った。
「見かけによらずタフだな」
ディオンの言葉尻が遠のく。ブーストトリプルを使って一気に後ろへ離脱したのだ。自分の喘鳴が聞こえる。喉が引き攣る。
見誤った……! 僕のモクトスタの装備限界までにはまだ時間がある。でも、この男は、モクトスタではなく、僕の体を破壊しにきている。
「甘いって言ったろ?」
「ぐぁっ……! が、がはっ……!」
すぐに追いついてきたディオンにロングソードで思い切り胴体を弾き飛ばされた。ビキッと脇腹に痛みが走り、モカト粒子が溢れ出る。頭が、動かない。受け身が取れない……! 薙ぎ払われるままに吹き飛んだ体が、地面の上を数度バウンドする。最初にぶつけた肩の装甲が砕けて消えた。
「ぅ、ぐぅぇっ! ……がはっ! げほっ、ごほっ」
目が回る。視界が歪む。体中を引っ掻き回されたかのようだ。でも、吐いたことで少し楽になった。グイッと手の甲で口元を拭うと、ギッと正面を睨み上げた。男はブーストすら使わず、数歩先から立って見下ろしてきていた。僕はよろよろと立ち上がり、二歩進んだ所で頬を張られる。王城の明かりが残像になって流れていった。
一瞬だけ世界が暗転して、目を開けるとさっきまでいた花壇が遠くに見えた。どうやら僕は仰向けに倒れているらしい。ゆっくりと目を正面へ動かすと、足が振り下ろされようとしていた。
……ディオン・ハインズ、強いな。恐らく、アーチー・カメルに匹敵する。手も足も出なかった。
アーマーの性能はリバティの方がはるかに上だ。マスターとしての実力も僕の方が上だ。ゲノム適正と言う点に置いても。唯一で絶対の違いは、戦場における経験値だ。判断力と柔軟性の高さがこんなにも重要なのだと嫌でも分からされた。
そもそも、僕の知るモクトスタ戦闘は、何よりも先に装備限界を狙うのがセオリーだ。装備さえ解除されてしまえば、生身の人間が敵うことはないからだ。なのに、この男は『僕自身を』確実に殺しにきている。
訓練場での士官の言葉が蘇る。『実戦経験が少ないのがすぐ分かる』と、あの人の言った通りだった。事前知識があったからこそ、アーチーとはある程度戦うことができた。でも――。
「ぐはっ……!!」
「悪くはねぇよ、お前。正直強ぇ。まだ十六かそこらだろ? それでこれなら天才だ。……でも、死んだら無意味だよ、なっ」
思い切り鳩尾を踏みしめられて、モクトスタが砕けていく。こんな状態で躊躇なくブーストを使うのか……。あきらかに人を傷つけることに慣れている。足の力が段々と強く、重くなっていく。僕の口からは「あ、がっ……!」と声にならないうめき声だけが漏れる。迷いなくダブルまで使ったところで、とうとう腹部が破壊され、ズンッと男の足が腹にめり込む。
「ぐぁっ!」
「はは!」
笑い声と共に微かに力が弱まって呼吸が楽になる。左手が伸びてきて前髪を思い切り掴み上げられた。「ぅぐ、」と喉が鳴る。ディオンが右手に小さなナイフを持って僕を見下ろしている。その頭上には、中途半端に太った月が光っていた。
何だか、僕はこんなことばっかりだな。フッと力を抜いて目を伏せる。
「俺は猶予を与えねぇよ。それが戦場で生き抜くコツだ。お前には死んでもらわなきゃならねぇ。恨み言はお前のクソジジイに言えな」
「はっ、はっ、はっ、ぐっ、げほっ……!」
ジジイ……? 誰のことだ? 僕の?
「まさ、か、お爺、様、か……?」
「…………さあな」
本当に猶予を与えてくれる気はないらしい。ナイフがモクトスタと首の隙間に差し込まれて、横に――――。
「……チッ!」
いきなりディオンが僕の正面から横へ飛び退った。その背後に赤いモカト粒子とシルバーの髪がキラキラと光っていた。
「――お前、気付いてたのか」
「はぁ、僕一人で勝てるとは、ゲホッ、思っていなかった……」
それに、ブレイドのモカトはよく目立つ、とは口が動かなかった。僕は何度か咳をしながら腕の力を抜く。その前にはイアンとブライトルが武器を構えて立っていた。
「いいのか? こんなところに戦力を集中させて。今頃国王様が危険な目に合ってるかもしれないぜ?」
「構わないさ。お前が今回の作戦で一番強いことは分かっている。……ディオン・ハインズ」
ブライトルの言葉に、ディオンが奥歯を噛み締める。どうやら、もうディオンの身元は分かっているようだ。
「火災が想定より早く収まり始めたと通信が来たんだ。城内の敵も制圧されてきてたのに、エドマンドだけが通信に出ないから……」
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