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五倉 ショウタ 編
ボクは主役になれない その2
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「亡くなった・・・?ボク、死んだの?」
「はい。残念ながら。
まずはこの度ご臨終なされた貴方にお悔やみを申し上げますと共に、今後の転生についてご案内するべく参上いたしました。」
覚えるために何度も練習した文言を並べる。マニュアル化されたような言い回しだが、いざ顧客を前にすると無意識に感情がこもった。
担当する顧客情報は先に目を通し、あらかじめ最初に勧める転生先をカタログのようにいくつかピックアップする。そのため私は目の前にいるこの少年 五倉 ショウタの人生についてはあらかた把握していた。
どういう人生を生き、何を思っていたのか。
私が転生案内を受けたときも鎌田さんに筒抜けだったと知ったときは、恥ずかしさのあまり数日引きこもったので、原則顧客には明かさない。
鎌田さんがそうしてくれたように、あくまで良き理解者という体裁で接するのだ。
「えっと・・・ごめんなさい。何言ってるかわかんないです。」
・・・良き理解者という、体裁、とは。
「つまり、今からその生まれ変わりをするために、お姉さんと一緒にどんなところがいいか探そうねってこと。です。」
なんとか噛み砕くこと数分。
ショウタくんの緊張も解けてきたのか、ようやく認識の共有に成功した。不安なスタートである。
「はい。わかり・・・ました。」
不自然な間をあけながらも、ショウタくんは頷く。初の案内から綱渡りをしているのだと実感していた。
「さて、それでは案内します。異世界は"霊体"という透明人間になれる力を使って自由に見て回れるから、安心してね。」
「自由に・・・」
戸惑っている。自由に対して、彼は、五倉 ショウタは困惑している。
彼の人生を想うと当然かもしれない。だって、彼が生きていた世界は閉ざされていて、意思などあって無いようなものだったのだから。
うつむくショウタくんの表情を見ていると、資料で見た彼の世界が頭を掠めた。
初の案内係として、資料を受け取ったときのこと。
「あ、あれ?3人?」
「せっかくの初仕事なんだ。その中から1人、お前が全身全霊をかけて送り出したいってお客様を選びな。」
課長から渡されたのは3人の顧客詳細データ。私はそのうちの1人を選んで担当することになる。
「あとの2人は柳や尾花に担当させるから心配するな。それに、何かあったら鎌田のサポートもある。・・・今回だけだがな。」
「そうそう。だから自由に選んじゃいなさいな。まずはあなた好みの子を支えてあげるのがオススメよ?」
「も、もう!そんなんじゃないですよ尾花さん!」
先輩に茶化されながらも、私はひとつひとつに目を通す。
志し半ばで事故に遭った人、大切な人を遺して死別してしまった人、そしてもう1人が・・・
「あれ?この子、死因が・・・」
「あら、凍死?なになに・・・?あぁ、何というか、理不尽ね。特にこれは。」
親の虐待で、凍死してしまった6歳の少年だった。
放置されたり、構ってもらえたとしても暴力を振るわれたり。
助けを求めようにも6歳という歳では、せいぜい学校と家の中が世界の幅の限界だ。そして学校側からは、家庭の事情に手を出すことは限りなく難しい。
家が過酷な環境下では、少年に逃げ場など、ましてや自由などあるはずもなかった。
こういったタイプは、基本的に人生そのものに不安や恐怖心を抱いていることが多い。一緒に目を通してくれていた柳さんも、そう判断していた。
「これは、ちょっと初仕事には難しすぎますね。ええと、他の2人は・・・リンネちゃん?」
「・・・この子に、します。」
その言葉は、ポロっとこぼれ出た。
「私、この子を、五倉 ショウタくんを担当したいです。」
「り、リンネちゃん。この子は初仕事には・・・」
難しい。柳さんはそう言おうとしている。
それは重々承知の上だった。それでも、私は。
「どうしても、この子が抱く"人生への印象"が放っておけなくて。なんというか、すごく私情挟んじゃってるんですけど、私は、この子のような人たちの為になりたいと思って、この転生課を希望しました。だから・・・お願いします。」
ワガママかもしれない。頭では責任がどうだの人生がどうだの考えてはいるが、結局分かっていないだけなのかもしれない。
だけど、私はこの子を見つけたとき、直感的に思ったのだ。
私は、五倉 ショウタを転生させるためにここにいるのではないか、と。
すると、まるでそんな私の考えを見通したように鎌田さんが口を開いた。
「私からもお願いします。巡谷に任せてやってください。所感ですが、五倉 ショウタにとって納得のできる転生先を案内するには巡谷が適任と判断します。経験も必要ですが、何より境遇に通ずるところがある方が顧客の安心にも繋がりますから。」
「・・・そうだな。よし、巡谷。お前が最初に担当するのは・・・五倉 ショウタの転生案内だ。」
資料で読んだ通りの印象だった。
彼の閉じた世界に、自由などという概念は無いに等しい。
死によって飛び込んできた突然の自由に戸惑い、落ち着かないそぶりで自身の手首を掴んで目を泳がせている。顔色を伺っているのか、時折目が合ってはまた視線が逃げての繰り返しだった。
焦らず、ゆっくり。今はまだ戸惑っているだけ。鎌田さんがそうしてくれたように、あくまで、相手の一歩を待って・・・
気づかれないように呼吸を整える。大丈夫だ。私なら、できる。
落ち着いて、私はそっと手を差し出した。
彼は恐る恐るだが、私の手を握ってくれる。
「案内するね。ショウタくんが主人公の、次の世界に。」
私はまた思い出す。彼を選んだそのワケを。彼が抱くその想いを。
─── ボクは、主役になれない。
「はい。残念ながら。
まずはこの度ご臨終なされた貴方にお悔やみを申し上げますと共に、今後の転生についてご案内するべく参上いたしました。」
覚えるために何度も練習した文言を並べる。マニュアル化されたような言い回しだが、いざ顧客を前にすると無意識に感情がこもった。
担当する顧客情報は先に目を通し、あらかじめ最初に勧める転生先をカタログのようにいくつかピックアップする。そのため私は目の前にいるこの少年 五倉 ショウタの人生についてはあらかた把握していた。
どういう人生を生き、何を思っていたのか。
私が転生案内を受けたときも鎌田さんに筒抜けだったと知ったときは、恥ずかしさのあまり数日引きこもったので、原則顧客には明かさない。
鎌田さんがそうしてくれたように、あくまで良き理解者という体裁で接するのだ。
「えっと・・・ごめんなさい。何言ってるかわかんないです。」
・・・良き理解者という、体裁、とは。
「つまり、今からその生まれ変わりをするために、お姉さんと一緒にどんなところがいいか探そうねってこと。です。」
なんとか噛み砕くこと数分。
ショウタくんの緊張も解けてきたのか、ようやく認識の共有に成功した。不安なスタートである。
「はい。わかり・・・ました。」
不自然な間をあけながらも、ショウタくんは頷く。初の案内から綱渡りをしているのだと実感していた。
「さて、それでは案内します。異世界は"霊体"という透明人間になれる力を使って自由に見て回れるから、安心してね。」
「自由に・・・」
戸惑っている。自由に対して、彼は、五倉 ショウタは困惑している。
彼の人生を想うと当然かもしれない。だって、彼が生きていた世界は閉ざされていて、意思などあって無いようなものだったのだから。
うつむくショウタくんの表情を見ていると、資料で見た彼の世界が頭を掠めた。
初の案内係として、資料を受け取ったときのこと。
「あ、あれ?3人?」
「せっかくの初仕事なんだ。その中から1人、お前が全身全霊をかけて送り出したいってお客様を選びな。」
課長から渡されたのは3人の顧客詳細データ。私はそのうちの1人を選んで担当することになる。
「あとの2人は柳や尾花に担当させるから心配するな。それに、何かあったら鎌田のサポートもある。・・・今回だけだがな。」
「そうそう。だから自由に選んじゃいなさいな。まずはあなた好みの子を支えてあげるのがオススメよ?」
「も、もう!そんなんじゃないですよ尾花さん!」
先輩に茶化されながらも、私はひとつひとつに目を通す。
志し半ばで事故に遭った人、大切な人を遺して死別してしまった人、そしてもう1人が・・・
「あれ?この子、死因が・・・」
「あら、凍死?なになに・・・?あぁ、何というか、理不尽ね。特にこれは。」
親の虐待で、凍死してしまった6歳の少年だった。
放置されたり、構ってもらえたとしても暴力を振るわれたり。
助けを求めようにも6歳という歳では、せいぜい学校と家の中が世界の幅の限界だ。そして学校側からは、家庭の事情に手を出すことは限りなく難しい。
家が過酷な環境下では、少年に逃げ場など、ましてや自由などあるはずもなかった。
こういったタイプは、基本的に人生そのものに不安や恐怖心を抱いていることが多い。一緒に目を通してくれていた柳さんも、そう判断していた。
「これは、ちょっと初仕事には難しすぎますね。ええと、他の2人は・・・リンネちゃん?」
「・・・この子に、します。」
その言葉は、ポロっとこぼれ出た。
「私、この子を、五倉 ショウタくんを担当したいです。」
「り、リンネちゃん。この子は初仕事には・・・」
難しい。柳さんはそう言おうとしている。
それは重々承知の上だった。それでも、私は。
「どうしても、この子が抱く"人生への印象"が放っておけなくて。なんというか、すごく私情挟んじゃってるんですけど、私は、この子のような人たちの為になりたいと思って、この転生課を希望しました。だから・・・お願いします。」
ワガママかもしれない。頭では責任がどうだの人生がどうだの考えてはいるが、結局分かっていないだけなのかもしれない。
だけど、私はこの子を見つけたとき、直感的に思ったのだ。
私は、五倉 ショウタを転生させるためにここにいるのではないか、と。
すると、まるでそんな私の考えを見通したように鎌田さんが口を開いた。
「私からもお願いします。巡谷に任せてやってください。所感ですが、五倉 ショウタにとって納得のできる転生先を案内するには巡谷が適任と判断します。経験も必要ですが、何より境遇に通ずるところがある方が顧客の安心にも繋がりますから。」
「・・・そうだな。よし、巡谷。お前が最初に担当するのは・・・五倉 ショウタの転生案内だ。」
資料で読んだ通りの印象だった。
彼の閉じた世界に、自由などという概念は無いに等しい。
死によって飛び込んできた突然の自由に戸惑い、落ち着かないそぶりで自身の手首を掴んで目を泳がせている。顔色を伺っているのか、時折目が合ってはまた視線が逃げての繰り返しだった。
焦らず、ゆっくり。今はまだ戸惑っているだけ。鎌田さんがそうしてくれたように、あくまで、相手の一歩を待って・・・
気づかれないように呼吸を整える。大丈夫だ。私なら、できる。
落ち着いて、私はそっと手を差し出した。
彼は恐る恐るだが、私の手を握ってくれる。
「案内するね。ショウタくんが主人公の、次の世界に。」
私はまた思い出す。彼を選んだそのワケを。彼が抱くその想いを。
─── ボクは、主役になれない。
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