石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未(旧・うどん五段)

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105 呪いは消されて浄化され、女帝は空に駆け上る。

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 その後、ハクが帰宅する前に裸で捕まっている鉄の国サカマル帝国のワイバーンに乗ってきた者達の前に向かうと、少し開けた所に五行に置いた【暁の光】を置き、数名ずつ光に触れさせ元の状態へと戻して行った。
 私がいる事で自分を取り戻した皆さんは恥ずかしがる者が多かったが、手で隠そうにも隠せないのだから仕方ないね!


「うーん、良い感じに皆さん呪われていたのね」
「まともな考えにやっと戻れたのでしょう」
「ユリ殿、呪いとは……?」


 そう聞いてきた魔物討伐隊隊長であるヴァンドナ様に問いかけられると、私は事実を口にする事にした。


「今、鉄の国サカマル帝国では鬼門から溢れ出る呪いで男性の脳が可笑しくなっているそうです。その為【暁の光】に当てられた人たちの呪いを解いている途中ですね」
「そうか……呪われていたからこそまともな考えが出来なかったのか……」
「ええ、鬼門から遠い所の男性達はまともな人が多いようですが、鬼門に近い所で仕事をしていたり、家が近い者は呪われている感じですね」
「何という事だ……」
「なのでハクが戻ってきたらドマと一緒に呪いを封印するなりしてきますので、彼らに服をきせてサカマル帝国まで連れてきて貰えると助かります」


 そう伝えるとヴァンドナ様は溜息を吐き、「国を襲った場合、彼らは死罪となるのだがなぁ……理由が理由だな」と口にし、陛下の許可を貰ってからと言う事になった。
 それまでは城の牢屋に入れておくらしい。
 全員が【暁の光】で浄化された後はアイテムボックスに仕舞い、丁度ハクが来たところでエンジュさん達に「出来るだけ早く帰ります」と伝えて鉄の国サカマル帝国へレジェンドの皆を連れて空を翔る。
 ダイヤの国から鉄の国サカマル帝国まで空中散歩で20分くらいらしい。
 物凄いスピードだけど到着すると朝になったばかりなのか色んな人たちが右往左往していて、ロウさん隣に降り立つと「来てくれたか!」と表情を明るくされた。


「お待たせしました? ちょっと捕まえた兵たちの呪いを解いていて」
「そうか……やはり彼らも呪われていたか」
「しかし凄い瘴気じゃな……」
「タキちゃん分裂して壊れたお城食べちゃってくれる? 貴重品はそのまま吐き出してね」
「イイヨー」
「岩田は着いてきて」
「ゴエイスルヨー」


 こうして私たちは鬼門と呼ばれる奈落に落ちるような穴の元へと向かう。
 確かに空気が全く違う事に気づいたものの、私の身体から金色の粒子が飛んではロウさんやカヒさんを守っているようで不思議だった。
 そして奈落に到着すると頑丈な橋がかけられており、その中央に扇が一つ飾られている。
 何でも「キサラギ一族の扇」らしく、その隣に刀を置く台が残っており、そこにドマが大きく息を吐いて刀を置くと、大きな結界が現れ――バチン!! と言う凄まじい音と共に独特の結界が張られた。
 途端空気は楽になったがそれでは終われない。
 橋の両端に【暁の魂】とそれを浮かせる台を置き、ハクに乗って奈落を飛んで五行の形に【暁の魂】をセットする。

 ――途端眩い光が発せられ、女性の様な奇声が上がり無数の手が出て来ては【暁の魂】を退かそうとしているが退かせない。
 寧ろ無数の手の方が消されて行き、その光景に結界が出来上がった事を知った立派な着物を着た男性が駆けつけてくると「帝王様!」と声を掛けてい来る。


「おお、キサラギの長ではないか」
「し、城が壊れたかと思えば今度は何です!? 何故刀がここに!?」
「ふむ、その問いに答えるのは時期早々だな。だが言うなれば――現在【暁の魂】で奈落を浄化、封印中だ」
「なっ!!」
「封印が出来なくとも浄化出来れば御の字……この為に我は時間を要し、彼女に――ユリ殿に力を借りに行っていたのだ」
「初めまして、キサラギ様。サクラギ ユリと申します」
「サクラギ!? 一族は一人を残して死んだはずでは!?」
「ええ、私は此方の世界のサクラギではありません。貴方の言う一人を残してと言うのは――ドマ、彼の事でしょう?」


 その問いにハッと口を閉ざしドマを見るキサラギの目は信じられない者を見る目で――。


「生きて……おられたのか!」
「ええ、今では私の大事な弟です」
「なんと!!」
「そなたには色々と聞かねばならないようだな……。何故ドマが生きていることを知っていたのかも含め」
「……御意」


 光と闇がバチバチとやり合っている中そんな会話をしている二人に、ドマはジッと光と闇の攻防を見ており、私がドマの隣に立つとハッとしたのか「姉様……」と声を掛けて来た。


「今の所クリスタルにヒビ一つ入っていません。後はどちらが力で押し勝つかですね」
「ですが闇はとても強い」
「ええ、例え一度負けたとしても、後もう一つ五行用は用意していますから」
「そうでしたね」


 キサラギの扇とサクラギの刀で出来た結界。その奥で繰り広げられる【暁の魂】と闇の手との攻防は朝日が昇り切った頃に決着がついた。
 結界の方が勝ったのだ。
 奈落に光が差し込み、光の池が出来ると【暁の魂】は役目を終えたかのように割れて行き、欠片は奈落だった光の池に吸い込まれて鏡面のような池が出来上がる。
 その池から美しい着物を着た女性が現れ、真っすぐこちらを見て来た。


『我の撒いた呪いすらも、我が感じていた恨みすらも消すとは……400年の苦痛が消えた事は喜ばしいが……何とも情けない事をしたものよ……』
「貴女は」
『400年前に罪を擦り付けられ死んだ賢王である女帝じゃ』
「貴女様が!!」
『我が子孫よ、色々と苦労を掛けてしまったな……だが許せとは言わぬ』
「いえ、愚かな別の帝王を狙った者の仕業だと知っております……こちらが許しを請わねばなりません」
『ふふ……もうよい。穢れた魂が浄化されたのだから後は我がそなたに祝福を与えれば我の役目は終わる。鬼門はその扇と刀が守ってくれよう。出来れば後で五行の形で【暁の魂】だけでも保険に置いてくれると助かる』
「御意!」
『では現帝王に祝福じゃ。礼ともいうがな? 今後この鉄の国サカマル帝国に置いて、帝王は賢王となる者にのみ帝王になる資格アリとする! 帝王の座に付ける者には額に赤い雫が。それ以外には黒の雫がつくであろう。色を上から塗り替えることも不可能……良き賢王となる帝王にのみ朱色の祝福を!』


 そう言うとロウさんとカヒさんの額が光り、カヒさんには黒の雫が、ロウさんには朱色の雫が刻まれた。
 これにロウさんとカヒさんは頷き合い、深々と最大の礼を行い最後の女王である彼女は微笑んで光と共に空に駆け上がって行く。
 下半身は竜になっていた様で、天に昇って行った彼女は二度と戻ってこないだろう。


 これで呪いの根源であった彼女は去った。
 色々言いたいことがあっただろうが、結局は愚王が帝王になるのは許せなかったのだろう。
 その様を見たキサラギの男性は涙を流して手を合わせ、皆さんも自然と手を合わせていた。


「さて……キサラギよ。何故ドマだけがサクラギとして生き延びている事を知っている」
「ハッ! 前の帝王は男であってもサクラギに生き残りが居れば手元に置こうとしていたのです。それで生き残りであった彼に【忘れじの薬】を飲ませ、姉夫婦の所為でサクラギ一族が苦しむことになったことも含め忘れさせ、新しい場所で再出発をさせるべく、この国から逃がしました……。本来なら最後まで面倒を見る者がいたのですが、途中で亡くなったようでして……その後はドマ様は行方知れずだったのです」
「そうだったのか。嘘偽りは?」
「ないのう……事実を言っておる。前の帝王とは本当に愚王だったようじゃな」
「そうか……ドマには苦労を掛けた……。このままサクラギとしてこの地に残る事も――求めては行かぬのだろうな」
「俺のいる場所は姉様の傍ですので……。ただ、故郷に帰ってこれたことは嬉しく思います。姉様の許可さえあれば時折二人で新しくなった鉄の国サカマル帝国を見たいと思います」
「そうか……気合を入れねばならんな!」


 こうして、ドマは私の元に留まる事を決め、キサラギの方もドマが生きていたことに喜んだものの、【忘れじの薬】を飲ませた事もあり、残って欲しいとは言えなかったようだ。
 ただ、刀だけは残される。
 これで鬼門は無事であることは確かなのだから良い事だろう。


「でも、何故この場所が鬼門なんですか?」
「ああ、ここは【オリタリウス監獄】と地脈が繋がっているのだ。丁度この池で地脈は途切れている為、此処を鬼門としたのだよ」
「【オリタリウス監獄】って」
「王でも法で裁けぬ程の重罪人が入る監獄じゃよ。ワシ等ですら近寄ろうとは思わんな」
「あそこの人間共は特殊な脳をしていないと住めぬとさえ言われている」
「そこまで……」
「鬼門としたのは、賢い判断じゃな」
「ホムラ様に褒めて頂けるとは……何よりも誉です」


 そう語っているとタキちゃんが戻ってきて壊れた城を綺麗にしてきたらしい。
 暫く帝王とその妹であるカヒ様が住む家を建てるが、他の呪いが解けた家臣たちが物を片付け復興に向けて動き出すのだと言う。
 そこまで仕事をしてくれるタキちゃん偉い!!


「ダイジナモノ トラレチャダメダカラ ケッカイハッタヨ」
「ありがたい。タキ殿には何とお礼をしたらいいか……」
「アルジノ オネガイ キイテネ?」
「畏まりました。ユリ、我に出来る事はあるだろうか」
「前も言ったけれど、賢い帝王となって法改正をドンドン進めて下さいね? ミモザさんみたいな彫刻師が迫害されない世界が良いわ」
「畏まりました」


 こうして予備として五行の【暁の魂】を設置すると既に夕方頃で、「私は帰ります」と伝えるとカヒ様達と暫しの別れとなった。
 これで国交問題も解決するだろうし、断交も無くなるだろう。
 ホッと安堵しながら私はハクに乗り宝石の国ダイヤ王国の王都ダリルシェイドへと戻って行ったのであった――。

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