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第九灯 鶏の悪魔

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「お母さん!!絶対に私の部屋を覗いちゃダメだからね」
「はいはい、わかってますって」
 娘が部屋で、こっそり何かを育ててるらしい。
別に隠さなくても良いとは思うが思春期の子は色々と複雑だ。
あえて波風を立てることもないと私はその時は思った。

それからだいぶ経ったある日の事。廊下を拭き掃除してた私は、娘の部屋の中から不気味な声がするのに気がついた。
「……なにかしら?」
と私は娘の部屋の前で聞き耳を立てる。すると
「馬鹿な娘だ。俺を悪魔とも知らずに。かっかっか!!今晩あやつの家族もろもろ喰ってやろうぞ」

思わず娘の部屋へ飛び込んだ。
そこには真っ黒な鶏が1羽、娘の部屋の真ん中でふんぞり返っていた。
「かっかっか!!貴様が娘の母親か。間抜けな顔をしているな。ちょうど腹が減ってきたころだ。まずはお前から先に喰ってやるぞ!!」
そういうと鶏は一瞬膨らんだ。目が真っ赤に光ったと思った瞬間、超高速で私に向かって突っ込んできた。
「かっかっか!!人間ごとき、赤子の手をひねるようなものだ」


夜になった。
「ねえ母さん?私の部屋に入った?」
と娘が言った。別にトゲのある言い方ではなかった。
私は内心ホッとした。どうやらバレていないようだ。
「入ってないわよ。どうして?何かあった?」
と私は首をかしげるフリをする。

「うーん別に……あいつ、どこへ行っちゃったんだろう」
と娘はそういうと、窓の向こうへ目をやった。
「それって何か大切なものなの?」
と私はできるだけ優しく訊ねた。
「うーん、どうかな~。恩知らずだったし、最近あいつ図に乗ってたし」
と娘は吐き捨てるように言った。

私は娘の態度を見て少し意外な気がした。私は微笑みながら言う。
「なら良いじゃない。そうだ、今日は鶏の丸焼きよ」
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