OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第三章 大奥義書グラン・グリモワール

37  Aランク昇格試験 その1

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 冒険者ギルドの裏口にある、まるで闘技場コロッセオのような舞台に移動する。王都の本部だけあって中立都市と違い舞台もデカい!「一番手は譲らねえぞ」というので早速舞台に上がるエリック。さすがウチの突撃隊長、別に順番は気にしないのでいいんだけどね。「はいはい、さっさと片づけてよね、後が閊えてるんだから」とユズリハ。

 俺達は舞台のすぐ近くの観客席に3人揃って座った。Aランク試験だけあって、冒険者だけでなく他のギルドや一般の人まで見物に来ていて満員御礼だ。バトルの余波が飛んでこないように俺はアリア直伝の神気物理、魔法結界を観客席を守るように張っておいた。まあ楽勝だろうけど、手加減できるのかなーあいつは。ちょっと心配。

 俺達の側にはカレンさんとここのギルマスのパウロに他の支部のマスター4人までも座っている。しかもいつの間に来たんだか、王様が新宰相オロスを連れて来てる。それにアヤの兄弟姉妹、クレア新騎士団長までお出ましだ。アリアに騎士団の稽古を任せて来たんだとか。でもなあ、王様が来たらダメだろ。みんな騒然としてるよ。こんな連中が周囲にいると落ち着かない。

「なんで来てるんですか…? 王様がこんなとこに来たらダメじゃないのか、暇なの?」

「ハハハ! 英雄達の晴れ舞台、更にアヤの冒険者デビューなのだ。それに実際にお前達の戦う姿を目にしていないのだからな、実は楽しみにしていたのだぞ!」

 親バカか! しかもこんな連中と一緒に居たら圧力しか感じねえよ。アランやレイラ、呼び捨てでいいと言うのでお言葉に甘えさせてもらった、末っ子はお留守番らしいけど王子や姫まで…。俺達の試験は兎も角アヤが心配というか可愛くて仕方ないんだろうな。当人は困った顔で頭を抱えてるけど。もうここはVIP席みたいになってる。でも御陰でここには下らない野次が飛ばないから良いことだ。考えたら負けぽいから気にしないでおく。一応俺はこの王族と親族になってる訳だしな、不本意ながら。まあまずはエリックの試験に注目しよう。

 舞台の中央でストレッチを終えて、腕を組んで仁王立ち。レベルも890、最早異常な風格があるよ。そして遅れてスネゲス(笑)が舞台に上がって来る。102じゃどう足掻いても勝てないだろうけど、死なないようにくらいは祈っといてやるか。

「ゲスゲスゲス、怖じ気付いて逃げ出さなかったでゲスか。その勇気に免じて細切れにしてやるでゲスよ、ゲスゲスゲス!」

 うん、キツイ。どう育ったらその口調になるんだ? もうそこが一番の謎だわ。俺の周囲もさすがに笑いを堪えようと必死だよ。こいつが鑑定持っててもこの実力差は視えないだろうしな。

「あんな下郎がAランクとは、冒険者とは頭がおかしいのですか?」

 さすが近衛騎士団団長、ごもっともです。

「あのねレイラ、あいつが相当おかしいだけだからね。一括りにしないでくれな」

「そ、そうか。済まないカーズ、確かにそうなのでしょうね」

 ツッコミ入れ出すと止まらなくなりそうだしね。試験に集中しよう。

「うーん、虫の鳴き声が聞こえるな。耳がおかしくなったみてーだ」

 さすがエリック、軽く流してるなあ。

「ではAランク昇格試験、エリック・タッケンとスネゲスの試合開始!!!」

 パウロが大声で合図を告げる。腰から2本の片手剣を抜くゲスゲス。へえ、二刀使いか、エリック相手にどう戦うんだろうな。因みにエリックはバルムンクを抜く様子はない。

「なんでゲスか、さっさとそのバカみたいなデカい大剣を抜くでゲス!」

「馬鹿か? なんでお前程度に俺の愛剣を抜く必要があるんだよ。剣が穢れるだろうが」

 うん、そうだね。素手で充分お釣りがくるよ。

「舐めてやがるでゲスね、八つ裂きにしてやるでゲスよ!」

 ダッシュで二刀を振りかざしながら距離を詰めていくゲスゲス。ほー、Aランクだけあってそこそこスピードはあるんだなあ。

 ガキィン!

 右の人差し指で斬撃を防ぐエリック。あれは…、アリアが小枝に魔力をコーティングしてたやつか。すげえな、体内の魔力の緻密なコントロール。相当難しいぞあれ。観客達が大騒ぎし始める。そりゃそうだろうな、指で剣を止めたんだ。しかもあれ神様がやってた技術だからね。

「ななな、指一本で!? なんでゲスかそれは!?」

 おー、驚いてる、当たり前だけど。

「ん? 教える義理はねーよ。しかも止まって見えるぜ。で、もう終わりか?」

「くぅ…、どうせまぐれでゲス、本気でいくでゲスよ!」

 二刀をぶんぶんとそれなりのスピードで振り回しながらエリックに怒涛の斬撃を浴びせるスネちゃま。だが手数が多くとも全部人差し指一本で悉く防がれる。異次元のレベルに観客達は言葉を失っている。

「おいおい、エリックすげーな! 多少剣術を齧った程度の俺でもとんでもねえのがわかるぜ」

「ええ、アラン兄様。我々も稽古で見せつけられました。彼は剣士でありながら魔力のコントロールさえもあの領域。騎士団の誰一人としてあのガードを崩せなかったのです」

 へー、あいつそんなとこで俺TUEEEしてたのかよ。でもあの技術は学ぶべき点が多いだろうな。

「エリックすごいね! 不器用そうに見えるのに、あんなことできるなんて」

 思ったことをストレートに言っちゃうのは変わらないなあ。

「アヤ、それは言ってやるな。確かに最初会ったときは不器用だったんだけどな」

「あーあ、調子に乗って。さっさと潰したらいいのにー」

 ユズリハ、もう飽きたんだな…。次は自分の番だからさっさと終わらせて欲しいんだろ?

「はあはあ…、何でこんな雑魚の指でアッシの剣が弾かれるんでゲス…。武技も全く通用しないでゲス…」

 いや、雑魚はお前だから。エリックが相当手加減してるのがまだわからないのかよ。

「うーん、拍子抜けだな。もう飽きたし、ここらで終わらせてやるよ」

 お、やっと終わるか。

「うるさいでゲス! これからアッシの本気を見せてやるでゲス!」

 肩で荒く息をしながら吠えてるが、もう本気だっただろ? はあーと大きく息を吸うエリック。

「うるせえええええええ!!!!!!!!!!」

 ビリビリビリッッ!!!

「「「キャアアアー!!!」」」

「「「うおおおおっ!!!」」」

 観客席まで余波が伝わるほどの咆哮。これが習得した獅子の咆哮レオ・ハウリングってやつか、初めて見たが神気結界張ってなかったら観客みんな失神してるな。とんでもなく強烈な威圧だ。ここのVIP席の連中には俺が咄嗟にもう一段階強固な神気結界を展開したからまるで影響はないが。

「う、ああああああ…。な、ななな…」

 あー、完全に戦意喪失だ。終わりだな。足がガクガクじゃねーか。

「お前らは新人潰したりとか好き勝手やってたらしいからな、これで冒険者人生は終わらせてやるよ。今迄の行いを一生後悔するんだな」

 おいおい、殺す発言してるぞ。

「エリックー! さっさと殺しなさいよー!」

 煽るんじゃねえ、ユズリハ! どんだけ血の気が多いんだよ!

 フッ!

 一瞬で移動し、至近距離まで詰めるエリック、へえあれが縮地ってやつか、俺の光歩とは違うが相当速いな。魔力を更に集中させた人差し指を恐怖に引き攣っているスネゲスの額に近づける。

「あばよ」

 メコッ!!

 とんでもない威力のデコピンが眉間に炸裂したと同時に、舞台の外の神気結界までの数十メートルを吹っ飛ぶスネゲス。

 ドゴオオオオーーーーン!!!!

「ぐげあああああああああ!!!!」

 結界に叩きつけられ、そのまま失神した。あーあ、眉間から頭蓋はヒビだらけだし全身の骨も粉々だ。インパクトの瞬間に一気に全身に圧縮した魔力を流したな。デコピンの音じゃなかったし、メコッて何だよ? これは間違いなく再起不能だろ…。手加減してもこうなるかあー。場内はしーんと静まり返っている。

「そこまで、勝者エリック・タッケン!! Aランク昇格決定!!」

 パウロが大声で終了の合図を告げると同時に大歓声が沸き上がる。まあこいつに嫌がらせされてた冒険者も多いだろうけど、手のひらを返したような反応だ。なんとまあ調子の良いことだな。声援を浴びながら片手を突き上げ、そのまま舞台を降りてこちらへやって来るエリック。VIP席は大騒ぎだ。

「お疲れ、お前よく手加減したなあー」

 いや、ほんと、真っ二つにするかと思ってたしね。

「ああ、まあな。だが手加減する方が疲れる。バルムンク振り回した方が気分がいいしよ」

「いや、あんなのにそれ使ったら原型無くなる肉塊になるぞ…」

「だろー? だがキッチリ再起不能にはしといたしな。カーズ、あんなのに回復かけるなよ」

 まあ、死んでないしかけてやる義理もないけど、再起不能は精神的にだったよね? わからせてやったからまあいいけどさ。

「エリック殿、相変わらずのお手前でした。さすがです!」

 クレアが真っ先に賛辞を述べる。そして王族達、国王までも大興奮だ。いいのかなあこれで。

「さすが救国の英雄! エリックよ、そなたに剣聖の称号を与えてもいいか!?」

「王様、まだAランク昇格しただけだから、そこまでしなくていいぞ。しかも剣使ってないだろ」

 ほんと調子いいなこの国王は。

「う、うむ、年甲斐もなく興奮してしまった。すまんすまん!」

「俺もさすがにあんなの相手程度でそこまでは勘弁してくださいよ」

 敬語エリック、笑える。アランやレイラも祝福するように握手をしていた。まだ一戦目だよ、落ち着こうよ。

「はいはい、次は私だからね。あの縦ロール血祭りにしてきてあげるから、ちゃんと見といてよね」

 出たよ脳筋魔導士。本当にやりかねんから怖いんだよユズリハは。

「ユズリハ、頑張ってね!」

「アヤちゃん、ありがと。じゃあ行ってくるわねー」

 嬉々として舞台に向かう脳筋魔導士。頼むからスプラッタは止めてくれよ…。騒がしいこちらの陣営を向かい側から見ている悪党共の話し声が俺の耳に聞こえてくる。ノイズ・コレクト雑音・音声収集、俺が今発動している風属性の創造魔法だ。

「あの野郎、いつの間にあんなレベルになったんだ…。スネゲスが手も足も出ないとは…。まあいい、あんな恥晒しは用済みだ。次はイヤミーナお前の番だぜ。Aランクの実力、あのハーフに見せつけてやれよ。舐められたままで終われねえぞ」

「ふん、どうせ何かのイカサマに決まっていますわよ。下賤なハーフに高貴なわたくしの力を見せつけてあげますわ、オーホッホッホ!」

 残念な奴らだなあ、知らねえぞ、ユズリハは全属性魔法を使える上に槍術も相当だ。その露出の多い防御力皆無の様な装備、武器はレイピアにロッドも持ってるようだが恐らくあれが発動媒体か。無詠唱で媒体なしでも魔法発動できる相手にどうやって勝つんだ? 俺がその立場なら勝ち目が全く見えないけどな。また一方的になりそうだなあ。こいつらは鑑定スキル持ってないみたいだし。

「お姉様、応援しておりますわ。目にもの見せてやってくださいませ!」

 腰巾着の青髭、君も後でアヤにボコられるんだよ。怒らせたら俺でも怖いんだからな。とりあえずお前らが死なないように祈っておいてやるか、無駄だろうけど。

 舞台に上がったユズリハに声援が飛ぶ。だが本人はどこ吹く風の様にリラックスしている。そして反対側からオホホエルフが上がって来る。本当に冒険者には見えない派手な衣装だな。

「怖じ気付かずによく来ましたわね。でも所詮は下賤なハーフ、純粋なエルフであるわたくしに魔力で勝てると思っているのかしら? それにわたくしはレイピアでの近接戦も得意、魔導士のあなたが勝つ確率など万に一つもありませんわよ? 見苦しい醜態を晒す前に舞台を降りることをお勧め致しますわ、オーホッホッホ!!!」

 死亡フラグ…。それにユズリハを煽るんじゃねえよ、マジで死ぬぞ。オホホ笑いはしないと話は終わらないのかい?

「はあ、口だけはAランクの実力よね。一々言い返すのも面倒だわ。その品性の欠片もない縦ロール、灰にしてあげるから冒険者なら実力で語りなさいな」

 おお、カッコイイ口上だな。その通りになりそうだけど。

「ちぃっ、言わせておけば…。ではその実力の差を見せつけてあげますわ」

「では、Aランク昇格試験第2戦、ユズリハ・ラクシュミとイヤミーナの試合開始!!」

 パウロの声が響く、さてどう手加減しながらへし折るのかな。魔法戦は俺も勉強になる、じっくり見させてもらうとするか。



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