OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

文字の大きさ
86 / 133
第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達

81  祭典開幕

しおりを挟む


 アヤ達Bランク組と、俺とエリユズの対Sランク同士の興行試合の日になった。結局ギルドでわざと大暴れしたのと、アヤ達のレベルがSランク以上という問題もあり、Aランク相手との昇格試験は無意味だということになって、一気にSランク相手の昇格試験を兼ねた、前代未聞の、こちらもある意味興行試合となった。
 昨日マリーさんがわざわざ城まで伝えに来てくれたのだ。何でもステファンがかなりイキって、他国のギルマス達を黙らせたらしい。あのときもかなり煽ってたしなあ。まあレベル差から考えてAランクとやるとデコピン一発で終わるし、神格持ちとでは勝負にすらならない。ずっと人外を相手にしてきたせいで、こういう普通の人族の基準に当てはめると規格外になるのは目に見えているんだけどね。これはこれで困ったもんだが、仕方ない。でもSランクになっとけばギルドの仕事は報酬が良いものを選びたい放題だし、人として暮らしている以上、お金はたくさん稼げるに越したことはないしね。
 お祭りは昼過ぎからだが、城下は朝からかなり盛り上がっている。俺達は準備ができ次第お城の使いの人達が迎えに来てくれるらしいので、相変わらず俺の部屋が溜まり場になっている。適当に食事も済ませたし、まったりとみんなでお菓子をつまみながらお喋りタイムだ。そして何故か今朝からアリアを見かけない。何か変なことやってそうで不穏だ。嫌な予感しかしない。

「なあ、アリアはどこ行ったんだ? あいつは放って置くと碌なことしかしないからな……」
「うーん、今日は大事な用事があるって朝から出かけたみたいだよ。何かサプライズがあるとか言ってたけど。何なんだろうね?」

 アヤは朝出会ったのか。サプライズね…嫌な予感しかない。

「あいつはギルド登録してる訳じゃないからなあ。どこで何してようが構わんのだが、サプライズとか言ってる時点でもう何か変なことを企んでるとしか思えないよな……」
「まあアリアさんだからねえー」
「何かおもろいことやってるんじゃないのか?」

 エリユズは慣れたもんだな。いいんだろうかこれで?

「アリア様はいつもマイペースですよね」
「良い意味で奔放ですよね、アリア様は」

 ディードにアガシャ、そりゃまあいい加減慣れるよな……、一緒に生活してるんだし。それにティミスと比べたらマシに決まっているけどな。

「アリア様って神様なのに面白いよねー。この前不思議な言葉を教えて貰ったのよ。えーと、チョベリグでバッチグーで、えーと…何だったっけ?」
「チェトレ、それは俺が元いた世界の太古の言葉だ。マネするとこの人は一体何歳だろう?っていう古代人を見る目で見られるから、化石と思われたくなかったらマネはするな」

 あいつは何を吹き込んでやがるんだ。チェトレも素直だからなあ、だからと言ってあんな昭和ノリに染められたら堪ったもんじゃない。念話も飛ばしてはいるのだが、返答がない。ますます怪しい。

「でもアリアはあんまり神様らしくないのさー。多分魔神だったときの本能みたいので神様には構えてしまうけど、アリアにはそういうのが全くないのさー」
「それは褒めてるのか微妙な感じだな、イヴァ。ま、あいつが神様ぽくないのは初対面からだったけどな」

 そう言えば最初から昭和ノリをぶっ込んで来てたもんなあ。今更ながら相当あの時代のノリが気に入ったんだろうな。変なやつだ。でもあいつが見つけてくれた御陰でこの世界に戻って来れたし、感謝はしないとなんだよなー、変な体質にしてくれたのは別として。

「この世界に戻って来るときってどんな感じだったんですか? 兄貴」
「アジーン、兄貴はやめろー。そうだなあ、すげーキラキラした眩しい謎空間に気が付いたらいてな。多分アレがアリアの神域だったんだろうな。そこで「探してた」とか言われて、キュアルガで病気も治してくれた。それからなんか色々要望を聞いて叶えてくれたんだが、目覚めたらこの見た目だ。その時は何でこうなったかとか訳わからなかったけど、あいつなりの善意でやってくれたことなんだろうし、もう気にしない様にしてる。俺を探してた理由も時間かかったけど理解できたしな」
「あ、私もその謎空間に行ったんだよね。記憶は封印されたから忘れてたけど」
「そうだな、アヤもこの世界に戻るときはアリアに会ってるんだもんな」
「しっかしなあー、5000年の悲恋とか最初に知ったときはキツかったわー。やけど今がいいならそれが一番やなー。神様もなかなか粋なことをしよるわー」

 うーん、ルティのこの関西弁に聞こえる言語は一体何なんだろうなあ? 何回聞いても不思議で仕方ない。こいつは神格に宿っているときに俺の記憶を勝手に見たんだろう。ルティはその内アヤの召喚対象として譲渡した方がいいだろう。ランクは下がるが、武器として使用するのには問題はないしな。
 因みにここにいるバトル組、神格持ちは全員、アリアの魂の制約ギアスは自動的に解除されている。もう神格者だし、ぺらぺらと俺達自身の重要なことを他人に話すこともないだろうしね。ルティは精霊だし、人族とは違うしな。
 ウチのメイド組と何故かアガシャはこの城のお手伝いなどを進んでやってくれている。お祭りで忙しいし、給金も出るらしいし、じっとしている方が落ち着かないんだと。ジャンヌ改めピュティアが気になるけどね、ドジやって損害を出してなければいいんだが。母さんは親父と城下をデート中だ。何だかんだで仲良いもんだな。何故あの正反対の様な二人が夫婦なのか、未だに謎だけど。それに今更聞くことでもないしな。

「さて、もう一度確認な。Sランクとはいえ、相手は普通の人族。神の流派を当てるのは絶対ヤバい。龍帝拳りゅうていけんも然りだ。使うときは相当手加減すること、神気は防御はいいとして攻撃には使用禁止だからな。イヴァも聖剣技せいけんぎをぶつけるなよ。基本相手に合わせて、技術や戦術を盗む方向でいこう。フィニッシュは武器破壊か峰打ち、気絶させる様に立ち回ろう。レベル的には下でも学ぶ点はあると思う。クラーチでのAランク昇格試験みたいにボコボコにしない様にな。相手は普通に冒険者としてSランクまで上がった連中、レベル差があっても舐めてかからないこと。取り敢えず俺からはそのくらいだ」
「仕方ねえ、殺す訳にはいかないからな。手加減しながらやるぜ」
「そうねー、本気でやったらマズいもんねー」

 エリユズ、理解が早くて助かるよ。

「うん、相手の出方を見ながらうまく合わせてやってみる」

 アヤはさすが、よくわかってる。

「龍帝拳はナシかー、俺はうまくできるかちょっと不安っす、兄貴」
「兄さんは不器用だもんねー。でもカーズの創ってくれたアレでワンパンよワンパン。ねえカーズ、ちゃんと上手くやったら勿論御褒美くれるんでしょ?」

 この兄妹は……、兄貴はやめろ。そしてチェトレの御褒美とか嫌な予感しかしない。

「アジーン、対人だとこういうこともある。んでチェトレの御褒美って何だ? 美味い食いもんか?」
「うむむ……」
「それはあれよ、勿論カーズと私の間に子ど――むぐっ!?」
「チェトレは後で私とゆっくりお話をしようかー?」

 考え込むアジーンの横でいらんことを口走ったチェトレの口をアヤが塞いだ。まあそろそろ怒られる頃だろうとは思ってたけど。

「チェトレ、わたくしからも色々とお話がありますからね」

 ディードも笑顔で怖いオーラを出してるが、何でお前が怒るんだ?

「ははは、もう恒例になってきたわねー」
「カーズも大変だな……」

 エリユズ、笑って済ますな。本当に大変なんだからな。

「父上は人を惹き付ける魅力がある。それがよくわかってきましたね」
「うーん、まあみんなが揉めるきっかけにならなけりゃいいけどなあ」

 説教されているチェトレを気の毒だなあと思う。

「カーズ、聖剣技が使えないとやりにくいのさー」

 イヴァが猫みたく膝の上に乗って来る。何となく猫耳をモフモフと撫でてしまう。

「相手の技を相殺するくらいなら別にいいぞ。でもアレはかなり強力だからなあ。演武で斬りかかったら確実に死ぬぞ、俺でも危なかったんだから。アレを破れる相手がいるとは流石に思えん」

「むぅー、仕方ないのさー。なら――」
リミット・ブレイク限界突破ビースト・モード猛獣形態もだぞー」
「言おうとした瞬間に言われたのさ…、まあ何とかするのさ」

 溜息を吐いて、しぶしぶ納得してくれた。剣聖の剣技だけあって強力過ぎる上に、能力の底上げスキルなんて使わせられない。相手が魚みたく三枚おろしになる未来しか見えない。

「相手には失礼だが、これはハンデ戦だ。この前の竜王兄妹解放のときと同じで、相手自身が人質だということが今後もあるかも知れない。そのときの立ち回りを再確認する上でもいい機会だ。一撃で終わらせるのは勿体無い。相手から何かしら学んだ上で勝負を決めること。だが負けるのは論外だからな。それでいくぞー」
「「「「「「「「オッケー!」」」」」」」

 うん、息ぴったり。まあみんな上手くやるだろうさ。

「ウチはまた見学かー、ちょっと残念やわー」

 ルティの気持はわかる。さっさとアヤに譲渡してしまうかね。

「なら契約をアヤと切り替えるか? ランクは下がるが基本武器として闘うんだし、アヤと霊力を常に同調させとく方がいいだろ?」
「んー、せやなあー。ランクはアヤがウチを召喚し続けてたら勝手に上がるやろうし、一時的に力は落ちるけど一緒に闘える方がええなあ。わかった、ならアヤと契約するわー」
「うん、これからよろしくね、ルティ」

 てことでアヤとルティの契約を済ませた。まだ召喚はBランクだが、常時召喚していても熟練度は上がる。超成長の恩恵もあるし、すぐSランクくらいはいくだろうさ。

 そうやって過ごしていると、部屋の扉がノックされた。呼び出しだ、漸く出番ってことだな。

「カーズ様とその御一行様方、いらっしゃいますでしょうか?」

「はいはい、すぐに準備します」

 ・
 
 ・
 
 ・

 こうして俺達は城の関係者に連れられ、短い距離だが馬車で移動。人が溢れてるから仕方ないのだろう。ギルドの裏手に回り、闘技場の入場口から徒歩で会場、舞台上へと歩く。俺達が姿を現すと、もの凄い大歓声が鳴り響いた。さすがクラーチよりも大きな国だ。観客の数も比較にならない。先日見せ稽古をしたときは広いなとしか感じなかったが、こうやって超満員の観客を見ると規模の違いが良くわかる。
 先に舞台上で声援を浴びていた、ここや他国のSランク冒険者達も此方を見て来る。どうやら一斉に鑑定してきたみたいだが、俺達の方がランクが上だ。全て弾かれ、隠蔽いんぺい偽装フェイクでまともなステータスなど視えていないのが困惑した表情に出ている。まあ闘いは既に始まっているってことかな? 
 一応手を振って此方も歓声に応える。うーん、超満員の観客、いいね。8万人くらいは入っている。俺の父さんはいつもこんなスタジアムで試合をしてたんだよな、今更だが尊敬する。
 全世界が注目するとは言っても、みんなが入れる訳じゃない。そういう人たちの為に、魔法ビジョンというテレビの様な映像装置で他国に配信するらしい。まただよ、またオーバーテクノロジーみたいなの出て来た。まあ聞いてはいたけどね、確かに観客席のあちこちでテレビカメラみたいなのを魔導士ぽい人達が稼働させている。魔力が途中で切れても待機している人と交代して撮影するんだろうな。



「来やがったな、邪神殺しのカーズ! Aランク試験をすっ飛ばしてSランクと昇格戦とは……、裏でどんな汚ねえ手を使いやがった!?」

 よくわからないハゲ頭がいきなり啖呵を切って来た。誰だこいつ?

「えーと、どちら様? 俺にそんな若くてハゲた知り合いはいないんだが……」
「ガノン・ドロフィスだ! クラーチで一回会っただろうが!?」

 あ、あー、あのケンカ売って来たSランクのチャラい青ロン毛かー。小物過ぎて完全に忘れてた。仲間達は覚えていたらしく、大爆笑が巻き起こる。

「ぶっ、あー思い出したよ。見た目が全然変わってて気づかなかった。ごめんごめん、ハハハハ!」

 腹を抑えながら必死に笑いを堪えようとするが無理だった。暫く笑いが止まらなかった。

「くっ……、貴様が俺に邪神の呪いをかけたんだろうが!?」
「そんなハゲる呪いなんて聞いたことないけどなあ……」

 勿論俺が毛根破壊の創造魔法を撃ち込んだせいなんだが、知らんぷりだ。まあ仲間は俺のこの魔法を一番恐れているくらいだし。我ながら何とも酷い魔法を創造したものだ。とまあそれはさておき、このいきり立っているハゲはどうすればいいんだろう。周囲や会場からも笑い声が聞えて来る。可哀想になあ。
 
「貴様は俺が直々に殺してやるからな! 逃げるなよ!」

 あー、面倒くさい。毎回なんでこういうのが絡んで来るんだよ。エリユズ達もピリピリしてきたし、一発ビビらせて終わらせよう。近づいて少し魔眼の魔力を解放し、ド田舎のヤンキーみたいに超至近距離からメンチを切ってやる。

「上等だよハゲ。たかが1300の小物がイキるな。吠えればそれだけ自分が弱いと言ってるようなものだ。どうせお前の鑑定じゃあ視えなかっただろう? 特別に教えてやるよ、俺のレベルは4550、それに邪神邪神とあんな雑魚相手に騒ぎ立ててるが、既に堕天神も葬ったせいで俺の称号は神殺しゴッド・スレイヤーだ。直前になって臆病風に吹かれるなよ」
「くっ…、何だ、体が…?! くそっ、いいだろう…貴様のハッタリは全て暴いてやる……!」

 魔眼で軽く縛ってやった。暫くは歩くのも困難だろう。まだ吠えているが、もう相手にしても仕方ないので、仲間のところに戻る。まあ俺があんなところで暴れるとは思ってないだろうから、みんな笑いながら迎えてくれる。ハゲは身動きが取れないので、他の冒険者達に担がれて運ばれて行った。

『えー、マイクテステス! 会場の皆様聞こえますでしょうかー? これより世界中が注目する不定期イベント、Sランク同士のエキシビジョンマッチをお送りいたします! 実況は今回Sランク昇格も兼ねた九人が参加している西大陸ウエストラントの中立都市リチェスターの受付嬢、マリーことマリアンナがお届けいたします!』

 ん? マリーさんの声だ。どうやら俺達が入場して来た会場の上の方に実況席があるようだな。

『そして解説は最速でSランクに昇格した、我がギルドの英雄カーズ・ロットカラー選手の双子の姉であり師匠でもある、アリア・ロットカラーさんに来て頂きました! アリアさんよろしくお願いしますねー!』
『ハーイ! ハロハロー! みなさんお元気ですかー? 素敵なお姉さんアリアでーす! 今日は残念ですけどウチの子達の一方的な試合になりますよー。アハハー、マジウケーw 他国のSランクの方々は死なない様に気を付けてねー、チョベリバなことになりますよー!』

 ガクッ!

 俺達は全員その場でずっこけるかと思った。こいつは……これの準備をしてやがったのか? しかもアレは魔道具じゃない、完全に創造したマイクそのもの。スピーカーもないのに会場中に音が響いて来る辺りは魔改造しやがったな。内部にラウダー・ヴォイス声量増加を仕込んである。

「これかーサプライズってのは……!? 相変わらず斜め上を行くことをやりやがって…」
「アハハー、さすがアリアさんだねー。これは確かに面白いかも」

 アヤはこういう文化を経験しているからまだいいけどなあ。これは恐らく今迄誰もやったことがないんだろうな。会場のざわつき方が半端ない。

『そしてゲスト兼コメンテーターで、同じくリチェスターのギルドマスター、ステファンにクラーチ国王フィリップ様にも来て頂いてます!』
『うむ、我がギルドの期待の精鋭達の晴れ舞台。しかとコメントさせて貰おうかの』
『私にとってもカーズ、アヤに国を救ってくれた英雄達の晴れ舞台だ。存分に応援しよう!』

 こいつら完全に悪ノリしてやがる。絶対にアリアの企みだな。しかもここアレキサンドリアの国王を蔑ろにしてやがる、怒られるぞ。

「おいカーズ。アレは大丈夫なのかよ?」
「完全に身内で固めて来てるわね……」
「アリア様、相変わらずの行動力ですね……、しかもかなり他国のSランクを煽ってますし…」
「さすがに少し不安になってきましたね……」
「ニャハハー、アリアはやっぱり面白いのさー」
「おおう、これは燃えて来るな!」
「そうね、サクッとSランクをぶっ飛ばしてやるから!」

 血の気が多いエリユズがまともに見えるくらい、イヴァと竜王兄妹はやる気になってしまった。アヤとディード、それにアガシャはいつも通り落ち着いてるけど。

(おいこら、バカ女神! お前は何やってんだ!?)

 念話を飛ばす。

((* ̄▽ ̄)フフフーッ♪ どうですかー? この完璧な盛り上げ! これでテンションもアゲアゲですよー! オホホホホー!!!)

 ダメだ、完全に調子に乗ってやがる。ああなったらもう止められない。諦めよう。もう知らねw

『では選手の方々はそれぞれ会場の待機場所でお待ち下さい。これよりルール等の説明をさせて頂きます―――』

 俺達の案内された待機席にはクラーチの王族、兄姉のアランとレイラ、護衛だろうけど騎士団長のクレア、そしてクラーチのギルドのカレンさんとパンチパーマのいかついギルマス、パウロが揃って座っていた。またこの組み合わせかよ!? あいつらこの国乗っ取る気じゃないだろうな……? 軽く挨拶を交わし、VIP席の様な場所に座る。

『――そして、アリアさんが創ってくれた、舞台の近くにある雪だるまの様な水晶、この『ダメージ肩代わり君』という魔道具がダメージを各自のHP分、肩代わりしてくれますので、相手に直接攻撃を叩き込んで貰っても大丈夫です。この『ダメージ肩代わり君』が砕かれればそこで勝負アリとなります! 今迄はこんな魔道具はなかったので、一撃が決まるか、戦闘不能までというルールでした。しかし、今回は手加減一切ナシで高ランクの立ち合いを見ることができますよ! いやー、さすがはあのカーズ選手の姉であり師匠ですねー!』

 おいおい、俺達が頑張って考えた戦闘プランがあっさり台無しにされたぞ。あの作戦会議は何だったんだよ? うーむ、まあでも手加減せずに剣を交えられるのは気が楽だな。観客も大興奮だし、もうなるようになれ。

「アリアのバカのせいで俺達の作戦はおじゃんだ。でも相手の技術を学ぶことは忘れないでくれ。あと過剰ダメージOVERKILLを叩きこむなよ。フィニッシュは一撃でキッチリ仕留めること、いいな、みんな!?」
「「「「「「「「りょうかーい!!!」」」」」」」」

『いやー、それ程でもー……あるけどー! みなさん楽しい試合を見せて下さいねー! 一応観客席などには滅多なことでは壊れない結界を張っておきましたからー、観客席には被害はいきませんよー』

 あいつは後でどこかに埋めてやろう。さて最初はウチのBランク組が先だったはず。誰からかな?

『えー、では盛り上がってきたところで、第一試合はリチェスターBランク、イヴァリース・ニャンとローマリア帝国Sランク、サウロン・ヴァレックのSランク昇格をかけた前代未聞の対戦です! これはギルドで厳正な審査の基に決定されたことです。ウチのBランク選手達は全員1500以上のレベル、平均100レベルのAランクと試験試合をすることが既にナンセンスなのです!』

 まあ確かにその通りだけどなあ、マリーさんアナウンス上手いな。ノリノリな上にかなり練習したな。楽しそうで何よりだよ……。しかもアウェイに近いこの状況で、自国の低ランクの名前を先に呼ぶ時点でね、なんかもう色々とおかしい。
 喜び勇んで舞台に向けて歩き出したイヴァに、みんなが声を掛ける。

「剣聖の実力、見せつけて来いよー!」
「ニャハハ、わかったのさー!」

『ではそれぞれの舞台の左右に置いてある『ダメージ肩代わり君』に、一滴自分の血をつけて下さい。それによって、各ステータスやHP残量が記憶されて、稼働し始めます』

 両者が親指を噛んで、一滴血を垂らすと青白かった雪だるま型の水晶が赤く光り始めた。あれで起動したことになるのか。また面白いものを創ったもんだな。そしてそのまま舞台へと飛び乗る二人。

『じゃあイヴァがどんな子なのかアリアがお伝えしますー。剣を使わせたら双ぶ者無し、剣聖の称号を持つ、聖剣士ディヴァイン・セイバーで元魔神。南東部に位置する第一大迷宮で眠っていたところ、カーズが呪いを解いて人としての記憶を取り戻したという、禍々しいエピソードと打って変わって我が家のペット的な存在ですよー』

 あいつ、魔神とか普通に言いやがった。そしてまるで説明になってないぞ……。

『対するサウロン選手は、勿論Sランク。暗黒騎士ダークナイトという闇の力を使って闘うという、珍しいジョブですねー。アリアさん何かわかりますか?』
『ウチの猫ちゃんと正反対のジョブと言っていいでしょうねー。そしてふむふむ、あの剣は魔剣アロンダイトと言うんですねー。呪いと言う程の力はありませんが、魔剣に相応しく闇属性の剣ですねー。ウチのエリックのなんちゃって魔剣とは少々違いますねー。更に黒一色で固めた全身鎧、いいですねー! 厨二心が刺激されますねー!』

 なんつーひでえ解説だ。しかもバルムンクをディスりやがった。本当に呪いがあったら困るだろうが。エリックも頭を抱えている。しかしアロンダイトか、確かアーサー王伝説、円卓の騎士ガウェイン、いやランスロットの魔剣だったはず。この世界にはひょっとしたら地球の伝承の神話武器が本当にあるのかも知れないな。

『では第一試合、イヴァリース対サウロン開始!!!』

「「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」」

 アリアが色々とやらかしてくれたが、取り敢えず何とか大歓声の中で俺達のSランク昇格試験と興行試合を兼ねた祭典は開幕した。無事に終わるんだろうか、これ……。











しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...