OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第四章 混沌の時代・7つの特異点

53  Sudden Encounter

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「あれ?」

 転移で降り立った場所は街からまだ数㎞以上離れた草原、どういうことだ?

「なんかえらく離れた場所だな?」

 エリックが不思議そうな顔をする。

「変だな…」

「何が? 転移に失敗したの?」

 ユズリハが尋ねてくる。

「いや…、何かの干渉を受けたみたいだ。俺はギルド前に転移したはずなのに」

 無理矢理転移先を捻じ曲げられた様な、奇妙な感覚が残っている。どう考えても他者の介入があった。魔力の波長を変えられた様な感じだ。

「そのようですね…。それにもうそこに来ているようです。姿を見せなさい!」

 アリアが離れた空間に向けて叫ぶと、その虚空に黒い歪が広がる。まるで異次元倉庫を開いたときの様な光景だ。なるほど、あんな風に亜空間の中を移動しているのか…。

「ククク…、さすがは神、よく気付いたな」

「テメーか、ナギストリア…。何の用だ」

 傷は癒えているが、やはり封印術の影響で大幅に力は落ちているな…。

「アレが、過去のカーズ?! …確かに前世の姿に似てなくもない、かもだけど…」

 アヤは前世の俺を知っているからな、だがそれでもあんなに陰険な見た目じゃなかったけどな。

「過去のお姿も素敵ですが…。禍々しすぎます、あのオーラ…」

 ディードは何を言ってんだ? 既に抜いている黒い大剣も元通りに修復されているし、甲冑も同様だ。どうせあの3神のやったことだろう。

「力の大半を大神に奪われたのだ。それを補うため、貴様の神格を奪いに来てやったのだ。カーズ、俺の半身よ。他の奴らに用などない」

 こいつ、舐めてやがる…。天界での俺は儀式で弱っていた。実力など全く発揮できなかったとはいえ、そこまで舐め腐ってわざわざ出て来るとは。だが、これはいいチャンスだ。コイツ一人にこんな芸当が出来る訳がない、手引きした奴が何処かにいるはずだ。

「テメー、舐めんじゃねえぞ!!」

「一人で来るとはいい度胸ね。アンタの下らないお遊びに付き合わされたお礼をしてやるわ!」

 エリユズ、すぐに火が付くな…。だが危険だ。

「待て2人共、ヤツは神気を操れる。これは神格を持っていないお前達じゃどうしようもない。アリア、みんなを神気結界で守ってくれ、こいつは俺がやる」

 1人で前に歩を進める。

「そいつは、凄く嫌な感じがするの…、カーズ、気を付けて!」

 心配そうにアヤが伝えて来る。

「ああ、大丈夫だから。アリアの後ろにいろ。ディードもその子を負ぶってるんだ。アリア、任せたからな」

「危険です! 1人でなんて!」

「弟を信じろよ、まあ見てろって」

「はあ、仕方ないですね…。多重神気結界!!! こちらは大丈夫です。気を付けていくのですよ」

 強靭な結界を展開したアリアに手を振ってから、ナギストリアへと歩み寄る。

「俺の神格を奪う…? それで失った力を取り戻そうってか? 舐めてくれるじゃねえか」

 神格を解放、神気を全力で発動させる。同時に体に装着される、輝く神衣カムイ

「アレが、神衣ってやつか…? とんでもない力を感じるな…」

「カーズ様が負けるなど、ありえません」

 エリックとディードの声が聞こえる。ああ、負けねえよ。

「フッ、天界での貴様は儀式の影響でお荷物だったな。今なら全力を出せると言いたいようだが、後悔するがいい」

「いつまでもあの時のままだと思うなよ。俺はお前をぶった斬るのに何の躊躇もない。来い、神剣ニルヴァーナ!」

 目の前に顕現される、輝く銀と真紅のオーラを纏う俺の神器。やはり凄まじい力を感じる。そしてその炎と冷気のリングに覆われた黄金の柄を左手で握る。実戦では初めて使うというのに、これまでずっと使って来たかのように手に馴染む。ファーヌス、アンタの最高傑作、ありがたく使わせてもらうぜ!

「神器を手にしたところで貴様に何ができる、まずはこいつを受けろ! ギガンティック・テラーズ・フラップ強大なる恐怖の羽撃き!!!」

 ズヴァアン!!!

「アストラリア流ソードスキル、クリムゾン・エッジ!」

 超高熱の刃で目の前に迫る衝撃波を斬り裂き、砕く!

「何ィ!? ギガンティック・テラーズ・フラップ強大なる恐怖の羽撃きの衝撃の一点を衝いて破壊するとは!!」

「それはもう見たんだよ。全方位に地上と地下から神気を走らせ、その衝撃で上へと吹き飛ばす。多人数相手の不意打ちには有効だが、たった一人に放つには無駄が大き過ぎる。目の前の衝撃波のみ破壊すれば事足りるんだよ。ならこちらから行かせてもらうぜ、あの時の借りをキッチリ返してやらあ。アストラリア流ソードスキル!」

 ヤツに向けて光瞬歩で距離を詰める!

「アストラリア流など通用せんと言ったはずだ!!」

 ズガガガシュッ!!! バキィン!!!

「フェンリル・ファング、4クアトロスラッシュ」

「ぐっ、何だ今のは…!?」

 上下からの神狼の牙、同時二連撃を二発、4連斬。既存の二連撃しか防げなかった奴の左の肩鎧を砕き、肉体に斬撃が入った。血が飛び散り、ナギストリアが片膝を着く。

「お前は既存の基本技を知っているだけに過ぎん。何もわかっちゃいない。俺もそうだったが、アリアが生み出した、神の流派がそんなに浅い訳がないだろう。それにお前が知っていると勘違いしているのは俺が放ったことがある技のみ。俺は大剣スキルを使っていない、見て知っているのはシューティング・スターズくらいだ。さあまだまだ続くぜ!!」

「くっ、小癪なっ!!」

 ドッ!! ズドドドドドッ!!!

「ストーム・スラスト、6セイスショット」 

 嵐の様な突きの6連打。数発は防御されたが、ヤツの甲冑を突き抜け肉体へと刺突が突き刺さる! だが、まだここからだぜ!!

 ズザンッ!!!! バキィイイイーン!!!

「ぐ、がはっ…、何だ今の連撃は…」

ヘイロー・クロス神の後光の十字斬り8オクトスラッシュ。8方向からの斬撃だ。防ぎようがないだろう?」

 こいつはクソ親父の八岐大蛇ヤマタノオロチと原理は同じだ、光の魔力を纏わせた十字斬りを8連で放っただけ。上下左右に肩からの袈裟斬りに斬り上げ、角度と斬撃数を変えるだけで別の技の様になるという、アストラリア流の神髄とでも言える。神器の前にヤツの神気の鎧装など紙切れに等しい、そして今ので黒曜石の様な甲冑もかなり破壊した。

「く…っ、いつの間にこんな力を…?」

 斬撃で体中は傷だらけ。鎧も意味をなさない。そして大剣ではこのスピードには対応出来はしない。

「テメーが下らないことをやってる間に、こちとら神の試練に大魔強襲スタンピードと闘い続きの日々だったんだよ。テメーのこれまでの過去がどうとかなんざどうでもよくなる程な! ニルヴァーナ、刀フォーム」

 ピキィイイン!!!

 白く輝く鞘に、溜息が出るような美しい真紅の刀身が納められている。チキッ、手に取り前傾、抜刀術の体勢を取る。

「どうした? 抵抗しろよ、このままだと一方的だぜ」

「ぐ、おのれ…」

「アストラリア流抜刀術」

 ズドドドドドンッ!!!

 ヤツの体へと次々に衝撃波が叩き込まれる!

「がふっ…」

飛天ひてんだん、十連」

 斬撃を更に神気と魔力で変化させ、銃の弾丸の様に相手に撃ち込む。俺のオリジナルだ。骨が砕けるほどの衝撃を撃ち込んだ。だがこいつはしぶとい、天界で目にしているからな。

「くそっ、ならば喰らえ! 黒の衝撃を!! ダーク・インパルス!!」

 パアーン!!

 放たれた闇属性の衝撃、魔力撃を聖属性の魔力と神気を込めた掌で叩き落す!

「なあっ…?!」

「一度見たって言っただろ、対策してないとでも思ってんのか? 厨二野郎が。力が衰えているとはいえ、今迄の攻防でもうわかった。お前は本来普通の人間、あの時は圧倒的な負の力でどうにかなっていたからわからなかったが…。お前と俺とじゃ戦闘経験の差が圧倒的に違うということがな。俺が試練でどんだけの数の魔物と闘ってきたと思ってんだ? 神格が欲しいなら奪ってみせろよ。テメーはいつまでも過去の悲劇の主人公気取りのままなだけなんだよ!」

「ぐおおお!! おのれええええ!!!」

 暗黒剣で斬りかかって来る、だが上からの斬撃か、体勢から見え見えだ。

 ガイィィーン!!

 鞘に納刀したニルヴァーナで受ける。

「バカめ! 刀を抜かずに防ぐとはな!」

「バカはテメーだよ、アストラリア流格闘スキル・奥義!」

 ドオオオオオオオオオオオオオオンン!!!!

 残った左手拳で、がら空きの胴体に風穴を空ける程の強烈なパワーを込めたアッパーカットで打ち上げる!!

「アルティメット・ヘヴン!」

「ぐはああああああ!!!!」

 ドゴォーン!!!

「がはあっ!!」

 地面にクレーターが出来上がるほどの勢いで叩きつけられる。天に打ち上げた後に、一気に下界へと叩き落とされるかの様な強烈な格闘スキル奥義。鎧はもう原型を留めていない。全身傷だらけで血塗れだ。だが執念で起き上がって来るナギストリア。そのタフさだけは称賛してやるよ。

「くっ、ならば…これを喰らうがいい…」

 大剣を突きを放つ様に構えた。アリア達の三位一体に破られたあの技か? チキッ!

「アストラリア流抜刀術・奥義…」

 やはりか、突き出した大剣から極黒のエネルギーが放たれて来る!

ダークネス・スーパーノヴァ暗黒の超新星爆発!!!」

神龍しんりゅう!!」

 ドンッ!! カッ!!

 そのエネルギーに向けて突進し、それを飲み込む程の巨大な斬撃痕を空間に刻む!!

 キィーン!! グゴオオオオオオーーーーーッ!!!!!

 振り向き、納刀。その瞬間、斬撃痕からヤツの放った技、神龍の剣圧と魔力に神気の奔流が一気にナギストリアに向けて迸る!!

「うがあああああああ!!!」

 渦に巻き込まれ、吹き飛ぶナギストリア。最早ボロボロだ。こいつにはパズズから奪った神格しかない。他の力を大幅に封じられた以上、神格の差では全ての神々から少しづつ、大半をアリアから分け与えられた俺に勝てるはずなどない。そして更に戦闘経験の差だ。俺もまだこの世界に戻って一月ほどだが、アリアとの稽古に邪神魔人、試練に大魔強襲スタンピードと凄まじい激戦をしかも短期間に経験してきたのだ。超成長の恩恵でそれは通常の人の何十倍、何百倍という凝縮された濃度で俺の中に蓄積されている。こいつはここで必ず潰す。3人の堕天神の方がよっぽど厄介に違いないからな。なぜこいつに忠誠を誓っているのか、謎だが…。

「ぐっ、はあ、はあ…、おのれ…、カーズ…」

「もうお前に勝ち目はねえよ。立ってるのもやっとだろ。いつまでも過去に縛られた亡霊はここで消してやる。俺もお前の持っている記憶は一通り追体験したが、はっきり言って飽きた! 前に進むためにも、下らん過去はさっさと忘れるに限る!」

「何だ、と、貴様はあの悲劇を、経験しておきながら、下らない、だと…」

「ああ、下らねえよ。ただの胸糞悪い黒歴史だぜ。そこをずっとぐるぐると回ってるテメーも下らねえ。戻れニルヴァーナ、ソードフォーム」

 キィン!

 片手剣の形状になった神剣の柄を両手で持ち、頭上高く掲げる。


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「あの子は…、あそこまでの力を付けていたのですね…。アストラリア流の神髄を理解し、私でさえも考えたことのない新たな技に昇華させているとは…。力の大半を封じられているとはいえ、あのナギストリアをあそこまで圧倒するなんて…」

 驚きを隠せないアリア。ついこの間、この世界に呼び戻した時とはまるで別人だ。人間の成長スピードとはこれほどまでなのかと思わずにはいられない。

「カーズ、すごいよ…」

「さすがはカーズ様です。凄まじい剣技…。見えない場面が何度も…」

 アヤにディードもカーズの異次元の闘いに興奮していた。

「確かにすげえ…、だがまだこれ程までの差があるなんてな…」

「わかるわよ…、バーカ。悔しいんでしょ? 私も同じよ。漸く隣に立てるかと思ったら、逆に突き放されてるんだから…」

 カーズと出会ってからずっと、一緒に行動を共にしてきた。最初は追いつきたくて、そして隣で闘うようになって。だがその差は開くばかりだ。2人の意識が高くなってきていたため、それは悔しさに変わっていた。今のままではダメだ、と。

「んむ、う、うむ…、何じゃ? この凄まじい神気…は」

「おや竜王、いや、ダカルハ・バハムル、お久しぶりですね。漸く目が覚めましたか?」

「むぅ…、おお、これは、アリア様ではないか。久しいのぅ…。そうじゃ、儂は…うっ…」

「まだ首輪の影響で調子が良くないのでしょう。今は我々も動けないのです。あの闘いが終わらないと…」

「あの者の神気…。微かに憶えておる。しかし、何という澄んだ神気じゃ…」

「お嬢ちゃん目が覚めたのね、良かった。今はカーズ様が闘っておられます。大人しくしてて下さいね」

 負ぶっているディードに声をかけられる。

「何じゃ、この生意気な小娘は! 儂は竜王、なる、ぞ…」

「ああもう、大人しくして下さい!」

 ぐったりとしている竜王を、子供をあやすように扱うディード。だが、今は誰もがカーズの闘いに集中している。2人のやり取りに構う者はいなかった。

 

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アストラリア・エクスキューション正義の女神の処刑執行か…。ならば、俺も同じものを撃ってやろう…」

 大剣を頭上に掲げ、俺と同様の構えを取るナギストリア。やはりこいつは発想も貧困だ。俺が技のかけ合いをすると思っているのだろう。

「いくぜ! アストラリア…」

ジェノサイド・エクスキューション大虐殺の処刑執行!!!」

 フッ!

 思った通りだ、この地上でそんな被害が出る無駄なことをするなど愚の骨頂! 転移でヤツの背後へと移動する!

「なにィ!? なぜここに!?」

「やっぱりお前には戦闘経験が足りない。そしてアストラリア流は剣に魔力を纏わせて放つだけじゃない、それをそのまま相手に叩きつけることもできるってことだ!」

 大技を放ち、その反動で硬直しているナギストリアの体に奥義を叩きつける!!!

アストラリア・エクスキューション正義の女神の処刑執行!!!」

 ズオッ!!! ドオオオオオオオオオーン!!!

 ゼロ距離からの奥義の一撃! 光が激しく瞬き、大爆発が起こる! 後ろに飛んで巻き込まれないように距離を取る。自分で放った奥義の余波で、こちらにも土砂が飛んで来る。そして光と土煙が消えた後、抉れた地面の上には仰向けに倒れたナギストリアがいた。こいつ…、よくまあまだ原型を保っているもんだ…。異常な程タフで頑丈な奴だな。だが最早動けまい、体も関節が変な方向に捻じ曲がったり、全身から大量の流血が見て取れる。鎧は粉々、腕ももう動かせないだろう。大剣も破壊した。

「ぐぅ、ぐ、がはあっ…! ここまで、手も、足、も、出ない、と、は…」

「これで終わりだ…」

 近づき、首筋に神剣を突き付ける。今の俺に、こいつにかける情けなどない。驚くほど冷静だ。これで過去の怨念は全て清算できる、それに…

「次はまともになって生まれて来いよ…、じゃあな」

 ザンッ!!












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