聖衣の召喚魔法剣士

KAZUDONA

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37  ルミナス総合組合にて

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 ルミナス聖光国の中心部に向けて、ケット・シー隊員を連れて歩くこと一時間程。道行く人々や街の雰囲気はどこか暗い。珍しい恰好をしたカリナとそのお供の二足歩行する猫に誰もが一瞬足を止めて見入ってしまうが、すぐにまた暗い雰囲気を纏って歩き始める。思っていた以上に悪魔の影響は大きいらしい。

 そうしている内に総合組合の前に到着した。五大国と言われるだけあって組合の建物も大きい。隣には大聖堂、所謂教会がある。サティアは恐らくそこにいるのだろうが、先ずはカリンズの組合長ジュリアの姉である、ここの組合長に会う必要がある。カリナは書簡を取り出して、隊員と一緒に開きっ放しになっている扉から中に入った。

 内部の造りは何処の組合も同じだが、さすが大都市のものだけあって広い。カリナはその広さに少し驚いたが、周囲の雰囲気がどんよりしていることにすぐに気付いた。酒場ではまだ午前中だというのに酒を飲んでいる者もいる。装備からして冒険者達だろう。悪魔討伐が進まずにイライラしているのだ。

 カリナは彼らを見ない振りをして、右奥のカウンターへと向かう。冒険者組合の周辺にたむろしていた者達がカリナに声を掛けて来る。

「おい、お嬢ちゃん。ここはお貴族様の遊び場じゃないぞ」

「今は悪魔騒動で大変なんだ。冷やかしなら帰りな」

 不貞腐れた様な態度で彼らはカリナに悪態を吐いたが、カリナは相手にせずカウンターの受付嬢の所に向かった。

「あら、いらっしゃい。どうしたのお嬢さん? 何か依頼かしら。でも今は悪魔が出ていてそれどころじゃないのよね」

「私はカリナという。これでも冒険者だ。この書簡をカリンズの組合長から預かってきた。これをここのギルマスに渡して欲しい」

 首から掛けているAランクのギルドカードを見せ、ジュリアから渡されていた書簡を受付に手渡した。

「ええっ!? こんな美少女がAランクの冒険者なんて……。しかもジュリア組合長とも知り合いなのね。わかったわ、ちょっと待っててね」

 受付嬢は書簡を受け取ると、ぱたぱたと走って奥へと向かった。暫く此処で待つことにしたカリナに、後ろから先程の冒険者達が絡んで来る。

「へぇ、Aランクねぇ。偽造じゃないのか? こんな子供がAランクなんて査定のミスだろ?」

「だな、俺達でさえまだBランクなんだ。それがこんなお嬢ちゃんがAランクとはな。ランクを金で買ったんじゃねえのか?」

 カリナは何処にもこういう連中はいるんだなとうんざりしつつ、あのグレイトドラゴンズ(笑)を思い出していた。だが、主を馬鹿にされたケット・シー隊員は黙っていない。

「隊長は凄い召喚士なんだにゃ! お前達こそ控えおろうにゃ!」

「うお、猫が喋った! はぁ、召喚士だと? 使いもんになんのか?」

「何だ? ご主人様を馬鹿にされて怒ったのか? 猫風情に何ができるんだ?」

 カリナははぁー、と溜め息を吐き、絡んで来た連中を睨む。

「隊員止めておけ。所詮自分達で悪魔の討伐ができなくて鬱憤が溜まっている程度の連中だ。しかも見た目でしか相手を判断できないんだからな。相手にするまでもない」

「それもそうですにゃ。所詮その程度の連中ですにゃ」

「そういうことだ。私達には悪魔討伐という為すべきことがある。相手にするだけ無駄だ」

 バッサリと切って捨てるカリナの大人びた態度にBランクの冒険者達は怒りが頂点に達した。

「舐めやがったな小娘。ならお前が俺達よりも強いってことを見せてみろ!」

「喰らえ!」

 拳を振り上げてカリナに殴りかかって来た男と掴みかかって来た男の両方の動きを軽く避けて、顔面に掌底と、もう一人には左脚裏での蹴りが炸裂する。襲い掛かって来た二人はもんどりうって後ろに吹っ飛び、その場に転がった。

「よくも隊長に手を出そうとしたのにゃ。これでも喰らって大人しく反省すればいいにゃ。大地の精霊よ、こいつらを縛り上げるにゃ。アストラル・バインド」

 組合の木製の床から木が生えて来て、その蔦が二人の荒くれ共を縛り上げた。

「ぐおおおっ?! なんだこりゃ?」

「く、苦しい! しかもあんな華奢な身体で何て威力の蹴りなんだ!?」

 周囲にいた他の冒険者達もカリナが一瞬でBランクを叩きのめしたのを見て驚いている。騒然となっているその場へ、先程の受付嬢がジュリアによく似た、綺麗な執務服を着こなした女性を連れて現れた。

「これは……? 一体何事ですか?」

「まさかカリナさんが?」

 事態を見て驚くジュリアに似た女性。恐らく彼女がここの組合長だろう。そして受付嬢はカリナがBランクの冒険者達を締め上げているのを見て、口に手をやってあたふたしている。

「すまない。先に手を出されたのでね。これも自己防衛だ。冒険者の躾がなってないんじゃないのか?」

「そうにゃ、隊長は悪くないにゃ。先に襲って来たのはそいつらにゃ」

 周囲で事の顛末を見ていた冒険者達が、彼女達に事情を説明してくれたので、その場は何とか収まった。しかし、カリナに手を出そうとした二人の男は衛兵が来て連行されて行った。

 その後、ジュリアの姉である此処の組合長に案内されて執務室に向かった。

「ではカリナさん、此方へどうぞ。汚い部屋ですが、座って下さい」

「ありがとう」

「ですにゃ」

 テーブルを挟んで向かい合ってソファーに座る。隣にはケット・シー隊員が腰掛けた。部屋は彼女が言うほど散らかってはおらず、寧ろ綺麗に整頓されていた。ジュリアに似たその女性は薄い水色の綺麗なセミロングヘアーを後ろで縛っている。

「改めて初めまして、私はここルミナス聖光国の組合長を務めているローザと言います。妹ジュリアからの書簡であなたのことは充分知ることができました。先ずはカリンズを救って頂き感謝致します。それと先程の冒険者達の非礼を詫びさせて下さい」

 ローザは立ち上がって深々と礼をした。さすがにそこまで畏まられては困る。カリナはすぐに気にしていないことを述べる。

「いやいや、あなたのせいじゃない。顔を上げて欲しい。それにここには任務も兼ねて来たんだ。あんな無作法者のことまで謝らないで欲しい」

「そうにゃ。悪いのはあいつらにゃ。ローザは悪くにゃいにゃ」

「そうですか。ふふ、妹の手紙にあった通りの人みたいですね。では此方の状況などお話し致しますね」

 ローザはソファーに腰掛けると、受付嬢が運んで来た紅茶に口を付けた。テーブルの上には茶菓子が乗せられたお洒落なスリーティアーズも用意されている。聞けば彼女はジュリアとは双子らしい。道理でそっくりなはずである。違うのは髪と瞳の色くらいだろうか。

「遺跡に現れた悪魔は、影霊えいれい子爵ヴァル・ノクタリスと名乗っています。あなたからの情報にあった、これまでの悪魔の階級とは異なる者のようです。何とか逃げのびて来た冒険者からの情報です。子爵ということは従来の侯爵レベル。ここの組合にもAランクの冒険者は数名いますが、まだまだ討伐には至っていません」

 カリナはその言葉を聞きながら紅茶を飲んだ。隊員は既にお菓子に夢中である。

「影霊子爵ヴァル・ノクタリス……。最近斃した侯爵と同程度のレベルか。これは骨が折れそうだな」

「ふふ、勝てないとは言わないのですね。さすがです。これまでソロで4体の悪魔を屠ってきたのでしょう? しかし、この悪魔はこの書簡にもあった魔界兵団や使い魔をかなりの数引き連れています。いくらカリナさんが凄腕の冒険者でもソロでは分が悪いかも知れません。そこでここの街でも一番のギルドの冒険者達を紹介します。是非彼らと一緒に討伐に赴いて下さい」

「そうか、さすが五大国だけあって手練れの冒険者達がいるんだな。でもそいつらは討伐に既に向かっているんじゃないのか?」

「ええ、その通りです。そしてこの情報を持ち帰ってくれたのも彼らです。今は負傷を癒やすために教会にいます。あなたは聖女サティア様の捜索もされているのですよね?」

「ああ、ずっと行方不明だったサティアをエデンに連れ戻すのが本来の任務だからね。悪魔退治はそのついでだよ。しかし、その程度の悪魔ならサティアが出向けば何とかなりそうなものなんだけどな……」

 カリナがずっと疑問に思っているのはそこである。なぜサティアほどの神聖術の使い手、しかも彼女は聖女という更に上のクラスの強力な専用神聖術まで扱える、それが前線に立っていないのかである。

「そうですね……、それは御本人の口からお聞きするのが一番良いかと思います。この後教会に向かうのですよね?」

「ああ、サティアに会うのと同時に折角だからその高ランクギルドのメンバーにも会っておきたい」

「ではAランクのギルド、ルミナスアークナイツ光弧の騎士団に手紙を書いておきます。サティア様には……、カリナさんは顔見知りでしょうし直接お話をされるのが一番でしょう」

 ローザはその場で件のルミナスアークナイツというギルドのメンバーに向けて手紙を書き始めた。高ランクのギルドだけあって中々にお洒落なギルド名である。チェスターで出会ったシルバーウイングの面々も中々ユニークで実力者が多かった。今回も楽しい出会いになれば良いものだなとカリナは思った。

 紅茶を飲みながら、スコーンを齧る。今回は隊員は行儀良く食べているようである。そうしている内にローザは手紙を書き終えた。ギルドマスターの印を押して、封をされた手紙を受け取る。

「ではご武運をお祈り致します。この程度しか力になれないことを不甲斐なく思いますが……」

「いや、充分だよ。それよりさっきのような連中をしっかり躾けたほうがいい。折角立派な組合なのに、あんなのがいたら格が落ちるだろう?」

「そうですね、その通りです。悪魔騒動で仕事が上手くいかないイラつきもあったのでしょうが、今後は育成にも力を入れますね」

「それがいい、それじゃあまた顔を出すよ。サティアの状態次第では数日かかるかもしれないが、必ず悪魔は討伐する」

「ええ、とても心強いです。ジュリアはあなたに会えて救われたと言っていました。私も同じ気持ちです」

「それは討伐してからにしてくれ。これで負けたら只の情けない奴だからね」

 立ち上がり、お互いに一礼をして執務室を去った。カウンターの奥から出て来たカリナに、組合にいた冒険者達が集まって来る。

「凄い使い手なんだってな。頼む、悪魔を斃してくれ」

「さっきエイラさんも言っていたけど、何匹も悪魔を討伐して来たんでしょ? 悔しいけど私達じゃ話にならないの」

 エイラとは恐らく受付嬢のことだと気付いたカリナは、カウンター越しにこっちを見て手を振っているその女性に手を振り返しておいた。過小評価も嫌だが、余りにも過大評価されるのもそれはそれで居心地が悪いものだ。これで討伐失敗なんてことになったら、何を言われるだろうかと思う。

「ああ、ありがとう。できる限りのことはするよ。だから先程の連中の様に他者に迷惑を掛ける行為はしないでくれ。ローザが悲しむ。それに冒険者なら先ずは自分の力を磨くことだ。任された以上全力は尽くすが、負けることだってあるからな」

 最終手段の聖衣ドレスの力はあるが、それがなければ侯爵戦はあのままいけば負けていた可能性もある。それが魔界兵団やレッサーデーモンの様な使い魔を従えているのだ。かなりの消耗戦になるかもしれない。力のある仲間は欲しいところだ。

「そうか、そうだよな。俺達も今できることをやるしかない」

「そうね、腐っていても仕方ないわ。今は役に立たなくても次に似たようなことが起きた時には活躍してみせる」

「その意気だ。じゃあ私は教会に向かう。ルミナスアークナイツというギルドを紹介されたのでね」

「そうか、あいつらと一緒ならまだ希望もあるかもな」

「気を付けてね、お嬢さん」

「ああ、それじゃ」

「任せておくにゃ」

 冒険者達に見送られて組合の建物を出た。その右隣に巨大な大聖堂の姿をした教会がある。西洋によくある様なゴシック様式の建築だ。

  ゴシック様式は12世紀中頃からの建築様式である。特徴は 尖頭せんとうアーチにリブ・ヴォールト天井、フライング・バットレス(飛梁)やバラ窓にステンドグラスによる光の表現。軽やかで垂直性が強調される。代表例としてパリのノートルダム大聖堂や、ドイツのケルン大聖堂が挙げられる。

 カリナ達はルミナスアークナイツというギルドのメンバーとサティアに会うために、入り口の扉を開けて中に入って行った。
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