a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ

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【第二部】三章 激動なのか、激情なのか

二十八、テンプレを突き進んでみた

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 模造刀のぶつかり合う鈍い音。
 素振りで軋む規則的な床の音。
 さらには、厳しい訓練に耐えかねて吐き戻す苦しそうな音。色々な音が広い訓練場に混ざりあっている。

 ここはトーカシア国軍の訓練施設だ。天候に左右されないドーム型のここへ、最後の視察としてイアンと僕は案内された。そのときはお客様対応だったけれど、僕は今後もここで訓練を受ける許可を取ったのだ。自主練習じゃ限界があるし、入軍するかは別として、施設があるならば人を雇うのも違うだろう。それに、たくさんの癖や戦い方と経験を積みたかった。


 今日はその五日目だ。
 初日はとにかくすごかった。こんな小柄なヤツに何ができるのか、どうせ殿下に守られてきたお坊ちゃんだろうって視線がありありと伝わって来た。
 そして、基礎訓練を終えたところで、驚くほどあからさまな挑発を受けた。

「よぉ、これからここで訓練するって? なら、アンタは一番下っ端だよな? そいじゃぁ、まずは筋トレから始めろよ。アンタだけ特別扱いってのはおかしいだろ? 明日も、明後日もずーっとだ! はは! 嫌ならさっさと殿下に泣きつきな」
「おいおい、そんなこと言っていいのかよ? 婚約者様だろ?」

 声をかけてきた相手は、どう見ても強者には見えなかったけれど、一応話を聞いてみた。止める声もあるし、周りを見れば野次馬の半分ほどはハラハラと見ているようだから、まだ救いがある。そんな微妙な空気をこれっぽっちも気にしないで男は続けた。

「構わねぇよ。ここに通いたいって言ったのはコイツだ。自分の尻拭いまでさせるんならその程度だってことだろ。殿下もどうして」
「――じゃあ、モクトスタで模擬戦でもするか? 君たちもマスターなのだろう? 僕としても、中途半端なまま訓練に臨みたくはない。負けたら筋トレから頑張ることにする。どうだ? ……それとも、僕に負けるのが怖いか?」
「はぁぁ!? いい度胸じゃねぇか!」
「話が早くて助かる」

 そうして、急遽僕とその男との模擬戦が始まった。……そして、速攻で決着が着いた。

 男は最初の印象通り大した能力を持っていなかった。一応警戒していたのだけれど、何の戦略もなく正面から突っ込んできたので、その腕の力を受け流して背後へ回り、剣で首を突く寸前で止めた。審判役の兵士が呆気に取られた顔で僕等を見た。慣れない相手からすらば、瞬きの瞬間に起こった出来事だっただろう。

 そもそもモクトスタの適正が低いようだ。汎用機ですら動きがよくない。肉弾戦では自信があるのかもしれないけれど、今の世界の主流はモクトスタ戦闘だ。生身で役に立つようになるには、余程恵まれた体格を持っているか、ずば抜けて強くなるかくらいじゃないと無理だろう。

「――こんなものか?」

 トーカシア国は貿易国家だ。国家の守りは固いものの、それらはモクトスタ戦闘よりも昔ながらの交渉術によるものが大きい。武力より知力を優先してきたのだ。これでは、いつか攻め入れられたときに分が悪い。僕はわざと憎まれ役を買って出てやった、ということにしておく。ほとんどは自分のためだったけれど。

 幸い、この一言で多少は火が付いてくれたらしい。それ以降、表立った嫌味はなくなり、通常の訓練に参加できている。向上心の高い兵士から組手やら模擬戦やらを求められることも増えて、充実してきている。


 今は兵士と向かい合ってお互いに構えている。僕の後ろにも向かいの兵士の後ろにも男たちが並んでいて、一人ずつ順番に組手を行っている。この訓練は、初手で有利に立ち回れるようになるのが目的だ。お互いに生身で手に持つのはナイフを模した木刀。汎用機のナイフを使用した近接戦闘を意識している。

「次!」

 コーチ役の兵士が声を上げる。彼は杖を付いているから、現役を引退して後方支援に回ったのだろう。視界の隅でそんなことを思いながら腰を低くしたまま突進する。ナイフのときは、いかに早く相手の懐に入り込むかが肝だ。と、教本には書かれている。だからこそ、瞬発力勝負になるか、速さに違いがないときは結局力任せになっていた。

 ならば、と僕は相手の射程距離ギリギリで一度止まって膝を落とすと、完全にしゃがみ込んでその場で踏み込むと足元へ飛び込んだ。そのまま右足首を思い切り横から切り付ける、と言っても模造刀なので叩きつける。
 相手が痛みに狼狽えた隙を狙って、床に左手を付いて遠心力で後ろ側へ回る。飛び込んだ勢いに振り回されないように腹に力を込めた。ギギギッ! と床板と訓練用の靴が擦れる音が響く。スピードが落ち切る前に相手の左ひざの裏にナイフを突き立てる。僕よりも余程高い身長が傾いた。

「うぐっ!」

 頭上から聞こえた苦しそうな声は無視した。実戦ならば、モクトスタが多少なりとも破損している。相手も何とか持ち直したけれど、もう遅い。僕はナイフから手を離して太い左足首を掴んで引き倒す。さすがにバランスを崩して前へ倒れた相手を上から押さえ付けて、首を左腕で抑えつけた。

「そ、そこまで!」

 審判役の兵の戸惑った声が聞こえる。周りからは「おお……!」やら「すげぇ!」やら感嘆の声が届く。やり過ぎたかもしれない。でも、ニュドニアではこのくらいが普通なのだ。対戦した兵士に手を差し出す。

「ありがとう。大丈夫か?」
「あ、りがとう、ございます。……手も足も、出ませんでした」
「負けをすぐに認められるのはすごいことだそうだ。どうか、自信を持って欲しい」
「は、はい……!」

 こうやって少しずつ味方を増やす。今の僕に求められているのは、きっとこういう地道な居場所作りなのだろうな、と小さく息を付いた。
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