OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第四章 混沌の時代・7つの特異点

76  集結、魔王領

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「よし、完了だ。新生バルムンクにフラガラッハ。グングニルに魔導銃マジックガン。これなら神気を全力で放っても、この武器達は壊れることはない。元々俺の魔力から創られた概念武装。鉱石等を素材に創ったものとは根本的に違う。ニルヴァーナと同調させることで、内に込められた俺の魔力の底上げをしたし、神気の波長が違う二人でも今迄通りに使えるはずだ」

 俺が今やったのは、ディードのライトローズ・ウイングを神器レベルにまで高めたときと同じ作業。それをエリックとユズリハの創造武器にも行った。まあそれでもファーヌスの創った神器にはさすがに及ばないけど。

「マジかよ…スゲエな」

「これならいつ神衣を纏えるようになっても安心ね!」

 転移でエリユズのところへと移動した俺達は、此方の現状を知った。イヴァの紹介も兼ねての簡単な情報交換だが、エリユズがルクスとサーシャから神格譲渡を受けたと聞いたので、先程の作業を行ったということだ。まだこの二人は神衣を纏うことはできないらしいが、こればかりは自分で身につけるしかないだろうな。
 血の盟約と違い、通常の神格譲渡は死ぬほど苦しかったらしい。使徒化の儀式は此方から一方的に授けるだけだが、譲渡はその神格を受け入れるだけの心の強さなどを試されるらしい。まあ、生きていてくれて良かったよ。

「しかし、ここは結構暑いんだな」

「そうね、クラーチの南とはいえ、ここはもっと東にあるのよ。二つの大陸を結ぶ世界の中心の海の辺りは一番暑いわね。アリアさんの装備で快適だけど、ここなんて荒地や砂漠だから、遮るものがない分かなり気候は厳しいわね」

 ユズリハが言うように、ここは赤く爛れた大地が続いている。前以てアリアがイヴァと親父にも状態異常耐性がついたリングを渡していたのは、この環境が体力の消耗に繋がらない為なのだろう。やるな…アリアめ。

「そうか…。で、二人の修行は進んでるのか? ルクスとサーシャはいないみたいだが」

 レベル的には俺達の経験値も上乗せされている。神格譲渡で流派もスキルも増えてるし、能力値もかなり上昇している。

「まだまだだな。ちょっと前も師匠達が来なかったら危ないところだったしな」

「体力も魔力も限界だったときに魔人の大軍に襲われたのよ。序列三位のアガリアレプトの配下3匹と連戦だったしね」

「ん? アガリアレプトならエルフの森でディードが斃した精霊だよな?」

「ええ、配下が消されたとか言ってましたが、あなた達二人が斃したのですか?」

 ディードがエリユズに尋ねる。

「マジかよ…、ディードの能力値相当上がってるじゃねーか。血の盟約ってのはスゲエな」

「カーズ様の記憶から神格の扱いもまるで自分が経験したかの様に知ることができました。神衣も纏うことができますよ」

 ディードは少し誇らしげだな。これはいい刺激になるだろう。

「結局配下も斃したのは師匠達だし、ディードに負けてるじゃないの! 私達も早く使いこなせるようにならないと!」

 まあ、特に勝負するものでもないんだが、こいつらも大概負けず嫌いだしな…。

「鍵は感情の爆発らしい。俺もアヤを目の前で失ったときの感情の爆発が神格を目覚めさせるきっかけになったし、アヤも6柱の悪魔に対してぶちギレたのがきっかけだった。ディードはさっきも言った通り、儀式で俺の記憶を追体験したことで自然と扱い方が理解できたらしい。でももう使える武器はあるんだ。焦らなくてもいいだろう」

 シュンッ!!!

 話していると、アリア達が転移して来た。ディードが無事なことにみんな一安心といった表情だ。どうせ俺が血の盟約を使ったことはアリアとアヤにはバレているだろう。後で一言言っておくか。

「ディード! 良かった、心配したんだよ!」

 ディードを抱きしめるアヤ。こういうところなんだよな、アヤが人から慕われるのは。周りの人を大事にするからなんだ。

「ええ、ご心配をお掛けしました、アヤ様…。それに皆さんも……」

 アヤを抱きしめ返すディード。うん、仲間が仲良しなのは良いことだな。

「アヤ、血の盟約を使わざるを得なかった…。ディードを使徒として縛ることになってしまった。済まない」

「? 仲間の命を救ったんだし、それ以外に方法がなかったんだから仕方ないよ。でも正妻は私だからね。それにそんなことくらいで怒る、器の小さい女とでも思ったのかなー?」

 おっと…変な方向に話が行ってるぞ。それにめっちゃヤキモチ焼きじゃねーか、急に大人の女宣言されても戸惑うわ。

「いやいや、別にハーレム作りたいとかじゃないから。アヤがいるのにディードを側に縛ることになったから謝ってるんだって」

「ディードは仲間なんだし、縛ってはないでしょ?」

「わたくしは別にずっと縛って頂いても構いませんよ?」
 
 ダメだ、よくわからない方向にどんどん進んでいる。こういうときは、放っておくに限る。二人がギクシャクしたり、他の女性を使徒として縛ったから、アヤがキレるかもと思ってたけど。問題がないって言うならそれでいいか。
 とりあえずアリアに現状を聞こう。

「アリア、意外と遅かったな。でもちゃんと撤回させたんだろ? クラーチ王から通信来たしな」

「ええ、法王にちゃんと世界中へ通信させました。魔王復活による魔物の活性化の注意喚起も一緒に」

「ああ、それは俺もクラーチ王に伝えておいた。後は魔王の呪縛を解いて、堕天神を片付けたら終わりだ」

 メキアに奴隷として連行された人々は、龍人族は転移で帰れるらしいが、他の種族の人々は教会が責任を持って元いた場所へ送ることになったらしい。ついでにジェームズからのお礼の言葉も受け取った。

「で、ジャンヌは何をやってんだ?」

 アリアの左腕にしがみ付いているジャンヌを見る。

「やっとアリア様に会えたのです。だから逃げない様にしっかりと掴まっています!」

 ……。堕天神を斃したから、かなりレベルは上がっているが…、内面的に変化があるようには見えないな…。みんなから初めて見る勇者ということで、早々にアリアから引っぺがされて質問攻めにあっているが…。

「なあアリア、あの子大丈夫なのか? 魔王の呪縛を解くのにあの子の力は必要だと思うんだけど…。今迄の魔王討伐ってどうやって行われていたんだ?」

「ええーとですね……」

 アリアの話によると、ある程度ダメージを与えて弱らせてから、ジャンヌの聖剣ブライト・オブリージュ闇を照らす高潔なる勇気の力で負の感情を無散させて呪縛を解く、というものらしい。無理矢理負の感情を埋め込まれた、強い力を持った人族というだけで、命までは取らずに解放するということだ。うん、平和的でいい。先に俺がファンタズム・エクスプロージョン幻影よ灰燼と化せを喰らわせた後なら確実だろう。だが問題は……

「ジャンヌは勇者としての力をちゃんと使えるのか? 土壇場で使えないとかになると詰む可能性がある。その辺はどうなんだ? アリア」

「…、勇者として生を受けた状態ではなく、神域から転移に近い形で強制的にこの世界に連れ出されていますからね…。今のままではレベルが上がってもその力が使えない可能性が高いですね…」

 マズイな、間違いなくブライト・オブリージュ闇を照らす高潔なる勇気は切り札。それが使えないとなると確実性に欠ける…。どうにかならないのか…?

「勇者としての意志を呼び起こしたりはできないのか? このシステムを管理しているのはアリアだろ?」

「ちょっと試してみましょう。今迄に前例のないことですし。このシステムを狂わせるために、恐らく堕天神が行ったのでしょうし。ジャンヌ、ちょっと来てください」

 側に来たジャンヌの頭に手を置き、目を瞑って集中するアリア。どうにかなるといいんだが…。他のみんなはこの間にも次々とやって来る魔物の相手をしている。悪いけど、これはかなり重要なことだしな。それに狂暴化した高ランクの魔物が、ここ魔王領から出るのもマズイ。結界でやり過ごす訳にもいかない。

「神格の奥に、僅かですが小さな勇者としての意志がありますね。通常なら魔王の下に向かうまでにこれが大きく成長していくのですが、これを覚醒させても30分持つかどうかでしょうね…。いざというときまで温存です」

「30分か…、確実に捕縛しないとダメだな。堕天神共の邪魔も入るだろうし、ジャンヌがやられてもマズイ。魔王城で捕まえてからここに連れて来る方がいいだろうな」

「そうですね、その方が安全でしょう」

「一応現時点での腕前も見たいが…、無理そうだな」

 アリアにしがみ付いて首を嫌々と言う様に振るジャンヌ。これが伝説の人物とはとても思えないな…。

 魔都ヴォルグザードの奥、魔王城に向かうメンバーは、俺、アヤ&ルティコンビ、アリア、ディード、アガシャにダカルーのばーちゃんと、神衣カムイ龍闘衣ドラゴローブを纏える人員に限った。ジャンヌはお荷物だし、親父もさすがに神相手は厳しい。エリユズはここの防衛をルクス達に任されているらしいし、イヴァも神衣は纏えない。ということでの人選だ。
 アガシャも狙われているらしいし、俺達と一緒の方がいい。そして竜王の里はもう大丈夫だろうということで、ファヴニールに連絡し、ヨルムとついでにルティも神気を全力で放った状態で召喚し直した。急激に能力値が上昇したことに驚いていたし、神気が俺から供給されるため、神気が多少使える相手が来てもそこまで不利にはならないはずだ。それにアガリアレプトの様な精霊相手でも、神気の方が強力。エリユズの進化にも期待しておくとしよう。
 ジャンヌはヨルムの頭の上が一番安全だろう。怖がるけど乗ってもらって神気結界を張っておいた。この竜王兄妹救出のカギだからな。一応召喚した奴らは俺のスキルがある程度使えるし、神格者なら心眼で暗くても対処できる。
 アヤの魔導銃を神器レベルに変える作業をして、いよいよ乗り込む準備は整った。

「さあ、ここからが正念場だ。俺達で堕天神共を蹴散らして、竜王の兄妹を助けようぜ!」

「「「「「応!!!」」」」」

 まるで部活ノリだが、気持ちは一つだ。甘いかも知れないが、誰一人欠けることなく成功させる。

「じゃあ行こう」

 アリアの転移で、魔王城の奥へと飛ぶ。




 ヴゥンッ!!!




 一瞬で玉座の間に着いた。見た目からしてまさにゲームの魔王の城っていう感じの不気味さだな。そして玉座の方から気配が感じられる。

 巨大な玉座に座っているのはバアルゼビュート。竜王の二人は左右に立っている。そして玉座の影に隠れる様にしてティミスがいる。どういうことだ? 怪しい行動は取っていたが、あからさまに敵と一緒にいるのは何か変だ。ああいう手合は、堂々とそういう行動は取らない。こそこそと裏で何かをするのが定石だ。ファーレにナギストリアの気配もない。ルクスとサーシャは魔界のゲートを閉じに行っているんだろうが、一体何が起こっているんだ…?
 





------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------





 魔王城の地下の最深部。魔界へのゲートがある一室。

「よし、これでゲートの封印は完了だ」

「結構時間が掛かってしまったわね。もうアリアにカーズ達は近くまで来てるみたいよ」

 ルクスとサーシャはゲートの封印作業をずっと行っていた。漸く完了した頃、カーズやアリア達が領内へと集結して来たということだ。

「まあ、タイミング的には丁度いい。合流してさっさと潰すぜ」

「そうね、此方に干渉はしてこなかったけど、ファーレはナギストリアと何処かへ消えたわ。玉座の間には、魔王の二人とバルゼに…、なっ、お姉様がいる…?!」

 ティミスがいることに動揺を隠せないサーシャ。

「まさか、完全に裏切ったのか?!」

 ルクスもさすがにそこまでするとは思っていなかった。よくわからない行動を取るのはいつものことだ。繋がっているのはカーズの推理でまず間違いないが、完全に敵対する位置に立つなど、これまでなかった。奇妙な感覚だ…。

「わからないわね…。でもファーレがいないとなると、何かしらをされた可能性もある」

「そうだな…、精神系の何かを受けたのかも知れない。さっさと合流だ」

「ええ、行きましょう」

 二人もカーズ達が到着した玉座の間へと転移で向かった。




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「フッ、よく来たな。この前の借りを返してやろう!」

 玉座に座ったバルゼが口を開いた。

「へっ、そういう台詞を吐く奴に限って返り討ちに遭うのが世の常なんだよ。お前らの下らない遊戯もここで終わりだ。アーシェタボロスは潰してやったからな」

 フッ!!

「その通りだ、よく言った、カーズ!」

「ええ、そうね」

 ルクスにサーシャが転移して来た。

「二人共どこにいたんだ?」

「この更に奥に魔界へのゲートがあるのよ。それを閉じて封印してたの。でもタイミング的にはバッチリだったようね」

 サーシャが答える。その通りだな。

「そうだな、ナイスタイミングだ。さあもう多勢に無勢、ファーレもいない。此方は神衣を纏える者ばかり、投降するならさっさとしろよ。そしてティミス、やっぱアンタはそっち側だったんだな。既に確信はあったが…、アガシャを苦しめたこともここで償わせてやるぜ!」

 玉座の後ろから姿を現したティミスが嗤い始める。

「アハハハハハッ!! 下等な人族如きが調子に乗るな! 私の、計画、を、邪魔する、連中、は、全員…消エロ!!!」

 何だ? 呂律も回っていないし妙な違和感がある…。鑑定、洗脳状態…?! これ程のことができるのはファーレくらいだろう。奴とナギストリアの姿が見えないし、何処かで悪巧みをしているんだろうな。

「ティミスは洗脳状態、恐らくファーレの可能性が高い。あの手のコウモリが堂々と敵対して現れるのは違和感がある」

 神の三人はもう既に視えていたようだな、此方の言葉に頷いてくれた。

「さすがだな、カーズ。このコウモリ女はファーレの魔帝幻朧拳まていげんろうけんを受けている。原初の7色の魔神が使ったとされる伝説の魔拳。そう簡単にその支配から逃れることなどできまいよ」

 バルゼがペラペラと喋ってくれたが、ほう…、7色の魔神ね…。俺の勘は当たっている可能性が高いな。幻〇魔皇拳かよ…。目の前で誰かが死なないと目が覚めないとかそういうのじゃないだろうな?

「7色の魔神!? やはりファーレはそんな奴らと手を組んでいるということですか?!」

 アリアが叫ぶ。毎回だが、冷静になれ。

「さあな、細かいことはどうでもいい。世界が、人類が混乱する様を見るのが俺は楽しいだけだ。天界での神の使命など下らん。どう導いても人間は争う。ならば初めから混沌の世界にしてやった方がマシなのだ。先ずは魔王の二人、龍闘衣ドラゴローブを纏え! そして魔王領の侵入者共を片付けて来い!」

「グ、ウ、ガアアアアアアッ!!!」

「グ、お、仰せのま、ま、に…。ガアアアアアッ!!!」

「なにっ?!」

 アジーンとチェトレの二人が龍闘衣ドラゴローブを纏う。ばーちゃんと同様、鱗の様なデザインの鎧だ。しかし以前は神気をまだ使いこなせなかったはず…!?

「こいつらは魔王化の負の感情を懸命に抵抗レジストし続けて、その際に感情の爆発が起きた。皮肉だな、魔王となったことが神格の覚醒に繋がるとは。さあ行け!」

 ドドゥッ!!!

 翼を広げ、俺達の上を飛翔し、城の窓を破壊して二人が外へと飛び出す!

「くっ、マズい!」

 エリック達はまだ神衣が纏えない。数的優位でも神衣を纏った者を相手にするのは厳しい。

「カーズよ、儂に任せよ! あの子達はまだまだ未熟、お主達はここの悪神を斃せ! よいな!」

 仕方がないな、どの道数的優位は揺るいでいない。さっさと片付けて援護に向かおう!

「わかった、ばーちゃん気を付けろよ!」

 二人を追って、ダカルーも窓から外へと飛び出した。目の前の相手はバルゼにティミスのみ、速攻で蹴りをつけてやるぜ!

「我が身を纏え、神衣よ! 月影より来たれ、ルナティック・アルコ月狂の弓!!!」

 既に魔神衣ディアーボリスを纏っているバルゼは兎も角、ティミスの体に満月の様な輝く金と、新月の闇がデザインとして刻まれた様な神衣が装着される。そして左手には黄金の弓、あれが神器か。アルテミスは弓を使う女神だしな。だがアガシャは剣技も使っていた。ならばソードにも変化する可能性があるな。

「俺は蠅野郎をやる! 分担は任せるが、ルクスとサーシャはティミスを抑えてくれ! 洗脳されているなら、それを解けば無力化はできる!」

「おう!」

「ええ、任せて!」

 二人がティミスの方へと向かう。

「燃えろ! 俺の神格! 輝け神気よ! 来い、神剣ニルヴァーナ!」

 ガッ! ビキィイイイン!!!

 銀と赤の神衣が体に装着される。

「来なさい! クローチェ・オブ・リーブラ天秤の十字架!」

 ジャキッ! ガシィイイイン!!!

 アリアの神器も神衣と共に顕現された。

「他のみんなは援護を! 俺とアリアで斬り込む、防御第一で行動してくれ!」

 後方のアヤ達から返事が返って来た。全員神衣も纏っているし、既にアヤはルティを精霊武器として手にしている。ディードのシールドもある、だが神が相手だ、彼女達はなるべく危険に晒さない様に俺達で闘うべきだな。

「じゃあ蠅野郎、第二回戦といこうぜ。蠅に化けて逃げるとか姑息な真似を、まさか腐っても神様が何度もやらねーよな? だが魔神器なしでどうやって闘うつもりだ?」

 これは勿論挑発だ。そう言っておけば、神としてのプライドがあるなら、蠅に化けて逃げるなど何度もしないだろう。それに魔神器がなかろうと、こいつを潰すのには変わりない。

「カッカッカッ! そんなことはしねえよ。それに俺の魔神器が一つだけだと思っているのか? アレには対になるものがあるんだよ。来やがれ、倶不戴天ぐぶたいてん!!!」

 バルゼの眼前に黒い方天画戟が現れる。だが違うのは、前回破壊した不倶戴天ふぐたいてんより小さく、通常の槍の様にコンパクトな穂先で、軽々と扱うことが出来そうな見た目だということだ。
 不倶戴天ふぐたいてん倶不戴天ぐぶたいてんは同じ天の下に二つ同時に存在できない程憎い敵とかそういう意味だ。読み方が違うだけで意味は同じ。意味通りなら二つ同時に具現化は出来ないってことだろうな。

「何だ? 前よりずいぶん小さいな。パワーでぶっ潰すのが信条じゃなかったのかよ?」

「カカカッ! それは俺の力の側面の一つ。これはもう一つの姿だ!」
 
 ビシッ…、ビキキキ、バキィィイイーーン!!!

 バルゼの体に亀裂が入り、その中から脱皮する様に若い見た目になったかの様な、少しばかり小柄な男が現れた。だが纏っている魔神衣は同じ。漸く蠅らしくスピード特化か?

「何だそりゃ? 脱皮までするとはマジで虫だな。今回は速度重視ってことか?」

「その通りだ、パワーで叩き潰すにはお前達のスピードは手に余る。本来のスタイルでやらせて貰うぜ」

 ジャキッ! ニルヴァーナの切っ先を向ける。

「速度重視、まさに蠅だな、いいぜ、アストラリア流のスピードを舐めんなよ!」

「カカカッ、相変わらず威勢がいいな、カーズ! だが先ずはこいつらが前座だ。来い、蠅騎士団フライ・クルセイダーズ!!!」

「月光より出でよ、月闘士ルナソルジャーズ!!!」

 バルゼとティミスが各々自分の軍団の様な奴らを召喚した。人族が20人ずつだが、神格の鼓動も感じる。身に纏っているのは神衣みたいな鎧、そして様々な武器を手にしている。

「何だ、こいつら?」

「神によっては自分の力に強く同調した人族や魔物などを最大20までですが、自らの軍団として持っている者もいます。普通の人族よりも遥かに強い、その神に忠実な眷属であり下僕しもべ。侮ってはいけません!」

 アリアが答えてくれた。なるほど、要はこういうのが眷属って奴か。鑑定、確かにレベルも1500以上がごろごろいる。だがまるで操り人形の様で、全く自我を感じないな…。堕天神の配下ならまだしも、ティミスの軍団も同様だ。洗脳されているからなのかはわからないが…。
 数的優位があっさりと覆されたが、仕方ない。先ずはこいつらを蹴散らすしかない!

「ちっ、みんな、先ずこいつらを片付ける! 気を抜くなよ!」

 


 こうして魔王城での決戦が火蓋を切った。









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