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第二灯 海の底

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「あばよ」
朝靄あさもやのかかる、とある港の堤防ていぼう突端とったんに俺は車を停める。
サイドブレーキが外れた車は、軽く押すだけでスルスルと動き出し、あっさり海へと落ちていった。
俺が見守る中、車はボコボコと泡をたてながらゆっくりと海底へと沈んでいく。
俺は笑いながら沈んでいく車に向かって中指を立ててやった。
まるでさよならでも言いたげなように、沈んでいく車からクラクション音がなる。だがそれは気が抜けたふにゃ~とした音だ。笑いがこみ上げてくる。最高の気分だ。


沈めてやったのは、近所でも評判の悪い爺さんの愛車だ。
あの爺さんは何かあるごとに、俺にも執拗しつように当たってきやがった。
毎度毎度ガミガミガミガミと。

そして昨日の晩の事だ。
あの爺さん、無用心にも車に鍵がかかってないまま、俺の家の前の路上に車を放置していたのだ。
だから俺が盗んでやった。なんせダッシュボードに合鍵まで入れてあったのだ。むしろ盗まないほうがどうかしてる。

 あの爺さんが朝起きたら愛車が消えていて、しかもそれが海の底だと知ったら、さぞかしブチギレるだろうな。怒りで地団駄じだんだを踏む爺さんの姿を想像して、俺はニヤニヤが止まらなかった。


ところがだ。夕方近く、俺は警察に捕まっちまった。

即日逮捕だった。
しかも窃盗犯せっとうはんじゃなく殺人犯としてだ……

知らなかった。
まさかあの爺さん。愛車のラゲッジスペースで寝る趣味があったとは……
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