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前編
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「ご利用ありがとうございまーす。あなたの願いを一つだけ叶えてあげますよー」
そんなへらへらとした言葉と共に現れたのは、白いローブを身に纏い、背中から純白の羽を生やし、宙にふよふよと浮いている金髪の美少年。
ぽろり、とアモルの手から『誰でも叶う!おまじない大全』というポップなタイトルの本が零れ落ちる。
いつも相談に乗ってもらっていた友人から投げやりに勧められたそれを、冗談半分でやってみただけなのに。まさか、こんな非現実的なことが起きるなんて。
『願いを叶える天使の喚び方』という、どう考えても子供騙しなそれで、本当に天使が現れるなど思ってもいなかった。
サファイアのような大きな瞳をぱちぱちと瞬かせ、信じられない思いで震える指を向ける。
「お、お前は一体、何なんだ……?」
「何……って、見て分かんないんですか?天使ですよ」
「いや、そんな当然のように言われてもだな……」
「召喚されたからには、願いを叶えないと天界に帰れない仕組みなんですよ。だから早く願いを言ってほしいなぁ。俺を喚んだってことは、あるんでしょ?願いごと」
「あ、るには……あるが、対価が必要なのではないか?」
「そんなの要求しませんよ。悪魔じゃあるまいし。えーと、無償の奉仕ってのが天使の理念らしいですから」
まるで他人事のようにそう説明する天使だが、嘘を言っているようには見えない。
アモルは目の前のUMAに近い生物を暫く見つめながら逡巡し、やがて意を決したように口を開いた。
「…………僕の願いは、いつも喧嘩ばかりしてしまうクラスメイトと仲良くなりたいという……」
「何で嘘つくんですか?」
「え」
アモルの言葉を遮って不思議そうに首を傾げた天使は、そのままの体勢でつらつらと続ける。
「天使に嘘は通じませんよ、アモルさん。素直にリーバさんと恋人になりたいって言えばいいじゃないですか」
「なっ!?へ、ふぇ!?ぼ、僕の名前……というか、何を言って……!?」
「俺、他の天使より読心術に長けてるんですよー。うーん、恋の悩みを解決する願いはこれが初めてだけど、アモルさんのために頑張りますから」
「ま、まま待て!!僕は別にあんな粗野で不細工で口の悪い奴のことなど好きではないっ!!ただ、いつも喧嘩ばかりしてしまうから、せめて仲良くしたいと……っ!」
「だから、嘘言っても無駄ですって。何ならアモルさんが好きなリーバさんのところをあげてみましょうか?……分かりにくいけれど優しくて気配り上手なところ、小動物と接している時の笑顔、鍛錬にひたむきで努力を惜しまないところ、それから……」
「もっ、もうやめろ!分かったから!」
すらすらとアモルの本心を暴いていた天使は、顔を真っ赤にして慌てふためいている彼に向かって「当たりでしょ」とにっこり微笑む。
羞恥と脱力感に襲われながら渋々頷いたアモルは、ふわふわと浮かぶ天使をそっと見上げる。信じられない現象ではあるが、現実である以上信じることしか出来ない。
一体どうやって、犬猿の仲である自分達の関係を甘酸っぱくするのかは分からない。だが、騙されたと思って天使に任せるのも一つの方法だと思い、目の前の彼をしかと見据えた。
「……恋人にしてほしいとは願わない。それは自分の力でやらねばならんからな。……だからせめて、僕が告白出来るようサポートしてほしい」
「サポート?そんなのでいいんですか?」
「ああ。僕はどうも素直になれないから、傍に居て軌道修正してほしいんだ」
「了解です。アモルさんの願いを叶えるために頑張りますね。天界にも早く帰りたいですし」
「……お前、後者の方が本音だろう」
「あははー、バレました?あ、名乗り遅れましたけど俺はシャーリっていいます。人間界のモノはこっちからは触れるけど、向こうからは触れません。俺が触ってる間に関しては向こうからも干渉が可能です。俺の声や姿が聞こえたり見えたり出来るのはアモルさんだけです」
「……ふむ、人前でお前と話すと独り言だと思われてしまうわけか。覚えておこう」
よろしく頼むぞ、シャーリ。
そう言って天使へと手を差し出したアモルは、この後自らの身を襲う数々のイレギュラーな事態の存在を、まだ、知らない。
そんなへらへらとした言葉と共に現れたのは、白いローブを身に纏い、背中から純白の羽を生やし、宙にふよふよと浮いている金髪の美少年。
ぽろり、とアモルの手から『誰でも叶う!おまじない大全』というポップなタイトルの本が零れ落ちる。
いつも相談に乗ってもらっていた友人から投げやりに勧められたそれを、冗談半分でやってみただけなのに。まさか、こんな非現実的なことが起きるなんて。
『願いを叶える天使の喚び方』という、どう考えても子供騙しなそれで、本当に天使が現れるなど思ってもいなかった。
サファイアのような大きな瞳をぱちぱちと瞬かせ、信じられない思いで震える指を向ける。
「お、お前は一体、何なんだ……?」
「何……って、見て分かんないんですか?天使ですよ」
「いや、そんな当然のように言われてもだな……」
「召喚されたからには、願いを叶えないと天界に帰れない仕組みなんですよ。だから早く願いを言ってほしいなぁ。俺を喚んだってことは、あるんでしょ?願いごと」
「あ、るには……あるが、対価が必要なのではないか?」
「そんなの要求しませんよ。悪魔じゃあるまいし。えーと、無償の奉仕ってのが天使の理念らしいですから」
まるで他人事のようにそう説明する天使だが、嘘を言っているようには見えない。
アモルは目の前のUMAに近い生物を暫く見つめながら逡巡し、やがて意を決したように口を開いた。
「…………僕の願いは、いつも喧嘩ばかりしてしまうクラスメイトと仲良くなりたいという……」
「何で嘘つくんですか?」
「え」
アモルの言葉を遮って不思議そうに首を傾げた天使は、そのままの体勢でつらつらと続ける。
「天使に嘘は通じませんよ、アモルさん。素直にリーバさんと恋人になりたいって言えばいいじゃないですか」
「なっ!?へ、ふぇ!?ぼ、僕の名前……というか、何を言って……!?」
「俺、他の天使より読心術に長けてるんですよー。うーん、恋の悩みを解決する願いはこれが初めてだけど、アモルさんのために頑張りますから」
「ま、まま待て!!僕は別にあんな粗野で不細工で口の悪い奴のことなど好きではないっ!!ただ、いつも喧嘩ばかりしてしまうから、せめて仲良くしたいと……っ!」
「だから、嘘言っても無駄ですって。何ならアモルさんが好きなリーバさんのところをあげてみましょうか?……分かりにくいけれど優しくて気配り上手なところ、小動物と接している時の笑顔、鍛錬にひたむきで努力を惜しまないところ、それから……」
「もっ、もうやめろ!分かったから!」
すらすらとアモルの本心を暴いていた天使は、顔を真っ赤にして慌てふためいている彼に向かって「当たりでしょ」とにっこり微笑む。
羞恥と脱力感に襲われながら渋々頷いたアモルは、ふわふわと浮かぶ天使をそっと見上げる。信じられない現象ではあるが、現実である以上信じることしか出来ない。
一体どうやって、犬猿の仲である自分達の関係を甘酸っぱくするのかは分からない。だが、騙されたと思って天使に任せるのも一つの方法だと思い、目の前の彼をしかと見据えた。
「……恋人にしてほしいとは願わない。それは自分の力でやらねばならんからな。……だからせめて、僕が告白出来るようサポートしてほしい」
「サポート?そんなのでいいんですか?」
「ああ。僕はどうも素直になれないから、傍に居て軌道修正してほしいんだ」
「了解です。アモルさんの願いを叶えるために頑張りますね。天界にも早く帰りたいですし」
「……お前、後者の方が本音だろう」
「あははー、バレました?あ、名乗り遅れましたけど俺はシャーリっていいます。人間界のモノはこっちからは触れるけど、向こうからは触れません。俺が触ってる間に関しては向こうからも干渉が可能です。俺の声や姿が聞こえたり見えたり出来るのはアモルさんだけです」
「……ふむ、人前でお前と話すと独り言だと思われてしまうわけか。覚えておこう」
よろしく頼むぞ、シャーリ。
そう言って天使へと手を差し出したアモルは、この後自らの身を襲う数々のイレギュラーな事態の存在を、まだ、知らない。
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