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第四章 混沌の時代・7つの特異点
54 堕天神皇帝ルシキファーレ
しおりを挟む「おっと、まだ彼を殺させる訳にはいかないよ、まだまだ利用価値があるのでね、特異点のカーズくん」
俺のトドメの一撃が空を斬った。だがな、こういう情況になったら必ず馬脚を露わすと思っていたんだ。予想通り、釣れた。
「やっぱり出て来やがったな、堕天神が。しかもふざけた遊戯の親玉、皇帝様自ら直々にお出ましとは、ありがたい。ここでぶっ潰してやるぜ!」
ルシキファーレ、ファーレと呼ばれていた女性が最早死に体のナギストラリアを肩に担ぎ、すぐ近くの宙に現れた。ヤツはもう意識を失っているが…、こいつは何処から現れたのか全く気配も感じなかった。そして利用価値か、やはりその程度なんだな。こいつらは天界を抜ける理由にナギストリアを都合よく使って旗艦としているんだろう。まあそんなことは俺にはどうでもいい、ここで大将格のこいつを討ちとれば、残りは烏合の衆も当然だ。
「ハアッ!! サンセット・リープ!!」
ガキィ!!
「おっと」
跳躍して放った落陽の打ち下ろしの一撃を、長く伸びた右人差し指の爪で、しかも神器の一撃を弾きやがった。さすがどんな宗教においても最大最強の悪役。人の思いなどが悪魔や神の力になるとしたら、こいつは今迄でまさしく最強最悪の敵ということになる。だが、神格を爆発させて上昇する力は無限大、こいつはここで必ず仕留める!
「やれやれ、私は争いに来た訳ではないんだけどね」
やる気のなさそうな顔をするファーレ。
「ならそいつを置いて行けよ、折角トドメをさせるとこだったんだ。邪魔するんならテメーが相手になれ! ケンカ売って来て都合が悪くなったから逃がしてくれだ? 筋が通ってねえんだよ! 男のケンカに割り入った以上、落とし前はつけてもらうぜ」
「カーズ! 彼女は危険です! 今のあなたの力でも危ない!」
結界を更に頑丈にして、アリアが俺のすぐ後ろまで来ている。ああもう全く、過保護な姉だな…。
「わかってるよ、こいつがヤバいってのは。だが大将首を易々と逃がすわけないだろ」
確かにこいつは化け物だろう。今の神気を強烈に放っている状態でも、ステータスは視えない。だが、数値で全てが決まる訳じゃない。それも経験して来たんだ。奴と同じ高さまで飛翔する。
「ニルヴァーナ、刀フォーム」
キィイイン! チキッ!
「ふぅ、本当にやる気なのかい? 私は無益な殺生は好きじゃないんだがね」
「黙れ…、遊び半分で大魔強襲に魔人共を、大軍と一緒に送り付けてきた奴等の親玉がほざくんじゃねえ!」
ニヤニヤと口元を歪ませやがって、こいつはやっぱり伝承の通りのルシファーだな。残忍さが表情から伝わって来る。殺生が好きじゃないなどという奴の顔じゃねえ。
「アハハハハ、確かに遊び半分だったさ。そしてその遊び半分で滅びかけた国もあるみたいだけどね。君がいた世界とは実に遊戯が多くて退屈しないよ」
「なっ…! そんなことが起きていたなんて…」
このクソ野郎…。命なんて何とも思ってねえな。それに本当にアリアにも視えてなかったのか。
「やっぱそうか…。アリアの星の目に細工したのもテメーだな」
くそっ、俺達の嫌な予感が的中した。同時に他の国で同じことをやられたら防ぎようがないってことを。それなら益々こいつを逃がす訳にはいかない。悔しさで歯ぎしりしてしまう。
「アハハッ! 気付いていたのかい? 私のインタフェアランスは、神のあらゆる能力や権能に制限をかけることができるのさ! ただね、神1人につき一つまでというのが欠点なんだよ。中途半端な能力だよね。なぜ神に対する力が権能なのか、ずっと疑問に思っていたんだよ! サーシャとルクスをそれぞれの国の近くに転移妨害させて送ったけど、一人では止められなかったみたいだしね、アハハハ!!」
「あの2人にもそんなことを? ファーレ、あなたという人は…」
楽しそうにクソみたいなことを喋る奴だな、こいつ…。サーシャにルクスにもわざわざそんなことをやっていたとは…。短気なアリアがキレかけているのがわかる。
それに天界で見たときの様な黒い神気はそのままだが、紫がかった黒い不気味な翼が8つに増えている。同じ様な色合いの真ん中で分けられた長い髪の毛も、毛先に行くに連れて濃い金色の様な色合いに変化している。側頭部から白い上を向いた角。身に着けている露出の多い司祭のローブの様な衣服は青と白の色合い。頭のサークレットといい、全身にも濃い群青色と黒の混ざった色合いの輝く鎧が装着されている。堕天神のこいつらは天上の加護を失って神衣を纏うことはできないはず…、何だあの装備は?
「ペラペラとよく喋る奴だな。よく見たら、前よりロックなルックスじゃねえか。そいつは神衣なのかよ?」
「カーズ、美しい見た目とは正反対に口が悪いね、君は。フフッ、これは堕天した神や魔神が纏う魔神衣と呼ばれるもの。神衣とは対となる魔の衣だよ。そして勿論我らにも神器、いや今は魔神器とでも言うべきかな、それを持っている。低俗な邪神とは違い、天上の加護などなくとも何の問題もないんだよ」
道理で禍々しい光を放っているわけだ。魔神ね…、まただ、意味不明な言葉が出て来やがった。
「口が悪くて上等だよ、俺は男だからな。なら遠慮ナシでいくぜ」
バチッ! バチチチ! バチンッ!!!
「ほぅ、アリアの得意な抜刀術かあ。でもその程度では私の神気の壁に鎧装すら傷つけられないよ」
今放ったのはノーモーションからの飛天・五連。だが奴の神気鎧装に弾かれた。遠距離からの衝撃波程度ではダメか。なら、さっさと本気の技を直接喰らわせてやるぜ。チキッ、前傾して踏み出す足に力を込める。
「はあああああっ!!!」
ピシッ! バキィーーイン!!!
「炎・氷・雷・地・光龍閃」
今のは本来は一撃が属性魔力を纏わせた一つの斬撃、刀スキルだ。クリムゾン・エッジ=炎龍閃と言うように、ソードスキルと刀スキルは互換性があるので使いやすい。そして抜刀術から放てば威力に速度が大幅に伸びる。5属性の融合した5連斬。魔の神に闇属性は効力が薄いだろうからな。
神気の壁を破壊し、魔神衣にも僅かだが傷が入った。破壊とまではいかないが、次でぶち砕いてやるぜ。
「ハハハッ、私の魔神衣に傷をつけるとはね。少々侮っていたようだ。天界でも君は命を燃やして特攻し、私達を吹き飛ばすような闘志を見せていたしね。非礼を詫びよう。そして仕方ない、少々遊んであげるとしようか。私に勝てればインタフェアランスは解いてあげてもいいよ。おいで、私の魔神器アポカリプスよ!」
ファーレの右手に血の色の様な赤の二股の槍が顕現される。俺がユズリハに創ったグングニルの輝く様な赤とは異なる、不気味な赤だ。
「槍か…、まだ槍使いの敵とは闘ってないな…」
ユズリハと稽古で対戦した程度だ。だがあの間合いは厄介だと思ったな。
「さあ美しく舞え! アポカリプス!」
ギュインッ!! ガギィン! ギィン!!
「くっ、なんだ、この動き!?」
手から離れ、まるで独立した生き物の様に動き襲いかかって来る奴の魔神器。明鏡止水で何とか対応できているが、未来視は機能しない。なるほど、俺にも神格があるということは奴のインタフェアランスの効果範囲内と言うことになる。恐らくUSまでに関与は出来ないかもしれないが、他のスキルには何かしらの干渉が可能だと言うことか。こいつは思ったより厄介な能力だな。
ガギィン!! ギギギィィン!!!
チッ、近寄れない。しかも不規則な動きで軌道が読みにくいったらないぜ。
パシッ! ファーレの手に戻る魔神器。
「さあ次は、斬り裂け! アポカリプスよ!」
「なっ!?」
鞭の様に形状が変化した。しかも連接剣の様に刃が付いており斬撃も可能。しかも絡め捕られると全身斬り裂かれる。厄介だ…。
ビュビュンッ!! ガキンッ! ギイイイイィン!!
伸びて来ては波打つように刃が斬撃を放ち、縮むときに巻き付いて絡め捕ろうとしてくる。ファーレは柄を握っているだけ。魔力で操作しているのか、道理で不規則過ぎる動きをするわけだ。
「くそっ、腹立つ変化に動きだな」
「そう、このアポカリプスはあらゆる武器へと姿を変える。剣にも槍にも、この連接剣の様な鞭にも」
「はあっ!! 嵐牙突!」
ガキィイインッ!!!
「盾にもね」
渾身の突きがガードされた。攻撃反射の付与がついてないだけマシだが、強靭な盾だ。
「チッ、なんてやりにくい武器だ。ならこちらも出し惜しみはナシだ! アリア、同時にいくぞ!」
「ええ、確実に仕留めるには…。私も本気を出しましょう。我が体を纏え、神衣よ! 来なさい、クローチェ・オブ・リーブラ!」
アリアの体にも真紅の神衣が装着される。そして神器の聖剣が現れる。
「やれやれ…、神2人を相手にするようなものだね。仕方ない、私もその気にならざるを得ないか」
ナギストリアを亜空間に放り込み、ロングソードの様な、いやそれよりも相当刀身が長い形状へと変化する魔神器。あんな長い剣を扱えるのか? それにナギストリアに逃げられたか…、まあいい、アイツはいつでも潰せるのはもうわかったしな。
「折角だ、楽しませてごらんよ、アハハハッ!!」
アポカリプスを構えるファーレ。剣が長い、懐に入り辛いな。
(アリア、俺があの剣を抑える。その隙をつけ)
(わかりました。ですが彼女の能力は私も全ては知らない、防御を疎かにしないように)
(ああ、いくぞ!)
足場にしている空を蹴る!
「はあっ!」
「おっと」
ギィン!
「くっ!」
何だ今のは、剣閃に合わせて剣先でぬるっと受け流された。こいつ、武器の扱いも相当だ、やりにくいったらないぜ。
「アストラリア流刀スキル」
ドンッ! ギギギィィン!
「神狼牙・四連・フラッシュ」
厄介な間合いを潰すための魔法剣。だが…
「私にも神眼があるということを忘れていないかい? 目潰しなんて効かないよ」
連撃も防がれた。未来視だな。
「まあそう来るだろうな。やっぱやりにくいぜアンタ」
「お褒めに預かり光栄だよ。じゃあ私の剣技を見せてあげよう。見えればの話だけどね、ハッ!」
上段からの打ち下ろし? 見え見えだ、これが剣技だと? 翔陽閃で相殺できる!
ザンッ!! ピシッ!!
「えっ?!」
「カーズ!!」
肩から胸元の神衣を斬り裂いて、俺の肉体にダメージが入った。胸元から流血している。すり抜けた?? いや、相殺したはずだ。
「うぐっ、何だ今の…?」
「不可視の斬撃、他の干渉を無視して、私が斬りたい場所を斬ることができる。相殺しようとしても無駄だよ。これは概念の攻撃、通常の剣技とは全く異なる。真っ向から打ち合う君達との相性は最悪さ」
「カーズ、離れなさい! ハアアアッ! アストラリア・エクスキューション!!!」
ドオオオオオーーーン!!!!
いきなり奥義をぶちかますとは、さすがアリア。遠距離からの一閃、これは防ぎようがないだろう。
ザシュシュッ! キィン!!
「ふぅ、アリア、君は相変わらず荒っぽいね。いきなり奥義とは」
「なっ…、あの一撃を斬り裂くなんて…」
アストラリア・エクスキューションが斬られて消滅した。どうなっているんだ?
「言っただろう、これは概念の攻撃。対象が何であれ、私が斬ると決めたものは斬られるんだよ」
「なんてチートな能力だ…。近づけばこちらの防御など無視して斬られるし、遠距離からでも技自体を斬られる。道理で長い形状をしてるわけだ…。間合いに入ろうとすれば、待ってましたってことだしな」
「アハハ、ご名答! カーズ、君の観察眼は目を見張るものがある。私の眷属にしてあげてもいいよ」
「バカか、なる訳ねーだろ。それに能力をペラペラと喋るとは、間合いに入られたくないと言っているようなもんだ。そういう能力なんざ漫画やら何やらで腐るほど見て来てんだよ。ぶち破ってやるぜ、見てろよ」
間合いに入れば、少なくともあの剣は振るえない。そしてヤツの攻撃そのものを飲み込めば勝機はある。後は…、アリアに任せるか。
「アリア、次で決める。いいか、俺が撃てと言ったら…、躊躇なく撃て!」
「何を…、カーズ何を考えているんです!?」
チキッ! 納刀し、抜刀術の構えを取る。深く前傾、この一撃にありったけをつぎ込む。奥義を連発したせいで、俺ももうすぐガス欠だ。決まってくれよ…。
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