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第三章 大奥義書グラン・グリモワール

38  Aランク昇格試験 その2

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さてお次は魔法戦です

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 開始と同時に無駄に派手な装飾の細剣レイピアを鞘から抜くイヤミーナ。ただの魔導士と思ってるユズリハに近接戦で勝負を決めるつもりなんだろうか。

「先ずは魔法剣士ルーンセイバーの剣捌きというものを見せつけてあげますわ、オーホッホッホ!」

 へえー、あいつ俺と同じジョブなの? なんか嫌だなあ。

「本物の魔法剣士ルーンセイバーがどんなものか知らないのね。アンタがカーズと同じジョブとか、虫唾が走るわ」

 うん、代弁ありがとう。グングニル・ロッドに魔力を注ぐユズリハ、同時に先端についた魔石の形状が変化していく。相手に合わせるようなレイピア、寧ろ突きに特化した刺突剣エストックだ。柄の部分を短くし、槍というよりも剣に近い形になる。同じ土俵で受けて立つのか、いきなり大魔法ぶっ放すかと思ってたけど意外と冷静? なのかな。

「随分と変わった武器ですのね。ただのロッドだと思っていましたけど。でもそんなピーキーな武器、しかも剣士と刃を交えようなどと魔導士のすることではありませんわね」

 挑発には乗らずに冷静にグングニルを構えるユズリハ。ピーキーとか言うな。

「ハアッ!!」

 一直線に距離を詰め、レイピアで連続の突きを繰り出すオホホエルフ。うん、まあAランクだしそこそこ速いな。だが無策で突っ込むとは、舐めてるんだな。

 カカカカッ!!!

 だがその高速の突きの剣先に寸分の狂いもなくグングニルの穂先を合わせて相殺する。おー、すごいな! Aランクだけあって結構なハンドスピードなのに。さすが成長して魔導槍士マジックランサーにクラスアップしただけある。

 ガギィーン!! ビシッ、ビキキキッ!!!

「なあっ!!??」

 イヤミーナが繰り出した渾身のひと突きに、魔力を集中させた穂先を合わせる。と同時にその華美なレイピアは先端が割れ、鍔の部分、刀身の根元まで大きな亀裂が入った。俺の自作だが、元々の強度差に加え、ただの突きと魔力で強化した突きとでは威力に大きな差が出る。もうあのレイピアは使い物にならないな。

「そんな、わたくしの美しいレイピアが…、あんな品のない真っ赤な槍如きに砕かれるなんて…」

 おい、訂正しろ。カッコいいだろ、自信作なんだぞ。その無駄な装飾が施された実用性のなさげな剣よりはマシだろ。

「しかもあなたは平凡な魔導士だったはず。なぜこんな芸当ができるというの?!」

 砕かれたレイピアを見ながら歯ぎしりするオホホ。

「それは以前の私。今は魔導槍士マジックランサーっていうのにクラスアップしてるのよね。槍術を鍛えた御陰かしら?」

 そうなんだよなー、どうやってクラスが変化したのか謎なんだ。俺も神格と神気のせいなのか神魔法剣士ゴッドルーンセイバーとかいう大層な変化をしてるし。まだまだ知らないジョブがあるのかも知れない、面白そうだけど。

「な…、そんなクラス聞いたこともない! しかもその細腕で剣士と打ち合える程の筋力なんて…」

 おいおい、お上品ぶった喋りが驚きで崩れて来てるぞー。魔力で身体強化してんだよ。

「細かいことを教える義理はないわね。さて、自慢のダサい剣はダメになったけど、どうするの? このままグングニルで切り刻んでもいいけど、武器もないカスを刻んでもただの弱いものイジメになるし。アンタのもう一つの自慢の魔力で勝負してあげてもいいわ。その派手なショボいロッドでも使えば?」

 おーおー、煽る煽る。もう既に弱いものイジメなんだけどな。俺もこういう風に勝負することになると、どうしてもイジメになるよなあ、試験とはいえ嫌だなあー。ちぃっ、と舌打ちしてから後ろに飛び距離を取るイヤミーナ。腰からこれまた花柄の様な華美な装飾のついたロッドを抜き、先端をユズリハに向ける。

「フン、いいですわよ。ハーフと純血の魔力の差を思い知らせてやりますわ!」

 思い知らされるのはお前だけどなー。ロッドに魔力を込めていくイヤミーナ。火属性か、見え見えだな。

「後悔なさい! ファイアボール!!!」

 あ、やっぱそれか。しかも詠唱魔法、火球は3発だがそんなんユズリハに当たるはずないだろ。グングニルを舞台の床に突き刺し、飛んでくる火球に右手をかざす。

 ピキーン!! パリンパリィーーン!!!

 ユズリハがかざした手に接近した火球が一瞬で凍り付き粉々になる。あれもアリアがやってたな、弱点属性の魔力で魔法自体を相殺、破壊する。これまた高度な魔力コントロールが要求される技術だ。エリックもそうだが、この2人はアリアとの稽古で学んだ技術をしっかりと鍛錬して自分のモノにしたんだな。才能やレベルに胡坐をかかずに努力する、好きだなーそういうの! 実に好感が持てるよ。オホホは…、うん、まあ当然だけど驚いてるな。

「なな、何ですのそれは?! わたくしの火魔法を触れもせず凍り付かせて砕くなんて!」

「さあ? 努力すれば出来るようになるんじゃない? それに詠唱してるようじゃ何の魔法を発動するのかバレバレよ? 魔法っていうのはこうやって使うのよ」

 ピッ! バスッ!!!

 ユズリハの右人差し指が一瞬光ったと同時に、細く鋭く圧縮された白い光線の様な一撃がイヤミーナの顔の左横を通過する。命中させた縦ロールが一本根元から焼き切れるように落下した。無詠唱のホーリー・レーザー神聖光線か、あの速度だ、全く見えてないな。しかもわざと縦ロール狙ったな、あの一撃が体に命中したら人体なんて貫通する威力だ。

「あーあ、長いバゲットが一本落ちた」

 ボソッと思ったことを口に出してた。

「「ぶふっ、ハハハハハ!!!」」

 アヤとエリックが大笑い。寧ろフランスパンだけどね。

「やはり彼女も凄まじい…。あの槍捌きに、光の様な速度の無詠唱魔法。どれだけの修練を積めばあのレベルになれるのか…」

「そうですねレイラ様。あれ程の練度の魔法威力、魔人との闘いでもそうですが、こうして改めて見ると如何に凄まじいかが理解できます…」

 レイラにクレア、同性ということもあって色々と感じるものがあるんだろうかね。でもこの2人も最初に出会ったときからこんなに凄かった訳じゃない、超成長の恩恵とはいえ努力すればいつかは届くと思うよ。

「いやいや、ユズリハも見事なものだ。ウチの宮廷魔術師に欲しいものだな!」

 まーたこのオッサンは…。

「王様さ、勝手に引き抜こうとすんなよ。それにあいつ実戦大好きだからな、絶対そんな堅苦しそうなの嫌がるぞ」

「うむ…、それもそうだな。では賢者の称号でも与えたいものだ。しかしカーズよ、そなたはいつになったら私のことを王様ではなくお義父さんと呼んでくれるのだ?」

 また変なこと言い出した…。まともな奴はいないのかよ。

「いや、なんか嫌だわ。それにそんなの聞かれたら俺が変な目で見られるよ。それより試合見よう、無駄話してたら終わるぞ」

 舞台に目を移す。根元から落ちたフランスパンをショック丸出しの顔で見つめるイヤミーナ。武器壊されたときよりショック受けてるじゃないか、それそんなに大事か?

「何? 今の…?」

「アンタ無詠唱魔法も知らないの? よくそれでAランクになれたわね」

「そのくらい知ってますわ! ですがそれは魔力の消耗も大きい、媒介がなければ発動にも時間がかかる…。でもなぜ、わたくしと同様火と風属性しか使えなかったでしょう!?」

「うん、だからそれは以前の私。アンタが調子に乗ってる間にこっちは死ぬ思いで修練してきたのよ。じゃあどんどんいかせてもらうから」

 ピッ!!! バツンッ!!!

 今度はブラック・レーザー暗黒光線か。またパンを焼き切ったぞ。

 ピッピピピッ!!! バツン、バツバツバツンッ!

 ファイア・レーザー火炎光線アイス・レーザー凍結光線、更に光線の様に圧縮したアクア・カッター水刃ウインド・カッター風刃。イヤミーナに向けた指先から次々と発射される光の様な魔法の連撃。まるで見えていないオホホは次々に縦ロールを焼き切られる。

「くぅ…、まるで見えない…。ですが指先が光る瞬間にその属性は何とか理解はできますわ…。あなたは属性の壁を、しかも逆属性までも簡単に。どれだけの属性を扱えるんですの!?」

「全部使えるけど? アンタ未だに火と風属性しか使えないの?」

 さすが、この期に及んでも煽るのを止めない。尊敬するわ。

「このっ!! ウインド・ランス風槍!!!」

 バチンッ!!!

 ユズリハの指先から放たれたのはアース・ジャベリン大地の槍、逆属性であっさりと相殺だ。

「このっ…!!」

「だから詠唱してたら何を撃つのかバレバレだって言ってるじゃない。私の師匠の受け売りだけど、詠唱するならこのくらいやりなさいよね」

 アリアがやってたあれかな? ユズリハの指の一本一本に魔力が集中されていく。

「ファ・イ・ア・ボー・ル!」

 ボボボボボッ!!!

「な、なによそれっ!!??」

「ほーい! ファイブフィンガー・ファイアボール!」

 名付けてんのかよ、5発の小さな火球が放たれる!

 ドドドドドーン!!

「キャアアアア!!」

 ええー、何かしら防御しようよ。初めての稽古のときのユズリハも咄嗟に防御魔法は頑張って張ってたぞ。全弾ヒット、露出の多い派手な装備が燃えて所々ボロボロだ。こいつこの観衆の前で引ん剝くつもりじゃないだろうな。

「ア・ク・ア・ヴァレッ・ト!」

 次は5発の水弾だ。

 ドンッ、ドドドドッ!!!

 これも全弾直撃。

「ガハッ…」

 膝を着くオホホ。火の次は水か、しかもあれ圧縮された水圧弾だから結構痛いんだよな。ユズリハとの魔法練習の対戦で何発か顔にくらってるしね。

「ス・トー・ン・ヴァレッ・ト!」

 おいおい、それは物理的にもヤバい、死ぬぞ!

 ズドドーン!!

「げふっ…」

 あーあ、もうボロボロじゃないか。今のはもの凄く手加減したみたいだが、ドレスの様な派手な装備はもう布地が破れて酷い有り様だ。イヤミ女でも一応女性だし、目のやり場に困るなあ。観客は大喜びしてるけど、そんなに見たいか?

「あいつやり過ぎだろー、もう寝かせてやれよなー」

 エリック、お前もあのデコピンは相当やり過ぎだったぞ。

「はぁ、はぁ…。なぜ…、わたくしが、こんな、ハーフに…。許せ、ない…」

 いや許せないとか言う前にもう降参したら? どんだけプライド高いんだよ。フラフラなのに立ち上がるオホホ。

「へえー、意外と頑張るじゃないの? じゃあアンタの冒険者としての最期の舞台として、花向けの一発を見せてあげるわ」

 うわあ、まだやんの? 次当てたらさすがに死ぬぞ。パウロも止めないし、ちょっと哀れだよ。

「右手からフレイム・バースト炎の爆撃、左手からディバイン・バースト聖なる爆撃…」

 おいおい、木っ端微塵になるぞ!

「なっ、な、なな…」

 いやそりゃビビるよ、単体でも強烈だってのに。

「光炎融合…」

 それぞれの手に込めた魔法を両手を合わせるようにして1つにまとめる。バチバチという属性の反発音が響く。場内はおそらく初めて目にする魔法の融合に驚き、静まり返っていく。

「いい? 1つ良いことを教えてあげる。魔法とはイメージの具現化、魔力のコントロール次第でどんなことでもできる。さあ、これまでの悪事への懺悔の時間よ、神に祈りなさい…」

 うーん、唯一神はお前の師匠だからね、あいつに祈っても意味ないぞ。

「う、あ、あ、あああ…、ゆ、許して…」

 さすがにヤバさがわかったか。でもあのユズリハがそれを聞くかなあ。

「そういうことを言ってきた人達を見逃してあげたことがアンタにあるのかしらね? 死になさい!!! 合成魔法フレイム・ディバイン・バースト!!!」

 ゴオゥッ!!!!

 前方に向けた両手から赤く白い輝きのエネルギー波のように発射される合成魔法! これはヤバい、あいつ死ねって言ったぞ!

「きゃあああああ!!!!」

 目を瞑り祈るような恰好をするイヤミーナ。おいおい、マジか!

「よっと!」

 直撃するスレスレで魔法の軌道を指先で真上へと逸らすユズリハ。高く舞い上がったそれは特大の花火のように上空で大爆発した。結界を張っているが爆発の轟音と余波が感じ取れる程の威力だ。融合魔法をあそこまでコントロールするとは、相当鍛錬してるな。へたり込んでいるイヤミーナに歩み寄り、声を掛けるユズリハ。

「これに懲りたら、これからは真面目に謙虚に研鑽することね。アンタ今はそんなんでも、Aランクまで上がるまでは努力くらいしたんでしょ? その趣味の悪い髪型に装備もやめて、心を入れ替えなさいよ。いつでも相手になってあげるからさ」

「は、はい…、ごめんなさい…、ごめんなさい!!」

 涙をポロポロと流しながらその場に土下座するように顔を伏せるイヤミーナ。ホッ、良かった。マジで殺すかと思った。でもユズリハ最後カッコ良かったな。「悪即殺」とか言ってるから、慈悲の心があったことに驚いたけど。とりあえずこれで終わりだろ。

「おーい、パウロ! もう終わってるぞ、ていうかさっさと止めろよな!」

 ポカーンとしているパウロに声を掛けると、はっと我に返る。

「そ、そこまで!! 勝者ユズリハ・ラクシュミ! Aランク昇格決定!!」

「「「「おおおおおおおーーー!!!」」」」

 さすがに魔法戦は派手だしな、観客へのインパクトも強烈だったみたいだ。しかし魔法融合どれだけバリエーション作ったんだろうか? やっぱこいつももう怪物だな。初めて会ったときとは全然別人だ。何事もなかったかのようにこちらへ戻って来る彼女にアヤが抱き着く。

「おめでとう! ユズリハすごい! かっこよかったよ!」

「アヤちゃんありがとー! あんなの全然大したことないわよー」

 アヤを抱きしめ返すユズリハ、なんかすごい仲良くなってる。魔導士同士、色々と通じるものがあるんだろうな。VIP席のみんなに称賛を浴びながら、笑顔を見せる。金髪ハーフエルフだし、こいつも普通にしてたら綺麗なんだよなあ。

「おめでと、マジで殺すかと思って冷や冷やしたぞ」

「うーん、最初は殺してやろうと思ってたんだけどねー。弱過ぎてそんな気も失せたわよ」

 まあそりゃそうか、レベル875だし。それに今回は骨じゃなくてちゃんと精神的に折った上にやり直す機会も与えたわけだしな。バシッ! とエリックとハイタッチする。

「Aランク昇格だ、次はすぐSだぜ!」

「当たり前よ!」

 何だかんだで仲良いな、この2人。さーて、次はやっと俺の番だ。さっさと終わらせようっと。だがパウロが30分程インターバルを入れると言うので、俺達はそこで適当に話したりして過ごした。で、次はてっきり俺の番だと思ってたのに。

「ここで期待の新人の登録試験を間に行う! 是非注目してもらいたい! アヤ・ロットカラーとBランク、ネタミラの両者は舞台の上に上がるように!」

「えー、俺じゃないの?」

 何でだよ!


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出鼻をくじかれる主人公w
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