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20 襲撃
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悪魔が炎によって燃え尽きたのを見届けると、カリナはカシューに連絡を取った。
「聞こえていたか、カシュー?」
「うん、どうやら色々と考察する余地がありそうだね」
イヤホンの向こうから、真剣なカシューの声が聞こえる。
「先ずは奴の言っていたことが気にかかる。近くの街はチェスターだ。情報通りならそこに悪魔が向かっていることになる。私は急いで戻る。そっちからも援軍を出してくれないか?」
「わかった、戦車部隊に戦力を乗せて全速力で向かわせるよ。それなりの距離だから間に合うか微妙だけどね」
「頼んだ。とりあえず一旦切るぞ」
「了解、また何かあればよろしく」
カシューの返答を聞いてから、左耳のイヤホンに注いでいた魔力を切った。急いで街に戻らなければならない。意識を切り替えて、真眼と魔眼の効果を解除した。聖衣が身体から外れて、黄金の獅子のカイザーの姿へと戻る。
「お見事でした、我が主よ」
「いや、お前の力がなければ危なかったよ。ありがとう、また呼んだときは頼んだぞ。ゆっくり休んでくれ」
光の粒子になってカイザーは消えていった。そして湖の中から自動回復した黒騎士達が戻って来た。ヤコフの両親を運ぶのはこの騎士達に任せるとするかと考えていたとき、背後からシルバーウイングの面々が押しかけて来た。
「やったな、まさか本当に悪魔を斃してしまうとは」
「ああ、すげーぜ! こっちまで興奮してきた」
アベルとロックは単独で悪魔を撃破した少女に称賛の言葉を贈る。
「ええ、召喚術ってすごいのね。しかもあの召喚獣を身に纏う戦い方なんて初めて目にしたわ」
「しかも結局格闘術だけで押し切ってしまいましたね。魔法剣を使うまでもなかったということでしょうか?」
エリアとセリナも興奮が抑えきれないのか、矢継ぎ早に話しかけて来る。
「あれは聖衣という召喚獣の力をその身に纏う鉄壁の鎧だ。あらゆる能力が著しく向上する私の奥の手だよ。召喚獣との信頼関係がないと身に纏うことはできないけどな」
剣を使わなかったのは、格闘術だけでどこまでやれるかという実験でもあった。生身の拳では致命傷は与えられなかったが、それなりに戦えることがわかっただけでも、カリナにとっては大きな収穫になった。
「そうだ、ヤコフの両親の容態はどうなってる?」
「出来る限りの治療はしたから一命は取り留めたわ。でもまだ意識は戻ってないのよ」
「そうか、少しなら回復魔法は使える。状態を安定させるためにも私が見よう」
エリアから状態を聞いて、二人の下へと駆け寄る。そしてヒーリング・ライトの魔法をかけると、まだ苦しそうだった表情が多少穏やかになった。
「これが悪魔の素材か……。何だか禍々しいな」
「ロック、それはあの嬢ちゃんのものだ。勝手に触らないようにな」
悪魔が燃え尽きた後に残された素材を見ていたロックに、アベルが注意をする。
「素材はあとで山分けしよう。今は一刻を争う。この悪魔の仲間が近くの街を襲撃するという情報を聞いた。急いでチェスターに戻ろう」
カリナは悪魔が遺した素材と飛ばされた大鎌をアイテムボックスに仕舞うと、二体の黒騎士に倒れているヤコフの両親を運ぶように命じる。ヤコフも白騎士に抱えさせる。
「マジかよ、悪魔の仲間がまだいるってのか。しかも俺達の街に向かっているって?」
「そうだ、時間がない。急ぐぞ」
ロックに答えると同時にカリナは先陣を切って走り出した。一同は七層から出口までを走り抜け、迷宮の入口まで戻った。
ここまで徒歩で約1時間程の道のりだった。急げば数十分で戻れる。カリナは足への負担を減らすため、空歩で空中を走る。その後ろからシルバーウイングのメンバーと騎士達が追いかける格好となった。
「それにしても、休憩する間もなくとんぼ返りする羽目になるなんて。悪魔って本当に厄介ね」
走りながらエリアが愚痴をこぼす。確かに厄介なことになった。だが、あの悪魔から情報を聞き出さなければ街の危機を知らずにのんびりと帰還することになっていたはずである。知らずに到着したら街が壊滅していたなんてことにはならずに済んだのは、カリナがイペス・ヘッジナから情報を聞き出した成果には違いない。
「何にせよ、急がねばなるまい」
「ったく、休みなしかよ」
「私達は大したことはしていませんよ。カリナちゃんはあの悪魔と戦ったばかりです。彼女の方が消耗が激しいはずなのに、私達が愚痴を言う資格はないですよ」
走りながら各々が思っていることを口に出したが、今は一刻を争う。一丁前のことを言いながら、セリナの視線は前方の空中を走るカリナのミニスカートから覗く白い下着に釘付けだったのだが。
「はぁ、白いレース。素敵……」
「アンタは何を見てるのよ。事態が事態なんだから少しは緊張感を持ちなさい!」
走りながら、エリアのチョップがセリナの脳天に直撃する。
「あいたたた、ごめんなさい。つい、ね」
前方の空中を走っていたカリナだったが、セリナからの邪な視線を感じたので、地面に降りて走ることにした。
「ロック、先を走ってくれ。私は後ろから追うことにするよ」
「おうよ、ったくセリナのやつめ」
こんなときに全く緊張感がないセリナ達に対して、カリナは呆れながらもある意味リラックスできていることに対して頼もしさは感じた。それでも下着を覗かれるのは勘弁願いたいものだが。
会話を交わしながらも、一同は街への道を急いだ。
◆◆◆
チェスターの街はゾンビやグールの大軍に襲われていた。逃げ惑う人々に、魔物に抵抗する冒険者達。街は混乱の最中にあった。
冒険者達が先導して、街の住人達を建物の中に避難させる。次々に湧いて来る魔物の集団に対して、戦える者達の数が圧倒的に足りていない。
街の上空には悪魔が一体、街を襲う魔物の集団を指揮していた。
「いいぞ、もっと混乱させろ。人間共のエネルギーを奪い尽くしてしまえ、カカカカッ!」
◆◆◆
街が徐々に近づいて来ると、その方向から火の手が上がっているのが見えた。このままの速度では間に合わないかもしれない。カリナはまだ距離がある街の方向へ千里眼を発動させる。アンデッドに襲われている人々に、それに抵抗する冒険者達の姿が映る。
「仕方ない。召喚体を先に向かわせる。私達が走るよりも遥かに速いからな」
立ち止まったカリナは両手を広げて幾重にも魔法陣を展開させ、召喚の祝詞を唱える。
「この声が聞こえるのなら、応えよ。
天の高き門を守りし光の乙女らよ。
戦の運命を司り、勇者の魂を導く七柱の戦乙女よ。
今、我が声、我が魂、汝らを呼び奉る。
遥かヴァルハラへと繋がる道を護る者達よ。
七天舞う戦乙女達よ!」
重なりなった巨大な魔法陣から、先程のヒルダを含めたワルキューレの姉妹達が姿を現す。召喚されたのは7人の戦乙女達。彼女達なら遥かに速いスピードで街まで辿り着くことができる。
「召喚に馳せ参じました。ヒルダとその妹達全員7名。先刻振りでございます、我が主様」
白いロングスカートに金色の全身鎧を纏ったワルキューレの姉妹達がその姿を現し、長女のヒルダを先頭に全員がカリナに跪いて頭を垂れた。
「ああ、ヒルダは先刻振りだな。残りの姉妹達は久し振りだ。よく来てくれた」
燃える様な赤い髪をした長女のヒルダ、青髪のフルンド、黒髪のカーラ、グリーンヘアのミスト、茶髪のエルルーン、銀髪のロタに金髪のエイルである。髪の色以外は瓜二つでよく似た顔をしている。カリナは髪の色で彼女達を判別していた。
「お久し振りです、主様!」
「ああ、長い間放置してしまったみたいだな。済まなかった、フルンド」
二女のフルンドに謝罪する。
「それに、カーラ、ミストにエルルーン。ロタにエイル。また会えて嬉しいが、今は緊急の事態だ。近くの街が魔物と悪魔に襲われている。私は後から直ぐに向かう。先に行って魔物の群れを殲滅してくれ」
「「「「「「「はい!!!」」」」」」」
一同は一斉に返事をすると宙を飛んで街へと急行した。このまま全員で歩幅を合わせて進んでは埒が明かないと思ったカリナもペガサスを召喚し、その背に跨った。
「私も先に向かう。お前達も急いで来てくれ」
「わかったわ。気を付けてねカリナちゃん」
「じゃあ、後でな」
エリアにそう告げると、ペガサスは猛スピードでチェスターの街へと飛翔した。
◆◆◆
カリナに先んじて現場に到着したワルキューレ達は各々の武器を抜いて、立ちはだかる魔物達を次々と消滅させていった。多勢に無勢で苦しんでいた冒険者を襲っていた魔物を斬り伏せる。
「あ、あんた達は?」
「私達は召喚士カリナ様の召喚体のワルキューレです。この場はお任せ下さい」
「あ、ああ……」
呆気に取られる冒険者達を尻目に、湧き出る魔物達を次々と消滅させていくワルキューレ達。7人の戦乙女達の参戦により、戦況はあっという間に逆転した。彼女達を先に向かわせたカリナの判断は正しかったのである。
「おお、早くも戦局は決まったようなものだな」
ペガサスに乗って到着したカリナは、一番見晴らしの良い建物の上に降り立ち、そこから街の中心部の広場の上にいる悪魔の姿を捉えた。立て続けの召喚にバトル、魔力の消耗は激しいが、自動回復で少しずつ回復はしている。だが、急がなければ魔力が底を尽く可能性もある。それに一刻も早く街を救う必要もある。
「さて、もうひとふんばりさせてもらおうか」
ペガサスが嘶き、その姿が輝く白銀の鎧へと姿を変える。その鎧、聖衣を身に纏ったカリナは背中の翼を羽搏かせながら空を駆けて、此方の存在を漸く認識した悪魔に向けて急降下する。
「ペガサス・ギャロップ!」
稲妻の様な衝撃が走り、胴体に強烈な左足裏での蹴りが炸裂した。激しい轟音と共に、広場に叩きつけられる悪魔。その衝撃で、地面にクレーターが出来上がる。
「ぐはあああっ! 何だ……、貴様は?!」
「それはこっちの台詞だ。貴様の仲間からの情報でな。この街を襲うという情報を聞いた。いい加減お前達の相手に飽き飽きしていた所だ、さっさと蹴りを着けさせてもらうぞ」
「先程から俺様の呼び出したアンデッド共が消されているのは貴様が原因か? なるほど、イペスがしくじったのか。いいだろう、俺様が相手をしてやる。我が名は伯爵ハーム・ガッイエ。さあ地獄へと送ってやろう!」
右手に禍々しく輝く黒い剣を発現させて、ハームが構える。カリナは腰から聖剣ティルヴィングを抜き、斬りかかった。激しい金属音が木霊する。
「悪魔はどいつもこいつも言うことがワンパターンだな」
「はっ、小娘が! 笑わせるな!」
黒剣が黒い炎に染まる。このまま鍔迫り合いをしていては、その炎がカリナにまで飛び火する。聖衣に守られてはいるが、無駄な被弾は避けるに越したことはない。
「魔法剣、ブリザード」
凍結の特殊効果を付与された剣の凍気が悪魔の黒炎を凍りつかせる。
「なにっ?! この黒炎を凍りつかせるとは! 貴様は一体何者だ?!」
「確か伯爵だったな。お前より上位の侯爵を屠ったのはこの私、召喚士カリナだ。お前に勝ち目はない。王とは誰だ? さっさと答えろ!」
高速の剣技が悪魔を押し込んでいく。カリナの一撃を防御する度に、黒剣はどんどん凍りついて行く。
「貴様の様な小娘に答えることなど何一つない!」
ガキィイイインッ!
悪魔の渾身の攻撃で力負けしたカリナは後ろへ後退った。やはり単純な膂力では悪魔には敵いそうにない。魔力にも限界がある。これ以上の情報も聞き出すのは難しい上に無駄だと判断したカリナは、勝負を急ぐことにした。右手を上に翳し、黄金の魔法陣を展開する。
「開け、黄道十二宮の扉よ。巨蟹宮から顕現せよ、黄金のクラブよ!」
黄金の光が足元へと降りて来てそこから黄金の蟹が姿を現した。
「久し振りだな、御主人よ。ほう、悪魔伯爵が相手とは、中々面白い舞台に我を呼び出したものだ」
「久し振りだな、プレセペよ。見ての通りの状況だ。お前の力を借りたい。頼んだぞ」
「いいだろう、我が力を存分に振るうがいい!」
巨大な黄金の蟹が輝き、その爪が二本の金色の剣に姿を変える。その双剣を握り締めたカリナは、剣から溢れる精霊力を全身に漲らせると、一直線に悪魔へと突進した。
「バカめ! 態々斬られに来るとは!」
悪魔が高笑いをしながら黒剣を振り被り、振り下ろす前に、カリナはまるで光の如き速さで両手に持った二本の剣を外から内へと交差する様に振るった。
光の一筋が悪魔の胴体へ走ったと同時に、その上半身がズズッとズレて地面に転がった。
「巨蟹剣技、アクベンス」
何が起きたのか理解できないまま、伯爵のハーム・ガッイエは黒炎に包まれて燃え尽きた。
「はぁ、終わったか……。さすがに疲れた」
疲労困憊になったカリナは後ろ向きに倒れ込んだ。
「聞こえていたか、カシュー?」
「うん、どうやら色々と考察する余地がありそうだね」
イヤホンの向こうから、真剣なカシューの声が聞こえる。
「先ずは奴の言っていたことが気にかかる。近くの街はチェスターだ。情報通りならそこに悪魔が向かっていることになる。私は急いで戻る。そっちからも援軍を出してくれないか?」
「わかった、戦車部隊に戦力を乗せて全速力で向かわせるよ。それなりの距離だから間に合うか微妙だけどね」
「頼んだ。とりあえず一旦切るぞ」
「了解、また何かあればよろしく」
カシューの返答を聞いてから、左耳のイヤホンに注いでいた魔力を切った。急いで街に戻らなければならない。意識を切り替えて、真眼と魔眼の効果を解除した。聖衣が身体から外れて、黄金の獅子のカイザーの姿へと戻る。
「お見事でした、我が主よ」
「いや、お前の力がなければ危なかったよ。ありがとう、また呼んだときは頼んだぞ。ゆっくり休んでくれ」
光の粒子になってカイザーは消えていった。そして湖の中から自動回復した黒騎士達が戻って来た。ヤコフの両親を運ぶのはこの騎士達に任せるとするかと考えていたとき、背後からシルバーウイングの面々が押しかけて来た。
「やったな、まさか本当に悪魔を斃してしまうとは」
「ああ、すげーぜ! こっちまで興奮してきた」
アベルとロックは単独で悪魔を撃破した少女に称賛の言葉を贈る。
「ええ、召喚術ってすごいのね。しかもあの召喚獣を身に纏う戦い方なんて初めて目にしたわ」
「しかも結局格闘術だけで押し切ってしまいましたね。魔法剣を使うまでもなかったということでしょうか?」
エリアとセリナも興奮が抑えきれないのか、矢継ぎ早に話しかけて来る。
「あれは聖衣という召喚獣の力をその身に纏う鉄壁の鎧だ。あらゆる能力が著しく向上する私の奥の手だよ。召喚獣との信頼関係がないと身に纏うことはできないけどな」
剣を使わなかったのは、格闘術だけでどこまでやれるかという実験でもあった。生身の拳では致命傷は与えられなかったが、それなりに戦えることがわかっただけでも、カリナにとっては大きな収穫になった。
「そうだ、ヤコフの両親の容態はどうなってる?」
「出来る限りの治療はしたから一命は取り留めたわ。でもまだ意識は戻ってないのよ」
「そうか、少しなら回復魔法は使える。状態を安定させるためにも私が見よう」
エリアから状態を聞いて、二人の下へと駆け寄る。そしてヒーリング・ライトの魔法をかけると、まだ苦しそうだった表情が多少穏やかになった。
「これが悪魔の素材か……。何だか禍々しいな」
「ロック、それはあの嬢ちゃんのものだ。勝手に触らないようにな」
悪魔が燃え尽きた後に残された素材を見ていたロックに、アベルが注意をする。
「素材はあとで山分けしよう。今は一刻を争う。この悪魔の仲間が近くの街を襲撃するという情報を聞いた。急いでチェスターに戻ろう」
カリナは悪魔が遺した素材と飛ばされた大鎌をアイテムボックスに仕舞うと、二体の黒騎士に倒れているヤコフの両親を運ぶように命じる。ヤコフも白騎士に抱えさせる。
「マジかよ、悪魔の仲間がまだいるってのか。しかも俺達の街に向かっているって?」
「そうだ、時間がない。急ぐぞ」
ロックに答えると同時にカリナは先陣を切って走り出した。一同は七層から出口までを走り抜け、迷宮の入口まで戻った。
ここまで徒歩で約1時間程の道のりだった。急げば数十分で戻れる。カリナは足への負担を減らすため、空歩で空中を走る。その後ろからシルバーウイングのメンバーと騎士達が追いかける格好となった。
「それにしても、休憩する間もなくとんぼ返りする羽目になるなんて。悪魔って本当に厄介ね」
走りながらエリアが愚痴をこぼす。確かに厄介なことになった。だが、あの悪魔から情報を聞き出さなければ街の危機を知らずにのんびりと帰還することになっていたはずである。知らずに到着したら街が壊滅していたなんてことにはならずに済んだのは、カリナがイペス・ヘッジナから情報を聞き出した成果には違いない。
「何にせよ、急がねばなるまい」
「ったく、休みなしかよ」
「私達は大したことはしていませんよ。カリナちゃんはあの悪魔と戦ったばかりです。彼女の方が消耗が激しいはずなのに、私達が愚痴を言う資格はないですよ」
走りながら各々が思っていることを口に出したが、今は一刻を争う。一丁前のことを言いながら、セリナの視線は前方の空中を走るカリナのミニスカートから覗く白い下着に釘付けだったのだが。
「はぁ、白いレース。素敵……」
「アンタは何を見てるのよ。事態が事態なんだから少しは緊張感を持ちなさい!」
走りながら、エリアのチョップがセリナの脳天に直撃する。
「あいたたた、ごめんなさい。つい、ね」
前方の空中を走っていたカリナだったが、セリナからの邪な視線を感じたので、地面に降りて走ることにした。
「ロック、先を走ってくれ。私は後ろから追うことにするよ」
「おうよ、ったくセリナのやつめ」
こんなときに全く緊張感がないセリナ達に対して、カリナは呆れながらもある意味リラックスできていることに対して頼もしさは感じた。それでも下着を覗かれるのは勘弁願いたいものだが。
会話を交わしながらも、一同は街への道を急いだ。
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冒険者達が先導して、街の住人達を建物の中に避難させる。次々に湧いて来る魔物の集団に対して、戦える者達の数が圧倒的に足りていない。
街の上空には悪魔が一体、街を襲う魔物の集団を指揮していた。
「いいぞ、もっと混乱させろ。人間共のエネルギーを奪い尽くしてしまえ、カカカカッ!」
◆◆◆
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「仕方ない。召喚体を先に向かわせる。私達が走るよりも遥かに速いからな」
立ち止まったカリナは両手を広げて幾重にも魔法陣を展開させ、召喚の祝詞を唱える。
「この声が聞こえるのなら、応えよ。
天の高き門を守りし光の乙女らよ。
戦の運命を司り、勇者の魂を導く七柱の戦乙女よ。
今、我が声、我が魂、汝らを呼び奉る。
遥かヴァルハラへと繋がる道を護る者達よ。
七天舞う戦乙女達よ!」
重なりなった巨大な魔法陣から、先程のヒルダを含めたワルキューレの姉妹達が姿を現す。召喚されたのは7人の戦乙女達。彼女達なら遥かに速いスピードで街まで辿り着くことができる。
「召喚に馳せ参じました。ヒルダとその妹達全員7名。先刻振りでございます、我が主様」
白いロングスカートに金色の全身鎧を纏ったワルキューレの姉妹達がその姿を現し、長女のヒルダを先頭に全員がカリナに跪いて頭を垂れた。
「ああ、ヒルダは先刻振りだな。残りの姉妹達は久し振りだ。よく来てくれた」
燃える様な赤い髪をした長女のヒルダ、青髪のフルンド、黒髪のカーラ、グリーンヘアのミスト、茶髪のエルルーン、銀髪のロタに金髪のエイルである。髪の色以外は瓜二つでよく似た顔をしている。カリナは髪の色で彼女達を判別していた。
「お久し振りです、主様!」
「ああ、長い間放置してしまったみたいだな。済まなかった、フルンド」
二女のフルンドに謝罪する。
「それに、カーラ、ミストにエルルーン。ロタにエイル。また会えて嬉しいが、今は緊急の事態だ。近くの街が魔物と悪魔に襲われている。私は後から直ぐに向かう。先に行って魔物の群れを殲滅してくれ」
「「「「「「「はい!!!」」」」」」」
一同は一斉に返事をすると宙を飛んで街へと急行した。このまま全員で歩幅を合わせて進んでは埒が明かないと思ったカリナもペガサスを召喚し、その背に跨った。
「私も先に向かう。お前達も急いで来てくれ」
「わかったわ。気を付けてねカリナちゃん」
「じゃあ、後でな」
エリアにそう告げると、ペガサスは猛スピードでチェスターの街へと飛翔した。
◆◆◆
カリナに先んじて現場に到着したワルキューレ達は各々の武器を抜いて、立ちはだかる魔物達を次々と消滅させていった。多勢に無勢で苦しんでいた冒険者を襲っていた魔物を斬り伏せる。
「あ、あんた達は?」
「私達は召喚士カリナ様の召喚体のワルキューレです。この場はお任せ下さい」
「あ、ああ……」
呆気に取られる冒険者達を尻目に、湧き出る魔物達を次々と消滅させていくワルキューレ達。7人の戦乙女達の参戦により、戦況はあっという間に逆転した。彼女達を先に向かわせたカリナの判断は正しかったのである。
「おお、早くも戦局は決まったようなものだな」
ペガサスに乗って到着したカリナは、一番見晴らしの良い建物の上に降り立ち、そこから街の中心部の広場の上にいる悪魔の姿を捉えた。立て続けの召喚にバトル、魔力の消耗は激しいが、自動回復で少しずつ回復はしている。だが、急がなければ魔力が底を尽く可能性もある。それに一刻も早く街を救う必要もある。
「さて、もうひとふんばりさせてもらおうか」
ペガサスが嘶き、その姿が輝く白銀の鎧へと姿を変える。その鎧、聖衣を身に纏ったカリナは背中の翼を羽搏かせながら空を駆けて、此方の存在を漸く認識した悪魔に向けて急降下する。
「ペガサス・ギャロップ!」
稲妻の様な衝撃が走り、胴体に強烈な左足裏での蹴りが炸裂した。激しい轟音と共に、広場に叩きつけられる悪魔。その衝撃で、地面にクレーターが出来上がる。
「ぐはあああっ! 何だ……、貴様は?!」
「それはこっちの台詞だ。貴様の仲間からの情報でな。この街を襲うという情報を聞いた。いい加減お前達の相手に飽き飽きしていた所だ、さっさと蹴りを着けさせてもらうぞ」
「先程から俺様の呼び出したアンデッド共が消されているのは貴様が原因か? なるほど、イペスがしくじったのか。いいだろう、俺様が相手をしてやる。我が名は伯爵ハーム・ガッイエ。さあ地獄へと送ってやろう!」
右手に禍々しく輝く黒い剣を発現させて、ハームが構える。カリナは腰から聖剣ティルヴィングを抜き、斬りかかった。激しい金属音が木霊する。
「悪魔はどいつもこいつも言うことがワンパターンだな」
「はっ、小娘が! 笑わせるな!」
黒剣が黒い炎に染まる。このまま鍔迫り合いをしていては、その炎がカリナにまで飛び火する。聖衣に守られてはいるが、無駄な被弾は避けるに越したことはない。
「魔法剣、ブリザード」
凍結の特殊効果を付与された剣の凍気が悪魔の黒炎を凍りつかせる。
「なにっ?! この黒炎を凍りつかせるとは! 貴様は一体何者だ?!」
「確か伯爵だったな。お前より上位の侯爵を屠ったのはこの私、召喚士カリナだ。お前に勝ち目はない。王とは誰だ? さっさと答えろ!」
高速の剣技が悪魔を押し込んでいく。カリナの一撃を防御する度に、黒剣はどんどん凍りついて行く。
「貴様の様な小娘に答えることなど何一つない!」
ガキィイイインッ!
悪魔の渾身の攻撃で力負けしたカリナは後ろへ後退った。やはり単純な膂力では悪魔には敵いそうにない。魔力にも限界がある。これ以上の情報も聞き出すのは難しい上に無駄だと判断したカリナは、勝負を急ぐことにした。右手を上に翳し、黄金の魔法陣を展開する。
「開け、黄道十二宮の扉よ。巨蟹宮から顕現せよ、黄金のクラブよ!」
黄金の光が足元へと降りて来てそこから黄金の蟹が姿を現した。
「久し振りだな、御主人よ。ほう、悪魔伯爵が相手とは、中々面白い舞台に我を呼び出したものだ」
「久し振りだな、プレセペよ。見ての通りの状況だ。お前の力を借りたい。頼んだぞ」
「いいだろう、我が力を存分に振るうがいい!」
巨大な黄金の蟹が輝き、その爪が二本の金色の剣に姿を変える。その双剣を握り締めたカリナは、剣から溢れる精霊力を全身に漲らせると、一直線に悪魔へと突進した。
「バカめ! 態々斬られに来るとは!」
悪魔が高笑いをしながら黒剣を振り被り、振り下ろす前に、カリナはまるで光の如き速さで両手に持った二本の剣を外から内へと交差する様に振るった。
光の一筋が悪魔の胴体へ走ったと同時に、その上半身がズズッとズレて地面に転がった。
「巨蟹剣技、アクベンス」
何が起きたのか理解できないまま、伯爵のハーム・ガッイエは黒炎に包まれて燃え尽きた。
「はぁ、終わったか……。さすがに疲れた」
疲労困憊になったカリナは後ろ向きに倒れ込んだ。
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異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
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宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
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グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
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ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
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ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
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ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
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出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
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実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
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