石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未(旧・うどん五段)

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18 緊急ミッション!? 【暁の腕輪】を作って魔物討伐隊隊長を救え!!

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 ――その日の夜は、やけに騒がしい夜だった。
 思わず起きてしまい外の声を聞いていると何かが必要になったけれど……と余り聞き取れない。
 何? 何が必要になってどうしたの?
 そう思っているとドンドンドンと店のドアを叩く音が聞こえ、バタバタと皆が起きて店に向かう音が聞こえ、私も上着を羽織ると店へと走った。
 すると――。


「夜分遅くに失礼する! 彫金師と付与師は直ちに【暁の腕輪】を作って頂きたい!」
「【暁の腕輪】だと!?」
「誰かが魔物に襲われたんですか!?」
「魔物討伐隊隊長……ヴァンドナ様が……」
「!?」


 思わず呆然とするエンジュさんに、魔物討伐隊らしき男性は血を流しながらエンジュさんの両肩を掴んだ!


「急ぎ作って頂きたい! エンジュさん! 貴方の上司でしょう!? 何で助けてあげられないんですか!?」
「上司……エンジュさん、シッカリして、気をシッカリ!!」
「……」
「ちょっと失礼!」


 そう言うとエンジュさんの頬をパァン! と叩き、目を覚まさせると私を見た。
 やっと息が出来たように肩で息をするエンジュさんに、私はお父様を見た。


「必要材料は?」
「あ、ああ。プラチナ鉱石に……質のいいルビーに……レッドタイガーアイ。だがレッドタイガーアイは希少すぎる」
「此処も駄目なんですね……」
「諦めないで下さい。家はやれます」
「しかし!!」
「ねぇエンジュさん、良く聞いて。どんな効果の物かは知らないけど、素材は出せるの。素材はあるのよ。貴方の手はそれを作れる?」
「作れる……」
「センジュ君は付与できる?」
「はい!」
「直ぐ用意して、ルビーはあったわよね?」
「直ぐ用意します!!」


 私を未だに見つめたままのエンジュさんの両頬を掴むと、私は出来るだけ落ち着いて声を掛ける。
 今はそれしか出来ないっ!


「エンジュさん、アイテムは用意できます。貴方が隊長さんを助けるの。その手で今度は剣ではなく彫金師で助けるの。そして今から作る為に戦うの」
「……ユリ、俺は」
「出来るわよね? 出来ないなんて言わせないわよ!?」
「出来る!! 直ぐ用意する!!」


 弾けるように涙を零しながら叫んだエンジュさんの後を追いかけ、お父様は魔物討伐隊の方に椅子に座るよう告げ、私たちは作業場に駆け込んだ。
 作るのは腕輪らしく、ルビーとレッドタイガーアイに二つの付与を行うらしい。
 そもそもアイテムが作れると聞いても、どんなのかは私には分からないけれどっ!
 もっと勉強しないと駄目だわ。


「【暁の腕輪】は魔物に取りつかれた人が使うアイテムなんです。俺が付与するのは内なる魔物を抑え込む付与と、見た目が変わってしまった姿を元の姿に見せる付与なんです」
「教会とかでは解除できないんですか? まるで呪いみたいだけど……」
「魔物が死ぬ間際につける呪いだと言われている。それもAランクかSランクの魔物が」
「そんな」
「魔物討伐隊の戦いは熾烈だ。今回も何人か死んだと思う……」
「「……」」
「この大きさで行けるが……ルビーとレッドタイガーアイは用意できたか?」
「此処に」
「タイガーアイも出したわ」
「両方質が良いな。直ぐに取りかかろう」
「宝石はまるっと全て使って下さい。大きい方が効果高いので」
「分かってる!」


 こうして【暁の腕輪】の作成に挑み始めた。
 プラチナ鉱石だって混じりっ気無しの私のスキルで出したものだ。
 後は上手くいく事を祈るしかない。
 時間にしてどれ位経ったか分からないけれど、出来上がった腕輪がゴトリと落ちると、直ぐにセンジュ君が付与を始める。

 ルビーには見た目を人間に見せる付与を。
 レッドタイガーアイには、取りついた魔物を鎮める付与を。
 そして、周囲のプラチナの輪には強化付与をつけて出来上がり、それをセンジュ君がエンジュさんに手渡す。


「兄上」
「ああ、ありがとう!!」


 そう言って店の方に駆け出すと、出来上がった腕輪を見た先ほどの騎士が雄叫びを上げて泣きだし、何度も「ありがとう」を口にして走り去って行った。
 時計を見ると時間にして一時間……。
 この一時間であのアイテムが効けばいいけれど。


「姉上大丈夫です。かなり大粒のルビーとレッドタイガーアイを使用しました。相手が変異種の魔物であっても抑えられます!」
「良かったっ!! エンジュさん!! エンジュさん良かった!!」


 そう言って振り返ったエンジュさんに飛びついて抱き着くと、思わぬ行動だったのか抱きしめ返してくれた。


「凄いじゃない! 貴方は剣で魔物を倒すだけじゃなく、その手で倒れた誰かを救う事も出来るのよ!! 凄いじゃない! 貴方とっても凄いわ!! 無論センジュ君の付与だって必要だけど……だけど……っ!! 良かったああああ!!」
「ユリ……ああ、ああ!! 本当に良かった……俺達は運が良かった! ユリが、ユリが居てくれたから!!」


 ワンワン声を上げて泣く私を抱きしめてくれたエンジュさんに抱きしめられ、その内涙を止めて溜息を吐くと、エンジュさん達は不思議そうに此方を見た。
 そう、自分の無知が嫌になったのだ。


「アイテム名を言われても何か分からなかったのは悔しい……っ」
「それは、付与師と彫金師なら嫌でもその辺りは知識として頭に入るのがスキルなので」
「それにしてもよ? 私が出せるのって素材となるアイテムくらいしかなくて、それもまた悔しかったの」
「何を言うんだ! ユリがいたからこそ隊長は助かるんだぞ!?」
「俺達はその素材が無ければ勝負の土俵に立つ事も出来ないんです!」
「二人共……」
「始まりは何時もユリだよ」
「そうですよ!」


 そう言われてやっと笑顔になる事が出来て、それでも涙がポロポロ落ちたけれど、そのままホッとしたのもあって腰が抜けてしまった。
 思わずエンジュさんに抱きかかえられてしまったけれど、苦笑いして「腰抜けちゃった」と言うと笑って部屋に送り届けてくれた。

 良かった……自分のスキルを人の人生を助ける為に使えたのが、誇らしかった。
 ベッドに座らせられ、外をバタバタと駆け抜けていく音を聴いてエンジュさんが「皆……」と呟いたけれど、もうエンジュさんはその輪には入って行けない。
 でも、もしかしたら――違う形で何時かは戻れるかもしれない。


「今日の朝にはきっと報告が来ます。興奮して寝れないだろうけど横にはなりましょう?」
「ああ、そうだな……ユリ」
「はい?」
「君が我が家に来たその日から、止まっていた時が動き出した。何時も始まりはユリからなんだよ」
「……今後もそうありたいと思います」
「ありがとう」


 そう言ってエンジュさんは部屋を出て行き、私は束の間の眠りについた。
 翌朝はいつもより早く起き、朝食の支度をしながら皆さんが降りてきて食事となった。
 ちょっと気分が高ぶっているのかも知れない。
 それでも美味しい食事にお爺ちゃんたちに癒されれば多少は楽になるもので、食器を片づけ終わると何時ものエンジの割烹着を着て店に出た所でドアが開いた。
 そこには昨日の騎士さんが包帯を巻かれて立っていて――。


「おはようございます。エンジュさんはいらっしゃいますか?」
「はい、エンジュさーん! 昨日の騎士様よ~!」
「直ぐ行く!」


 そう叫ぶ声がするとエンジュさんはバタバタと走ってきて、魔物討伐隊の男性に頭を下げた。
 すると「照れくさいじゃないですか先輩」と声を掛けた彼は、ヨナンと言うエンジュさんの後輩らしい。


「無事、隊長は正気を取り戻しました。暁の腕輪のお陰で後遺症もないそうです」
「良かったです……」
「それにしても凄いですね。あんな上等な宝石早々ないですよ?」
「まぁ、家は秘密のルートがあるんだ。公には言えない」
「へぇ……。それにしてもお嬢さん、エンジュさんの顔を引っ叩くなんて凄いですね!」
「夫が呆けているからですよ。ビシッと決める所は決めてくれましたけど」
「エンジュさん……結婚したんですか!?」
「いや、まだ婚約だ」
「――おめでとうございます! 隊長にも皆にも伝えておきますね!!」
「だから婚約だと!!」
「エンジュさんの奥方様! ありがとう御座いました!」
「いえいえ、お力になれて良かったです」
「では先輩また!!」
「だから婚約――!!」


 と、話を聞かず去って行ったヨナンさんに私がクスクス笑うと、エンジュさんは顔を真っ赤にしながら溜息を吐き「後で隊長まで来そうだ」と溜息を吐きながらも頬は赤い。


「良かったですね。本当に」
「ああ。さぁ、今日も頑張ろう」
「はい!」


 こうしてエンジュさんと二人仕事場へと戻り、コツコツとアイテムを作る事になったその頃、お父様に異変が起きていた。
 それは――。

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