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第二章 王国奪還・記憶の煌き
34 運命に抗え!アーヤの決意
しおりを挟む国王は驚きと共に意味が理解できないという表情をした。そりゃ運命やら何やら言われてもわかる訳ないけどな。
「そ、それが、そなたの願いか? 運命とは一体…? いやしかし、第二王女とはいえ、大事な娘でありこの国の姫だ。…少々難しい話になるな…」
目を閉じて顎に手を添え、悩むような表情をするフィリップ国王。だろうな、予想通りだけど。魔眼の準備を一応しておくか。
(カーズ、魔眼ぶっ放してもいいですかー? 死の呪いを解いてもらって更に命を懸けて国を救ってもらっておきながら、なんと狭量な…。お姉ちゃんはもうキレそうです)
こいつ、ほんと短気だな。それは既にキレてる奴の台詞だろ。でも一応真意を暴こうか。
(待てアリア、魂の天秤を使ってまずはカマをかける)
(おっとそうでした、じゃあまずはそれでいきましょう)
「それは、あなたの解呪をして命を懸けてこの国を救ったとしても、俺のような所詮冒険者如きが姫を求めるなどおこがましいと?」
「いや、決してそのようなことではないのだ…。そなたの願いであれば何でも叶えてやりたいと思っておる! 嘘ではないぞ…」
「Doubt、嘘ですねー。何でも叶えてやりたいと言っているのもアーヤちゃんは別ということでしょう? そして冒険者如きと多少見下している。私のユニークスキル魂の天秤は誤魔化せませんよ」
まあ顔に思いっ切り出てたしな、俺でもわかるわ。ったく王族ってのは…、調子良さげに振る舞いやがって。結局本心はそれか。
「うぐ…、そんなことは思っておらん! そなたには感謝しておるのだ!」
これも嘘だろ。
「それもDoubt、腕が立つ冒険者達が運よく現れて国を救ってくれて、城が壊れた程度で済んで良かったと思っていますよねー?」
「なっ、なぜそんなことがわかる?! そなたは一体何者なのだ!?」
わかるんだよ、神の能力なんだから。
「私がどうこうという問題じゃないんじゃないんですかー? あなたの心の問題でしょうー? 私は弟カーズの願いを叶えてくれと言いましたよねー? それに喋れば喋るほどあなたの心の醜さがここにいるみんなに伝わることになりますよー? 王の威厳、全て失ってもいいのなら、どうぞいくらでも言い訳するといいですよー」
ドSめ、でもその通りだな。俺もいい加減ムカついてきたところだ…。周囲も王の態度に騒然としてきたしな。少し威圧するくらいいいだろ。
ゴオオオオオッ!!!
俺の体から嵐の様に魔力が吹き荒れる。文官達は腰を抜かし、誰もがその場に必死に踏み止まろうとする。
「俺が命を懸けて守ったこの国の代表がこんなものとは…。アーヤだけを連れて避難していれば良かったってことか…。俺は身分なんてクソだと思ってるんでね、あんたが王様だろうが何だろうが関係ない、俺達の運命を邪魔するってんなら斬る。この国や世界がどうこうよりもそれが俺にとって一番大切なことなんだよ…」
竜巻のような魔力を発しながらゆっくりと立ち上がり、ソードの柄に手をかける。
「ま、待て、それ以外にはないのか!? 叶えてやりたいとは思っておるのだが、しかし…」
ダメだこいつ、そりゃ宰相に見下されるわけだ。チッ、助けるんじゃなかったぜ…。どこの世界でも権力者って奴はクソしかいねえな。
「王よ!! 新たに宰相に任命して頂いたばかりのところ申し訳ない…、だがお言葉ですが、彼が居なければ今あなたの命もこの国も存在していなかったのですよ! 勿論私の命も…。それ程の大恩ある彼の望みを叶えてやれないなど、この国の威信に関わる! 是非私からもお願い申し上げる!」
オロスが突然大声で叫び、王に頭を下げた。やっぱ宰相になったのか、良かったな。
「オロス! 弁えろ! 確かにその通りだ。だが姫を冒険者に与えるなど、やはり過ぎた願いだとは思わんのか!」
こいつは長男のレオンハルトだったな、なるほど頭が固いってのは本当らしいな。ギロりと睨みつける。
「ぐ、何だその態度は! 立場を弁えろ!」
こいつも斬るか。名前負けしてる上に小物過ぎる、こいつが次の国王になっても碌なことにならんな。軽く嫌がらせの魔法を隠蔽して撃っておこう、さあ、受けろ! 創造魔法<ヘアールート・クラッシュ>お前の毛根はもう死んでいる。明日にはテュルンテュルンだ。
「では一騎当千の彼らを敵に回すというのですか!? この国など一夜にして滅びますぞ!」
さすがオロスだ、よくわかってるな。さすがにそんなことはしないけどさ。
「おいおい、物騒になってんじゃねーよ! いいんじゃねーのか? えーとカーズか? その見た目で男だったのは驚きだけどよ、あいつが来てくれなかったら国が滅んでたってのは事実だろーが。この部屋を見ろよ、とんでもない闘いをしたってことくらいわかるだろーがよ。オヤジ、それにそれを決めるのはアンタじゃねーだろ、アーヤの気持ち一つじゃねーのか?」
チャラい次男の、アランだっけか。こいつはなかなか話がわかるな、良いこと言うじゃないか。政治には興味がないとか言ってたが、よっぽど人心を理解してる。こいつが次期国王でいいだろ。俺にサムズアップして笑顔を向けてくる、度胸もあるな。俺がこれだけ殺気を放っているというのに。とりあえず少し魔力を抑えるか。
「私もアラン兄様と同じ考えです。それに彼等程の実力者との繋がりを私は失いたくはありません。先日までアリア殿達には、我々近衛騎士団も王国騎士団と一緒に稽古をつけて頂きましたが、異次元の腕前、私を含め誰一人触れることすらできませんでした。アーヤの意思を尊重するのは当然! 私達はもう大人なのです! そして私は彼らからもっと学ばねばならない。大魔強襲が近い今、王国の戦力アップは急務、それを台無しにしたいのですか!」
ほほう、お姉ちゃん、レイラ姫だったな。彼女も話がわかるな、ウインクしてくれたよ。しかし近衛騎士団も稽古つけたのか、間違いなく半殺しにされたんだろうな。でもいい流れになっては来た。
「う、うむ、お前達の言いたいこともわかるが…」
(カーズー、もういいでしょー、魔眼使っていいでしょー?)
こいつは全く…、短気女神め。だがアーヤには任せてくれと言われていたしな。
(ちょっと待て、流れはこちらに傾いている。それにアーヤの行動を見てからだ)
アーヤを見ると目が合う。しかし、何でローブみたいなの着てるんだ?
(アーヤ、もうアリアがキレて限界だ!)
念話を送る。
(うん、わかってる。あとは私がやらなければならないことだから。大丈夫、心配しなくていいからね)
「お父様!!」
意を決したようにアーヤが大声で王へ叫んだ。
「おお、どうしたアーヤよ? お前の気持ちはどうなのか、一応聞かせてくれぬか」
聞くまでもねーだろ、往生際が悪いな。この国王にもさっきの嫌がらせ魔法撃っとこう。毛根よ爆ぜろ! 大きく深呼吸をして言葉を紡ぎ始めるアーヤ。
「カーズと私は血の盟約によって神格を共有し、彼は命を削って私の命を救ってくれたのです。そして彼が言ったように、私達は互いに何千年という時を超えた運命の相手! 全てを思い出した私にとって王族という地位は重荷でしかない、それに私は王族の器ではありません。これからは冒険者となり、彼と彼の仲間達と共に世界を見てみたいのです!」
バッ! っとローブを脱ぎ捨てるアーヤ。その下にはアリアが用意した装備が装着されている。上半身は首から肩回りに短めのポンチョのような形のマントが付いているが、俺のバトルドレスとほぼ同じような作り。だが腰から下のコートのような部分は燕尾服の様に三角形の切れ込みが入っている。プレートもついてはいないので俺よりも軽装な感じだ。全体的に薄い桜色の様なピンクが基調となっている。ピンク好きだったな、そういえば。腰には細剣と短剣、ドラゴングローブは同じだが銀色だ。左腕の肘から下の部分には黄金色の籠手にまるで亀の甲羅のような形状で攻撃を受け流しやすく加工された黄金のバックラー。同様にハイヒールのような形状の膝下までのペガサスブーツ。踵部分には金色の羽のデザイン。腰から下はスカパンって言う奴かな? ミニスカートくらい短めだがブーツの下に白く長めのニーソ? を履いており、アリアのデザインらしく太腿に絶対領域を作っている。頭部は既に見えていたが、俺の神衣と似たデザインの真紅のサークレットが輝いている。おー、カッコイイじゃないか! しかもローブを脱ぎ捨てるあの動作、俺もやってみたい!
(うん、カッケーな! よくやったアリア、ちょっと魔法少女ぽいけど似合ってる)
(でしょー、魔導騎士って感じで良くないですか?)
(ああ、グッジョブだ!)
(フフーン、さてアーヤちゃんの決意を見届けましょうかー)
(そうだな、頑張れ。アーヤ)
「そ、その恰好は…?!」
王様びっくりしてるな。
「アリアさんに作って頂いた、オリハルコンで出来た私の冒険者装備です。私は彼、カーズと運命を共にする覚悟です。ですが決して死ぬという訳ではありません。私の中には彼が与えてくれた熱く真紅に燃える神格がある。今の私は不老不死の身体、彼としか共に歩むことなどできない。そして、これが私の覚悟!」
短剣を抜き取り、長く美しい銀色のロングヘアーを肩までの長さまでバッサリと斬り捨てるアーヤ。周囲は騒然となる。そうだ、前世ではいつもそのくらいの長さだったよな、懐かしいよ。
「「なっ…!」」
王様と長男が一番驚いてるな。次男とお姉ちゃんはめっちゃ笑顔じゃないか。器の違いだな。
「私は今より、アーヤ改めアヤ・ロットカラーを名乗ります。これこそ我が真名! これからは冒険者アヤとして生きていきます!」
「アーヤよ、しかし!」
「くどい! もし認めて頂けないと言うなら、ここで自害する。よろしいか!」
アーヤ改めアヤの決意の言葉が響く。強くなったんだな、すごいよ。自害はさせないけどな。
(やりますねー、アヤちゃん。驚きです!)
(そうだな、これでも首を縦に振らんのなら一緒に最大出力で魔眼だ、精神が粉々になっても構わん。いいな!)
(当然でしょうー、勇ましい妹ができて感動しているというのに!)
数刻考え込んでいた国王だが、もはやどうしようもないと悟ったのだろう。諦めたように口を開いた。
「はぁー、わかった。お前にそこまでの覚悟があるのならば、もはや止めることなどできん。アーヤ、いやアヤよ、険しい道となるだろうがよいのか?」
「ええ、望むところです!」
力強く答えるアヤ。ああ、俺の運命の人はなんてカッコイイ女性なんだろう。
「父上! よろしいのですか!?」
長男、しつこいな。こいつシスコンなのかよ? きっしょいな。もう一発撃っておこう。
「おいアニキ、しょうもない水を差すんじゃねえ! アーヤ、いやアヤのあの覚悟を見ただろうが。それでもまだグダグダ言うんなら俺が相手になるぜ!」
次男こいつ、チャラいとか思ってスマン、モテるに変えとくわ。
「その通りです。アヤは自らの生き方に最愛の人をも見つけたのです。笑って送り出すことが我らの為すべきことでしょう」
うん、お姉ちゃんもいい女だね、アリアにこってり稽古つけてもらうといいよ。
「…っ! そうだな…、お前達の言う通りだ…。だがカーズとやら、妹を悲しませることは許さんぞ!」
漸く折れたか。末っ子はよくわからんって顔してるけど、可愛いな。お前はこんな小物になるなよ。で、俺を許さんだと? 舐めてんのかこのガキは?
「黙れクソガキ、お前のような身分をかさに着たお山の大将気取りの小物が吠えるな。死ぬ覚悟があるのならいつでも相手になってやるよ、お前如きにその度胸があればだがな」
「くっ…、この邪神殺しが…」
うん、もういいや、相手にするだけ無駄。その二つ名はいらんけどな。
「あいわかった、ではカーズよ、アーヤ、いやアヤをよろしく頼む。今更だが、自らの狭量さを恥じるばかりだ、許して欲しい、この通りだ。そして改名したとはいえアヤはこの国の王女、そなたは我らの親族にもなる。この国に来る際はいつでも顔を見せて欲しい。それに詫びも含めて、私が叶えられる願いがあればいくらでも言ってくれぬか? そなたは熱き心を持った救国の英雄、手ぶらで帰すことなどできぬからな」
(アリア、天秤は?)
(さすがに改心したみたいですねー、嘘は吐いてないです。でもやりましたねー、アヤちゃんカッコよかったですー)
(そうだな、じゃああれ貰っとくか)
「では俺達は中立都市を拠点として活動するつもりでいる。そこに仲間や姉、アヤとも一緒に住めるような家があればありがたい。そして親族と言っても俺は利用されるつもりは毛頭ない、そこは理解してもらいたい」
「むぅ、そなたは実に豪胆かつ強い意思を持った人物よな。そして自分の理想を貫ける強さを持っておる。そんなことでよければいくらでも叶えよう。アヤも住むことになるのだ、中立都市の一等地に豪華な屋敷を用意しよう。ククリ、リア! お前達も屋敷の管理と彼らの世話係として同行せよ、給金はこちらで出す、よいな!」
「「は、はい!!」」
あ、気付かなかったけど後ろの方にいたのか侍女コンビ。よしとりあえずはオールOKだな、しかも家の管理までしてくれる美人メイドさん付きだ。予想外だったが、アヤもずっと一緒だった側付がいるのは嬉しいだろう。
「ではリチェスターには都市長へ書簡を出しておく。侍女2人は先に新居へと移り、準備をしておけ。馬車を出そう、オロス、よいか?」
「は、仰せのままに!」
うむ、オロスもありがとう。さてもう一つだな。
「王よ、上位魔人が各国で戦が起こるというようなことを言っていた。もし他国の怪しい動きや不審な出来事があれば調べて欲しい。そこには裏に魔人が介入している可能性が高い、各国に間者を放つなり手紙を出すなり手を打って欲しいのだが、頼んでもよろしいか?」
これはマジ重要。
「むぅ、そんなことが…。分かった、急ぎ各国へ便りを出そう。何かあったときにはすぐ伝えるようにする。他には何かあるか? 何でも言ってくれて構わんぞ」
「いや、今は特にはないが…、そうだな、大魔襲撃まではこの国に滞在するつもりでいる。出来ればそれまで城内で寝泊まりさせてもらえるならありがたい。俺の姉は大食らいでね、宿屋が潰れる可能性があるんだ」
うん、これも結構切実。
(カーズ、酷いですよー)
事実だろうが。
「そんなことか、部屋ならいくらでもある、後程準備させよう。うむ、そなたは常に先を見据えておるのだな、状況を的確に判断するという決断力も。どうだ、私の代わりにこの国の王をやってみぬか? 私などよりもよほど資質もカリスマ性もある、考えてはくれんか?」
「父上! 何を世迷言を!!」
あ、まだいたんだ雑魚兄貴。てか国王とかいきなり持ち上げ過ぎだろ、とち狂ったのか? そんなの面倒でしかない、やってられるか。それにさっきまでは我ながら超利己的な振る舞いをしてたってのに。
「黙れ、レオンハルト。お前は未熟過ぎる、まだまだ学ばねばならん。一度外の世界を見て来い、これは王命だ」
「く…、承知致しました…」
もうけちょんけちょんだな、針の筵だ、更に明日禿げるというのに。王様も調子がいいもんだが、俺にとっては動きやすくなった。ハゲ魔法は解除しといてやるか。結果良ければってやつだ。
「気持ちはありがたいが、俺は権力や地位には興味がない。王族が責任をもって民の安寧を守るべきだ。それがアンタ達の為すべきことだろ」
「ふむ、やはり揺るがんか。だが気が変わったらでいい、いつでも言ってくれ。それまでは私達が為すべきことをすると誓おう」
いや、そんな気全くないから。ま、とりあえず一件落着か? 人間相手のが小賢しい分よっぽど疲れるな。やっと緊張感が解けた玉座の間の雰囲気が穏やかになった気がする。
「おいカーズ、よくわからんけど何かすげーことになったな!」
「姫様もこれから一緒ってことよね? ヤバい、楽しそう!」
忘れてた、珍しく静かにしてたからなーエリユズコンビ。展開に付いて来れずに意味わからんかったんだろうな。
「カーズ!!!」
ドンッ!
「おぅっ?!」
喜びながら走って飛びついてきたアーヤを抱きとめる。
「私頑張ったよ! 見ててくれた?!」
やっぱあれだけ啖呵を切るのはきつかったんだろうな。
「ああ、ちゃんと見てたぞ、頑張ったな…」
短くなった髪の毛、懐かしく感じるその頭を優しく撫でる。
「これからずっと一緒だから! どこに行くのにも絶対!」
涙声になってるな。うんうん、よく頑張ったと思う。あーこれ貰い泣きするわー。顔を上げて目を瞑るアヤ。恥ずかしいけど、ここは応えないとな、漢が廃るってもんだ。小さな桜色の唇を奪う。
「「「「おおおおおおおーー!!!」」」
5000年か、実感はないけど、ここまで来るのにそれだけの時間がかかったんだな。因果や運命、記憶はなくともずっと抗い続けて乗り越えたんだ。今度こそは必ず護る、こればかりは絶対だ。陳腐な言い方かもしれないが、例え世界を敵に回しても、だ。俺ももっと心も強くならなけれならないな。兎に角、俺達の永き時を超えた試練は決着、結ばれたんだ。良かった良かった。めでたしめでたし、ってまだ終わらないけどね。
そうしてその場は、誰もが俺達を拍手で祝福してくれる形となり、この大騒動の謁見は幕を閉じた。
第二章 王国奪還・記憶の煌き 完
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