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第一灯 トンネル

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 「ちょっと!!さっき人が歩いて居なかった!?」と助手席に座ってた彼女が叫ぶ。
「あぁ……ここね。昔はバス代ケチってよく歩いたよ」私は冷静な声で諭す。
「ここトンネルだよ?!凄く長いトンネルだよ」と彼女。
「そうだよ。でもここ人気ハイキングコースの登山道でもあるんだ」
「ふーん。そっかー。なんだ。つまんないの」彼女は興味を無くしカーナビを弄りだした。私は安堵の溜息を漏らす。

 私は先程、トンネル内で見た二人を思い出す。
カーキ色の重そうなリュックを背負った草臥れた感じの中年男性と、生活苦で頭がボサボサで服もヨレヨレの中年女が。

 間違いない。先月ここで彼らを轢きかけた事を。
後日、ネットに投稿してやれとカーナビの録画を調べたら……
何も写っていなかった事を。

「ねぇなんか急に寒くなってない?暖房入れていい?」
「あ、あぁ」私は生返事する。
「何か急にゴミ臭くなったね。これ暖房やばくない?」
「う、うん」私はエアコンをいじる。けれども…臭いは消えなかった。
「ごめん。ちょっと窓を開ける」
その時だ。急に車が重くなったように感じた。何か変だ。


そしてバックミラーをふと見た私の目に写ったものは……
後部座席に疲れたような顔で座る、あの中年男性と中年女性の姿があった……
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