OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第三章 大奥義書グラン・グリモワール

36  邪神殺し

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 ギルドに到着。やっぱ王都だけあってデカい。中立都市の何倍もの大きさの総合組合だ。因みに王城から近い街の中心部に当たるここが本部。国内にはあと東西南北に4つの支部があるとのこと。国民数が多いんだし、1つだけだとそりゃあ全部収まらないよな。それだと城みたいな大きさになるだろうし、色々な職業の人々が集まる訳だし、広い国内から遠距離を移動して来る羽目になるのはさすがにね。まあ兎も角ここは中心部にある本部、それだけに一番デカいんだろう。俺達はここで試験の案内を受けることになっているってことだ。エリユズが言ってたみたいに意味なく絡まれたくはないんだけど、入らないことには始まらないもんな。しかし、扉も大きいな。

「おし、じゃあ行くぜ! 頼もー!!!」

 威勢よく扉を開けるエリック。道場破りかよ。ユズリハが続けて入り、俺とアヤは後ろから着いて行く。アヤには認識疎外がかかっている、顔が見えても誰かなのまでは判別できない。元姫様がこんなところにいるなんてバレるのはさすがに目立つし騒ぎになるしね。内部は確かに大きいし窓口もたくさんあるが、造りは中立都市のギルドと同じみたいだ。右手側に冒険者の窓口がある。なるほど、さすが国営、どの国でも規模が違っても、同じように造ってあるんだろうな。便利だ、迷わなくて済むよ。

 バーン! と勢いよく扉を開けたせいもあるだろうが、当然のように誰もが手を止めて俺達に注目する。何であんな入り方するかなあ。ざわざわとしていただけだったが、どんどんと大騒ぎになっていく。

「おお! 救国の英雄達だ!」

「魔人を斃すとかスゲー!」

「パレードで見たぞ!!」

「国が元に戻ったのも彼らの御陰だってよ!」

「拝んどこうぜ!」

「私は握手してもらう!!」

 等々、生産者や商人のギルドの人達は大騒ぎ。大勢に囲まれて感謝を述べられたり、握手を求められたりと悪い気はしないけど照れくさくて恥ずかしい。

「なあアヤ、売れっ子芸能人の気持ちってこんなんなのかな?」

「あはは、そうかもね。実際はわからないけど」

 4人だし、認識疎外のかかっているアヤにも握手を求めて来る人達がいる。多分アリアと間違えてるんだろうけど、遠巻きに見ただけじゃ分からないこともあっただろうしね。困りながらもちゃんと対応している辺りはさすが元王族。

「ゲーノージンって何?」

 とユズリハに聞かれたので、「有名人の別名みたいなもんだよ」と適当に答えておいたが、「じゃあ私達はゲーノージンね!」とご機嫌になっていたので良しとしとく。

「すまねえ、俺達は向こうに用事があるんだ。悪いが空けてくれないか?」

 とエリックが言ってくれたので、漸く冒険者の窓口へと向かうことになったのだが…。先程とは打って変わって、こちらに来ると周囲の奴らからスゲージト目で見られている。そしてヒソヒソと話す声が聞こえてくる。

「あー、あいつらかよ。調子に乗ってやがるな」

「前にいる2人って以前来たことなかったか? Cランクの雑魚だった奴らじゃねーか」

「マジかよ、あいつらが救国の英雄? マジウケるな」

「魔人って実は大したことねーんだろ? 所詮は噂だな」

 寧ろわざとらしく聞こえるように言っている節さえある。品定めをするような不躾な視線が突き刺さる。うーん、予想以上に腐ってるなあ。アヤの国民に向けた念話が聞こえていただろうに、手助けにも来なかった連中だしな。無視に限る。

「あーあ、相変わらずね、ここは」

「全くだ、うっとうしくて仕方ねえ」

 この2人の言った通りだな。確かにこれはうっとうしい。こいつらの方が魔人に乗っ取られやすいんじゃないのか? 中立都市はみんな優しかったからなあ、ギャップがすごいわ。鑑定したが、どいつも平均20あるか程度。弱い犬程よく吠えるってのはどこでも一緒か。

「おい見ろよ、あの赤髪だろ? 例の"邪神殺し"ってのは」

「マジかよ、あんなヒョロい奴がか? ていうか女じゃねーのか? あの顔見ろよ」

 おっと今度は俺のことかー。陰口程度どうでもいいけど、その胸糞悪い二つ名は誰が広めたんだよ…。こいつら全員毛根破壊してやろうかな(笑) エリユズを先頭に、しょうもない陰口を無視してカウンターに向かうと、道を塞ぐように4人、あからさまにガラの悪そうな奴らが絡んできた。あーあ、めんどくさいなあ。中立都市ではなかったテンプレ展開がここで起きるとは…。鑑定、Aランク3人にBランク1人か。リーダー格の犬の獣人が112、取り巻きのこいつは人間か、この出っ歯が102、そして性格悪そうな女が108、Bランクは45か。絡んで来るのは勝手だけど、言葉選ばないと死ぬよ、君達。そして犬獣人の男がエリックに因縁をつけ始める。

「よう、エリッコだったっけか? 久しぶりじゃねーか、まだ生きてたのかよ。しかも救国の英雄だと? 雑魚が何調子に乗ってんだ? ああん?」

 何というベタな科白、死んだなこいつ。エリックのレベルがわからないのか? 獣人かあ、でもこんな奴はモフりたくないなあ。

「えーと、ワンワンうるさいが誰だっけか? ザコライスだったっけ? 最近物忘れが酷くてよ、悪いな」

 短めの金色の髪をした頭を掻きながら、適当に答えるエリック。煽るなあー、成長して余裕もあるんだろうけど。

「テメエ、俺の名はザコジャイだ、忘れてんじゃねえぞ!」

「ぶふー!!」

 ヤベえ、思いっ切り吹いてしまった。ザコに変わりねーじゃねえかよ。ザコいジャイアンか? そういやこの国の人は変な名前が多いんだったな、忘れてたわ。

「アニキ、こいつらAランクの試験を受けに来たでゲスよ。そこで実力の違いを見せつけてやるでゲスよ、ゲスゲスゲス!」

 何その語尾? しかもすげえ笑い方。

「お、おうスネゲス。そうだな、あとでじっくりとAランクの実力を見せてやるよ」

「ブーッ!!!」

 今度はスネオでゲスか? キツイ!! こいつらの親はどんなつもりで名前つけたんだよ? 悪意しか感じねえ! もう腹筋が痛いんだけど!

「カーズ、気持ちは、分かる、けど…。アハハハ! 我慢だよー」

 アヤ、笑いを堪えながら言ってもまるで説得力ないぞ。寧ろ君がこの国に生まれて変な名前を付けられなくて良かったと心底思うよ。

「へえー、身の程知らずにもAランクの試験受けるんだ? ならわたくしの相手はあなたということかしら? 出来損ないのハーフエルフさん。逃げるなら今のうちよ、オーホッホッホ!!!」

 今度は何だ? 手の甲を頬に添えながら、まるで絵に描いた貴族の悪役令嬢のようなオホホ笑い。現実で初めて見たぞ。こいつはよく見ると純粋なエルフか、耳がユズリハより長いしな。ハーフを見下してるのか? 器が小さい…。しかしなー、その露出の多いドレスみたいな装備は何なんだ? 戦いに行く恰好じゃないだろ。しかもさすがに縦ロールまみれの髪型はキツイ! 薄い浅葱色あさぎいろの毛色だが、もうコッペパンを吊るしてるようにしか見えねえよ!

「えーと…、オバサン誰だっけ? 私もエリックと同じで物忘れが酷いのよねー、イヤミタラシッコだったっけ?」

 ユズリハも動じてないな。逆に煽ってるし。ユズリハは若いけど、エルフって長命なイメージだしな。彼女からしたらオバサンってことか。

「イヤミーナよ! あなたわざと間違えたわね!!」

「ぶほっ!!!」

 ダメだ、もう勘弁してくれ! 笑い殺す気かよ! こいつら性格も名前の通りじゃねーか! んで、あと1人Bランクがいたよな?

「お姉様、こんな下賤な輩にムキになってはいけませんわ。折角の品位が損なわれてしまいます」

 うん、女みたいな恰好してるけど、どう見ても男じゃねーか。野太い声だし、青髭の毛根跡で口回りが酷いぞ。品位って、欠片も感じないんだが…。ていうかお前ら貴族の位貰ってないだろ、ユズリハの方がこう言っちゃ何だが身分的には上だぞ。

「そ、そうねネタミラ。わたくしとしたことが少々取り乱しましたわ」

「ゲフンゲフン!」

 今度はネタミ野郎かよ。何なんだこのお笑い四天王みたいなのは? 一発芸人にも失礼だよ。でもね、もう何となくわかって来たぞ、名前が痛い奴ほど中身も痛いってことが。鑑定したときはレベルしか見てなかったからなあ、でも名前見なくてよかった。意味なく急に吹くとこだったよ。

「あのBランクは私の試験のときに指名するね。私の大切な仲間をバカにして…。キモいし、泣かせてやるから」

 あーあ、アヤを怒らせちゃったよ。もう知らね。それに俺は別に誰が相手でもいいしなあ。

「おい、邪神殺し! テメエさっきから笑ってんじゃねーぞ! どうせただのホラだろ? 女みたいな顔しやがって。お前は俺様が直々に相手してやるぜ。女みたいに泣くんじゃねーぞ!」

 俺を指差してきたので、誰のことかな? って感じで後ろを振り返って探す振りをする。

「どこ見てんだ! お前だよ、わざとらしく誤魔化すんじゃねえ!」

 バレたか、でもこいつエリックと勝負する気だったんじゃないのか? まあいいか、誰でも大差ないしな。

「あ、ああ、じゃあよろしくな、ザコシショー。でもエリックの相手しなくていいのか? 本当の声を聞かせておくれよ」

「「「ブフー!!!」」」

 ごめん、俺も便乗しちゃったよ。でもこんなネタの宝庫でボケないのは失礼じゃないか? そして3人ともありがとう、ウケてくれて。でも笑い過ぎはダメだよ。

「ザコジャイだ! 何だその歌詞みたいな台詞は! 舐めやがって、あとで覚えてろよ邪神殺し! 行くぞお前ら!」

 捨て台詞まで名前のまんまとは、最早尊敬するよ。ぞろぞろと去って行くお笑い四天王。コントが終わったところで受付カウンターに到着。受付のカレンさんという黒髪の女性から、既にうちのマスターのステファンから通達を受けており、試験内容はやっぱりAランク相手に勝負して勝つことだった。ついでにアヤの登録書類も済ませた。

「あいつら死ねばいいのに、仕事の邪魔で迷惑してるんですよ。マジ死ねばいいのに…」

 とカレンさんがボソッと口にしていて、ちょっと怖かった。ユズリハの予想は外れた訳だが、俺達のGPギルドポイントがとんでもなく貯まっていたらしく、カレンさんに連れられて、4人でこちらのギルドマスターの部屋に案内された。ソファーで座って待っていたのは、現役でもやれるんじゃないかというような巨漢で筋骨隆々な中年男性。ステファンとはまた違った意味で雰囲気がある。俺達は彼の対面に座った。

「よく来てくれた。ここ王都本部のギルドマスター、パウロだ。さて、ステファンから通達は受けている、君達は相当の手練れだと。それに今や救国の英雄でもあるしな。そしてアーヤ姫、いや、今は改名されてアヤと名乗っておられるのでしたな。しかし本当に冒険者になられるのですね。国王からは既に聞いておりますが、魔法の天才とはいえ大丈夫ですか?」

 おお? 認識疎外を見破るとは、この人もさすがギルマスってとこか。いや、でも登録の書類見たらわかるか。

「ええ、大丈夫です。訓練は受けています。そして試験の相手はさっきのネタミラでお願いします」

「承知致しました。では残りの3人は先程絡んできた奴らで構わんか?」

 まあそうなるか。

「俺はいいぜ、どうせボコボコにして勝つしな」

「私も問題ないわ。以前の借りも返してやるから」

 嬉しそうだなー、しかも悪い顔してるよ。

「ああ、俺は別に誰が相手でもいい。だがあんな奴らをのさばらせてていいのか? 全体的に雰囲気も悪かったし、あいつらが原因じゃないのか?」

 特に私怨はないけど、あの態度はさすがに目に余る。

「うむ…、面目ないがあれがウチのトップ連中だからな。しかも自分達のランクを超える冒険者が出て来ないように陰で新人を潰したりもしてやがる。だから碌な戦力が育たないんだ、目立つと目を付けられるから誰も逆らおうとしない。そのせいで高ランクの任務が達成できない。あいつらは高ランクになってからは楽な任務しか受けようとしない。こちらも色々と困っていてな」

 なるほど、思ったよりたちが悪いな。問題児のレベルじゃない。ランク制とはいえそれを権力の様に振りかざすのは俺が一番嫌いな行動だ。

「ギルマスとしてはそれでいいのか? アンタの権限で冒険者の権利剥奪とかできないのか?」

 うんうんと頷く3人。

「それが出来ればいいんだがな、残念ながらそんな権限はないんだ。"冒険者よ自由であれ"と言ってな、無理矢理剥奪となると問題になる。面目ない…」

 良い言葉だな。でもそれを理由に好き勝手やっていい訳じゃないだろう。自由ってものには責任が必ず付いてくるものだ。それにステファンと、このパウロの思惑は何となくわかった。

「要するに、試験という名目で再起不能にしろってことか? そうすればあいつらがいなくなるし新人も育ちやすくなるってわけだ。当たらずも遠からずだろ?」

 利用されるのは嫌だけどなあ。しかしステファンには世話になったしな、悩む。

「済まないがそういうわけだ。なるほど君がカーズか、ステファンの通達通りの切れ者だな」

 いや、誰でもわかるだろ…。何でみんなそこまで俺を持ち上げるんだよ。

「マジか、じゃあ手加減しなくてもいいよな!」

「そうね、手足の数本くらい問題なしでしょ!」

 エリユズ…、こいつら、嬉々としやがって。レベル差考えろよ、どんだけ根に持ってんだ?

「いやいや、やめろ。要は実力差を見せつけて鼻っ柱を精神的にへし折ればいいんだよ。お前らは殺しかねんから怖い。それにアヤにそこまでさせたくない」

「「ええー…」」

 何でこういうときは息ぴったりなんだよ?

「私もちょっとスプラッタは嫌かなー」

 はい、その通り。ということで適度にボコるでいいだろ。

「悪いが、人道的にもさすがにそこまでは約束できない。精神的に立ち直れないくらいの衝撃を与えればいいだろ? それにレベル差からして普通に相手するだけで充分だと思うぞ。そういうことでいいだろ?」

「そうか、わかった。済まないな、手を煩わせることになって。Aランク昇格は問題ないとして、君達のGPからSランクの資格も充分にある。そこで大魔強襲スタンピードの撃退をSランク試験とさせてもらっても構わんか? 既に国に許可を取ってもある」

 おっと、やっぱそのくらいのレベルだよな。数百年規模の天災なんだし。でも折角だし受けてもいいな、損はしない。ていうかAランク試験はもうマッチポンプみたいになってるじゃないか。はあ、仕方ないか。

「わかった、じゃあそれで頼む。エリユズもそれでいいだろ? それにアヤの試験もあるんだしな」

 毎回なぜ俺が仕切らなければならんのだ。キャプテンとかゲームメイカーをやってたせいでいつの間にかこうなるんだよな。

「しゃーねー、ウチの大将の決定だ、従うぜ。それにSランク試験も受けれるならラッキーだ」

「そうね、ウチの大将が言うことは大抵正しいし。Sランクも頂きよ」

 その大将ってやめてくんねーかな。邪神殺しで既にお腹いっぱいなんだよ。

「じゃあ私も試験頑張るね。みんな一緒に受かりましょう!」

 アヤの締めの言葉で妙な会議は終了。そしてこれから俺達のAランク試験とアヤの冒険者登録試験が幕を開けることになったのだった。


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