雑巾うどんの謎

どこでも大佐

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ミミ

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 激しい目眩がようやく静まった。
私は恐る恐る目をあける。するとそこは元の路地ろじだった。

明美あけみ~。やっと見つけたわ。何や……そこにいたんか。心配して探しにきたんやけど」翔子の声がする。「どないしたん。大丈夫か?」
やっと戻ってこれた。安心した途端、私はその場にへなへなと座り込んだ。

「なんや明美あけみ。あんた今日は座り込んでばかりやね」と翔子。そして辺りを見渡し「あれ?雑巾うどんの店消えてるやん」と言った。「早いな。なんやもう潰れたんか。ギネス世界記録や。ぶっちぎりやん」
「せやな」と私「そうだった。あれ食ってきたわ。その雑巾うどん」
「さすがや明美あけみ。で、肝心の味はどないやった?」と好奇心を隠しきれない翔子がキラキラした瞳を私に向ける。いやいやそんなに期待されても何もでーへんで。

「説明難しい。あぁ~ぴったりな答えある。台所の三角コーナーの残飯味だったわ」

「なにそれ拷問やん」そういって翔子が笑い転げる。私も釣られて笑った。
そして私は何があったのか、簡単に翔子へ説明した。

「なぁ大丈夫なん明美あけみ?なんか凄いゴミを食ってきたんやろ」説明を聞いた翔子が心配げに尋ねる。
「でもまぁ大学食堂のスッポン鍋よりはましだったわ」
「そうなん?」
「あれな。長い事掃除してない水槽味やったし」

「あんたゲテモノ好きすぎるわ」翔子が笑った。そして急に真顔になり「それと明美あけみ……あんた隠し子でもいたん。やっぱおかんやったか」
「え?」
「後ろにえらいべっぴんさんな子が、さっきから明美あけみの服をぎゅっとつかんでるで。気付いてないん。その子、あんたの子ちゃうん?」
「たぶん違う」
「たぶんってなんなん」また翔子が笑い転げる。

私は確認の為に振り向いた。するとそこに小学3年生ぐらいの可愛い女の子がいた。
ミミと書かれた体操着に赤いブルマ。顔もよく見ればなんとなく面影がある。「ねぇ。まさかと思うんだけど、ひょっとして雑巾うどん屋の店長さん?」

その子はコクリと頷いた。
「うん。お姉ちゃん……助けてくれてありがとう」
「なぁ……名前はミミでええの?」と私
「私の名前はミミです」
「そっか~ ひょっとしてミミちゃんもあそこに囚われていた?」
ミミはコクリと頷いた。
「なるほどミミちゃんも自由になれたんだ。おめでとう。ところで家は何処かな?この辺り?家族は居る?」
「家なんて……もうない。家族ももう……居ない」寂しそうな顔でその子はいう。

 あぁ悪いことを聞いてしまった。
先ずはミミを警察に預けないいけないな。親戚が見つかれば……そう思いながら私は、ミミを抱こうと彼女に両脇に手を突っ込んだ。するとその子の胴体がミューンと伸びた。あれ?子供って胴体伸びたっけ?なんか違和感がある。まるでカワウソみたいだなと私は思った。そしてよく見れば、ずり落ちたブルマからふっさふさの尻尾がピョコンと飛び出している。

あらっ……ミミちゃん、子狐だったんだ。なら警察届けるのはあかんか……

「おや?おやおや?」翔子が嬉しそうにその子を奪う。肩車しはじめた。「なにこれ可愛い。人間じゃないよね。子狐だよね。明美あけみこれ貰っていい?」
「ええで」と私。けれど忠告は忘れなかった「雑巾食わされても……ええなら」


「まぁ、そんときは明美あけみさんの出番やね。よろしゅうな」そして翔子は、ミミを肩車したまま走り出す。ミミがキャッキャと嬉しそうな声をだした。

「ちょい待ち。まちーな」私は慌てて翔子の後を追った。
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