上 下
11 / 33

11 初めての異世界でスキルを手に入れたので必要な事を覚えました。

しおりを挟む
大型連休の前日。
マリリンへの新たなプレゼントと、彼女の兄であるジャックさん、そして仕事仲間になるであろうマイケルさんへの贈り物を用意し、僕はある程度の着替えを鞄に用意して納屋の二階にマリリンと共に来た。
異世界に必要であり、足りなくなってきていた物品に関しては、数回にわけて通販で大量に買い、マリリンの空間魔法の中に入れ込んで貰っている。
異世界の状態がイマイチ理解できていないが、この際マイケルさん達に詳しく教えてもらう予定だ。
何より、異世界についたら色々やる事はあるにせよ、間違いなく王城へ向かう事になるだろうし、あちらで保管して貰っているお金を使い、失礼のないシッカリとした服を作ってもらう予定だ。
理想は――マリリンの隣に立っても見劣りしない服装……が好ましいが、用意できるだろうか。
マリリンに関しては、海外ブランドのドレスと靴、そしてアクセサリー等、一通りの女性に必要な物は用意した。
異世界で通用するのかと聞いたところ「十分過ぎて恐ろしい」と言っていた為、大丈夫だろう。僕もちゃんとしたアクセサリーというか、宝石は用意した。


「じゃあ行ってくるよ。連休終わる前には帰ってくる予定だけど、何かあったらよろしく」
「了解よ」
「シッカリと嫁さんを守るんだぞ!」


両親に応援され、僕はマリリンと共に鏡を潜った。
妙な違和感を感じたものの、特に難なく知らない部屋に入った途端――脳に響いた声に頭を抱えて蹲った。


『スキル:言語理解を取得しました』
『スキル:交渉術を取得しました』
『スキル:悪意察知を取得しました』
『スキル:瞬時暗算を取得しました』
『スキル:読唇術を取得しました』
『スキル:超記憶力を取得しました』
『スキル:速読を取得しました』
『スキル:アイテムボックス特大を取得しました』

『称号:英雄の夫を取得しました』
『称号:国の秩序を取得しました』
『称号:国の救世主を取得しました』



流れてきた声と内容に立ち眩みを起こしていると、マリリンはカズマを抱き上げ扉を蹴破ると何かを叫んだ。
空を飛ぶように現れたのは――マリリンによく似た、少し年上の男性と、綺麗な赤い髪で切れ長の青い瞳の男性だった。


「大変なんだ!! 夫が!! 夫が立ち眩みを!!」
「落ち着けマリリン!! 暫く横にさせて落ち着かせるんだ」
「直ぐにうちのギルドから治療師を呼ぼう。マリリンとジャックは一先ずマリリンのベッドでカズマ様を休ませてやってくれ」


綺麗な赤い髪の男性の言葉に二人は頷いたが、何とか振り絞って手を伸ばすと、真っ直ぐ顔を上げマリリンの腕から降りると二人に深々と頭を下げた。


「御見苦しい所をお見せいたしました。僕の名はカズマ。異世界より訪れたマリリンの夫で御座います」


まだ青い顔かもしれない。
けれど、シッカリと二人には挨拶をしておきたかった。


「初めての異世界でしたので、沢山のスキルと称号の情報に頭が混乱したこと、お許しいただけたら幸いです」
「マリリンが言っていた異世界の……っ! スキルは兎も角……称号だと?」
「カズマ、本来称号を貰う事は極めて異例なんだぞ? 私のように英雄を貰う事すら激レアだぞ?」
「マリリンの信頼のおける方々になら、今受け取った称号をお話しすることは可能だとは思いますが……何分、この異世界での事は全く解っておらぬものでして。本当に情けない限りです」


カズマの言葉にマリリンは何度も首を横に振ってカズマを抱きしめたが、ジャックもマイケルもカズマの事を馬鹿にするどころか驚くばかりである。
他の者が気付く前にと一度マリリンの部屋に戻ると、扉を魔法で修復し、カズマのステータスを見せてもらった。
確かにステータス的に見れば初級冒険者レベルのモノではあったが、何よりもスキルと称号が余りにも恐ろしいと三人は思った。
カズマ自信も、内心「コレがチートと言うものか」と困惑はしたものの、血を見るような俺ツエー系でない事に少しだけホッとした。


「これは……我々以外に見せないほうが身のためだろう」
「ええ、僕もそう思います。冷静になれた今だからこそ解りますが、今、この国の現状を考えれば間違いなく暗殺されても仕方ないものでしょう」
「私の夫にしてこれだけ祝福された称号……やはり国を造った方がいいのでは?」


真面目な顔で考え込むマリリンの肩をポンポンと叩くと、カズマは小さく溜息を吐いた。


「それは追々考えるべきであって、今決める事ではないよマリリン」
「カズマ……」
「僕はまだこの異世界を知らなさすぎる。マイケルさんにお願いがあります。この国の、そしてこの世界の知識を二日で構いません。徹底的に教えて頂けませんか?」


スキル:超記憶力があれば二日もあれば叩き込めるところは叩き込むことは可能だろう。
多少なりと脚が出る可能性もあるが、異世界の事を一気に詰め込むためにも二日は欲しい。
そして、自分が異世界人であることを出来るだけ周囲に漏らさず、この異世界に馴染むことが出来ればマリリンへの被害は最小限で済むはずだ。


「……出来るか?」
「今自分に出来るだけのことはしておきたいのです。このギルドの為にも、そして、妻の為にも」


カズマの言葉にマイケルは小さく息を吐くと、マリリンの帰宅はまだ黙っておくことにして、まずはカズマに二日間みっちりとこの異世界の知識を叩きこむことを了承してくれた。
そして勉強の傍ら、城へ赴くための服装を急ぎ作ってもらう事にし、マリリンに二日だけ待ってもらうよう頼み込んでから彼女へプレゼントを手渡し、そしてマイケルとジャックと共に資料室へと案内された。

資料室――とは言っても、このギルドで保管している他国及び、この国の機密情報も大量に入っているため、マリリンとジャック、そしてマイケルしか開くことは出来ない。
そこでの二日間の徹底した情報収集は熾烈を極めたが―――二日後、速読と超記憶力のお陰でほぼ全ての内容は頭に叩き込むことが出来た。
軽く頭の痛さを感じたが、五日しかない連休だ。
三日目の今日は、マリリンと共に夫であるカズマが帰宅したことをギルド面子に大々的に報告し、四日目には異世界全ての王国にマリリンの結婚報告及び、マリリンへ対して失礼を繰り返してきた城へ向かう事が決まっている。
相手の出方次第だが、こちらも徹底して笑顔でやり合おうと思っている。
マイケルさんとマリリン達が待つ部屋に向かう途中、彼から小さなため息が零れた。


「どうかなさいましたか?」
「いや、その年の異世界人とは、皆が堂々として肝が据わっているのかと思ってな」
「さぁ、どうでしょう? 僕としては願ったり叶ったりのスキル等でしたし、この力でギルドを、そしてマリリンを守れるのならば、多少なりの命の危険も構いませんよ」
「やれやれ」
「それでは手筈通りにお願いしますね」
「了解だ」


こうして、僕たちはマリリンとジャックさんと合流し、ギルドの一階に集められた沢山のギルド面子及び、このギルドの要ともいえる錬金術師たちと対面した。





「皆の者! 私は帰ってきたぞ!!!」


この言葉にギルドは震えんばかりの雄叫びに満ち溢れた。
そして彼女の、そしてジャックとマイケルと並ぶカズマを見て、一部は驚愕し、一部は目を見張った。


「そして、この私、マリリンの夫であるカズマだ!」
「こうして皆様に会うのは初めてですね。僕の名はカズマ。皆さんの口にしている食事に関する砂糖や塩と言った調味料及び、シャンプーなどをマリリンに手渡した者……と言えば、皆さんにも伝わりやすいかと思います」


笑顔口にした言葉に女性陣からも男性陣からも感嘆の声が上がり、尚且つ感謝の言葉が次々に溢れた。
それもそうだろう。
このギルドが今までに増して注目されているのは、カズマのいた世界からもたらした物による恩恵がとても高いのだから。


「この度、妻と共に僕の故郷に向かい、ギルドで不足してきていた調味料や美容に関する物の追加も大量に持ってきています。是非【レディー・マッスル】の皆さまに使っていただきたく思います」
「それは有難い。そろそろ在庫が切れ始めていたからな」
「僕のような若輩者が、皆さまが憧れるギルドマスターの夫では不安も大きいでしょうが、出来うる限りギルドの皆さまの為に働き、そして何より、誠心誠意、妻であるマリリリンの為に尽くしていく所存です。どうか皆さま、宜しくお願い致します」


笑顔で、それでいて低姿勢。
冒険者としてはマイナスだろうが、英雄の妻を支える夫という立場で言えば合格点だろう。
一斉に鳴り響いた拍手がその答えだろうと理解すると、その日の内にマイケルさんと話し合って商品の販売に関する内容を纏め、更に明日城に着ていく服を用意され、既製品を何とかマリリンの持つドレスに合わせた形に変えてもらった。
無論、服を扱う彼らですらマリリンの持つドレスに驚き、何処で手に入れたのかを聞いてきたが、それら全てに関してマリリンは「夫からのプレゼントだよ」で通した。
怒涛の一日だったが、此れもすべて自分の為であり、マリリンの為だ。


さぁ、明日は城へ向かう事が決まっている。
少しだけ暴れても問題はないだろう。





翌朝、着替えを済ませ、マリリンの用意が終わるのを待っていた。
暫くすると、マリリンの肉体美を美しく魅せるカズマの世界ならではのドレスに身を包み、この世界では余りにも希少価値が高いとされる宝石をさりげなく、それでいて存在感も放ちながらマリリン自身を美しく飾り、更に言えば美しく化粧を施したマリリンに、ギルド面子は言葉もなく動くことすら出来ない。


「とてもお似合いです。流石は僕の妻ですね」
「はははは! これら全てをプレゼントしてくれた夫には感謝してもしきれんよ!」
「戦う貴女も素敵ですが、美しく着飾った貴女を見たいのも夫の心理ですよ。その為に必要な物でしたら喜んでご用意いたしましょう」
「全く、照れるではないか!」
「ではそんな愛しい妻に一言良いでしょうか?」
「む?」
「……今日の貴女も、他の女性が霞むほどに美しい」


そう言ってカズマは自分よりも大きなマリリンの手を取り、軽くキスを落とすと周囲からは黄色い悲鳴が上がった。


「それでは、エスコートさせて頂いても?」
「う……うむ!!」
「お手をどうぞ」


――このやり取りを見ていたジャックとマイケルは驚愕しながらも歩き出したカズマ達について歩き、ギルドが保有している豪華な馬車に乗り込むと戦場となる城へと走り出した。

しおりを挟む

処理中です...