家事代行先の無口なお姉さん、推しVtuberでした。

星宮 嶺

文字の大きさ
7 / 73

第7話 完璧な家事代行

しおりを挟む
 透子は可燃・不燃・資源の三種ポリ袋の口を手際よく縛り、満杯になった袋を玄関脇へ運び出した。

 ペットボトル、食品トレイ、紙くず、そして宅配弁当の空き容器。

 ゴミで溢れていた廊下がどんどん整っていく様子に、透子自身もわずかな達成感を覚える。動きは無駄がなく、物音を最小限に抑えるように意識していた。袋の中の空気を抜いてから結ぶのは、部屋中に埃を舞わせないための小さな工夫だ。

 数時間前まで足の踏み場もなかったリビングのフローリングに、艶が戻ってくる。陽射しが木目を照らし、空間が“生活できる場所”としての顔を取り戻していく。

 テーブル脇のコンビニ袋を開くと、おにぎりの包装紙と紙パック飲料が出てきた。続いて、黄色い箱に入った咳止め飴の袋が次々と現れる。透子は一瞬だけ手を止め、それらを見比べた。メーカーは複数あるが、どれも「スロートケア」や「のど潤い」を謳っている。

(喉を大事にする仕事か、弱い体質か……。自炊はしていない。食事はほぼ宅配、インスタント……)

 推測は胸の内に留め、再び手を動かす。必要なのは清掃であり、詮索ではない。

 空き缶用の箱を開けると、エナジードリンクの缶が山のように転がり出てきた。透子は崩れた缶の山を素早く拾い上げ、袋に収めていく。力任せではなく、繰り返しの中で自然に身につけた動きだった。

(この空間を“安心して呼吸できる場所”に整える。それが、私の仕事)

 仕分けと清掃が進むごとに、部屋は“物置”から“生活空間”へと変化していく。埃が舞わぬよう霧吹きで床を湿らせ、優しく拭き上げる。

 陽が傾く頃、玄関からリビング、そしてキッチンまでの動線が一本の道として確保された。透子は時計を見て、ゆっくりと柚月の方へと顔を向けた。

「動線確保と、ごみの一次分別が完了しました。次回は残りの仕分けと、水回りの衛生クリーニングに入れると思います」

 声はあくまで穏やかに、簡潔に。柚月は驚いたようにこちらを見つめたが、すぐに深く頭を下げた。

 透子も会釈を返す。

 床に散らばっていた咳止め飴の包みと、空になった加湿器用タンク。そして、箱いっぱいのエナジードリンク。

 それらが一体何を意味するのか。職業病のように頭の片隅で浮かび上がる仮説を、透子は静かに打ち消した。

「こちらの飴の袋とドリンク缶、すべて処分でよろしいでしょうか? 加湿器のタンクも、洗って乾かしておきますね」

 柚月の返事はか細いが、先ほどよりも確かな音で届いた。

「はい。全部、いらないです。お願いします」

「かしこまりました。加湿器のフィルターが古く汚れているので、替えた方が良いかもしれません」

「わかりました」

 ほんの一瞬、目が合った気がしたが、それはすぐに逸れた。透子は微笑を崩さず、袋を縛りながら丁寧に言葉を続けた。

「それでは、本日の作業はこれで終了させていただきます。次回の日程を——」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!

夕姫
ライト文芸
Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』の1期生として活動する、清楚担当Vtuber『姫宮ましろ』。そんな彼女にはある秘密がある。それは中の人が男ということ……。 そんな『姫宮ましろ』の中の人こと、主人公の神崎颯太は『Fmすたーらいぶ』のマネージャーである姉の神崎桃を助けるためにVtuberとして活動していた。 同じ事務所のライバーとはほとんど絡まない、連絡も必要最低限。そんな生活を2年続けていたある日。事務所の不手際で半年前にデビューした3期生のVtuber『双葉かのん』こと鈴町彩芽に正体が知られて…… この物語は正体を隠しながら『姫宮ましろ』として活動する主人公とガチで陰キャでコミュ障な後輩ちゃんのVtuberお仕事ラブコメディ ※2人の恋愛模様は中学生並みにゆっくりです。温かく見守ってください ※配信パートは在籍ライバーが織り成す感動あり、涙あり、笑いありw箱推しリスナーの気分で読んでください キャラクターのイメージ画像とイメージSONGを作りました!興味がある方はどうぞo(^-^o)(o^-^)o 私のYouTubeのサイト https://www.youtube.com/channel/UCbKXUo85EenvzaiA5Qbe3pA

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。 笑えて、心温かくなるダンジョン物語。 ※この小説はフィクションです。 実在の人物、団体などとは関係ありません。 日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。

処理中です...