a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ

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【第二部】三章 激動なのか、激情なのか

二十七、親愛は嫌悪の生みの親?

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 ああ、そうか。やはり、第一印象って言うのは当たるものらしい。

 帰りの馬車の中は、殺伐とした空気が漂っていた。ジッと見つめても、マイールズは目を逸らさない。隣に座る侍従が気づかわしそうに僕を見ているから、こちらから口を開いた。

「――マイールズ。君は、僕を認めていないんだな?」
「フフ、面白いことを言いますね。そもそも何故僕が貴方を容認していると思ったんですか?」
「容認、か……。随分と上からものを言うのだな」
「ああ、誤解がないように言いますけど、僕とシルヴィア様は何の繋がりもありませんよ。当然、その辺りのことは殿下も貴方も調べているでしょうけど」

 マイールズは綺麗に笑う。僕はどう捉えればいいのか分からない。ブライトルを心配していた彼と今の彼は同じ人間なのだろうか。あのときのマイールズが演じているようには見えなかった。でも、今のマイールズだって本音で話しているはずだ。
 どういうことだ? 分からない。ブライトルの旧知である彼と、僕を嫌う彼が何故同時に存在できるのか。

「そんなに驚きますか? 考えもしなかったですか? 調べることすらしなかったんですか? 我が国は国王の離婚歴はなくとも、王族の離婚歴はあります。殿下はいつでも貴方を離縁できるんですよ。ましてや今はまだ婚約者の立場だ。いつでも、どうやってでも破棄させることなんてできる。そのように動く人間がいないと、まさか本気で思っていたんですか? だとしたら、ずいぶんおめでたい思考回路のようだ」

 僕は静かに瞬きをした。いくら感情が表に出にくいと言っても、何も感じていないわけじゃない。どうしても険しい顔をしていたようだ。マイールズが勝ち誇ったように笑う。

「ブライトル殿下は全てに秀でた方ですよ。清濁併せ吞むことができる人だ。僕はシルヴィア様とは違うので、国王になってもらいたいとは思わないですが、貴方があの人にふさわしいとも思わない」

 苛立ちがないとは言わない。実際に目つきが鋭くなっている自覚はある。相手が隠さない以上、僕が隠す必要もないだろう。でも、僕は棘を含みそうになった口を静かに抑えつけた。大きな深呼吸と瞬きを一つ。だって、乗ったら、負ける。

「――――それで、君は僕に何を望んでいるんだ?」
「……は?」
「わざわざ僕にその話をするということは、何か僕にして欲しいことでもあるのか?」

 考えて言った言葉じゃなかった。そもそも、理解できないからって、真っすぐに聞いて答えが返ってくることは少ない。なのに口にした今、何故か僕は後悔していない。
 正面のマイールズの瞳が微かに揺れる。……選択は間違っていないようだった。

「貴方、もしかして余り頭がよくないんですか? 身の程をわきまえておくように、という忠告ですよ」
「忠告、か……。ずいぶん親切なんだな? 黙ったままで、僕が殿下に拒絶される日が来るのを待っていた方がよかったのじゃないか? それで僕には親切なフリをしていた方が色々と都合がいいように思うのだけどな」
「は? なに、」
「なぁ、マイールズ。僕はブライトル殿下をそう言う意味で疑ったことがない。でも、それは盲目的に信頼しているわけじゃない、と思う……」

 ――ああ、そうか。最近の僕は、僕を信頼してくれているブライトルに腹を立てたのかもしれない。まるで僕が清く正しい人間のように思われている気がして不快な気持ちになったんだ。本当の僕は、そんなにキレイな人間じゃないのに。あの人だってそのくらいは分かっているはずなのに。

 つい考え込んでしまった僕に、マイールズが嫌そうな顔をして吐き捨てる。

「……言いかけて止めないでもらえますか」
「ああ、そうだな。僕が、……僕が殿下を好きなだけなんだ。運よく殿下も気持ちを返してくれた。それ以外色々なことは、少しずつ対処していくしかない事実なだけだ。君が何を言っても、行動しても、僕がすることは変わらないよ、マイールズ」
「な、に……」
「君が何を思って、僕に『忠告』してくれたのか、今の僕では理解できない。いつか、分かる日がきたらいいとは思っている。でも、そのときも僕はきっと殿下の隣にいる」

 ギリッと歯を食いしばる音がする。マイールズは俯いて震えていた。その感情は分からない。悔しさなのか、羞恥なのか、怒りなのか。それとも、くだらなさに笑っていたのか。僕には全く察することができなかった。


 夜、僕は夢を見た。最近色々な夢を見る。確か夢を覚えているということは、眠りが浅いときのはずだ。それだけトーカシア国に来たことが負担になっているのかもしれない。

 夢の内容は様々だ。アーチー・カメルに殺されそうになって汗だくになって起きることもあれば、ブライトルとの未来が予想とは少し違う形になっていて、目が覚めて不思議に思うこともある。
 でも今日の夢では、ブライトルが後ろ姿の女性の隣で子供を抱いていた。

 いつもと違って僕は静かに目を覚ました。真っ暗な天井に月の光が薄っすらと差し込んでいる。
 子供の存在を考えなかったわけじゃない。ならば必要ないと思っていたのか、……思いたかったのか。
 シルヴィア様だけじゃなく、彼の理解者であるらしいマイールズですら、ブライトルに子供をと思っている。

 僕は自分で気付かない内に、彼に甘えていたのか。「生きろ」と言ってくれたその強さと、そのためにずいぶん忙しく動いたのだろう事実。それだけでもブライトルが大切にしてくれているのは疑いようがなくて。
 でもそれは当然にあるものじゃなかったんだ。

「傲慢だな……」

 両の掌で瞼を抑え付ける。涙は出なかった。
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