こちらモノノ怪捜査局~あやかし事件はお任せあれ!~

由希

文字の大きさ
9 / 22
第1章 狼男が鳴く夜に

第9話 突然の訪問

しおりを挟む
「んー……終わったぁ」

 教授が退室し、ウチは思い切り背筋を伸ばす。実技と違って、講義というのはやはり退屈だ。

「今日はお昼、どうする?」

 隣の席の遥が、ウチに声をかけてくる。ウチは財布の中身を思い出しながら、少し考えて答えた。

「今日は仕送りの残りがまだ一杯あるから、たまには外でランチしよっか」
「いいね! じゃあ最近出来たばっかのカフェにしようよ、パスタが評判のあそこ」
「賛成!」

 そうと決まれば急ぐが勝ち。ウチは手早くノートと筆記用具をバッグにしまい込むと、遥と一緒に講堂を出た。


「でも、意外」
「何が?」
「人物画よ。あんなにスッパリ諦めるなんて、思ってなかった」

 遥の指摘に、思わずギクリとなる。ウチはなるべく平静を装って、曖昧な笑みを浮かべた。

「アハハ……何て言うか、ハッキリ解っちゃったんだよね。ウチには人物画の才能ないって」
「美沙緒らしくないなぁ。どんなに貶されても折れないのが美沙緒だと思ったけど」
「買い被りすぎだよー。ウチ、そこまでメンタル強くないし」

 何とか誤魔化しの言葉を並べながら、心の中で冷や汗を掻く。まさか間違ってモノノ怪の正体を暴いたら命の危険があるから……とは、口が裂けても言えない。言える筈がない。

「……美沙緒がそれでいいって言うんだったら、あたしもこれ以上は言わないけど」

 どこか納得いかなそうに、でもそれ以上は追及してこない遥に、胸がチクリと痛む。きっと遥は、ウチの事を心配してくれてるんだと思う。
 そんな遥に嘘を吐く事に、罪悪感を感じる。でも本当の事を言ったら、遥まで巻き込んじゃう……。

「あれ? 何か校門の方騒がしくない?」

 ウチが悩んでいると、不意に遥がそう声を上げた。見れば、校門の前に何やら人だかりが出来ている。

「女の子ばっかじゃん。何アレ? イケメンタレントでも来たとか? うちの大学に?」
「さぁ……?」
「ちょっと見てこうよ。どんなイケメンか気になるし」

 そう言うと、遥はウチの返事を待たずにさっさと行ってしまう。遥はいい子なのだが、イケメンに目がないのだけ玉に傷だ。
 ……とは言え、人だかりが出来るレベルのイケメンがどんなものかはウチも興味がある。ウチは遥の後を追い、人だかりへと近付いていった。

「わっ……ホントに凄い人だかり……」

 近くで見ると、その盛り上がりっぷりがよく解る。黄色い声なんかも、ひっきりなしに飛んでくる。
 女の子達に囲まれた、こっちに背を向けた男の人の頭が見える。薄茶色の柔らかそうな髪は本当にどこかのモデルみたいで……。

「ん?」

 ……ちょっと待って。あの後ろ姿、なーんかどこかで見た覚えない……?

「あのー、誰かと待ち合わせですかー?」

 訝しむウチの前で、遥が後ろ姿に声をかける。そうして振り返った相手の顔を見て――ウチは、絶句した。

「なっ……なっ……!」

 驚きのあまり、咄嗟に言葉が出てこない。代わりに心の中で、ウチは絶叫していた。

(何で……白川さんが大学ココにいるワケえええええっ!?)

 そう、それは紛れもなく警視庁捜査零課、通称ユーレイ課所属の白川無道さんだった。な、何で!? 何でこんな事になってんの!?
 確かに、ウチの力を借りたい時は連絡するからって連絡先は教えた。教えたけど、その連絡なしに大学まで直接来るとは聞いてないんですけど!?
 ウチが混乱してると、白川さんの目がウチを捉えた。そして手を振りながら、大声でウチに呼び掛けてくる。

「おーい、待ってたよー、美沙緒ちゃーん!」
「えっ……あの超絶イケメン、美沙緒の知り合い!?」

 その声に、遥を含むその場にいた全員の視線がウチに集中する。ちょっ……何で大声で人の名前呼ぶのよ馬鹿ー!

「ちょっとゴメンね。君達、通して」

 ウチがどうしていいか解らず固まっていると、白川さんは人だかりを掻き分けてウチに近付いてくる。そしてウチの手を取り、ニッコリと微笑んだ。

「驚いた? ゴメン、どうしても早く会いたくて」
「あっ、あのっ、一体何っ」
「それじゃ行こうか。約束してた場所へ」
「い、いやっ、ウチまだ午後に実技がっ」
「サボっちゃいなよ。こっちの方が大事でしょ?」

 周囲を誤解させる台詞をポンポンと吐きながら、ウチの手を引いて歩き出す白川さん。それに抗いたいウチだけど、流石男性しかも刑事。どんなに手を振りほどこうとしても、全くびくともしない。

「はっ、遥っ!」

 一縷の願いを込めて、ウチは遥を振り返る。だけど。

「生憎だけど、実技で代返は無理! いーなぁあたしもデートでサボりたい」
「ち、違っ……助けてえええええっ!」

 無情にもそう言われ、ウチは為す術もなく、悲鳴渦巻く校門から遠ざかっていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十六日間の忘れ物

香澄 翔
ライト文芸
三月六日。その日、僕は事故にあった――らしい。 そして三十六日間の記憶をなくしてしまった。 なくしてしまった記憶に、でも日常の記憶なんて少しくらい失っても何もないと思っていた。 記憶を失ったまま幼なじみの美優に告白され、僕は彼女に「はい」と答えた。 楽しい恋人関係が始まったそのとき。 僕は失った記憶の中で出会った少女のことを思いだす―― そして僕はその子に恋をしていたと…… 友希が出会った少女は今どこにいるのか。どうして友希は事故にあったのか。そもそも起きた事故とは何だったのか。 この作品は少しだけ不思議な一人の少年の切ない恋の物語です。 イラストはいもねこ様よりいただきました。ありがとうございます! 第5回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。 応援してくださった皆様、そして選考してくださった編集部の方々、本当にありがとうございました。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

処理中です...