異世界転生カンパニー

チベ アキラ

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巡谷 リンネ 編

リンネ、転生 その2

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「おお・・・あれが、ドラゴン。」
「この世界の上級魔獣です。もう少し近づいてみますか?」
「む、無理です・・・」
無双を憧れた数時間前の私よ、諦めろ。見ただけで足がすくむ。

  私と鎌田は、異世界転生先を決めるための『霊体視察』というものをしていた。
霊体の姿であれば、大抵の異世界ではお互いが干渉しない透明人間状態になるらしい。その特性を利用して、とりあえず見てみる、という視察方法が取れていた。
そして今、暗い洞窟の中で、巨大なドラゴンを見ている。
「念のためご説明しますと、実際にこちらの世界に転生なさる場合は、転生サポートの特典として主人公に相応しい能力をセットでお付けすることは出来ます。」
「うーん、でも怖いものは怖いなぁ。」
バンジージャンプと同じだ。例え命綱があろうと、つまり安全を保障されていようと、視覚的情報に恐怖を覚えては人は行動できない。そのまま一歩を踏み出せる人間でなければ、ファンタジー世界を戦い抜くことなど出来るはずもない。
小説や漫画の登場人物たちは、その一歩をどう決心していたのだろうか。
どうして自分の命を、人生を賭けることが出来たのだろうか。
当然私にそんなことは出来ない。
私は、主役にはなれない。
「巡谷さん?」
「えっ?あっ、って熱っ!」
鎌田に声をかけられて意識を戻すと、私はドラゴンの吹く炎のど真ん中で突っ立っていた。
「霊体である以上干渉されないハズですが・・・」
「あっ、ホントだ。熱くなかった・・・」
この有様だ。

「そういえば、転生したらもとの記憶ってどうなるんですか?」
うって変わって風光明媚な野原広がる異世界。あまり刺激が強過ぎない世界を希望した結果、次の視察先はここになった。
「お選び頂けますよ。異世界転生の場合は記憶保持を希望される方が多いですが、稀に全く新しい自分で生きたいと白紙にされる方もいらっしゃいます。」
豚のような生き物を眺めつつ、鎌田は淡々と返事をする。
彼女のカントリースタイルのツインテールが妙にこの世界にマッチしており、側から見ている私にはあの豚と会話しているように見える。
「記憶を消したくなるなんて、生前に何かあったんでしょうか。」
「現界転生なら珍しいケースではありませんが、ワケは違うでしょうね。」
豚から離れ私に向き直った。
「巡谷さんは、どちらが良いですか?」
鎌田はがらんどうの瞳をまっすぐこちらに向ける。生前の癖で、言葉を詰まらせた。まっすぐに見つめられるのは苦手だ。
「私は・・・えっと・・・」
私が目を泳がせていると、真剣に見つめていた彼女の口元がふっと緩んだ。
「まあ、まだ視察中です。答えを急ぐ必要はありません。ですから肩の力を抜いてください。遠足か、テーマパークの気分で良いんです。進路相談じゃないですから。」
その一言に、強張った身体の力が抜けた。彼女のその言葉は、私の生前の悩みを知っている人間のソレだった。
「お見通し・・・なんですか?」
「推測です。詳しくはお話し頂けるなら伺いますが、転生に必要ない事柄であれば深追いすることはありません。」
鎌田はそう言って私の手を取ると、次の世界へと私を連れて行った。
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