a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ

文字の大きさ
80 / 89
【第二部】三章 激動なのか、激情なのか

三十三、トーカシア国王城防衛戦②

しおりを挟む
 遅れて落下してくる僕をただ待つわけもなく、ディオンはロングソードを顔の横へ構えた。見事な花壇の花々がモカトの粒子に照らされていっそ幻想的だ。こんなときでもなければ、ブライトルと楽しむのも悪くなかったかもしれない。

 ディオンの行動を少しでも制限するために球体を操作し続ける。傷一つ付けられないことは分かっていたけれど、僕から目を逸らすこともないまま、それらの全てが右に左に避けられ、手で、腕で受け流されていく。

 僕は球体を一度手元に戻すと、相手の射程圏内ギリギリのところで、わざとブーストを解いた。そして、ショートソードを逆手で構えてもう一度ブーストトリプルを掛ける。
 僕の落下する速度に合わせて振ろうとしていたのだろう。ロングソードが大きく揺れた。

 このまま突き刺す! 避ける際に少しでも傷を負わせられれば、と左右と後ろから球体を飛ばした。

「甘い」
「っ……!?」

 今にも突き立てる、その直前でディオンが急に斜め後ろへ飛び上がった。……全ての球体を叩き落として。完璧なタイミングだった。あとコンマ一秒早ければ僕に対応できる隙を与える。遅ければ攻撃を受けざるを得なくなる。そんな、瞬きすら遅く感じる一瞬だった。

 僕は咄嗟に反応できなくて、一拍遅れて眼球がディオンを追う。その瞬間、視界が揺れた。恐らく、顎を蹴り上げられた。真上に月が見える。

「がっ……!」

 さらに左頬にも衝撃が走る。蹴り飛ばされ、気付けば城壁に背中を強打していた。顔はモクトスタでカバーするのが難しい部分だ。ズルズルと壁伝いに地面へ落ちながら、ぼやけた視界の中、攻撃の手を休める気のない男が迫って来る。

「くっ……!」

 視界が揺れる。何とか立ち上がっても、目の前にはすでにディオンの拳が迫っていた。何とか体ごと頭を捻って避ける。また目の前が揺れる。力の乗ったパンチに頬が切れて血が噴き出す。男が腕を振り抜いたことでできた一秒だけ目を閉じて、思い切り開く。脇をすり抜けて後ろに回った。

「見かけによらずタフだな」

 ディオンの言葉尻が遠のく。ブーストトリプルを使って一気に後ろへ離脱したのだ。自分の喘鳴が聞こえる。喉が引き攣る。
 見誤った……! 僕のモクトスタの装備限界までにはまだ時間がある。でも、この男は、モクトスタではなく、僕の体を破壊しにきている。

「甘いって言ったろ?」
「ぐぁっ……! が、がはっ……!」

 すぐに追いついてきたディオンにロングソードで思い切り胴体を弾き飛ばされた。ビキッと脇腹に痛みが走り、モカト粒子が溢れ出る。頭が、動かない。受け身が取れない……! 薙ぎ払われるままに吹き飛んだ体が、地面の上を数度バウンドする。最初にぶつけた肩の装甲が砕けて消えた。

「ぅ、ぐぅぇっ! ……がはっ! げほっ、ごほっ」

 目が回る。視界が歪む。体中を引っ掻き回されたかのようだ。でも、吐いたことで少し楽になった。グイッと手の甲で口元を拭うと、ギッと正面を睨み上げた。男はブーストすら使わず、数歩先から立って見下ろしてきていた。僕はよろよろと立ち上がり、二歩進んだ所で頬を張られる。王城の明かりが残像になって流れていった。

 一瞬だけ世界が暗転して、目を開けるとさっきまでいた花壇が遠くに見えた。どうやら僕は仰向けに倒れているらしい。ゆっくりと目を正面へ動かすと、足が振り下ろされようとしていた。
 ……ディオン・ハインズ、強いな。恐らく、アーチー・カメルに匹敵する。手も足も出なかった。

 アーマーの性能はリバティの方がはるかに上だ。マスターとしての実力も僕の方が上だ。ゲノム適正と言う点に置いても。唯一で絶対の違いは、戦場における経験値だ。判断力と柔軟性の高さがこんなにも重要なのだと嫌でも分からされた。

 そもそも、僕の知るモクトスタ戦闘は、何よりも先に装備限界を狙うのがセオリーだ。装備さえ解除されてしまえば、生身の人間が敵うことはないからだ。なのに、この男は『僕自身を』確実に殺しにきている。

 訓練場での士官の言葉が蘇る。『実戦経験が少ないのがすぐ分かる』と、あの人の言った通りだった。事前知識があったからこそ、アーチーとはある程度戦うことができた。でも――。

「ぐはっ……!!」
「悪くはねぇよ、お前。正直強ぇ。まだ十六かそこらだろ? それでこれなら天才だ。……でも、死んだら無意味だよ、なっ」

 思い切り鳩尾を踏みしめられて、モクトスタが砕けていく。こんな状態で躊躇なくブーストを使うのか……。あきらかに人を傷つけることに慣れている。足の力が段々と強く、重くなっていく。僕の口からは「あ、がっ……!」と声にならないうめき声だけが漏れる。迷いなくダブルまで使ったところで、とうとう腹部が破壊され、ズンッと男の足が腹にめり込む。

「ぐぁっ!」
「はは!」

 笑い声と共に微かに力が弱まって呼吸が楽になる。左手が伸びてきて前髪を思い切り掴み上げられた。「ぅぐ、」と喉が鳴る。ディオンが右手に小さなナイフを持って僕を見下ろしている。その頭上には、中途半端に太った月が光っていた。
 何だか、僕はこんなことばっかりだな。フッと力を抜いて目を伏せる。

「俺は猶予を与えねぇよ。それが戦場で生き抜くコツだ。お前には死んでもらわなきゃならねぇ。恨み言はお前のクソジジイに言えな」
「はっ、はっ、はっ、ぐっ、げほっ……!」

 ジジイ……? 誰のことだ? 僕の?

「まさ、か、お爺、様、か……?」
「…………さあな」

 本当に猶予を与えてくれる気はないらしい。ナイフがモクトスタと首の隙間に差し込まれて、横に――――。

「……チッ!」

 いきなりディオンが僕の正面から横へ飛び退った。その背後に赤いモカト粒子とシルバーの髪がキラキラと光っていた。

「――お前、気付いてたのか」
「はぁ、僕一人で勝てるとは、ゲホッ、思っていなかった……」

 それに、ブレイドのモカトはよく目立つ、とは口が動かなかった。僕は何度か咳をしながら腕の力を抜く。その前にはイアンとブライトルが武器を構えて立っていた。

「いいのか? こんなところに戦力を集中させて。今頃国王様が危険な目に合ってるかもしれないぜ?」
「構わないさ。お前が今回の作戦で一番強いことは分かっている。……ディオン・ハインズ」

 ブライトルの言葉に、ディオンが奥歯を噛み締める。どうやら、もうディオンの身元は分かっているようだ。

「火災が想定より早く収まり始めたと通信が来たんだ。城内の敵も制圧されてきてたのに、エドマンドだけが通信に出ないから……」
「お前個人の狙いはエドマンドのようだが、お前の裏にいる者はどうなのだろうな? トーカシアの信用失墜か、要人の命か、それとも他に何かあるのか……。ぜひ、詳しく教えてもらおうか」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

この胸の高鳴りは・・・

暁エネル
BL
電車に乗りいつも通り大学へと向かう途中 気になる人と出会う男性なのか女性なのかわからないまま 電車を降りその人をなぜか追いかけてしまった 初めての出来事に驚き その人に声をかけ自分のした事に 優しく笑うその人に今まで経験した事のない感情が・・・

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 文章がおかしな所があったので修正しました。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

処理中です...