こちらモノノ怪捜査局~あやかし事件はお任せあれ!~

由希

文字の大きさ
2 / 22
序章 総ての始まり

第2話 髪切り魔の噂

しおりを挟む
 結局その日はそれ以上お客が来る事もなく、早々に店じまいとなった。……まぁ、あの千円だけでもウチにしては破格の稼ぎだったんだけど。
 ちなみにその千円でささやかな贅沢……をするような事はなく、しっかりと貯金しておいた。いつ急な出費があるか、解らないもんね。

「おはよー、美沙緒」
「おはよー」

 そして今日もウチはいつも通り、大学に顔を出す。友人達と適当に挨拶を交わすと、いつも座る講堂の中央左側の席についた。
 前すぎると、教授に顔を覚えられる。後ろすぎると、講義の内容がよく聞き取れない。真ん中すぎると、真っ先に目に付きやすい。
 といった感じで半年かけて探し出した、ウチにとっては絶好のポジション。中心部から少し左右にずれるだけで、人間の認識率はグッと下がるのだ。

 美大と言うととにかく作品を作って作って作りまくる!ってイメージの人が多いだろうし、実際ウチも入学するまではそう思ってたけど、最初の一、二年ぐらいはこうやって講義を受ける事も必須になってる。勿論実技もあるけど、それだけやってれば卒業出来る訳じゃない。
 つまり美大生だって、それなりに勉強が出来なければならないのだ。ここはちょっと、ウチにとって誤算だった。

「美沙緒おはよ。今日も余裕のご到着だね」

 とりあえず机にうつ伏せになってダラダラと時間を過ごしていると、不意に横から声をかけられた。顔だけをそっちに向けるとこじゃれた服装の、いかにも大学生活満喫してます!って感じのセミロングの茶髪の女の子が立っていた。
 この子の名前は秋吉あきよしはるか。この大学で初めて友達になった子だ。

「おはよ、遥。だってこの席狙ってる人多いんやもん」
「自分の為ならメチャクチャバイタリティー発揮するよね、美沙緒は」
「トーゼン! 自分の為に頑張らないで、他に何に頑張るの」

 ダラダラしながらのウチの主張に苦笑いを浮かべ、遥が隣に座る。ウチにこう言ってはいるけど自分だってこうして早めにいい席を確保しているのだから、皆考える事は一緒……の筈だ。

「で、どう? 絵の方は」

 バッグから筆記用具を取り出しながら、何気無く遥が尋ねてくる。うちはそれを聞いた途端、ガバッと跳ね起き遥に捲し立てた。

「それがね、聞いてよー遥! めっちゃ変な客がいたんだよ!」
「変な客?」
「そいつってばいきなり人を黒い毛虫扱いしてさ! もー信じらんない!」
「毛虫……プッ」

 可笑しそうに吹き出した遥に、ますますウチの機嫌は悪くなる。そんなにウチは毛虫に見えるか、この!

「遥ぁー……」
「ゴメンゴメン。で、変なとこってそれだけ?」
「それだけって、ウチにとってはそこ一番重要なとこ! ……まぁ、それ以外もおかしかったけどさ……」
「へぇ。どういう風に?」

 ウチは再び机にうつ伏せになって、顔だけ遥に向ける姿勢に戻る。そしてこれを「おかしなところ」として報告しなければならない事に若干の屈辱を覚えながら言った。

「そいつ、ウチの似顔絵買ったの。しかも千円で」
「は? アンタの似顔絵に、千円?」

 途端に、遥の顔が怪訝そうなものに変わる。うぅ……そんな疑いの目で見ないでよぉ……。

「え嘘? エイプリルフールはまだ半年以上先よ?」
「本当だって! しかもウチの噂知ってるのに、前払いで出してきたの!」
「前払いぃ!? それで後で返せとも何も言われなかったの!?」
「うん……怒るどころか気に入ったって……」

 言ってるうちに、だんだん自分でも昨日の出来事が本当にあった事なのか不安になってくる。でも財布には、確かに千円増えてるしなぁ……。

「マジで? たまたま上手く描けたとか?」
「逆逆! 上手く描けるどころか顔が……」

 そう言いかけて、はたと言葉が止まる。「出来上がった絵がのっぺらぼうだった」なんて、いくらこの流れでも悪い冗談にしか思われないんじゃないだろうか。

「顔が?」
「……今までで一番似てなかったの! すっごく!」

 ひとまずウチは、強引にそう繋げる事にした。遥はとりあえず納得してくれたようで、腕を組みふんふんと何度も頷き返す。

「成る程ねー……そりゃ確かに変な客だわ」
「ウチは儲かったからいいけどさー……でも、出来れば二度と会いたくないかな」
「じゃあ、場所変える?」

 言われてウチも考える。どっちにしろ、このまま駅前にこだわってても噂のせいで客は大して来そうにないし。
 そういや、アイツ最後に何か言ってなかったっけ? 場所を変えるなら商店街がいいとか何とか……。

「……商店街、とか?」

 試しに、そう呟いてみるウチ。けれど遥は、それを聞いて急に顔を曇らせた。

「アンタ……知らないの?」
「へ? 知らないって、何が?」
「『連続髪切り魔』。最近商店街で活動してるって噂だよ」

 その言葉に、思わずウチは息を飲む。『連続髪切り魔』とは文字通り、女の子の髪を切って回る通り魔の事だ。
 正体、目的一切不明。解っているのはこの東京を活動拠点にしている事、そして髪の綺麗な子が狙われるという事だけ。
 何しろ髪を切る以外に実害はないので、警察もまともに動いてくれない。でも髪を切られるというのは、女の子にとっては相当な一大事であるのだ。

「他にも場所はいくらでもあるじゃん。商店街だけは今は止めときなよ」
「う、うん……」

 真剣な表情の遥に、ウチは頷く事しか出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...