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閑古鳥武器屋営業中
武器屋のアルジュ
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俺の名前はアルジュ。
容姿性格共に特に目立ったところもない平々凡々な町人だ。
親父の跡を継いで、ペリトルスという小さな町で武器屋を営んでいるものの、売れ行きはそんなに良いとはいえない。
確かに町外れの森に魔物はいたりするけど、ここら辺の魔物は大人しいし武器が必要になることはほとんどない。
まあ、いざという時の為に武器の手入れはきちんとしてるけど、ぶっちゃけ閑古鳥が鳴いている状態だ。
今日も今日とて、店内はがらんとしている。
カウンターに座って剣や棍棒を眺めながらぼーっとしていると、不意に扉の開く音が聞こえてきた。
「っ!いらっしゃいま…………って、何だ、メリダールかぁ……」
「今日も暇そうですね、アルジュ君。というか、人の顔見て溜息つかないでください」
メリダール。
隣の道具屋で店主をやっている、俺の友達だ。銀と水色が混じったような不思議な髪色をしていて、くりっとした目は空のように青い。儚げな美少女って感じだけど、れっきとした男だ。
ただ、なんというか気配が薄くて、時々目の前にいても気づかない時がある。
道具屋なんてやってるけど、東国に居たっていうニンジャの末裔か何かじゃないかと俺は思っている。
「何しに来たんだ?武器なら売ってやるけど。つーかそれしか出来ないけど」
「僕が武器なんて持っても意味ないですよ。必要なのはこの人です」
「へ?」
メリダールの後からのそりと店に入ってきた人物に、俺は目を見開いた。
でかい。やばいくらいガタイがいい。
オレンジ色の短髪に、精悍な顔つき。黄色い瞳が辺りを観察するように右に左に動いている。
こんな奴、ペリトルスにはいなかった気がする。旅人か何かか……?
「へぇ、結構揃ってんな」
「ほらアルジュ君、滅多にないお客さんなんですからしっかり応対してください」
「えっ、ああ、いらっしゃいませ!」
若干偉そうにしているメリダールは気に食わないが、客を連れてきてくれたことには感謝だ。
立ち上がってその客の元に向かうと、余計にそいつの体格の良さを実感させられた。え、何コレ同じ人間?
「なぁ、この店で一番攻撃力が高い大剣ってどれだ?」
「それなら……そこに飾ってある剣が一番攻撃力が高いですよ。でも、大剣使いなんて珍しいですね」
「そうか?」
「まず、扱うことが難しいですからね。俺なんて両手で持つのがやっとで、振り回すことなんて出来ないからさ。……っと、出来ませんから」
「ああ、敬語はなくていいぜ。俺も使うの苦手だしさ。……今は騎士になるために色んなとこ行って腕試ししてんだけどよ。この前の戦いで剣がぽっきりいっちまってさ。それで代わりの剣を探しに来たんだ」
「うわ……騎士とか超過酷な道じゃん」
騎士の役目は時たま現れる凶暴な魔物を倒すこと。内乱が起こっている所だとそれにも駆り出されてしまう血生臭い職業だ。
まず俺には無理!戦闘開始1秒で全力で逃げるね!
なんてことを考えつつ、壁に飾っていた大剣を手に取る。
両手にずしりとくるその重みは普通の剣と比べるまでもなく半端ない。
鞘に入ったままのそれを騎士見習いな客に渡すと、片手で軽々と持ち上げやがった。おい、その筋肉半分寄越せ。
「どうですか、アーク君」
いとも簡単に鞘から剣を抜いた客は、しげしげと細部を見た後に顔を綻ばせた。
「うわ……すげぇ。前の剣よりしっかり手に馴染むし、威力も十二分に感じる……。これならゴーレムも倒せそうだ」
抜き身の剣を楽しそうに眺める客……、メリダールいわくアーク君はすごく嬉しそうな顔で剣の値段を聞いてきた。
俺もつられて笑顔で答えたら、アーク君の顔が引きつった。
……まあ、それウチの店で一番重くて一番大きくて一番高価なやつでもあるし?安く売ってやりたいけど、俺としても生活がかかっているからそんなに負けてやれない。
しょぼんと肩を落とすアーク君にどう声をかけるべきか迷っていると、俺より先に他の所から声が上がった。
「アーク君、よかったら僕の所でアルバイトしませんか?」
「は?……アルバイト?」
「はい。傷薬や毒消しといった薬品系の精製に必要な材料を採るのに、人手が不足しているんです。アーク君さえよかったら手伝ってもらえないでしょうか?勿論、その分の給料はお支払いしますので」
「メリダール……?人手不足なんて話、俺初めて聞い」
「アルジュ君は黙っていてください」
一蹴された。理不尽だ。
アーク君はメリダールの申し出に戸惑いつつも最終的には受け入れたようだ。
彼等がどうやって知り合ったのかは分からないけど、どちらかというと人見知りなメリダールがあれだけ気にしてやってるなんて、相当気に入ってんだなぁ。
「それじゃ、この剣は予約ってことにしておくよ。俺としても、これはアーク君に使ってもらいたいし」
「いいのか!?……よし、すぐに金貯めて買いに来るからな」
たとえどんな強力な武器でも、それを使いこなせない人の手や、雑に扱う人の手に渡ったら何の意味もない。宝の持ち腐れだ。
その点、この大剣……ホムラと銘打っているこれは、アーク君が使ってこそその威力を存分に発揮出来るはずだ。ま、武器屋やってる身としての勘だけど。
メリダールと一緒に店を出て行くアーク君を見送って、ホムラに予約済という札を貼る。
そして、再び静かになった店内で、俺はいつも通りの一日を過ごした。
……一人で店ん中ふらついたり、カウンターに突っ伏したりしてたんだよ。
言わせんなちくしょう。
容姿性格共に特に目立ったところもない平々凡々な町人だ。
親父の跡を継いで、ペリトルスという小さな町で武器屋を営んでいるものの、売れ行きはそんなに良いとはいえない。
確かに町外れの森に魔物はいたりするけど、ここら辺の魔物は大人しいし武器が必要になることはほとんどない。
まあ、いざという時の為に武器の手入れはきちんとしてるけど、ぶっちゃけ閑古鳥が鳴いている状態だ。
今日も今日とて、店内はがらんとしている。
カウンターに座って剣や棍棒を眺めながらぼーっとしていると、不意に扉の開く音が聞こえてきた。
「っ!いらっしゃいま…………って、何だ、メリダールかぁ……」
「今日も暇そうですね、アルジュ君。というか、人の顔見て溜息つかないでください」
メリダール。
隣の道具屋で店主をやっている、俺の友達だ。銀と水色が混じったような不思議な髪色をしていて、くりっとした目は空のように青い。儚げな美少女って感じだけど、れっきとした男だ。
ただ、なんというか気配が薄くて、時々目の前にいても気づかない時がある。
道具屋なんてやってるけど、東国に居たっていうニンジャの末裔か何かじゃないかと俺は思っている。
「何しに来たんだ?武器なら売ってやるけど。つーかそれしか出来ないけど」
「僕が武器なんて持っても意味ないですよ。必要なのはこの人です」
「へ?」
メリダールの後からのそりと店に入ってきた人物に、俺は目を見開いた。
でかい。やばいくらいガタイがいい。
オレンジ色の短髪に、精悍な顔つき。黄色い瞳が辺りを観察するように右に左に動いている。
こんな奴、ペリトルスにはいなかった気がする。旅人か何かか……?
「へぇ、結構揃ってんな」
「ほらアルジュ君、滅多にないお客さんなんですからしっかり応対してください」
「えっ、ああ、いらっしゃいませ!」
若干偉そうにしているメリダールは気に食わないが、客を連れてきてくれたことには感謝だ。
立ち上がってその客の元に向かうと、余計にそいつの体格の良さを実感させられた。え、何コレ同じ人間?
「なぁ、この店で一番攻撃力が高い大剣ってどれだ?」
「それなら……そこに飾ってある剣が一番攻撃力が高いですよ。でも、大剣使いなんて珍しいですね」
「そうか?」
「まず、扱うことが難しいですからね。俺なんて両手で持つのがやっとで、振り回すことなんて出来ないからさ。……っと、出来ませんから」
「ああ、敬語はなくていいぜ。俺も使うの苦手だしさ。……今は騎士になるために色んなとこ行って腕試ししてんだけどよ。この前の戦いで剣がぽっきりいっちまってさ。それで代わりの剣を探しに来たんだ」
「うわ……騎士とか超過酷な道じゃん」
騎士の役目は時たま現れる凶暴な魔物を倒すこと。内乱が起こっている所だとそれにも駆り出されてしまう血生臭い職業だ。
まず俺には無理!戦闘開始1秒で全力で逃げるね!
なんてことを考えつつ、壁に飾っていた大剣を手に取る。
両手にずしりとくるその重みは普通の剣と比べるまでもなく半端ない。
鞘に入ったままのそれを騎士見習いな客に渡すと、片手で軽々と持ち上げやがった。おい、その筋肉半分寄越せ。
「どうですか、アーク君」
いとも簡単に鞘から剣を抜いた客は、しげしげと細部を見た後に顔を綻ばせた。
「うわ……すげぇ。前の剣よりしっかり手に馴染むし、威力も十二分に感じる……。これならゴーレムも倒せそうだ」
抜き身の剣を楽しそうに眺める客……、メリダールいわくアーク君はすごく嬉しそうな顔で剣の値段を聞いてきた。
俺もつられて笑顔で答えたら、アーク君の顔が引きつった。
……まあ、それウチの店で一番重くて一番大きくて一番高価なやつでもあるし?安く売ってやりたいけど、俺としても生活がかかっているからそんなに負けてやれない。
しょぼんと肩を落とすアーク君にどう声をかけるべきか迷っていると、俺より先に他の所から声が上がった。
「アーク君、よかったら僕の所でアルバイトしませんか?」
「は?……アルバイト?」
「はい。傷薬や毒消しといった薬品系の精製に必要な材料を採るのに、人手が不足しているんです。アーク君さえよかったら手伝ってもらえないでしょうか?勿論、その分の給料はお支払いしますので」
「メリダール……?人手不足なんて話、俺初めて聞い」
「アルジュ君は黙っていてください」
一蹴された。理不尽だ。
アーク君はメリダールの申し出に戸惑いつつも最終的には受け入れたようだ。
彼等がどうやって知り合ったのかは分からないけど、どちらかというと人見知りなメリダールがあれだけ気にしてやってるなんて、相当気に入ってんだなぁ。
「それじゃ、この剣は予約ってことにしておくよ。俺としても、これはアーク君に使ってもらいたいし」
「いいのか!?……よし、すぐに金貯めて買いに来るからな」
たとえどんな強力な武器でも、それを使いこなせない人の手や、雑に扱う人の手に渡ったら何の意味もない。宝の持ち腐れだ。
その点、この大剣……ホムラと銘打っているこれは、アーク君が使ってこそその威力を存分に発揮出来るはずだ。ま、武器屋やってる身としての勘だけど。
メリダールと一緒に店を出て行くアーク君を見送って、ホムラに予約済という札を貼る。
そして、再び静かになった店内で、俺はいつも通りの一日を過ごした。
……一人で店ん中ふらついたり、カウンターに突っ伏したりしてたんだよ。
言わせんなちくしょう。
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