34 / 40
33 羞恥心
しおりを挟む
目が覚めると、もう窓の外は暗くなっていた。どうやら思っていたよりも眠り込んでいたらしい。迷宮探索に悪魔討伐など、命のやり取りはカリナが想像している以上に精神を擦り減らすものである。カリナは目を擦りながらそのことを自覚した。
ぐいっと伸びをして、脱ぎ捨ててあったコートを羽織る。そして立ち上がってブーツを履いた。テーブルの方を見ると、ケット・シー隊員はまだ花提灯を出して居眠りしている。
「起きろ、隊員。もう夜だ。夕食と風呂に行くぞ」
「んにゃ?! おはようございますにゃ、隊長」
「おはよう。よく寝てたな」
「一度目が覚めたんですが、隊長がまだ寝てたので二度寝してたにゃ」
隊員は目を擦りながら欠伸をした。同時に身体全体をぶるぶると振るわせた。猫の仕草である。そして隊員を伴って階下の食堂に向かった。
既に食堂には街の人々が集まって飲み食いし、盛り上がっている。カリナが空いている席を探していると、聞き覚えのある声で話しかけられた。
「カリナさん、こっちです」
声の方を見ると昼間に出会った組合長のジュリアが組合の受付の事務員を二人ほど伴って夕食を取っていた。
「ああ、ジュリアか。ここに食べに来たのか?」
「ええ、カリナさんも宿泊しているだろうし、折角なので職員達と一緒に食べに来ました」
「こんばんは、カリナさん。昼間はお世話になりました。受付のコレットです」
「こんばんは、ギルマスに連れられて来ました。同じく受付事務のフリッカです」
「こんばんは。遅くまでお仕事ご苦労様」
黒髪ショートボブのコレットと金髪のセミロングヘアを三つ編みで一つに括っているフリッカという女性がカリナに挨拶した。
「良かったら同席しませんか? ここ空いているので、冒険話など聞かせて頂けると嬉しいです」
「そうだな、他に空いてる席も見当たらなかったし、迷惑じゃなければ相席させてもらおうかな」
ジュリアの左隣に腰掛ける。カリナの隣の隊員には店員が子供用の背丈が高い椅子を用意してくれた。丸テーブルを囲んで向かいにはコレットとフリッカが座っている。
「ありがとうございますにゃ」
礼儀正しく店員にお礼を述べる隊員。長靴を履いた喋る猫の噂は街中で広まっているらしく、周りの客が隊員を暫く見ていたが、驚かれることはなかった。
ジュリアにこの宿のお勧め料理を注文してもらい、運ばれて来たそれらを頬張る。魔力の回復のためにもカリナはしっかり食べておこうと思い、宿の料理を楽しんだ。
「それにしてもこんな美少女が悪魔を単独でやっつけてしまうなんて。今日は驚きでしたね、ギルマス」
「しかも召喚士だなんて珍しいわ。この仕事をしていて初めて会ったもの」
コレットとフリッカはカリナの見た目に召喚士というクラスが珍しいのだろう。
「そうね、でも彼女の御陰でこの街も冒険者達も救われたわ。感謝しないといけない。ありがとうございます、カリナさん」
「いやいや、もう昼間に充分お礼は貰ったからいいよ。街の水源にも影響はなかった御陰で、美味い料理も食べられるし。それにしても召喚士はそんなに数が少ないんだな」
召喚魔法が実装されたときは誰もが召喚体を探して冒険をしたものだ。カリナも様々な場所を探索した。しかし、それはゲームの頃の話で、現実となり、100年の時が過ぎた今の世界では変化したのだろう。
「召喚獣を使役するためには、その対象をソロで屈服させないといけないですからね。命の危険を冒してまで召喚獣と戦おうなんて人はほとんどいないですよ」
確かにその通りである。ゲームの時なら、負けてもデスペナルティが付くだけで復活ができる。勝てるまで何度だって挑むことができるのだから、現実に命の危険を伴うことなどない。だが、この現実世界では敗北はイコール死である。それを考えれば召喚獣に無理して挑むメリットは少ない。しかも使役したばかりの召喚体は弱く、何度も戦闘を共にして徐々に強力な存在になるのである。育成するのにもかなりの労力が必要になる。
カリナはゲームの間に多くの召喚体を使役しておいて良かったと思った。それでも新しい召喚体を見つけたら、自分は迷うことなく使役しようとするだろうとも。そのために剣技も格闘術も鍛えて来たのである。
「確かにそうかもしれないなあ。命の危険を冒してまで、しかも使役しても暫くは弱い召喚体のためにリスクを取るのは危険なことかもしれない」
「そうなんです。だから召喚士自体の存在が今はもうレア中のレアです。過去には多くの召喚士がいたという資料もあるんですけどね。五大国襲撃事件で失われてしまったと言われているんです」
なるほどとカリナは思った。自分やカシュー、セリスのようにPC達もまだこの世界に存在する可能性はあるが、カシューが言っていた「死は死である」という言葉が引っ掛かった。命を落としたPC達もいる可能性もある。
「まあまあ、今日は私達の奢りだよ。街の救世主なんだから好きなだけ飲み食いして」
「そうだよ、みんなカリナちゃんに感謝してるんだからさ」
コレットとフリッカにそんなことを言われたが、さすがに奢られるのは気が引ける。以前のチェスターの街でもエリア達に奢られてばかりだったのだから。
「いや、それは悪いよ。私は自分ができることをしただけに過ぎないんだし」
「まだ子供なのになんて謙虚。うーん、そういうところは見習いたい」
「そうね、こんなに可愛いのに」
「二人共、そのくらいにしておきなさい。でも今日は御馳走させて下さい。この街の組合長として、救世主に何もしてあげられないのは悲しいですから」
「そうか、なら申し訳ないけどそうさせてもらおうかな」
渋々了承したが、ジュリアなりの心遣いなのだろう。折角なので甘えることにした。
「あ、でも二人は自分の分は自分で払うように」
ジュリアの言葉に、「そんなぁー」と二人は声を揃えて言った。
「当然でしょう、あなたたちは大人なんですから。そう言えばカリナさんは聖騎士カーズ様の妹さんだとお聞きしました。道理で強いはずですね」
「あー、そんなことまで噂になっているのか。本屋でちょっと喋っただけなんだけどなあ。いやここの女将さんにも話した気がする……」
「小さい街ですから、直ぐに噂なんて広まりますよ。エデンの任務をこなしているのもそういう繋がりですか?」
「ああ、カシュー王とは昔馴染みでね。行方不明の兄に代わって色々とこき使われてる」
兄というか自分のメインキャラなのだが、今となってはキャラチェンジすることもできない。この女性の姿でこの世界を生きて行くしかない。
「聖騎士カーズ様は私達も憧れだよ。たくさん本持ってるからね」
「同じく、物語の中でしか知らないけど、凄い男気のあるカッコイイ人なんだろうなぁ」
「ノベライズは私も多少読んだけど、そこまで美化しない方がいいよ。実物はそんな良いものじゃないから」
所詮は廃プレーの賜物である自分のメインキャラ。それがそこまで美化されると何だか居たたまれなくなる。
「さすが実の妹。私達が知らない顔を知っているのね」
「いいなあ、ねえ聞かせて聞かせて!」
コレットとフリッカが身を乗り出して来る。カリナは実の妹という設定なだけで本人なのだ。その裏の顔を話せと言われると、自分の短所をお披露目する羽目になる。それはさすがに自分が情けなくなる。
「いや、まあそれは想像にお任せするよ。聞いても幻滅するだけだと思うから」
「ほらほら、誰にでも知られたくない一面くらいあるでしょう。我慢しなさい」
ジュリアにぴしゃりと言われて二人はしゅんとなった。それから暫く飲み食いしながら、他愛もない話で盛り上がった。隊員は大人しく目の前に並べられた料理を黙々と食べていた。
「さて、明日は聖光国に出発だし、風呂に入って寝るかな」
「そうですね、旅の無事を祈っています。書簡を聖光国の組合長に忘れずに渡して下さいね」
「ああ、色々と世話になったよ。到着したらすぐに組合を訪ねることにする」
そうしてその場はお開きになったのだが、コレットとフリッカは妙なことを言い出した。
「ギルマス、私達はカリナちゃんとお風呂に入ってから帰りますね」
「ここのお風呂気持ちいいしね。折角だからお背中お流しします」
「あまり迷惑を掛けないようにしなさいよ。カリナさん、私はこれで。明日も色々と業務がありますので。ではおやすみなさい」
「ええっ、ちょ、ジュリア、助けてくれ」
そう言って助け舟を求めたが、彼女はにこやかに笑って一礼すると食堂を後にして行った。彼女も止めても無駄だと判断したのだろう。それに女性同士が一緒に風呂に入るのは変なことではない。態々止めることもないと思ったのだろう。問題はカリナの中身の自認なのである。
「さ、行きましょうか」
「うふふ、美少女とお風呂。楽しいな」
カリナは二人に連れられて宿の浴場に向かうことになった。
◆◆◆
またしてもこの展開かと思いながら、脱衣場でさっさと身に付けていた衣装を脱ぐ。お喋りをしている二人をなるべく見ないようにしてさっさと浴場に入った。だがここにも利用客がいる。視界に入れないように注意しながらさっさと身体を洗うためにシャワーの前のチェアーに腰掛けた。そこに後ろからコレットとフリッカが近づいて来る。
「うむむ、スレンダーながら出るとこはちゃんと出てるし、カリナちゃんスタイルいいなあ」
「いや、そんなこと言われても。自分の身体だし、他の人と比べたりしたことはないよ」
シャンプーを手に取って泡立てるコレットに対して答える。まあルナフレアと入浴したときはしっかりと見てしまったのだが、さすがに他の人をジロジロと見るのは失礼に当たる。
「いいなあ、私もこんな美少女に生まれてたらなぁ」
身を乗り出して来たフリッカはボディソープを泡立てている。これから洗われてしまうのかと、カリナは覚悟した。間近に来られると二人の姿が嫌でも目に入る。組合の受付をやっているだけあって二人共容姿端麗だ。冒険者達からも声を掛けられるだろうと思う。
「さてさて、では洗わせて頂きますねー」
「うわ、肌もすべすべで綺麗ね。髪の毛もサラサラだし」
「それはどうも……」
こうしてカリナは二人の気が済むまで身体を洗われた。その後は三人で湯船に浸かり、質問攻めにあった。気が済んだ二人はまた明日の仕事に備えて先に上がって帰って行った。
逆上せたカリナは浴室のチェアーに腰掛けて、火照りが覚めるのを待った。いい加減にこの現状に慣れてきている自分がいる。これは良くない。だが女性体である以上は男性用を使う訳にもいかない。この世界が続く限りは仕方ないかと無理矢理自分を納得させるしかないカリナだった。
「うにゅー、人間界のお風呂も中々に良いものにゃ」
カリナが困っている時、隊員は男湯で奇妙な目で見られながら入浴を楽しんでいた。
「はあ、何だか逆に疲れるな。毎度のことながら。偶には一人でのんびり入浴したい」
部屋に戻ったカリナは寝間着に着替え、髪の毛をタオルで乾かしていた。そこへ、衣服を持ってびしょ濡れのままケット・シー隊員が帰って来た。
「いやー、良い湯だったにゃ」
「お前、びしょ濡れじゃないか。来い、拭いてやるから」
びしょ濡れの隊員の身体をタオルで包んでごしごしと拭いてやる。一通り拭き終えると、隊員は身震いをして残った水分を飛ばした。
「猫も風呂に入るとはな。まあそれはいいが、次からはタオルを持って行け。それか備え付けのが用意されてるんだからちゃんと拭くように。全く、床がびしょ濡れじゃないか」
「申し訳ないにゃ、隊長。おいら達は基本的に自然乾燥にゃ、それにぶるぶるしたら水分が飛んでいくにゃ」
「それは猫の常識だ。私と行動するんだから、人間のマナーを守れ」
「はいにゃ、次からは気を付けるにゃ」
カリナは一階で雑巾を貸してもらって、隊員が濡らした床を拭いて回った。薄着の寝間着のまま床を拭くという、何とも他人からしたらサービスショットを無自覚に提供してしまうカリナだった。どうやらまだ女性としての羞恥心などには無自覚である。女将に注意されて、カリナは何とも恥ずかしい気持ちになった。
「後はこっちでやっておくから、カリナちゃんはもう部屋で休むようにね」
女性としての羞恥心の自覚のなさについて叱られたカリナはすごすごと部屋に戻り、ベッドで本を読みながらいつの間にか眠りに落ちて行った。
ぐいっと伸びをして、脱ぎ捨ててあったコートを羽織る。そして立ち上がってブーツを履いた。テーブルの方を見ると、ケット・シー隊員はまだ花提灯を出して居眠りしている。
「起きろ、隊員。もう夜だ。夕食と風呂に行くぞ」
「んにゃ?! おはようございますにゃ、隊長」
「おはよう。よく寝てたな」
「一度目が覚めたんですが、隊長がまだ寝てたので二度寝してたにゃ」
隊員は目を擦りながら欠伸をした。同時に身体全体をぶるぶると振るわせた。猫の仕草である。そして隊員を伴って階下の食堂に向かった。
既に食堂には街の人々が集まって飲み食いし、盛り上がっている。カリナが空いている席を探していると、聞き覚えのある声で話しかけられた。
「カリナさん、こっちです」
声の方を見ると昼間に出会った組合長のジュリアが組合の受付の事務員を二人ほど伴って夕食を取っていた。
「ああ、ジュリアか。ここに食べに来たのか?」
「ええ、カリナさんも宿泊しているだろうし、折角なので職員達と一緒に食べに来ました」
「こんばんは、カリナさん。昼間はお世話になりました。受付のコレットです」
「こんばんは、ギルマスに連れられて来ました。同じく受付事務のフリッカです」
「こんばんは。遅くまでお仕事ご苦労様」
黒髪ショートボブのコレットと金髪のセミロングヘアを三つ編みで一つに括っているフリッカという女性がカリナに挨拶した。
「良かったら同席しませんか? ここ空いているので、冒険話など聞かせて頂けると嬉しいです」
「そうだな、他に空いてる席も見当たらなかったし、迷惑じゃなければ相席させてもらおうかな」
ジュリアの左隣に腰掛ける。カリナの隣の隊員には店員が子供用の背丈が高い椅子を用意してくれた。丸テーブルを囲んで向かいにはコレットとフリッカが座っている。
「ありがとうございますにゃ」
礼儀正しく店員にお礼を述べる隊員。長靴を履いた喋る猫の噂は街中で広まっているらしく、周りの客が隊員を暫く見ていたが、驚かれることはなかった。
ジュリアにこの宿のお勧め料理を注文してもらい、運ばれて来たそれらを頬張る。魔力の回復のためにもカリナはしっかり食べておこうと思い、宿の料理を楽しんだ。
「それにしてもこんな美少女が悪魔を単独でやっつけてしまうなんて。今日は驚きでしたね、ギルマス」
「しかも召喚士だなんて珍しいわ。この仕事をしていて初めて会ったもの」
コレットとフリッカはカリナの見た目に召喚士というクラスが珍しいのだろう。
「そうね、でも彼女の御陰でこの街も冒険者達も救われたわ。感謝しないといけない。ありがとうございます、カリナさん」
「いやいや、もう昼間に充分お礼は貰ったからいいよ。街の水源にも影響はなかった御陰で、美味い料理も食べられるし。それにしても召喚士はそんなに数が少ないんだな」
召喚魔法が実装されたときは誰もが召喚体を探して冒険をしたものだ。カリナも様々な場所を探索した。しかし、それはゲームの頃の話で、現実となり、100年の時が過ぎた今の世界では変化したのだろう。
「召喚獣を使役するためには、その対象をソロで屈服させないといけないですからね。命の危険を冒してまで召喚獣と戦おうなんて人はほとんどいないですよ」
確かにその通りである。ゲームの時なら、負けてもデスペナルティが付くだけで復活ができる。勝てるまで何度だって挑むことができるのだから、現実に命の危険を伴うことなどない。だが、この現実世界では敗北はイコール死である。それを考えれば召喚獣に無理して挑むメリットは少ない。しかも使役したばかりの召喚体は弱く、何度も戦闘を共にして徐々に強力な存在になるのである。育成するのにもかなりの労力が必要になる。
カリナはゲームの間に多くの召喚体を使役しておいて良かったと思った。それでも新しい召喚体を見つけたら、自分は迷うことなく使役しようとするだろうとも。そのために剣技も格闘術も鍛えて来たのである。
「確かにそうかもしれないなあ。命の危険を冒してまで、しかも使役しても暫くは弱い召喚体のためにリスクを取るのは危険なことかもしれない」
「そうなんです。だから召喚士自体の存在が今はもうレア中のレアです。過去には多くの召喚士がいたという資料もあるんですけどね。五大国襲撃事件で失われてしまったと言われているんです」
なるほどとカリナは思った。自分やカシュー、セリスのようにPC達もまだこの世界に存在する可能性はあるが、カシューが言っていた「死は死である」という言葉が引っ掛かった。命を落としたPC達もいる可能性もある。
「まあまあ、今日は私達の奢りだよ。街の救世主なんだから好きなだけ飲み食いして」
「そうだよ、みんなカリナちゃんに感謝してるんだからさ」
コレットとフリッカにそんなことを言われたが、さすがに奢られるのは気が引ける。以前のチェスターの街でもエリア達に奢られてばかりだったのだから。
「いや、それは悪いよ。私は自分ができることをしただけに過ぎないんだし」
「まだ子供なのになんて謙虚。うーん、そういうところは見習いたい」
「そうね、こんなに可愛いのに」
「二人共、そのくらいにしておきなさい。でも今日は御馳走させて下さい。この街の組合長として、救世主に何もしてあげられないのは悲しいですから」
「そうか、なら申し訳ないけどそうさせてもらおうかな」
渋々了承したが、ジュリアなりの心遣いなのだろう。折角なので甘えることにした。
「あ、でも二人は自分の分は自分で払うように」
ジュリアの言葉に、「そんなぁー」と二人は声を揃えて言った。
「当然でしょう、あなたたちは大人なんですから。そう言えばカリナさんは聖騎士カーズ様の妹さんだとお聞きしました。道理で強いはずですね」
「あー、そんなことまで噂になっているのか。本屋でちょっと喋っただけなんだけどなあ。いやここの女将さんにも話した気がする……」
「小さい街ですから、直ぐに噂なんて広まりますよ。エデンの任務をこなしているのもそういう繋がりですか?」
「ああ、カシュー王とは昔馴染みでね。行方不明の兄に代わって色々とこき使われてる」
兄というか自分のメインキャラなのだが、今となってはキャラチェンジすることもできない。この女性の姿でこの世界を生きて行くしかない。
「聖騎士カーズ様は私達も憧れだよ。たくさん本持ってるからね」
「同じく、物語の中でしか知らないけど、凄い男気のあるカッコイイ人なんだろうなぁ」
「ノベライズは私も多少読んだけど、そこまで美化しない方がいいよ。実物はそんな良いものじゃないから」
所詮は廃プレーの賜物である自分のメインキャラ。それがそこまで美化されると何だか居たたまれなくなる。
「さすが実の妹。私達が知らない顔を知っているのね」
「いいなあ、ねえ聞かせて聞かせて!」
コレットとフリッカが身を乗り出して来る。カリナは実の妹という設定なだけで本人なのだ。その裏の顔を話せと言われると、自分の短所をお披露目する羽目になる。それはさすがに自分が情けなくなる。
「いや、まあそれは想像にお任せするよ。聞いても幻滅するだけだと思うから」
「ほらほら、誰にでも知られたくない一面くらいあるでしょう。我慢しなさい」
ジュリアにぴしゃりと言われて二人はしゅんとなった。それから暫く飲み食いしながら、他愛もない話で盛り上がった。隊員は大人しく目の前に並べられた料理を黙々と食べていた。
「さて、明日は聖光国に出発だし、風呂に入って寝るかな」
「そうですね、旅の無事を祈っています。書簡を聖光国の組合長に忘れずに渡して下さいね」
「ああ、色々と世話になったよ。到着したらすぐに組合を訪ねることにする」
そうしてその場はお開きになったのだが、コレットとフリッカは妙なことを言い出した。
「ギルマス、私達はカリナちゃんとお風呂に入ってから帰りますね」
「ここのお風呂気持ちいいしね。折角だからお背中お流しします」
「あまり迷惑を掛けないようにしなさいよ。カリナさん、私はこれで。明日も色々と業務がありますので。ではおやすみなさい」
「ええっ、ちょ、ジュリア、助けてくれ」
そう言って助け舟を求めたが、彼女はにこやかに笑って一礼すると食堂を後にして行った。彼女も止めても無駄だと判断したのだろう。それに女性同士が一緒に風呂に入るのは変なことではない。態々止めることもないと思ったのだろう。問題はカリナの中身の自認なのである。
「さ、行きましょうか」
「うふふ、美少女とお風呂。楽しいな」
カリナは二人に連れられて宿の浴場に向かうことになった。
◆◆◆
またしてもこの展開かと思いながら、脱衣場でさっさと身に付けていた衣装を脱ぐ。お喋りをしている二人をなるべく見ないようにしてさっさと浴場に入った。だがここにも利用客がいる。視界に入れないように注意しながらさっさと身体を洗うためにシャワーの前のチェアーに腰掛けた。そこに後ろからコレットとフリッカが近づいて来る。
「うむむ、スレンダーながら出るとこはちゃんと出てるし、カリナちゃんスタイルいいなあ」
「いや、そんなこと言われても。自分の身体だし、他の人と比べたりしたことはないよ」
シャンプーを手に取って泡立てるコレットに対して答える。まあルナフレアと入浴したときはしっかりと見てしまったのだが、さすがに他の人をジロジロと見るのは失礼に当たる。
「いいなあ、私もこんな美少女に生まれてたらなぁ」
身を乗り出して来たフリッカはボディソープを泡立てている。これから洗われてしまうのかと、カリナは覚悟した。間近に来られると二人の姿が嫌でも目に入る。組合の受付をやっているだけあって二人共容姿端麗だ。冒険者達からも声を掛けられるだろうと思う。
「さてさて、では洗わせて頂きますねー」
「うわ、肌もすべすべで綺麗ね。髪の毛もサラサラだし」
「それはどうも……」
こうしてカリナは二人の気が済むまで身体を洗われた。その後は三人で湯船に浸かり、質問攻めにあった。気が済んだ二人はまた明日の仕事に備えて先に上がって帰って行った。
逆上せたカリナは浴室のチェアーに腰掛けて、火照りが覚めるのを待った。いい加減にこの現状に慣れてきている自分がいる。これは良くない。だが女性体である以上は男性用を使う訳にもいかない。この世界が続く限りは仕方ないかと無理矢理自分を納得させるしかないカリナだった。
「うにゅー、人間界のお風呂も中々に良いものにゃ」
カリナが困っている時、隊員は男湯で奇妙な目で見られながら入浴を楽しんでいた。
「はあ、何だか逆に疲れるな。毎度のことながら。偶には一人でのんびり入浴したい」
部屋に戻ったカリナは寝間着に着替え、髪の毛をタオルで乾かしていた。そこへ、衣服を持ってびしょ濡れのままケット・シー隊員が帰って来た。
「いやー、良い湯だったにゃ」
「お前、びしょ濡れじゃないか。来い、拭いてやるから」
びしょ濡れの隊員の身体をタオルで包んでごしごしと拭いてやる。一通り拭き終えると、隊員は身震いをして残った水分を飛ばした。
「猫も風呂に入るとはな。まあそれはいいが、次からはタオルを持って行け。それか備え付けのが用意されてるんだからちゃんと拭くように。全く、床がびしょ濡れじゃないか」
「申し訳ないにゃ、隊長。おいら達は基本的に自然乾燥にゃ、それにぶるぶるしたら水分が飛んでいくにゃ」
「それは猫の常識だ。私と行動するんだから、人間のマナーを守れ」
「はいにゃ、次からは気を付けるにゃ」
カリナは一階で雑巾を貸してもらって、隊員が濡らした床を拭いて回った。薄着の寝間着のまま床を拭くという、何とも他人からしたらサービスショットを無自覚に提供してしまうカリナだった。どうやらまだ女性としての羞恥心などには無自覚である。女将に注意されて、カリナは何とも恥ずかしい気持ちになった。
「後はこっちでやっておくから、カリナちゃんはもう部屋で休むようにね」
女性としての羞恥心の自覚のなさについて叱られたカリナはすごすごと部屋に戻り、ベッドで本を読みながらいつの間にか眠りに落ちて行った。
0
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる