謎に関する考察

出灰尾灰

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謎に関する考察

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 創作において謎を提示すべきという話がアドバイスで挙げられることがある。

 しかし、なぜ謎を提示すると面白くなるのか? なぜ謎を提示することがオススメなのか? という点についてはいささか説明不足に思う。

 今回はこの「なぜ謎を提示することがオススメなのか?」という点について考察したい。



――1、謎を提示する目的
 私はまどろっこしいのが苦手なので結論から述べれば、『謎が解けていく過程=物語が動いている』と読者が最も感じるからだと思う。
 もちろん物語が動いている時は謎が解けていく過程以外にもある。
 しかし、最も端的に、分かりやすく、物語が動いていると感じるのは謎が解けていく過程である。



――2、謎の類系
 次に一口に謎と言っても何があるのかを考察したい。
 私が思うに謎とは2つある。

 A、既知の謎。
 B、未知の謎。
 である。

 Aの既知の謎とは読者が既に知っている謎だ。
 そして登場キャラは知らない謎である。

 Bの未知の謎とは読者は知らない謎である。
 そしてこのBは登場キャラが知っているか知らないかは問われない。

 Aについて説明しよう。
「読者が知っているのに謎ってどういうこと?」と思う人もいるだろう。
 しかし前述の「謎を提示する目的」で述べた通り、謎が解けていく過程=物語が進んでいると感じることなのだ。
 つまり、読者は既に知っている謎を作中のキャラがだんだんと知っていくという過程に対しても「物語が進んでいる」と感じるのだ。

 そしてこれを読んでいる皆さんはこのAの手法をよく知っている。
 周りから馬鹿にされている主人公が実は俺TUEEEEチートを持っているという場面だ。

 そう、読者は主人公が強いことを知っているが、周りのキャラからすると主人公の実力は謎なのだ。
 そして主人公が活躍するとヒロインやライバル、敵達が「あ!主人公強いんだ!」と理解していくのである。
 その過程こそ「謎が解けていく過程=物語が進んでいる実感」に繋がるのだ。

 次にBの未知の謎を説明しよう。
 これは分かりやすく、読者にとって謎だったものが明かされていく事だ。
 そのため登場キャラにとって謎である必要は無い。
 よく見かけるものとしては叙述トリックだ。

 登場キャラにとっては分かりきった情報を読者に隠す事で叙述トリックとなる。
 とはいえ別にBは叙述トリックだけでは無い。
 例えば異世界転生して右も左も分からない主人公。当然読者もその異世界がどんな世界か知らない。
 この場合、未知の謎を主人公と読者が共有する。

 そして、主人公が謎を理解していくことで読者にも謎が解けていく過程を読ませられるのである。



――3、謎の解き方。
 謎の解き方には色々あるが、1つ確かなことは「謎の解かれていく『過程』」が大事だと思われる。
 1つの謎をいつまでも引っ張って全く明かされなかったり、逆に1つの謎を一気に開示してしまうのではワクワク感に欠ける。

 例えば恋愛物でヒロインが主人公に「キスしても良い?」と告白し、別のヒロインがその告白を聞いてしまったとしよう。
 ヒロインの恋心という謎が主人公と別ヒロインに明かされる場面だ。

 ところが主人公は眠っていて告白を聞いていない。別ヒロインも「キムチでも良い?ってどういう意味?」と聞き間違えていた。となったら読者としても肩透かしではなかろうか?
 明かされるはずの謎が明かされず、物語は全く進んでいないと感じてイライラしてくるかもしれない。

 逆に1つの謎を一気に開示してしまうパターンも良くないだろう。
 もちろん1つの謎を開示し、そのうえで新たな謎を提示するなどのあらゆるテクニックはある。
 そのため必ずしも悪いことではないが、ネット小説と言わず、イマイチ人気の出きれない創作物には、まだ引っ張れる謎を読者にも登場キャラにも一気に開示してしまう時がある。

 開示した時は一時的に盛り上がるが、その後には何の謎も無いためグダグダした展開になったと感じられてしまう場合があるのだ。

 序盤は面白かったのに中盤からどうもグダグダしていて中だるみしているという作品には、序盤で謎を一気に開示してしまっている心当たりがないだろうか?

 そのため、なるべく謎は少しずつ解き明かしていく方が良いと思われる。



――4、ジャンルごとの考察
 ジャンルごとに考察をしていきたい。
 例えば恋愛で言えば「謎」とは恋心が一番だろう。
 誰が誰を好きといった情報は読者に開示されている既知の謎だ。
 他にも実は男子校に潜入した男装の女性とか、そういった謎も用意できる。
 おしなべて恋愛ジャンルは既知の謎が多いように思われる。

 ファンタジーでは世界観や異能力そのものが謎になりやすい。
 登場キャラは設定を知っているが読者は世界観や能力を知らないという点で未知の謎だ。
 しかしファンタジーにおいては、読者へ未知の謎を説明することがただの設定語りと受け取られてしまう可能性がある。
 世界観や異能力の設定をただの説明として書くのでは無く、物語における謎として提示した上でその謎が解かれていく過程を描ければ設定語りとは捉えられづらくなると思う。

 推理・ホラーはまさに未知の謎の独壇場だ。
 推理物は謎の解決そのものがストーリーのオチである。
 ホラーは謎を知ろうと追っていくことがストーリーそのものになるだろう。
 この辺りに関しては特に説明することも無い。
 強いていえば、ホラーは謎を最後に明かすべきか明かさざるべきかという点で議論があるかもしれないが。


 バトル物は、バトル展開そのものが目的なのだから謎は不要……に見えるかもしれない。しかし、実は一番謎と親和性が高いと思える。
 なぜならバトルだけでは展開が間延びするからだ。
 だからバトルの合間合間に「実は」という謎の開示があるとメリハリがつくだろう。
 主人公にボコられた敵が激昂して、あるいは主人公をボコった敵が優越感から、ついつい口を滑らして自分の計画という謎の一端を喋るかもしれない。

 あるいは主人公が自分の推理と共に拳を振るうかもしれない。

 あるいは戦いの合間に裏で暗躍する仲間が敵の計画の重要な手がかりを見つけるかもしれない。

 他にも、化け物の姿に変身する主人公が敵から味方を守り、「この化け物!実は味方!?」という疑いを持たせても良い(ここで疑いに留めたり、1人にしか知られないことが大事だ。化け物=主人公=味方ということを全ての登場キャラに開示してはならない)。

 主人公の使った技にごく一部の実力者だけが「あの技は〇〇!?伝説の技だぞ!?」と気付くのも良いだろう。

 バトル展開だけでは間延びやグダグダといった感想を持たれかねない。
 そんな時に、バトルの合間合間に謎の開示を行うことで戦っているだけなのにストーリーが動いていくという感想を読者に持ってもらえるかもしれない。


――5、終わり
 以上で物語における謎の考察を終わらせます。
 ストーリー構成のアドバイスで謎の提示はよく言われるが、なぜ謎が必要なのかを書いているサイトは意外にも少ないです。
 そのため個人的な考察ではあるものの、謎がストーリーにおいてどのような役割を果たすのか考えてみました。
 もちろん謎が面白さの全てではありませんが、それなりに真に迫れているのではないでしょうか?
 いかがだったでしょうか?
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