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第四章 混沌の時代・7つの特異点

75  咲き誇れ神気よ!

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さあ新生ディードの出番です!

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 イヴァが文字通り遊んでやってたみたいだが、いい感じに時間を稼いでくれた。クソ親父はもう用はないか。見入ってないで闘えよなー。ディードの邪魔になるし、魔力でこっちに引っ張っておこう。

「強制転移」

 ブゥンッ!

 親父が目の前に転移して来る。

「あれ? あ、テメー、ナギト! 俺の出番がねーだろ!」

「うるさいぞー落ち武者。ハゲ魔法喰らわされたくなかったら黙って見てろ。イヴァの闘いに見惚れやがって」

「ニャハハ、後は生まれ変わったディードに任せるのさー」

「まあ仕方ねえか、嬢ちゃんのリベンジを見届けるぜ」

 イヴァは俺の膝の上に座って楽しそうにしている。髪色も黒に戻った。面白い現象だなあ、さっき使ってたスキルは後で教えて貰おう。今はディードの闘いに注目だな。




「フッ、わざわざ蘇生してまで、また死にに来たか。愚かなエルフよ」

「さっきまでイヴァに手も足も出なかったみたいですが、これでもまだ大口が叩けますかね?」

 ピシィッ!!! ビキビキビキキキキ…!!!

 水流に纏われているアガリアレプトに向けて凍結魔法を指先から放つ! 足元から水流が次々に凍りついていく。

「くっ、離れろ、エレーロギャップ!」

 間一髪で合体状態から分離したが、その水部分である水竜の形のエレーロギャップは一瞬にして凍りついて氷柱と化した。

「先ずは一体、アストラリア流連接剣ウィップ・ソードスキル」

 ギャリィィィン! ザザザザザキィン!!! ガシャアアアアンッ!!

サーペント・大蛇のキャプチュアー捕獲!」

 巨大な蛇に巻き付く様に変化したLRWライトローズ・ウイングが凍り付いたエレーロギャップを粉々にした。しかし、アストラリア流は連接剣ウィップ・ソードのスキルまであるのか…、アリアの器用さはとんでもないな……。じっくりと見させて貰おう。それと俺の影響なのか、やたらとみんな凍結魔法使うなあ。

「おのれ、よくもエレーロギャップを! ならば我が体を覆え、タリヒマーレ!」

 ゴオオオオオゥ!!!

 再び炎を身に纏い、装備が赤く変化する。

「またそれか…、ネタが割れているというのに芸がない」

「黙れ! 先程と同じ技で葬ってやろう! 喰らえ! デッドエンド・フレイムトルネード!!!」

 炎のランスから竜巻の様な突きが放たれて来る!

「アストラリア流細剣スキル」

 カッ!!! ビキビキビキキキキ、バキィイイン!!!

ダイヤモンドダスト・ショット凍結する宝石の墓場の一撃!」

 ドゴアアアアアア!!!!

 先端に合わせた突きから、氷の結晶が吹き荒れ、アガリアレプトの炎のランスが凍結して砕け散る!! 更にその凍気の魔力がアガリアレプトを凍結させていく。
 
「離れろ! タリヒマーレ!」

 分離した炎の巨人は、そのまま凍りつき砕け散った。やっぱり普通にやればディードの方が上だな。霊力と水毒の技でこいつは勝てたんだろう。それにディードは勤勉なんだ、一度喰らった技をまた被弾する様な真似はしないだろう。

「おのれ……、よくも私の下僕の霊体を…。ならばこれで直々に葬ってくれる!」

 空間から巨大な鎌を取り出した。だが無駄にデカいだけだな、あのシタの戦斧バトル・アックスと同じだ。デカ過ぎて実用性が全くない。

「スペアがあったのですね、その武器は。霊体と融合したときに変化したのを砕いたというのに。ですが、ただ大きいだけの鎌で何ができますか?」

 鑑定してみたが、A+程度の強度。新生ライトローズ・ウイングはSSランク、斬り結んだだけで砕けるな。

「黙れ! 卑しい人族が! 喰らえ、スローイング・デスサイス!!」

 えー、投げちゃうんだ? こいつは武器の扱いは素人だな。

 パアアアン!!!

「シールド」

 柄の翼型ナックルガードが大きく展開する。軽々と弾かれた大鎌が俺達の目の前に飛んで来て、地面に刺さる。やっぱデカいだけだな…、ウザいし砕いておこう。

 バキィイイン!!!

「アームズ・ブレイク・ナックル」

 神気を纏った拳で、大鎌を砕く。さて、もう武器もないし終わりだな。

「くっ、ならば精霊魔法を受けろ!」

 ピッ! ドゴォッ!!!

 アガリアレプトが魔法を放とうとしてかざした左手に、圧縮された無詠唱のストーン・キャノンが炸裂する。

「うがあっ!? ……この威力の魔法を無詠唱で放つとは…」

 ユズリハがやってたやつだろ。やっぱ意識してるんだなー。

「ではここで幕引き。この里を襲ったことを後悔しなさい!」

「調子に乗るな! 喰らえ、精霊魔法・ブラッド・フリージング・デストラクション血液凍結破壊!」

「今こそ輝け我が神格!! 咲き誇れ神気よ!!!」

 パアーン!!!

 鮮やかなエメラルドグリーンの神気の鎧装が精霊魔法を弾き、無効化する。まあ当然だろう、霊力の魔法とは言え、所詮魔法。神衣を纏う程に高めた神気の前では意味はない。

「アストラリア流連接剣ウィップ・ソードスキル!」

 ギャリィィィィイイイイン!!!! ザキンザキキキン!! ズドシュッ!!!

 放った連接剣の剣先が、亜空間に飲み込まれ、アガリアレプトの周囲を囲む様に展開された、何十という空間の歪から刃が飛び出し、まるで刃の結界の様に奴を飲み込み斬り裂いていく!

アナザー・ディメンションズ・ブレード異次元の刃!!!」

「う、が、ぐおおおお!!! おのれ、人族め…。お前達はまた同じ過ちを繰り返し、世界を崩壊へと導くのだ! それがお前達人族という存在! 世界の害悪そのものなのだ!! ぐぎあああああああああああ!!!!」

 刃の結界に斬り刻まれて、アガリアレプトは消滅した。今のは凄い技だな…、あれだけの周囲の空間の歪から抜け出すことは難しい。しかも全方向から刃が飛び出してくる。転移で何とか抜け出せるかどうかってとこだろうな。初見殺しが過ぎる。さすがアリアが考えた技だと感心するな。

「確かに人類とは愚かなものなのでしょう…、且つての自分がそうであった様に。でもわたくし達は今を全力で生きているのです。余りにも永い時を生き過ぎたあなたには、きっとわからないのでしょうね…」

 ジャキン!

 鞘に剣を収め、俺達の方へと走って来る。また一つ強くなったな。誇らしげな表情だ。


 さーて、ここのクソエルフ共にキッチリ約束を果たして貰うとするか。長老らしき奴に声を掛ける。

「おい、ジジイ、今のちゃんと見てたな? 奇蹟が起きただろ?」

「……はい、イヤミーナが勝つところを、確とこの目で見ました…」

「あいつはディード・シルフィルだ、二度とそのふざけた名前で呼ぶな。燃やすぞ。さっさと里の連中全員呼んで来い。さっき言った約束を守って貰う。できないなら、このまま炎と一緒に森ごと消えるんだな」

「は、はい…。では少々お時間を…」
 

 ・

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 俺達四人と、念話で呼んだクレア達騎士団が後ろにやって来たところの前方に、凡そ300人程のエルフ達が集まって来た。救ってやったというのに、ぶつぶつと何か言ってやがる。閉鎖的ってのは嫌だな、これが鎖国時代の日本なんだろうなあ…。

「カーズ殿…、全員集まりましたが…」

「うん、わかった、ならお前ら全員土下座」

「え?」

「土下座しろって言ってんだよ。俺達が、ディードが来なかったら、お前らは全滅してた。それなのにこれはディードが忌子いみごだからとか、意味不明な理由で命懸けで闘ったこいつを侮辱したよな? 彼女が勝ったら地面に頭擦り付けて、これまでのことを謝罪しろって言っただろうが!? さっさとやれ。次はもっと強烈な威圧をぶちかますぞ!!!」

 ドゴオオオオオゥ!!!

 俺から魔力の渦が立ち昇る!!!

「ひぃっ!!! 皆の者、首を垂れよ、頭を地面に擦り付けて感謝と、これまで忌子と蔑んできたあの娘、今は新名のディード・シルフィルに心から謝罪せよ!!」

 さすがに一発目の神気覇気の威圧を喰らっているだけあって、誰もがすんなりと頭を下げて感謝や、ディードへの謝罪をした。本心なのかは知らんけど。

「いいか、クソエルフ共。しょうもない風習にしがみ付かずにもっと外に出ろ。自分達の感覚が如何にズレているかわかるだろうよ。クラーチには今冒険者も足りてない。いい機会だ、若い奴らは登録して冒険者でもやって来い。それと双子の後産まれが忌子とかバカ過ぎて下らねーんだよ! 根拠のない掟とか、このゴタゴタが終わったら俺が書き変えてやるからな! そのせいでディードは苦しい思いをしたんだ。もう一度謝罪しやがれ!!!」

「「「「「申し訳ありませんでした!!!」」」」」

「そして里を守って貰った感謝、もう一回しやがれ!!!」

「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」

 うん、エルフって高慢ちきなくせにそのまんま放置される物語が多いからな、これはわからせた感があって気分がいいな。とっても爽快。

「ディード、何か言いたいことはあるか? 今迄の不満をぶつけてやってもいいんだぞ」

「カーズ様…。いえ、もう充分です。まさかこんな日が来るなんて思いもしませんでしたから……」

「ニャハハ、カーズはやることが面白いのさー」

「いや、さすがに俺でも引くレベルだぜ…。ナギト…お前独裁者に向いてんぞ」

「あの頑迷固陋がんめいころうなエルフ達がこの様に従順に頭を垂れるなど…、相変わらずの規格外な行動ですね…」

 イヴァにクソ親父、クレアまで好き勝手言うなあ……。うん、無視しとこう。

「良かったな、お前ら。ディードが寛容で。俺ならこの森破壊するだろうな。じゃあ今から首輪の呪いの解除も、森の消化もしてやるから安心しろ。後、ディードの家族! いるなら言うべきことは言っとけよ、先ずは呪縛の解除だ、パーフェクト・キャンセル完全なる呪縛の解除!!!」

 パアアアアアアーーーーーーッ!!!

 隷属の首輪と呪縛が砕かれ、エルフ達に掛かっていた弱体化も解けた。後は火を消すだけだ。余りに勢いよく水魔法を放つと森が壊れる、どうしたもんかな…? 雨を降らせるのが一番いいだろう。丁度良く東側に海がある。そこから水を引っ張って森の上空に雨を降らせよう。

「じゃあいくぜ、創造魔法・タイダルウェイブ・レイン津波の如き大雨!!!」

 ドゴゴゴゴゴゴゴーーーーーッ!!!

「うわあ、津波だ!!」

「里が飲まれるぞ!!」

 うるさいなあ、里の上空まで水を運んだんだよ。

「さて、止まれ! そして雨となって降り注げ!!!」

 ザアアアアアアアア!!!!

 大粒の雨が降り注ぐ。暫くすれば火も消えるだろう。農作物は…うん、仕方ないな。海水だし…。

「おお…、ありがとうございます、カーズ殿。この度は本当に失礼なことを致しました…」

 パキィインッ! 

 長老の凍結している右手の拘束を解いて回復させる。約束は守ってくれたしな。

「いや、元々この里が狙われる可能性があるから来たんだ。メキアで堕天神がアストラリアの振りをして法王を操り、奴隷制度の解放・許可なんてのを出しやがった。もうそいつは斃したから、撤回されるだろうけどな」

「…そうでございましたか…。一体、この世界で何が起きているのですか…?」

「天界を裏切った連中が好き勝手やってるんだよ。魔王も復活させられた。しかも竜王の末裔の兄妹二人。これから俺達は魔王領に向かうしな」

「なんと…、そのようなことが…」

「こんな薄暗い森に引き籠ってるからそういうことがわからねーんだよ。若い奴くらい外で修行させろ。意味の分からない掟かなんかわからんが、そういうのにしがみ付いてたらディードみたいな優秀な人材を失うぞ。さっさと改めろ、アホ臭いんだよ。いいな」

「そうですな…、どの道今日で滅んでいたかも知れない。ならば過去の排他的な風習は改めるとしましょう」

「ああ、そうだな。それがいい。じゃあまた様子を見に来るからな。俺はディードのところに行く。調度家族と話してるみたいだしな」

 消火は雨で進んでいる。俺はディードの側に行くことにした。



「今まで済まなかった。掟とは言え…お前には辛い思いをさせて来たのだな……」

「ええ、それなのに命懸けで里を守ってくれて…、ありがとう」

「ごめんね、姉妹なのに…、姉の私があなたを庇って、守ってあげないといけなかったのに……」

 俺が近づくと、彼女の両親と姉らしき人がディードに頭を下げていた。ふむ、意外に素直だな。エルフはもっと頑固で融通が利かないイメージだったけど。実際はそこまでじゃないのかね? いや、俺が強烈に威圧したからかもだな…。

「ディード終わったか?」

「あ、カーズ様…。ええ、まあ…」

「じゃあ魔王領に行くぞ。アリア達からまだ念話はないが…、どうやらエリック達もいるみたいだしな」

 そう言った俺にディードの家族が声を掛けて来た。

「カーズ様、この度は大変ありがとうございます」

「この子のことも救って頂いた。何とお礼をすればよいのやら…」

 母親に父親か…。さすがエルフ、見た目が若い。

「いや、俺がどうこうとかはどうでもいいんだよ。ディードが里に、家族の処に帰省した時に温かく迎えてくれるんなら、それが一番だ」

「…その通りですね。ディード、あなたは新名と一緒に素敵な方を見つけたのね」

 髪の毛は長いがディードそっくりの女性が答えた。これが双子の姉か。

「ええ、ありがとう姉さん…」

「そう言えば姉さんの名前は何て言うんだ?」

「私の名はソネミーナです。なぜそんなことを聞くのですか?」

 ひでえ……。姉は姉で、ひっでー名前だ……。

「両親のネーミングセンスどうなってんの? もうちょいマシな名前つけてやれよ」

「ええと、クラーチに住んでいる友人につけて貰ったのですが……」

 父親が答えた。マジか…あの国と関わってたんかいww

「あの国の奴らのネーミングセンスは異常だからな。絶対改名してやれよ」

「そうですね…。考えておきます…」

 やっぱあの国は本当に碌でもねーな。

(カーズ、我が息子カーズよ、聞こえるか?)

 ん? その国の残念王から念話だ。

(どうした、義父さん)

(たった今奴隷制度の許可、解放は撤回された。メキアの制圧に成功したのだな?)

(ああ、俺は今クラーチの近くのエルフの森にいるが、堕天神はキッチリ潰した。そっちもご苦労様。耐えてくれたんだろ?)

(うむ、何とかな。時間的に撤回までが早かったのも良かった。それ程苦労はしておらんよ)

(そうか、俺達はこれから魔王領に乗り込む。もう既に魔物が狂暴化していてもおかしくない。各国に警告を出しておいてくれ)

(うむ、わかった。では互いに検討を祈ろう)

「よし、じゃあ念の為…今晩だけでいいから、クレア達は引き続きここの警備を頼む。エルフが何か言って来たら俺に教えてくれ」

「はい、カーズ殿。お任せ下さい」

 ギグスとヘラルドにも声を掛けてから、俺はディード、クソ親父にイヴァリースを連れて、アリア達より一足先に魔王領の北部にいるエリックとユズリハの所へ転移した。




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 時は数日前、カーズ達の第一大迷宮攻略直後まで遡る。
 
 魔王領の最奥、魔王城の玉座の後ろの隠し階段を降りたところにある休眠装置の前、ティミスはその内部で傷を癒しているファーレと話していた。

「あなたがここまでやられるなんて、あの特異点はとんでもないようね…」

 ファーレの胸元の、塞がり掛けた神気の攻撃による穴を見てティミスが言う。

「ハハハ…、油断してたと言うのも言い訳になるね。彼は恐ろしい力を秘めている。しかもあの観察眼、敵に恐怖を感じたのなんて、神魔大戦以来なかったよ。これ程の致命傷を受けるとは…、彼のレベルがもっと高かったら危なかったね」

「次期大神候補とまで言われたあなたがね…。信じ難いわ」

「彼は君の行動にも不審な点を感じているみたいだよ。恐らく次に会う時には敵意剥き出しで来るだろうね。7つの特異点がどれなのか、そしてその中の一つを君が連れて来たということは、こちらと繋がっていると教えている様なものだよ。詰めが甘いんじゃないのかい?」

「このナギストリアが余計なことを喋ったせいだけど、そうね…。あの子には本気の殺気を向けられているし、こっちに良い印象は持ってないでしょう。それでこれからどうするの?」

 ファーレの隣の装置にはナギストリアが眠っている。カーズに完膚なきまでに打ちのめされて、酷い重体で意識もない。

「取り敢えずこの子を連れて、冥界に向かう予定だね。力を失った以上、それを何かで補わないと役に立たないからさ。ティミス、回復魔法をかけてくれないかな? 堕天したせいで聖魔法が上手く扱えなくなってね。これは少々誤算だったよ、神気の攻撃で付いた傷は治りも悪いというのに」

「まあ仕方ないわね…、この子にもかけてあげるわ、ヒーラ体力・HP大回復!」

 聖魔法の輝きが傷を癒し、ファーレが装置から出て来る。ナギストリアはまだ意識が戻らない。

「ふう、さすがは神の回復魔法だね。ヒーラガ体力・HP完全回復を使わなかったのは天界への義理立てかい?」

「そうでもないわ、そこまでしなくても後は自力で何とでもなるでしょう?」

 フッ!!!

「じゃあ、俺にも回復を掛けて貰うとするか」

 魔王にされた二人の竜王の末裔を拘束して、バアルゼビュートが帰還して来た。だが全身傷だらけで、魔神衣ディアーボリスもかなり破壊されている。

「おやバルゼ、君も中々してやられたようだね」

 ファーレがニヤニヤと話しかける。

「フッ、その通りだ。あの特異点は侮れん。俺の魔神器を一つ破壊しやがった。あのまま闘い続けていたら死んでいただろうな…。危なかったぜ。だがこれで且つて前例のない魔王が誕生した。漸く特異点が7つ揃ったわけだ」

 バルゼに回復を掛けながらティミスが答える。

「そうね、特異点同士の遺伝子交配なら、きっと最強の特異点が出来上がる。清魂計画の為にも早く実験したいものね」

「魔王の二人は更に負の感情を流し込んでおく。あのカーズの創造魔法で呪縛を解かれかけたからな」

 朦朧としている竜王の兄妹を連れて、バルゼは玉座の間への階段を上がって行った。拘束したまま更に負の感情を流し込むのだろう。

「ハハハ、カーズはそんなことまでできるのかい? 面白い、是非とも世界を混乱に巻き込んで欲しいものだ。その前にこっちの役立たずをどうにかしよう。彼らはここに来る前に先ずはメキアに乗り込むだろう、アーシェスにはこの世界での禁忌である奴隷制度を解放させる様に頼んである。この世界は大混乱になるだろう。彼女がすぐに討たれなければだけどね…、フッ、フフフッ」

 心底この状況を楽しんでいるファーレに、ティミスは恐怖を感じた。アーシェスもバルゼも彼女にとっては手駒に過ぎないのだろう。清魂計画の延長線上で彼女達とは利害が一致しただけのこと、これ以上ここに居るのは明らかな天界に対する背信行為。彼らの思惑がわかった以上、さっさと退散するに限る。

「じゃあ私はここらで一旦席を外すわね。そのナギストリアに力が戻ったら遺伝子を頂くわ。天界の目を掻い潜るのも疲れるし」

 転移魔法を発動しようとしたが、機能しない。

「なっ?! これは…? ファーレ、あなたの…」

インタフェアランス妨害結界。悪いけど逃がさないよ。いつもいつも自分だけ甘い蜜を吸おうとするなんて、不公平だとは思わないかい? 君のそういうコウモリな八方美人振りにはうんざりしてたんだよね」

「くっ、今すぐ解きなさい!」

 予想外の展開に動揺するティミス。だが普通に逃げてもファーレにはあっさりと捕えられるだろう。

「アハハハハハッ、本音が出てるよ。さあ、少しは役に立って貰おうか? 受けたまえ、魔帝幻朧拳まていげんろうけん!」

 ビシィッ!!!

 ファーレの指先から高速で放たれた赤い光が、ティミスの眉間を貫いた。

「あ? ぐ…、は…、う…、ファ、ファーレ…!」

 バダンッ!!

 力が抜けた様にその場に倒れるティミス。

「今のは原初の7色の魔神が使っていたとされる、相手の脳へ直接衝撃を与える伝説の精神支配の魔拳。君はバルゼと共にここで特異点達を食い止めることだね。私はこれからナギくんと冥界へ向かう。後は任せたよ、ティミス」

「く…っ、…うぐ…、は、はい…お任せ下さい…」

 立ち上がり、人形の様に答えるティミス。目は虚ろで視点がまだ定まっていない。

「ハハハッ、天界に不満を持つ者同士、仲良くしようじゃないか。ただし、信用の置けない君は傀儡としてだけどね! 精々ここを死守してくれたまえよ」

 意識の回復していないナギストリアを亜空間に放り込み、ファーレは冥界の最深部へと向かった。





 ルクスにサーシャ、そしてカーズ達が到着するまであと数時間……。



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おっと、コウモリ捕まる(笑)
こんなことが裏で起きてたんですねー

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