OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

文字の大きさ
81 / 133
第四章 混沌の時代・7つの特異点

77  蠅騎士団と蠅の王の必衰

しおりを挟む


 俺達の前に立ちはだかる蠅騎士団フライクルセイダーズ月闘士ルナソルジャーズの総勢40人。
 蠅騎士団フライクルセイダーズは騎士らしく巨大なカイトシールドに剣や槍を装備している。そして纏っている鎧はくすんだ灰色。銀蠅かよ…。背には4対の昆虫の羽、飛び回られたら厄介な上に盾が邪魔だな。
 月闘士ルナソルジャーズはティミスと似た月光の金色と、昏い闇色が混ざり合った様な鎧。武器は弓と剣が主体か。この人数に弓を撃たれたるとなると、かなりやりにくいな…。
 いや、考え方を変えないといけないな。竜王の兄妹は二人、ダカルーのばーちゃん一人に撃退はできても拘束までするのは難しいだろう。しかも勇者ジャンヌのことがある。彼女の力は必須な上に、このままでは彼女が先にやられる可能性もある。俺と同等以上で勇者の力を発現させられるのは……

「アリア、お前もダカルーの跡を追ってくれ。俺の創造魔法は記憶を読めば、お前の方が強い威力で撃てる。勇者の意識を目覚めさせるのにもお前の力が必要だ。あの子がやられたらさすがにマズイ。それに戦力的にはお前が行けば速攻で片が付く」

「カーズ、しかし…バルゼ相手に一人で大丈夫なのですか?! ここで私まで抜けると戦況は余計に酷くなります。先ずは奴らを斃すことが優先です!」

 また感情的になってるな、取り敢えず落ち着け。

「何とかしてみせるよ。それにアリアなら転移であっという間だろ? 片が付いたらすぐに戻って来てくれ。それくらいできるだろ、姉さん?」

「……わかりましたよ、ここは貴方の判断に任せます。此方もすぐに終わらせてきますから!」

 フッ!!!

 アリアが転移で飛んだ。これで向こうは大丈夫だろう。寧ろこっちより早く終わる。さあひと暴れするとしようか。

「ニルヴァーナ、二刀フォーム」

 輝きと共に二刀に変化するニルヴァーナ。速攻でこの数だけ多い奴らを蹴散らす!

「オラァ!!!」

 ガギギィン!!

 蠅騎士団を潰そうとした俺の眼前にバルゼが猛スピードで倶不戴天ぐぶたいてんを叩きつけて来た。なるほど、アリアがいなくなった今、此方の戦力で要注意は俺だけだと思ったんだろう。敵ながら天晴れだ。だが、俺を身動きできなくさせたら勝てると思っているなら……、頭が足りてないな。

「アストラリア流細剣スキル! インフィニティ・スラスト無限刺突!!!」

 ズドドドドドドドッ!!!

「「「ギャアアアアアアッ!!!」」」

 アヤの精霊武器のレイピアから放たれる超速の突きの連打が、周囲を囲みながら歩み寄ってくる蠅騎士団達を盾ごと粉砕し、一瞬の内に数名の蠅共を貫いた。

「アルティミーシア流弓術スキル・シャイニング・ムーン・アロー!!!

 ガガガガガッ!!!

「「「「「ウギガアアアアアアア!!!」」」」」

 アガシャが上に向けて放った輝く魔力の矢が、城内の高い天井に当たる前に分裂して降り注ぎ、蠅共を串刺しにする! 弓を使うのは初めて見たが、これも凄まじいな。

「アストラリア流連接剣ウィップソードスキル! インセクト・ストラングラー虫の絞殺!!」

 ギャリィイイイインッ!!!

 ディードの連接剣が蜘蛛の巣の様に変化し、そこへ入り込んだ蠅共を拘束し斬り刻む!

「「「「「グガアアアアアアア!!!」」」」

 さすが、全員神衣カムイを纏っているだけはある。既に半数以上は斃した。神格の爆発力、神気は数値じゃ測れないんだよ。

「うおおおおおっ!!!」

 ガギギィン!!!

 二刀を振るい、倶不戴天ぐぶたいてんを薙ぎ払う。やはり速度重視にしただけあってパワーは以前より落ちているな。

「ちっ、往生際が悪い餓鬼だ!」

「往生際が悪いのが人間なんだよ。テメーらみたく無意味に生を貪り、退屈凌ぎにしょうもない遊戯に手を染めたクズと一緒にすんな。もうお前の蠅軍団は半壊だ、このまま押し切ってやるぜ、蠅野郎!」

「調子に乗るなよ…人族風情が……!!!」

 こいつらはそればっかだな。お前のやってることと悪事に手を出した人間と何が違うんだ? まあいい、煽ってやるか。

「人族風情と言いながら、その人族が創作した魔導書の模倣をして愉しんでるのはどこのどいつだ? テメーみたいな蠅神に祈る奴なんざいねーよ! それにこんな力を与えてくれた神々の御陰で、俺みたいな奴は調子に乗り放題だ。でもな、テメーらみたく腐っても堕ちてもねーんだよ!!!」

 ガキイーーーィン!!!

「黙れ…、調子に乗るなよ…塵芥ちりあくたに等しい分際で!」

 こいつら見下すだけでボキャブラリー少ないな…。神様っていうだけで無駄に自分を高みに置きたいのか…やっぱバカだな。そしてやはり煽りに対して過剰に反応する。神のプライドってものなのかもな。

「アストラリア流二刀スキル!!!」

 ガギギギギギイイイイン!!!

オクタグラム・エッジ八芒星を描く刃!!!」

 スクエア・エッジ四角形を描く刃の倍の斬撃で八芒星、八つの角を持つ星型多角形を描く斬撃だ。前回の闘いでこいつの魔神器は、俺のニルヴァーナ程の強度がないことはわかっている。防御されようが構わず連撃を叩き込む!

「ちっ、鬱陶しい剣技だ!」

「何だ、さっきから同じことの繰り返しだな。このまま撃ち合えば、前回と同じでお前の魔神器が先に壊れるぞ」

「いいだろう、俺の最速を見せてやるぜ…」

 最速ね、こっちもブーツにアクセラレーション速度上昇を重ね掛けしている。どっちが速いか、勝負してやる。

「ライトニング・アクセル」

 フッ!

 消えた?! いや、超速で動いているのだろう。肉眼で追っても追いつけない。ならば…

<神眼が発動します>

 目を閉じ、感覚をより鋭敏にする。俺の周囲を凄まじい速さで動き回っているのがわかる。陽動のつもりなのだろう。だが、攻撃に移るその一瞬が勝機だ。

「オラァッ!!!」

 ギィン!!!

 剣を交差させてブロック。やはりな、攻撃に移るときに殺気が駄々洩れだ。繰り出した突きが見え見えなんだよ。

「貴様、このスピードについて来れるのか?!」

「さあ、どうだろうなっ?!」

 ブンッ!!!

 振るった二刀は躱される、当てられないのは厳しいな。常に後手に回るのと同じだ。

「カカカッ、だが攻撃が当たらなければ意味はないぞ」

 確かにその通りだな、じゃあさっきのこいつのスキルを真似てみるとしよう。

「雷と風の融合したバフ能力上昇効果ってとこか…。ならば、右手からアクセラレーション、左手からライトニング・サンダーボルト疾走する雷光の霹靂。風雷融合、合成魔法・プラズマ・アクセラレーション雷光加速!」

 バチィ! バチバチバチィッ!!!

 プラズマとは、固体・液体・気体に次ぐ物質の第4の状態だ。気体を構成する分子が電離し陽イオンと電子に分かれて激しく運動している状態であり、電離した気体に相当する。そして雷のスピードは光の速度、光は1秒間に約30万km進む。さすがにそこまでの速さでは自分で御し切れないため、あの蠅より多少は速くなる程度に魔力を抑える。雷と風を同時に身に纏った様な状態だ。

「カカカッ、何をしたのか知らんが、それで俺のスピードを捕え切れると思っているのか?」

「思ってるからやったんだよ。御託はいいからさっきのもう一回やってみろ」

「馬鹿が、切り刻んでくれる!!!」

 フッ!! フッ!!

「なるほど、同じ速度で動けるなら視覚も追いつくのか」

「なにぃ?! このスピードに付いて来れるのか?!」

 驚いてるな。ここに来る前の戦闘で堕天神、堕天使に精霊と俺達もかなりの激戦を潜り抜けて来た。確実に成長している。こいつの方がまだレベルは高いが、天上の加護を失い、悪に身をやつしたような外道、しかも隷属の首輪を作ったクズだ。容赦は一切しない。

「ハアッ!!!」

 ギィン!!!

「チッ! ちょこまかと…」

「それは蠅のお前だろうが」

 ガギィン! ギギィン!! ガギギィン!!

 互いの武器が交錯する。だがこいつも恐らくファーレと同じ、格下としか闘ってきたことがないのだろう。同じ速度で武器を交える俺に明らかに動揺している。

「くっ、体力が万全なら貴様如きに梃子摺るはずはないというのに!」

「神様が言い訳か? 俺達もメキアを解放するときにかなり消耗したんだ。条件は一緒なんだよ」

「舐め腐りやがって、ならば受けろ、我が槍技を!! 天戟百花繚乱てんげきひゃっかりょうらん!!!」

「相殺してやるぜ、ミラージュ・ブレード!!!」

 ガギギギギギイイイイン!!!

 互いの武器スキルがぶつかり合う! 

「ぐっ!?」

 ドシュシュッ! ズガガガッ!!!

 全てを相殺できなかった。柄と方天画戟の攻撃を何発か被弾した。城内の床へと吹き飛ばされる!

 ガシャアアアアン!!!

「カカカッ、やはりそれが限界か? 今のは連続でスキルを撃ったようだが、俺の天戟百花繚乱てんげきひゃっかりょうらんは文字通りの100連撃。簡単に相殺できると思うなよ」

「ぐ…、痛ってえな…」

 神衣に亀裂が走り、刺突を喰らった部分、胸部や肩、太腿からは流血しているし、体のあちこちに打撲を受けた様な感覚がある。やはり神相手に一対一タイマンは荷が重かったのか? いいや…まだだ、まだ俺の闘志は萎えていない。逆境こそが成長のチャンス。どこまでやれるのか試して、いや、絶対にこんな奴らに負けてたまるかよ! 立ち上がり、回復魔法をかける。傷は浅い、さあもう一度勝負だ!

「勝ち誇ってんじゃねーぞ、蠅野郎。死なない限り、俺は何度でも立ち上がってやる!」

 ジャキッ! 二刀を持ったまま信剣の構えを取る。アリアから習った古流剣術の防御を優先とした型だ。前方に高く水平に構えた剣先が相手の眉間を捕らえている。さあじっくりと見させて貰うぜ。

「何だその構えは? まあ何でもいい、お前はここで消える運命だ。アストラリアを向こうにやったのは判断ミスだな。いくら神格があろうと所詮は人族。神である俺に勝てるはずがねえ、奇蹟でも起こらない限りはな!」

「そうやって笑ってろ。だったら見せてやるよ…、その奇蹟を!」

明鏡止水めいきょうしすい未来視プリディクト・アイズ・弱点看破・標的化ターゲッティングが発動します>

「カカカッ、ならばもう一度喰らえ! 天戟百花繚乱てんげきひゃっかりょうらん!!!」

 この最近は成長の為に『敢えてスキルを使わない』という縛りで闘って来た。それを全て解放したらどうなるのか。さあ目を凝らせ、敵の攻撃の先の先を読め!

 ガギィ!

 一撃目、槍の穂先での突き。

 ギィンッ!!

 二撃目、つかを使った棍術の打撃の突き。

 ガィイイイイイン!!!

 三撃目、槍での叩きつけるような斬撃。

 ドゴォオオ!!

 四撃目、今度は柄での横からの薙ぎ払い。そうか、俺が見えなかったのは突きの間に織り交ぜていた突き以外の攻撃だったのか。ならば一番隙の大きくなるこの四撃目で崩す!

 ガキィン!! ギギィン! ガギイイイイン!!!

「ここだ!」

 ドゴォッ!!! ガシィッ!!!

 俺の右側から薙ぎ払ってきた柄の一撃を、右肘と右膝で挟む様にしてガードする! さあ武器は捕らえたぜ!

「くっ、貴様…、この高速の連撃が視えているのか!?」

「ああ、突きに見せかけてそれ以外の斬撃や薙ぎ払いも織り交ぜていたんだな。最初に突きを放って来ていたから、それ以外に意識が回らなかったが。ここ最近使わなかった未来視やら明鏡止水を発動した御陰ではっきりと視えたよ。さあテメーの武器は捕らえた、今度はこっちの番だ! アストラリア流二刀スキル! ライガー・クローズ獅子虎の爪撃!!!」

 ドゴオオオオオッ! ザギィンッ!!!

 虎爪閃こそうせん、タイガー・クローよりも高速の叩き斬る様な9連撃がバルゼの隙だらけの胴体を捕らえた! 斬撃が魔神衣を砕き、肉体に重い打撃が撃ち込まれる! 血飛沫が舞い、相当のダメージが入った。槍を手放せば避けられただろうに、このふざけた名前の魔神器がそんなに大事か?

「がっ、は、……っ、う、ぐっ…」

「もうその傷じゃあ勝ち目はないだろ? 俺の次の攻撃は止められない。さっさと投降したらどうだ?」

「おのれ…人間風情が…。ここまで神に拮抗した実力を持つなど、貴様は危険過ぎる…。まさかこの醜い姿を晒すことになるとは……。ぐ、おおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 バルゼの体が黒く輝き、肉体に亀裂が入っていく。まさかまた脱皮か? 今度こそ蠅になるとでもいうのだろうか? 今の内に斬ってやりたいが、他のみんなの戦況も気になる。
 蠅騎士団はアヤ達三人によって既に駆逐されている。月闘士達も、当然ルクスとサーシャにとっては相手にもならなかったか。最早跡形もなくなっているしな。後はティミスの洗脳を解けば向こうは終わりだろう。

 ビシ……、ビキビキッ、バリィイイイイイイイーーーン!!!

 脱皮が終わったのか、バルゼがその姿を現した。やっぱりデカい蠅か。だが10mはある巨体だ、この城内はそれなりに広いが、あの巨体はではさすがに持て余すだろうに…。だとしても油断は禁物だけどな。

「三人共下がっていてくれ、あの蠅は俺が斃す!」

 アヤ達が距離を取ってくれた、さあ続きといこうか。

「やっぱり蠅か…。神様が蠅とか恥ずかしくねーのか? 害虫じゃねーか」

「まさかこの姿を晒すことになろうとはな…。カーズ、貴様は八つ裂きにして次元の彼方にばら撒いてやるぞ…」

 蠅に変化したバルゼ。だが牙が生えているし、尻に蜂の様な針が付いていたりと純粋な蠅の姿ではないな。4対の羽には髑髏どくろの模様、これは変わらないが、やはり不気味な姿だな。

「自分から晒したくせに何ほざいてんだ? それに蠅がそんなデカくていいのかよ。素早さが蠅の取柄だろ? 外なら兎も角、こんな狭い場所でそれが生かせるのか?」

「さあな、この姿になったのは初めてだ。果たしてどれ程の力が出せるのか、貴様を実験台にしてやろう。まずは喰らえ、ディジーズ・レイン病の雨!」

 ドッ!! ズダダダダダ!! ザヴァアアア!!!

「ちっ、神気結界!」

 そうか、こいつは本来土着の雨と嵐を司る神だ。この雨を浴びるのは絶対にマズい! 鑑定、蠅は数多くの病原菌を運ぶ、この雨にはそれが含まれているということか。だが当たらなければ問題はない!

「ニルヴァーナ、刀フォーム」

 ピキィイイン!

 ガシッ、チキッ!

 先ずはどれ程の速度になったのか、お手並み拝見だ。

「アストラリア流抜刀術」

 剣閃の衝撃波が雨を斬り裂く!

 ズヴァアアアアン!!!

「飛天!」

 フッ!!!

 転移するかの様な速度で回避された。デカいくせに俊敏だな。ならば直接剣撃を叩き込むのみ! もう雨は止んだ。

「ハアアッー!」

 加速して一気に距離を詰める!

神狼牙しんろうが・四連!」

 ブンッ!!

 剣が空を斬る! やはりスピードが増しているな。  

「カカカカッ、どうやらこの速度には付いて来れないようだな。そして貴様の様な無駄に正義感が強い者は、弱者を放っておくことなどできまい!?」

「何のことだ?!」

「こういうことだ!!」

 ドウッ!!!

 凄まじい速度でアヤ達三人が離れて避難している城内の壁際に向けて飛び立つバルゼ。

「さあ受けろ! 地獄の黒炎を! ヘル・フレイム地獄の業火!!!」

 ガゴオオオオオオオオオ!!!

「くそっ、そういうことかよ!」

 シュンッ!!

 転移でアヤ達の前に移動し、彼女達三人を守る様に神気結界を張り、腕で庇う様に抱き締める!

 ドゴオオオオッ!!!

「ぐあああああああああ!!!」 

 彼女達は何とか守ったが、背中に強烈な黒炎のブレスを喰らってしまった。くそっ、手段を選ばないとは、やってくれるじゃねえか。

「やはりな…。争いばかりしているくせに、貴様ら人族は互いに庇い合い弱者を守ろうとする。実に矛盾した存在だ。カーズ、貴様も所詮は人族の域を出ない存在だということだな。カカカカッ! 惰弱惰弱!!! その3匹を守りながら俺と闘えるとでも思っているのか? 舐められたものよな!」

「カーズ、大丈夫?!」

「父上!!」

「カーズ様、しっかり!」

 ブレスをモロに喰らってしまった。背中の神衣が破壊され、バトルドレスが焼け焦げて肉体に深刻なダメージが入った。しかも神気の強烈な一撃。先程の槍でのかすり傷とは違い、回復魔法も効果が薄い。三人が回復魔法をかけてくれているが、効果があまり感じられない。

「多重神気結界」

 三人を守る様に厳重に結界を張る。

「カーズ、無茶しないで!」

「カーズ様、わたくし達も一緒に闘います!」

「父上、私達もいます!」

 気持ちはわかるが、絶対に狙われる。それにこのままやられっぱなしは性に合わないんだよな。

「いや…、大丈夫だ。三人をあんな危険な奴と闘わせるのはまだ早い。キッチリ倍返しして来てやるからな」

 振り向き、巨大蠅野郎の方を見る。

「カカカッ、いいのか? 一人で俺に勝てるとでも思っているのではあるまいな? アストラリアがいればこんなに不利にならずに済んだものを。その誤った判断で貴様らは全滅することになるのだぞ」

「黙れよ蠅野郎……。お前は俺の大切な人に仲間を傷つけようとしたな…。絶対に許さん!!!」

 ドゴオオオオオオオオ!!!

「極限まで燃えろ! 俺の神格! 湧き上がれ、俺の神気よ!!! いつまでも、これ以上アリアに頼ってばかりじゃいられないんだよ!!!」

 神格が輝くのを感じる。これが俺の神格なのだと強く認識できる。心の奥底にある巨大な神格が燃焼しているのを! 漸く理解できた、俺の神格はまだ全て燃え上がっていなかった。ならば全て燃焼させてやる!

「俺の心の神格よ、目覚めろ! 眼前の悪を斃すために!!!」

 ゴアアアアアアアアッ!!!

 今迄よりも遥かに巨大な神気が放たれる。装備が修復され、神衣の形状も進化している。そうか、神格を完全に認識できたからこそこれだけの神気が溢れて来たのか。

<神格が完全開放されました。それに伴い全能力が大幅にアップします。新たなスキルを獲得・更新します>

 パズズ戦の時に聞こえた様な声が脳内に響く。あれが神格の目覚めだとしたら、これはもう一段階上の解放状態ということなのだろうな。あの時の様に力が漲り、痛みも最早感じない。そしてこの蠅野郎に負ける気もしない。

「何だ?! その途轍もない神気は……!? たかが人族が放てる様な力ではない…! おのれゼニウス……、貴様がしたことはあらゆる神々への冒涜だ!」

 スッ!!! ガシイッ!!!

 飛んでいる奴の背中に転移し、触角を掴む!

「何を独り言をほざいてんだ? 敵から目を逸らすとは余裕だな。先ずはこいつを貰っていくぜ! アストラリア流格闘スキル!」

 触角を掴んだまま回転し、地面に向けて後頭部に回し蹴りを放つ!

 ドゴオオオ!!! ブチブチィッ!!!

天馬絢舞脚てんまけんぶきゃく!!!」

 グワシャアアアッ!!!

「げぼあっ!!?」

 床に思い切り叩きつけたが、起き上がって来た。まあ虫はしぶといしな。

「ぐっ…、な、んだ、体が、いや、感覚が、保て、ない…」

 触角は虫にとってのバランス感覚や周囲の状況を感じる為のセンサーだ。それが破壊されたということは最早勝負アリってことだ。だが容赦はしない。こいつは俺の大切なものを傷つけようとした。キッチリと返してやるからな。

「おのれええええ! 目覚めよ! マゴット・バース蛆虫生誕!!!」

 「「「「「グガアアアア!!!」」」」」

 脱皮した際に残されたバアルゼビュートの肉体を食い破って、大量の蛆虫ウジムシが奇声と共に現れた。そして次々に脱皮して、人間程の大きさの蠅となり飛び回り始めた。なるほど、最初の奇妙な雨はこれを引き起こす為だったということか。体に浴びていたら今頃内部から食い破られていただろうな。『蝿蛆症ようそしょう』を人為的に引き起こすための下準備だったということだろう。

 蝿蛆症ようそしょうとは蠅の幼虫(ウジ)が生きた哺乳類の体内に侵入したことによって発生する感染症(寄生虫性疾患)だ。つまり何らかの蠅の幼虫である蛆が寄生虫となった状態のこと。『ハエウジ症、ハエ幼虫症(flystrike、blowflystrike)』などと呼ばれることがあり、患者またはその罹患組織は『ウジがわいた(fly-blown)』と称される。このような状態を表す名称は古代ギリシャ語の『myia(意味はハエ)』に由来する。確かそういうものだったはずだ。

 やはりイヴァの言っていた通り、攻撃は喰らわないに限るな。さてこいつを片付ければ終わり、蠅は気持ち悪いだろうが三人に任せよう。

「三人共、飛んでいる蠅は任せる!」

 最早勝負アリと思ったのだろう、彼女達は各々目の前の蠅を処理し始めた。

 ザシュシュッ!!

「うがあああ!!!」

 背中の羽を根元から斬り落とす。もうこれでぶんぶんと小五月蠅こうるさく飛び回れもしない。

「別に何の興味もないが、言い残すことはあるか? 悔い改めて天界で裁きを受けるなら、助けてやらんでもないけどな」

 蠅の顔の目の前に刀を突きつける。

「フッ、今更、悔い、改めようが…、無駄だ…。天界での裁きなど、虫唾が走る…」

「だったら最期の質問だ。お前らは、ファーレは原初の7色の魔神とやらと繋がっているのか? なぜ明らかに数的不利なこんな計画を企んだんだ?」

「さあ…、知らんな。俺は、あくまでファーレの右腕…。あいつのやっていること全て、まで、は詳しく知らん…。カカカ、そうだな…明らかに不利だ…。それで討たれようと、退屈な天界、それに管轄世界を、眺めて過ごすよりは、遥かに充実していた。永過ぎる生は、神々でも堕落するには充分な時間なのだ…。さあカーズよ、俺はもう生に飽きた、俺の、神格を持っていくが…いい。最期に、これほどの熱い闘いが、出来ただけで、満足だ…」

「そうか…、それでもお前らのやったことは非道極まりない。お前らの暇潰しに人生を荒らされた人々もいる。お前を斬ったところでその人達の傷は治りはしない。次に産まれ変わってくるときまで、よく反省するんだな。ニルヴァーナ、ソードフォーム。さらばだ、哀れで誇り高き蠅の王よ」

 ソードを両手で頭上高く掲げる。

「アストラリア流ソードスキル・奥義」

 カッ!!! ドゴオオオオオオオオオオオオオッ!!!

アストラリア・エクスキューション正義の女神の処刑執行!!!」

「さらばだ、神々の闘士カーズよ……」

 玉座の間の壁を突き破る威力の光の一閃に飲まれ、バアルゼビュートは粉々に無散して消えた。











しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...