a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ

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【第二部】三章 激動なのか、激情なのか

三十二、トーカシア国王城防衛戦①

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 始まりはどこかから上がった悲鳴と破壊音からだった。
 恐らく侍女のものだろう叫び声に、すぐにモクトスタを起動して連携を取る。

『何があった!』
『確認します!』

 ブライトルの声に、一番近くで警備していたマスターが返す。

『襲撃です! 場所は東棟三、か、……、っ……、敵、は……、』

 音が段々とザラついて、まともな情報を得る前にスゥッと消えた。

『おい! どうした! 通信妨害か……。仕方ない。現在通信の届いている全マスターに、軍部総司令官からの指示を伝達する。貴殿らの守るべき相手を見誤るな。全力をもって護衛に当たれ! 以上だ!』
『はっ!』

 返事と同時に僕は背後の扉を叩いた。王城の四階に当たるこのエリアのどこかからも似たような大声や叫び声、襲撃を受けたらしい音が届く。

「夜分に失礼いたします! フルーリア王女殿下! 敵襲です! 護衛のため、扉をお開けください!」
「エドマンド様……!」
「予想通りだったようです。フルーリア王女は?」
「あちらに……」

 念のために室内で待機していた侍女が、今にも泣きそうな顔をして扉を開ける。フルーリア王女は寝巻ではなく室内着でソファーに座っていた。ゆっくり近づいて側で膝を折る。

「眠れませんでしたか」
「イアンが、皆さんが一生懸命動いてくださっているのに、私が先に休むわけにはいきません。――エド。私はどうしたらよいでしょうか」
「私の側から、決して離れないようにお願いいたします」
「分かりました。必ず、私たちを守ってください」
「承知しております」

 そこまで話すと、窓の外がサァっと暗くなった。僕は咄嗟にフルーリア王女の前に立って窓を睨む。バリン! と忍ぶ気のない大きな音を立てて、一人の男が入って来た。――長い髪が風にたなびいている。

「無礼だな。ここがどこなのか分かって窓を突き破ったのか?」
「…………エドマンド・フィッツパトリックか?」
「……なに?」
「ハハハハハ! 本当にいるじゃないか! あの女もたまには役に立つ! やぁ! エドマンド・フィッツパトリック! お前にまた会えるのを楽しみにしてたぜぇ!」

 逆光で顔の見えない中、男は楽し気に笑っている。一歩、踏み出された足が窓枠だった物を踏みしめる。僕は体を右に向けて、後ろの二人にソファーの陰に隠れるように手で合図する。

 廊下から一般兵が走ってきているのが聞こえる。さっきまで飛び交っていた通信がいつの間にか途切れていた。この男も最新型の妨害装置を持っているのだろう。

「まさか、僕に用事か? 珍しい客もいたものだ。でも、一人で何ができる。 仮に僕を狙っていたと言うのなら、もう少し連れて来るべきだったな」
「フルーリア王女殿下! エドマンド様!」
「無事だ。賊はここに。……捕まえろ」

「おいおい、俺が生身だからって舐めすぎじゃないか? モクトスタすら装備してないやつに何ができる? ――なぁ? 踊れ、エンプティ」

 立ち上る青白い粒子の中から現れる真っ黒なモクトスタとロングソード。男が一振りそれを振るうだけで、強風が起こる。花瓶や絵画、小物が僕たちの後ろの壁に当たってガシャガシャと音を立てる。やってきた兵たちは両腕で顔を覆いながら、ジリジリと前へ進もうとしている。

「お前……」
「よお、だから言ったじゃないか。次に会うときに笑って話すことなんてできやしないって。ブライトル殿下の婚約者殿?」

 目の前に立つ男は、どうやら最初から被っていたらしい仮面を外した。モカトの粒子によって露になったのは、あのレストランで見た長い藍色の髪と同じ色の切れ長の瞳。

「確か、タタドニーサの……」
「ああ、あのときの名前は偽名だよ。身分としては用意してもらったけどな。そんなことはどうでもいい。覚えるならこちらで覚えて欲しいなぁ? エドマンド。……ディオン・ハインズ。お前と同じ、ニュドニアの元、軍人だ」
「ディオン・ハインズ……?」

 聞いたことの無い名前だった。ニュドニアに絞ったとしても、歴代のマスターの名前を全て覚えているわけがない。それでも、ここまでの実力がある男の名前を耳にしたこともないのはおかしいと思った。

「知らない、か……。そうか、そうかよ」

 男は静かに笑った。

「なら今覚えろ! お前を殺す男の名前だ……!」
「っく!」

 ロングソードがベッドの高い脚をなぎ倒しながら迫って来る。こんな狭い場所で長物を扱うなんて、よほど自信がないとできないだろう。
 僕は球体を二つディオンに向けて飛ばすと、数拍遅れてその後を追うようにブースト・トリプルで踏み出した。このままでは当然ロングソードに思い切り切り飛ばされる。でも、あの男は上に飛ぶ。――何故なら、球体は正面からだけじゃなく、後ろからも足元からも狙ってきているからだ。

 予想通り、ディオンが薙ぎ払う腕を途中で止めて上へ飛んだ。そのまま天井に押し付けた手に力を込めて、足を回転させる要領で球体を蹴り飛ばすと、床板を踏み抜きながら着地する。
 すかさず蹴りを数発入れると、ディオンが全てを受け流しながらバルコニーへ出た。月明りが照らしても藍色の髪は夜空に溶け込んでしまいそうだ。一定の距離を保って窓枠の辺りから一歩だけ出て足を止めた。

「ずいぶん小賢しい戦い方をするなぁ? あの尊大な男がそうしろって教えたのか? だとしたらあの男もその程度の小者だったってことかね」
「煽ってるつもりか? 残念ながら恨みを買うことは少なくない。『あの男』とやらに何をされたのか知らないが、そいつも一々覚えていたりはしないだろうな」

「っは、そうかもな。あの男はきっと俺のことなんか覚えちゃいない。……だから、お前を殺すのさ」
「ずいぶん小賢しい考え方じゃないか? その男と正々堂々と戦う胆力もないのか」
「ハハハハハハハ! 煽ってるつもりかぁ!? いいぜ! 乗ってやる!」

 高く飛び上がったディオンがなんと、あれだけのロングソードを右手一本で横に振った。ガクン、と体が揺れる。次いで、体がフッと軽くなる。バルコニー部分を切り落としたのだ。何て威力と切れ味だ。僕は落ちるのに身を任せながら振り仰ぐ。

「フルーリア王女殿下を頼むぞ!」
「エド!」
「殿下! 必ず守ります! 今はその者たちと共に!」

 落ちながら兵士と侍女に叫ぶと、フルーリア王女の目を見て小さく頷く。王女が強く頷くのを見届けると、下を睨む。わざわざブーストダブルを使って先に地面へ降り立とうとしているディオンを追うために、ブーストトリプルで加速した。
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