上 下
26 / 33

27 異世界人の妻と僕との、三カ月の温泉宿泊スタート①

しおりを挟む
その日、カズマとマリリンはレディー・マッスルの所有する彫金師の元へきていた。
と言うのも、マリリンはオリハルコンすら砕く力を持ち合わせている為、普通の鉱石では結婚指輪が直ぐに破壊されてしまうだろうとジャックに言われた為だ。
そこで、最近作り出されたというオリハルコンやアマダマンを越える超合金、その名も【超オリハルコン】と言う、何ともネーミングセンスの無さそうな素材で指輪を作って貰うべく相談に来ているのだ。


「カズマよ、そちらの異世界ではどのような結婚指輪なのだ?」
「そうだね、婚約指輪と結婚指輪があるんだけど、婚約指輪は派手なものが多いかな。マリリンが夜会とかに付けていくような感じの指輪だよ。結婚指輪は反対にスマートな物が多くて、家事や仕事の邪魔にならないような揉作りになってる。少し宝石を入れたりはするよ」
「ふむ、こちらの世界には婚約指輪と言う者は存在しないが、結婚指輪は相手の色を指輪に入れるのが一般的らしい」
「へぇ……」
「つまり、私が指輪に入れる色は黒! カズマの色だな!」
「じゃあ、僕はマリリンの髪色の金に近い色合いの宝石かなぁ」


そう話をしていると、彫金師は後ろから大事そうに宝石や鉱石の入った箱を持ってきた。
色合い別に揃えているらしく、黒にも色々、金に近い色にも色々あるのだと知った。
マリリンは直ぐに、オニキス色の石を選んだが、僕は悩んでいる。


「すみません、青色の宝石や鉱石はありませんか?」
「ありますよ」
「やっぱり、妻の瞳の色にしたいです」


彫金師にそう告げると、青の宝石や鉱石が入った箱を持ってきてくれた。


「このタンザナイトにします……綺麗なマリリンの瞳に凄く近い」
「カズマったら!」


照れる世紀末覇者は愛らしい。
彫金師はオニキスとタンザナイトを手に取ると、三か月後には指輪が出来ることを教えてくれた。どうやら超オリハルコンはとても難しいらしい。

しかし、三か月後か……。


「……マリリン」
「なんだ」
「ウエディングドレスと式の予約はもう終わったよね」
「無論だとも!」
「じゃあ、明日から三か月温泉に行こう。婚前旅行だ」
「こっ!! 婚前旅行!? しかし新婚旅行でいくのではないのか!?」
「新婚旅行もいくよ。けど、もしかしたら新婚旅行は遅れてしまうかも知れないね」
「なんだって!?」
「だってマリリン、妊娠するかもしれないじゃないか」


婚前旅行にいく→毎日イチャイチャする→ベッドでもイチャイチャする→妊娠の可能性あり。

そこまで脳内で瞬時に計算したマリリンは、覚悟を決めた!!


「カズマ、出かけるのは三日後からでもいいか?」
「いいけど、用意にそんなにかかる?」
「ああ、少々物入りでな」


一体何が物入りなのかは分からないが、女性には色々と時間が掛るのだろうとカズマは了承した。
こうして彫金師の元から部屋に戻ろうとしたが、マリリンはその足で外に一人で出かけてしまう。なんでも大事な要件があるらしい。
その間、旅行への準備を先に進めておこうと、カズマは部屋に入っていったが、その頃マリリンは――。


「頼んでおいたナイトウェア一式と、勝負下着一式、寧ろ頼んでいた物全てを持ってきてくれ」
「畏まりました」


マリリンは、カズマとそう言う関係になる場合を考え、ナイトウェアと勝負下着各種10着分と、その他デートで二人きりで行くための軽装を頼んでいたのだ。
ついに。
ついに、それらの服が解禁となる。
数名のメイド達が箱に入ったそれらを積み上げていくと、マリリンは感慨深い気持ちになった。


「ついに必要になったのだ……この最強装備が」


マリリンにとっての最強装備は生身の体だが。
そして、山のように積みあがった服はどれも布地がとても少なく、防御面は最低だが。
温泉宿、初めての夜、そして毎晩激しくお互いを求め合い、最終的には妊娠!
そう、最終目標は妊娠なのだ!
愛するカズマとの間の至高の宝を手に入れる為に、マリリンは努力を怠らない!
既にカズマ専用の馬車は最高級品で揺れも無い素晴らしいものに替えた。
これならば妊娠した場合、母体であるマリリンの体も大丈夫だろう。

全てが順調、全てが最高、カズマとの出会いこそが神がマリリンに与えた全てなのだ!

会計を済ませたマリリンは購入分をアイテムボックスに入れて颯爽と家路へと向かう。
その姿はまるで、これから戦場に行く勇者の様だった。





それから三日後。
マリリンとカズマを乗せた最高級の馬車は温泉地へと向かう。
レディー・マッスルの新しい事業の一つである温泉宿は、ギルドが買った大きな山の麓にあり、今後貴族の避暑地としても活用が見込める素晴らしい宿だ。
今まで地元の人にしか知られていなかった温泉を買う事が出来たのは、偏にカズマの案があったからである。


「そこに住む住民用の銭湯を作り、彼らに管理させればよいのでは?」


その一言で、銭湯を作るまではするものの、管理は村人たちに任せたのだ。
更に温泉宿の従業員も村人を雇用し、徹底した研修をさせて働いて貰っている。
それまでの村は、若い人々は収入や仕事を求めて都会へと行っていたが、温泉宿が出来たことで村でも就職ができ、安定した職場、安定した給料、安心できる仕事場として定着しつつあるのだ。
新たな雇用と村人の流出を止めた事もあり、レディー・マッスルの評判はうなぎ上りである。


「これから二日も馬車を走らせれば温泉宿に着く。実に楽しみだなカズマ!」
「そうだね、家族風呂も作った事だし、二人きりで楽しめそうだね」
「ンンン! 初めては出来ればベッドの上が好ましいんだが……っ!」
「僕はマリリンが好きな場所でいつでもと思ってるよ」
「ンン!!!」
「ふふふ」


危うく鼻血を吹き出しそうになったマリリンだったが、夫が積極的な事は非常に、非常に良い事だと心の中で雄たけびを上げた。
初めて異世界で出会った時から、一目惚れしていた大好きなカズマと夫婦になり、子をもうけることが出来るこの喜びを、何と表現すればいいのだろうか。
振動も殆ど無く進む馬車に揺られ、マリリンは本当の意味で【幸せ】を噛みしめていた。

今回はジャックもマイケルもいない。
二人だけの、婚前旅行。
きっと、タダでは終われない。
刺激的な温泉三カ月が始まる――。

しおりを挟む

処理中です...