OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達

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 さてさて、クラーチでの祝賀会も終わった。俺達は翌日、各国に設置してある転移門を使って、アレキサンドリア連合王国の南西から東北に伸びる三つの国、スクラ・グラード・エレシスと言う国家の中心都市、首都グラードへと移動した。うーん、便利だ。しかも結構デカいから大人数で一気に移動できる。
 これはアレだな、ドラクエで言うところの旅の扉とか泉とかそういうやつだ。どういう原理なのかさっぱりわからん。でも絶対に神・アリアが干渉してる代物だろうな……。空間魔法の応用とかで創ったんだろう。俺達の拠点の中立都市にはないらしい。ある程度人口が多い大国にしかないんだとさ。まあリチェスターにあったら残念王やら義兄姉がしょっちゅう来るだろうしな……。俺らには転移魔法もあるし、別に問題はなくていい。その内設置されそうな気がするけどね。俺らがいるからさ……。
 
 しかし結構大所帯になって来たもんだ。サーシャとルクスが戻ってきたら、エリユズはまた修行に駆り出されるだろうけど。今回は何と言うか、久しぶりに人として昇格試験や興行試合に参加するんだが、もう俺達のPTのレベルは人類のそれじゃない。興行試合で相手がSランクとはいえ、思いっきり手加減しないと簡単に殺してしまう。あっさり勝っても、世界中が注目するイベントらしいから盛り上げないといけないのかなあとか考えると、面倒臭くて頭が痛い。だからと言って神の流派を使うなんて以ての外だしな。相手が粉々になる。
 祝宴のときのガノンみたいなのがエリユズと当たると、スプラッタになりそうで怖い。まあ他のSランクの人達はまともそうだったし、適度に盛り上げて武器破壊か峰打ちが無難だろうな。でも他のSランクの戦術を見てみたいのもある。今後の参考になる点があるかもだしね。

 転移門を抜けて、アレキサンドリア連合王国、首都グラードの王城内に出る。クラーチ王国とはまた違って荘厳かつ豪華な造りだ。大会に試験は3日後。他国の王族も見に来るらしいし、後でギルドにも顔を出しておくか。期間中はこの王城に寝泊まりしていいらしいから、クラーチのお城で生活してたときみたいなもんだな。
 適当に充てがって貰った豪華な個人部屋でベッドにゴロリ。このまま惰眠を貪りたいが、俺の部屋には間違いなくみんなが溜まり場の様に集まって来るんだよなあ。

 ドンドンドン!!!

 ほらね……もう来たよ。気配からして全員だ……。少しはのんびりさせてくれよな。

「はいはい、開いてるぞー!」

 扉を開けてヅカヅカとエリユズを先頭に入って来る。何処に行っても自分ちだなこいつらは。

「なーに真っ昼間からゴロゴロしてんだよ。カーズ、地図貰ったしギルド本部に行くぜー」

「あー、そうだな。もう行くのか?」

「他国のギルマス達も来てるんだって。ウチのジジイも来てるらしいし」

 ユズリハによるとステファンも来てるのか、ならマリーさん同伴だな。きっとパウロにカレンさんもクラーチから来てるだろう。

「そっか、まあどうせ暇だしな。裏手の闘技場で軽く手合わせでもするかー。アリアはどうした?」

「今回は私も行きますよ。どうせ食堂にでも行ってると思ってたんでしょー?」

「うん、その通り。へー、珍しいな。鍛錬にでも付き合うのか?」

「まあたまにはですねー。次代の竜王兄妹も鍛えないと、ダカルハに悪いですしねー」

 とっても珍しくまともなことを言っている。絶対何か起こるフラグだ。

「そっか、じゃあ俺もBランク勢、全く心配はしてないけど多少は鍛錬するかー」

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 と言うことで、城から近い総合組合本部到着。クラーチ王国のよりかなりデカい。人口の差だろうな。中に入って右手にある、冒険者ギルドの受付へと向かう。カウンターの向こう側には他国のギルド職員やらも沢山来ているみたいだ。みんな制服的な服装が違うし。マリーさんとクラーチのカレンさんを見つけて目が合ったので手を振ると、おいでおいでとカウンターに呼ばれた。

「何だか忙しそうですねー…?」

「全くよー、リチェスターに高ランクが集中し過ぎてるって文句言われるんだから!」

「それはマリーさんのせいではない様な……」

 アヤの言う通り。それは偶然だしなあ。

「ウチはカーズさんが壊滅させちゃって以来、新人のエルフが近くの里から沢山来ていますけどね。正直非常識過ぎて困ってますね……」

 クラーチのカレンさんに睨まれる。

「あー、いや、まあーあれは仕方ない。でも新人豊作ならいいじゃないですか」

 あのエルフ共、どうやら脅しが効いたみたいだな。まあ世間知らずはその内治るだろ。

「まーそうなんですけどー」

 不機嫌だわー。もう話しかけないでおこう。

「その節は…わたくしのせいで申し訳ありません」

 ディードが頭を下げる。でもこいつのせいじゃないだろ。

「いえいえ、ディードさんはその後頑張ってるのを耳にしてますから、気にしないで下さいね!」

 つまり、俺は気にしろと……。そういうことかな?

「ステファンやパウロも来てるんだろ? 何してるんだ?」

「大部屋で他国のギルマス達と会議です。カーズさんのPTのレベルが高過ぎてAランク試験をやる意味があるのかって揉めてますね……。もう3日くらいやってますよ」

 マリーさんが溜息交じりに説明してくれた。ならもうパスでいいじゃん。今更100レベルくらいのAランクと試合してもワンパンで終わるの目に見えてるだろ。

「なるほどなー、そのままSランクとの昇格試験試合にした方が盛り上がるんじゃないのか? Aランクがレベル100程度なら下手すると死人が出るぞ」

「そうなのよねー、私もそう言ってるんだけどねー」

「頭が固いギルマス達もいるってことかー」

「そういうことですよー。会議が無駄に長引いてるから、こっちはやること多くて大変なんですよー」

 カレンさんは愚痴っている。他国の受付のお姉さん達も忙しそうだしな。うむむ……

「あ、良いこと考えた!」

「良いことって何なのさー、カーズ?」

「えーなんなんー? 教えてーなー」

 イヴァとルティのちびっこコンビが左右から引っ張って来る。相当長生きしてるはずなのに、なぜこんなにガキなんだこの二人は……。

「いや、裏手の闘技場で訓練しようと思ってるんですけど、それを他国のギルマス連中に見せたらいいんじゃないかな? 訓練でも迫力は伝わるし、Aランク試験やる意味ないってわかるんじゃないですか?」

「おー! さすが兄貴! さすがっす!」

「アジーン、兄貴はやめろー」

「さすがカーズ! 私達の子は頭脳も明晰になるわ!」

「チェトレ、お前もそういうことを言うのはやめろー」

 少々考え込んでいたマリーカレンの二人だが……、

「それは良い考えかも知れませんね!」

「出来る限り派手にやってくれるかしら?」 

 どうやら俺の意図が伝わったらしい。二人が賛成してくれた。要は実際の力量を見せつけてやればいいんだよね。

 まあ舞台は壊れても土魔法で修繕できるし、神気結界張ってれば問題ないだろ。そういうことで、二人はギルマス軍団を裏手に呼び出して来て、俺達のいつもの立ち合い稽古を見せてやることにした。

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 観客席に厳重に結界を張り、俺はイヴァと、アリアはディード、エリックは体術も継承しているので龍拳闘士ドラゴンファイターの兄妹二人、ユズリハはアヤ相手という立ち合い稽古をお披露目することにした。本番の試合よりよっぽど互いのレベルが高い。ルティはあくまで武器として手を貸すので、今は大人しく…はないけど外から観戦だ。今回はアガシャは来ていない。お城の中が興味を惹いたのか、自由行動中だ。まああの子の実力も今更だしな。
 マリカレさんに連れられて、何故かホクホク顔で鼻高々にステファンが先頭を歩いて来た。世界中から来てるだけあってギルマスが何十人もいるなあ。オッサン大半に、結構若い女性のギルマスさん達もいる。優秀なんだなあ。まあいいか、早速派手目に暴れてやろう。

「取り敢えず互いの邪魔にならない様に、舞台を四分割する強力な結界を頼む、アリア。そんでみんなは危ないから攻撃に神気はナシな。ヤバい時の防御にだけ神気を使ってくれ。できるだけ派手に立ち合う様に意識して、見世物的なパフォーマンスを演じること。でもさすがに奥義はナシだからな」

「ま、Aランク試験なんてやるだけ無駄だしね。Sランクとやる方が楽しいでしょ?」

「そうだね、今100レベルくらいと闘ったら手加減する方が疲れそうだし」

 うむ、ユズリハとアヤの言う通り。

「そういうこったな。よしじゃあ二人共全力で来な!」

「負けないっすよ、エリックさん!」

「竜王の力を見せてあげるわ!」

 エリックは二対一だが、ほぼ倍のレベル差だ。会得したルクスの格闘スキルも見てみたいな。

「じゃあ、神格を得たディードの成長をしっかり見てあげましょうかー」

「アリア様、胸をお借りします」

 以前一本取られてるからなー、竜王の兄妹を鍛えるとか言ってたのにディードと稽古するんかい。

「さて、本格的な立ち合いは初めてだな、イヴァ。剣聖の剣技、学ばせて貰うからな」

「カーズの方が圧倒的に強いのに、謙虚な言い草なのさー。じゃあ、思いっきりいかせてもらうのさー」

 舞台を仕切った結界内で、俺達の魅せる為という、何とも言えない立ち合いが始まった。


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「ハッ!!!」

「よっと!」

 ギギィン!!! ガガガキィイインンンッ!!!

 アヤのレイピアと、ユズリハの細い形状に変化させたグングニルの穂先がぶつかり合う。常人にはとても目に追えない速度で互いの切っ先が寸分の狂いもなく激突する。

「アヤちゃん、武器の扱いが相当上手くなってるわね!」

「全部相殺されてるんだから、まだまだだけどねっ!」

 距離を取った二人が同時に魔導銃を腰から抜く!

 ガウンッ!!! ドウッ!!!

 互いが放った魔法が空中でぶつかり、せめぎ合う。そこから更にもう一発ずつ互いの魔法が放たれ、小規模ながら強烈な爆発が巻き起こる! 超圧縮させたエクスプロージョン、規模は小さくとも威力は凄まじい。魔導銃をホルスターに戻し、もう一度武器を構える。ここからは武器スキルのぶつけ合いになる。二人共が神の流派を放つ構えを取る。

「アストラリア流細剣スキル……」

「アザナーシャ流槍術スキル……」

 ダンッ!!! 

インフィニティ・スラスト無限刺突!!!」

サウザンド・スターライト幾千の星の煌き!!!」

 ガカアアアアアァッ!!!

 互いの数え切れない程の無数の突きが激突し、相殺できなかった刺突の衝撃波が肉体に突き刺さる!

 ドシャッ! ズガアッ!

 二人して後ろに吹き飛び、仰向けに倒れるが、すぐに起き上がり被弾した傷を塞ぐ。ユズリハは回復、支援系もサーシャの言いつけ通りに鍛錬して漸く中級ランクくらいまでは身に付けていた。

「やっぱりユズリハは凄いね。もう回復も使えるなんて」

「アヤちゃんの成長速度もとんでもないわよ。かなり死線を潜って来たのね」

 もう一度互いの流派を放つ為に構える。アヤは以前は全く別次元の領域にいたユズリハに、少しでも届きそうなところまで成長した自分に手応えを感じていた。


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「よっしゃ、ドラゴングローブは危ねえから外しておく。どっからでも来な」

 素手でルクスの格闘スキルの構えをするエリック。左手を広げて前方に突き出し、右手は拳を握って顔の右側面にガードする様に置く。左足は前に、右足は後ろで半身の体勢。ルクスの神格から得たマルクスリオ流格闘スキルの基本の型だ。

「じゃあ、俺達もいかせて貰うぜ!」

「二対一、勝たせて貰うからね、エリック!」

 二人も竜王の格闘術、龍帝拳りゅうていけんの構えを取る。

「いい闘争心だ、ビリビリ来やがる。先手は譲ってやるぜ」

 ドンッ! ダンッ!

「いくぜ! 龍帝拳・闘牙疾走とうがしっそう!!!」

「ハアアッ! 龍帝拳・無双羅刹むそうらせつ!!!」

 駆け出した兄妹が揃って渾身の技を繰り出してくる! 左側からアジーンの両拳から鋭い牙の様な一撃と、左側のチェトレからは鋭い手刀の突きの連打が放たれる。

 パアーーン!!! ガガガガガガッ、ガシィ!!!

 だがアジーンの闘気の一撃は左手で叩き落され、チェトレの貫き手は全て相殺されて腕を掴まれる。

「ぐ…、マジかよ……!?」

「アレを全て捌くなんて…!」

「うーん、まだまだ遅いな。それに斃すべき敵に対する殺気や気迫が足りねえ。お前らは他の連中よりレベルも潜った死線も足りてない。折角だ、本当の殺気を乗せた攻撃をその身で一度喰らってみな」

 フッ!! ガシィ!

 超速でアジーンの腕も掴むエリック。

「神気で本気で防御しろよ。じゃないと……、死ぬぜ」

 ゾワアッ!!!

 エリックの言葉に戦慄を覚える二人。

「真の龍の羽撃きをその身で味わえ! マルクスリオ流格闘スキル!」

 ドオオオオオオオーーーン!!!!

ドラゴン・フラップ龍の羽撃き!!!」

「「うあああああああああああああっ!!!」」

 ズドオオオオオオオオン!!!

 遥か上空まで投げ飛ばされた二人は、受け身も取れずに舞台にめり込む程の衝撃で叩きつけられた。

「ぐはあっ!!!」

「がふっ…!!!」

 神気のガードが間に合わなければ確実に死んでいた程の衝撃。これが神格譲渡に耐え切った人間の、カーズと共に何度も死線を潜り抜けて来た歴戦の闘士の力なのだと痛感する。何という強さ。稽古であっても決して手は抜かない。二人はまだまだ自分達が甘えていることを恥じた。初代のダカルハが、自分達をしごいてやってくれと言っていた意味が漸く理解できた。

「ほら、立ちなー。これでも手加減してやったんだ。お前ら二人がこのPTじゃ一番弱い。今のままじゃ確実に死ぬ。もっと闘志を燃やして俺に一撃を入れてみろ」

「初代様の御言葉が漸く理解出来ましたよ。もう気迫でも闘志でも絶対に負けない……!」

「ええ……。必ず追いついてみせます!」

 カッ!

 エリックから初級のヒールだが、回復魔法がかけられる。ルクスの言いつけ通り、ユズリハ達に少しずつ習ってきていたものだ。

「いい気迫だ、その気持ちを忘れるなよ。さあ第二回戦といくかー」

「「押忍!!!」」

 エリックの鬼神の如き強さに、二人は全力で立ち向かっていった。


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「アストラリア流連接剣ウィップソードスキル・アナザー・ディメンション・ブレード異次元の刃!!!」

 ディードが放った連接剣ウィップソードスキル。アリアの周囲を囲む様にして、多数の次元の歪が出現し、そこから次々と刃が繰り出される!

「よっ、ほいっ、あらよっと!」

 しかしその囲いから脱出すらせずに、その場で最低限の動きで全ての斬撃を躱すアリア。

「やはり、当たりませんか……!」

 剣の結界が解けると同時に、次の技を放つ為に構える。

「うーん、いいですねー。神格の影響もあって相当能力が向上しています。じゃあ私も連接剣を見せてあげましょうかねー」

 アリアが右手上に異次元倉庫を開く。そこから取り出したのは少し長目のアストラリアソードと同じ形状の連接剣。

<アストラリア・スネークソード(S:アリア専用)>
物理攻撃力:1250
魔法攻撃力:∞(込めた魔力量によって最大値増加)

 連節剣には様々な呼び名がある。「蛇腹剣じゃばらけん」「連接剣」「多節剣」「連結刃チェーン・エッジ」「蛇剣スネークソード」「鞭剣」「法剣テンプルソード」「アイヴィーブレード」などが知られている。刃の部分が等間隔で分割され、繋がれたワイヤーによって鞭のように変形する剣のことだ。堅さと鋭さを持つ刀剣と、柔軟性があり、リーチも自由自在な鞭の利点が組み合わさることで、武器としての強さとインパクトを兼ね備えている。しかしながら現実には存在せず、あくまで浪漫武器として多くのフィクション作品に登場している様な武器だ。
 現実に同様の武器は存在しないが、似たような武器として『ウルミ』というインドの長剣が存在する。見た目は剣というより鞭に近く、鋭い金属を鞭のように振るい、相手に当てて傷つける。英語ではフレキシブルソード(Flexible Sword)とも呼ばれている。
 実際に再現しようとする場合、刃と刃が接触して傷つきやすい耐久性の問題を解決する必要がある。両刃刀などの浪漫武器同様、実用性が乏しいとは言ってはいけない。絶対ダメ!

「さて、これを使うのは久々ですねー。色々とレクチャーしてあげましょうかー」

 アリアが自分と同じ武器を使うのは初めて見る。これはかなり学ぶことができると感じたディードは自然と口元が緩むのが止められなかった。

「ハッ!」

「くっ!!」

 ガキィ!!! ギギィイイン!!

 連節剣状態ではない、ソード形態での斬撃がディードへと繰り出される! しかしそれを同様の形状に戻して応戦する。

「そうそう、最初からこれが連接剣だと見抜かれてはいけませんよー。形状変化は相手の意表を突く瞬間だけで充分!」

「なるほど、ただの剣だと刷り込ませれば、相手は対処が遅れる、と、いうことですね!」

 せめぎ合いながら言葉を交わす。そしてディードがアリアに押されて後ろへ距離を取った瞬間に、ソードが変形し、距離を詰めて来る!

「アストラリア流連接剣スキル・トルネード・ファング竜巻の牙!」

 螺旋状に竜巻の様に回転を加えた動きで、切っ先が迫る!

「くっ、シールド!」

 バキィーン! 

 追尾して来る切っ先を何とか盾を展開して防ぐが、距離が離れている為反射が発動しない。そこへソード形態へと戻したアリアが一気に距離を詰めて迫る!

 ガギィイイイン!!!

「なるほど…、これは確かに隙が無い…!」

「そう、連接剣の強みはリーチの長さですが、間合いを制されたらそれが生かせない! さあまだまだいきますよー」

 ガギギギィン! ドシュュッ!

 撃ち合いで押される度に、連接剣が追尾して来る。ディードはこの状態になってからずっとレイピア形態のまま押され続けていた。

サーペント・キャプチュアー大蛇の拘束!」 

「くっ! サーペント・キャプチュアー大蛇の拘束!」

 ギャリィイイイイイン!!! ギチチチ……!

 咄嗟に同じスキルで相殺し、両者の連接剣が絡み合う!

「ここが勝機! 走れ、いかづちよ!」

 ブースターの薔薇が雷の魔力で黄金に輝く! ライトニング・サンダーボルト疾走する雷光の霹靂が連接剣状態のソードを伝い、アリアに襲い掛かる!

「狙っていましたねー。ならば、フリーズド・ライトニング凍結の疾走!」

「なっ!?」

 バキキキキィ! ピキィイイン!

 剣を伝わって行った疾走する雷光が凍り付く。一瞬の内に氷と雷の融合魔法で相殺された。しかもかなり手加減された詠唱魔法だ。今の自分では到底真似できない。

 ガシッ!

 ソード状態に戻し、拘束を解くアリア。

「今のは中々良い線をいってましたよー。敢えて絡め捕ってから雷光を流すとは、並の相手なら片が付いていてもおかしくない。ですがー、常に、『放った技が通用しなかった場合』のことを何通りも考えておきなさい。でないと、今のあなたの様に隙だらけになりますよ!」

 フッ!!! ドゴォオオオオ!!! 

天馬絢舞脚てんまけんぶきゃく!」

 アリアの格闘スキルが剣を持つ手に撃ち込まれる! 瞬時に両腕を交差させて防御したため、後ろに後退っただけに留まったが、確実に腕の骨を砕かれた。

「ヒーラ!」

 即座に回復をかけ、次の攻撃に備える。自分から仕掛けなければ同じ状況が繰り返されることになるだけだ。レイピア形態に戻し、前に踏み出す体勢を取る。

「アストラリア流細剣スキル……」

 ドンッ!!!

スターライト・ストライク降り注げ星々の輝き・ゼロ・3トレスストライク!!!」

 ドゴオオオオオ!!! ドドオーンッ!!!

 本来なら遠距離から剣閃を飛ばす技だが、至近距離からの三連刺突。カーズが見せてくれた既存の技の連撃や距離を変化させて放つといった、アストラリア流の神髄。負担は大きいが、奥義クラスの威力のスキル三連撃。繰り出した眼前は閃光と煙で見えない。ゼロ距離から放ったのだ、アリアと言えども多少は被弾したはずだと思いたい。

「アストラリア流連接剣スキル・スパイラル・ダクト渦巻く暗渠!」

 大技を放ち、まだ次の行動に移れないディードの足元の舞台から連接剣が飛び出し、文字通り地下水路の暗渠あんきょから渦を巻く水流が噴き出すかの様な動きで、全身を搦め捕られる。

「ぐっ、こ、これは……!?」

「今のもいい攻撃でしたよー。スキルの応用も悪くない。ですが、相手を見失っては減点ですねー」

 アリアが拘束を解く。あのまま締め上げられていたら全身がズタズタに斬り裂かれていただろう。

「やはり、まだまだでしたか……」

「舞台の地下に潜って、あなたの足元からスパイラル・ダクトを撃ったんですよー。目に見える範囲だけが相手が回避する場所だという認識を捨てないといけませんよー」

「そんなことができるのはアリア様くらいですよ……」

「まあそういう発想も大切ということです。さて、まだやりますかー?」

「勿論です。もっと学ばせて頂きますから!」

 二人は互いに距離を取り、立ち合いを再開させた。


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 ガキィン! ズガガガガアッ!! ギィイイイン!!!

 俺はイヴァとずっと刃を交えているが、単純に剣術のぶつかり合いだ。互いの流派のスキルは威力が大きい為、何となく躊躇いがあるのだ。それでもかなりの超スピードで剣閃を繰り出しているのだが、さすが剣聖とでも言うべきか、すぐにこちらの攻撃に対処してくる。

 ガイィイイン! ザッ!

 最後の激突から良い感じに距離が取れた。そろそろ剣聖の技を拝ませて貰おうかね。

「よーしイヴァ、本気で来い! 聖剣技を見せてくれよ、俺もアストラリア流を使うからなー。ヤバい時は神気で防御しろよー」

「むぅー、わかったのさー。今のままだとずっと同じ戦況が続くだけなのさー。じゃあいくのさ……、リミット・ブレイク限界突破!!! ビースト・モード猛獣形態!!!」

 イヴァのポニーテールの黒髪が白銀に変化し、目つきが獰猛な野獣の様に変わる。鑑定、以前も視たが、レベルの上限が+500程迄上昇し、それに伴い能力値もかなり伸びる。そして物理・魔法耐性が下がるビースト・モードの影響で攻撃系のステータスが更に伸びた。なるほど、リミット・ブレイクしておけば防御耐性が上がり、ビースト・モードでの下降が相殺できるということか。よく考えてるな。

 さあ聖剣技をじっくりと拝ませて貰おうか。稽古の立ち合いだが、ゾクゾクする程の高揚感が抑えられない。まあ今更、最早否定はしない。これが俺の本能だ。今回はソード、無行の位で対応させて貰う。スッ、と全身の余計な力を抜き、左手のアストラリアソードを持つ手をだらりと下に投げ出す。信剣の構えではイヴァが間合いに入って来れない可能性がある。敢えて間合いに引き込んで聖剣技を見極める!

「なるほど、無行の位……。さすがカーズ、隙がまるでないのさ。でも一気に仕掛けるのさ!」

 イヴァが地面を蹴り、俺の眼前に体をねじり、回転しながら迫って来る。

「聖剣技・水龍演武すいりゅうえんぶ!」

 ススッーーーーー、ザヴァアアアアンッ!!!

 静かに音もなく流れる様な抜刀から、嵐の起こす荒々しい濁流の如き剣閃が、揺らめき波打つ水面の軌道で放たれる! 確かにこれは初見では対処できないだろうな。揺らめく剣閃が何重にも重なって見える程だ。

「アストラリア流ソードスキル・アクアドロップ・ヴァーチカル水滴垂直斬撃!!!」

 バチィイイイイッ!!!

「ええー!? ボクの水龍演武が!?」

 イヴァが放った水龍演武は左右からの揺らめく剣閃。水は横に存在すれば波打ち揺らめくが、落下する水は風などの影響がない限り垂直に、ヴァーチカルに、下に重心を伴った水滴アクアドロップとなる。どちらも水の特性、重力を利用した垂直の斬撃で水龍演武を叩き割ったのだ。

「さあ、一つ目の演武は攻略したぜー。次は何で来る?!」

 もう一度無行の位を取る。どんどん剣聖の技を見せてくれよー!

「じゃあ…お次はこいつでいくのさ!」

 ドゴウッ!!! 

 聖剣が炎に包まれる。お次は炎の剣技ということか……

「聖剣技・灼龍演武しゃくりゅうえんぶ!!!」

 ゴパアアアアッ!!! ドゴオオオオオオ!!!

 振り上げた剣先から噴き出した炎が、俺の周囲を囲む様に灼熱の檻を作る。確実に当てる為に退路を断つわけか、良く考えられているな。そして溢れ出していた炎が吸収されて、聖剣が灼熱の業火の色に変わる。これはインパクトの瞬間に内包した炎を相手に浴びせつつ叩き斬る様な技だな、未来視でも完全に捕らえた!

「アストラリア流ソードスキル・アイス・ブランド凍結剣撃!!!」

 バキキキキキィーーーン!!!

 イヴァの撃ち下ろす剣閃に合わせ、翔陽閃しょうようせんの軌道で大地の炎にも凍気を流し込み、撃ち上げたアイス・ブランド凍結剣撃の剣撃が激突する! イヴァの剣から放たれた炎も、地面を檻の様に囲んでいた炎も全て凍りつき、粉々になった。やはり炎には氷結系を当てるに限る。

「うぎゃっ!?」

 剣の業火を全て凍結させられ、撃ち上げた剣閃に体重負けしたイヴァが地面に尻もちを着く。

「さあ聖剣技は2つ破ったぜ、次は何で来る?」

「こんなにあっさりとボクの剣技を破った相手はカーズしかいないのさ。なんかもう何を出しても相殺されそうなのさー」

 むくれっ面をしてイヴァが起き上がる。

「でも神魔大戦だと負けてるんだろ? 俺以外の誰かに破られた可能性もあるだろ?」

「そのときの記憶は呪いのせいでわかんないのさ。だから知ってる限りじゃカーズだけなのさー」

 ほっぺたを膨らませて抗議して来る。この猫耳はキャラ濃いけど、何だか庇護欲をかき立てられて可愛いんだよな。

「わかったよ、じゃあ今度は俺から仕掛ける。無行の位で構えてていいぞ」

「ニャハハー、言ったのさ。じゃあ今度はボクがカーズの剣技を破ってやるのさ!」

 さっきの攻防で何となくわかったが、イヴァは攻撃に回す魔力が少ない。もっと魔力を鍛えたら、さっきの2つの技も更に強力になる気がする。

「じゃあいくぞー、やばかったら神気で防げよ」

「絶対に返してやるのさー!」

 無行の位を取るイヴァに対し、突きを放つ構えを取る。俺が今から放つのはストーム・スラストの上位互換技、風属性テンペスト・プレデーション暴風を喰らう破壊の牙。アガリアレプト戦を見た限り、土龍壁どりゅうへきで防ぎに来る可能性が高い。そのときは属性を変化させてそいつを砕く。

「防げなかったら、絶対に避けろよ……。アストラリア流ソードスキル」

 ドゴオッ!!!

 舞台に軸足がめり込む程の加速で渾身の風属性の突きを繰り出す!

「テンペスト・プレデーション!!!」

「くっ…! 聖剣技・土龍壁どりゅうへき!!!」

 バゴオオオオオッ!!!

 舞台の床が分厚くめくれ上がり、壁を作る! 一瞬で相殺は無理だと判断したか。さすがだ、だが俺の狙いはこいつを砕くことにある。体に纏う嵐はそのままに、ソードの属性を土に変えてペトリフィケーション石化魔法を纏わせる。

ブレイク・ブレード石化破砕斬!!!」

 バガアアアッ!!!

 土龍壁の壁を石化させて一気に粉々に砕く! イヴァは砕かれると思っていなかったのだろう、驚いた表情で棒立ちになっている。このままではイヴァごと貫くことになる、俺は間一髪で軌道を変えてイヴァの横をすり抜け、急停止した。振り向くと、イヴァはその場にペタンと力が抜けた様にしゃがみ込んだ。

「ふぅ……、危なかった。イヴァ、大丈夫か? 当たってないよな?」

「カーズ……、怖かったのさー!!!」

 マジで怖かったんだろう、俺に抱き着いて来てプルプルしている。レベル差を考えたらちょっとやり過ぎたかもだな……。

「悪い悪い、イヴァとの駆け引きが楽しくてな。ちょっと暴走しちゃったんだよ。後で串焼き買ってやるから許せ」 

「わかったのさ。でもカーズには何も通用しなかったのさ。ちょっと悔しいのさ」

「イヴァは剣技にもっと魔力を乗せたら今の何倍も威力が増すと思うぞ。魔法の練習、エリックと一緒にやっとけ」

「むー、じゃあそうするのさ」

 他のメンバーを見ると、もう舞台はボッコボコになっているくらい派手にやり合っている。これだけ派手にやれば充分だろ? ステファンとマリカレさん、ついでにパウロの方を見る。じーさんはニヤリと笑って、他のギルドマスター達に何やら話し始めた。他国のギルマス達は多分俺達の立ち合いを見てたせいか、ポカーンだ。まあそりゃそうなるよな。



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「これで、ウチのBランクの実力はわかったでしょう? 規格外のSランク相手にあれほどの闘いができる者達。この国のAランクが闘えば、試験とは言え下手をすれば簡単に死ぬことになりましょうな。Aランクとはいえ貴重な戦力が再起不能になるのは大きな損失でしょう。それでも試験を行いますかな? 形だけの試験など意味はなかろう。それなら一気にSランクと昇格をかけて競わせる方が盛り上がるでしょう」

 ノイズ・コレクトで観客席の声が聞こえて来る。ステファンめ、俺達が自分のとこの所属だからって調子に乗ってるなあ。かなり派手にやったし、イキりたい気持ちもわからなくはないけどさ。

「しかし、今迄に前例がないのですぞ!」

「不公平だという者も出て来るでしょう。ギルドの信頼に関わる」

「ならばこれを前例とすればよいでしょう。時代は変わるもの。レベルという数値の実力で判断しておきながら、低レベルの相手と勝敗が見えている勝負をさせることに何の意味があろうか?」

 ステファン煽るなあ……、リチェスターの人間は『煽り』スキルでも持ってるんだろうか? 持ってたらエリユズは間違いなくSSだな……。

「ふむ……、確かにステファン殿の言うことも一理ある。それに彼らの立ち合いを間近で見て、いつまでも前例に拘るのもバカらしいと思う程の実力だったのも確かだ」

 まあ、後はお偉いさん方で勝手にやってくれたらいいや。みんな結構ガチでやりあってたみたいだし、今日は帰ってゆっくり休むか。どうせAランクとやっても瞬殺で終わるんだしな。
 俺達はマリーさんとカレンさんにお礼を言われ、舞台を魔法で修理してからグラード城へとその日は帰ることにした。アリアが空腹で朦朧としてるしね。
 何だかなあー、立ち合いは実りはあったけど、ぶっちゃけ茶番だったもんなー。なんか無駄に疲れた気がする。全く、何をしに行ったのやらだ。アガシャと城でのんびり過ごしてた方が良かったかもだなあ。
 さーて、本番はどうなるのかねー?








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