OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達

86  懲りない女性陣・カーズの受難?女難?

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 うーん、どうしてこうなった……? 二回目。


 城下のお祭りから、まだ食い続けているアリアを放置して某人気走る娘の様に腹ポコ状態のイヴァとルティを回収して帰って来た迄はいい。そしてみんなで一旦風呂にしようということで大浴場に向かった。普通は男湯に入るよね? でも女性体状態でピンクの浴衣に髪の毛も飾られている状態で男湯の暖簾のれんくぐろうとしてた俺は、女性陣に全力で止められた。まあ、冷静に考えたらこの状態で入るのは問題あるよね。中で男性体に戻ればいいんだが、その前に絶対に全身を「なんだなんだ?」って感じで見られるだろうし……。
 でもね、躊躇なく女湯の暖簾を潜れる程、俺は自分を捨ててないんだよ。女性陣に散々説教されて、仕方なく女性体のまま女湯に入り、体を洗って、髪の毛は何故かみんなが我先にと言わんばかりの勢いで洗ってくれた。いやあ、ありがたいけどツラいな……。

「お前は毎回無駄に苦労するよな……」

 というエリックからの同情と憐れみの視線はともかく、

「女風呂に堂々と入れるとか最高っすね、兄貴は!」

 と思春期丸出しの発言でチェトレに蹴られていたアジーンヴァカにまで、変な気の遣われ方をされるというツラさ。まあね、見た目の性別は変えられるよ。でもねー、中身? 精神は男なんだよ? ウチの女性陣が多分おかしいんだろうと思っていたんだが、いや寧ろ気を遣ってくれているのかも知れないと最近は思う様になってきた。自宅でも女性陣の方が堂々と「一緒にお風呂に入ろうよ」と言って俺を連れて行く。その後で「女性体になってね」って言う感じで。
 実際女性体の方がリラックスできるってのはある。男性体を維持するための全身の魔力の緊張を解きほぐすには女性体の方がいいんだよな。それに男性体でも顔の見てくれがね……、てことで男性陣は余り一緒に風呂ってくれない。全くこの思春期童貞共め……! 

 女性陣の方が度胸があると言うか恥じらいがないと言うか、肝が据わっている感じだ。一応男なので極力見ない様にしているけど、向こうは堂々と見て来るし、モロに触って来る。もうね、距離感がわからんのだよ。イヴァとかルティは子供と風呂ってる様な感覚、アガシャもそんな感じだ。まあ大抵はアヤも一緒だしな。と言うかアヤがいないとさすがに気が引ける。
 タチが悪いのがユズリハやチェトレ、アリアのアホとくっついて来るピュティアだ。一人で入っていたらいきなり突撃して来る。さっきも言ったが、風呂ではリラックスするために女性体に戻っている。それを知ってるから堂々と全裸で突入して来るんだよ。「恥じらいを持て」と毎回言っても効果がない。そして女性状態だということを逆手に取ってスキンシップが激しくなる。ユズリハは面白半分でやってるのがわかるが、まあだからと言ってやらないで欲しいけど、チェトレはなんかよこしまな気配がするんだよな。色々と押し付けて来るし、ベタベタして来るんだよ。そして毎回アヤとディードに説教される始末だ。いつになったら懲りてくれるのやら。
 ディードからはいつも何だか、じとーっと観察されている様に感じる。ちょっと怖い。メイド組ももう慣れてしまって、お構いなく普通に入って来る。信用されてるのか男として見られていないのか、よくわからんが、アヤが側にいれば悪戯は飛んで来ないから安心だ。風呂くらい静かに入らせて貰いたい。精神が見た目通りの若い年頃なら絶対色々と本能に逆らえなくなるだろうなあ。ウチのメンバーみんな綺麗だし。と言うか、この世界ニルヴァーナの人達は美男美女が多いんだよな。同じくらい変な名前も多いんだが。
 まあさすがに両親と入りたいとは思えないけどね。見た目年齢があんまり自分と変わらないし、あのクソ親父のことだ、「女のままでいた方がいいんじゃねーのか? 娘が欲しかったしよー」とか多分平気で言って来るだろうしな。母さんも「女の子も欲しかった」とか言ってたし……。
 確かにね、身近にこんな頓痴気とんちきな体質の奴がいたら興味も湧くだろうよ。地球だったら生物学者に捕まって実験三昧の日々だったに違いない。あー嫌だ嫌だ! こういうことにはUSユニークスキルの『鋼の意志』は何の意味もない。単なる自分の葛藤だしなー。寧ろ開き直ったら変態だと思う。でも慣れて来始めているから不安だ。
 入浴時に大勢来た時は基本的に目を瞑る。神眼で見ようと思えば見えるけど、さすがに宜しくない。こんな女性達と一緒に入浴しておきながら今更だが、いや本当に今更だが、俺は紳士的でありたいんだよ。気持ちは修行僧。それに女性体なら体に変化は起きないから、ある意味便利なんだよね。洗う時に胸が邪魔なのと、立ち上がると足元が見えないのはちょっとツラいけど、もう慣れた。そういう時にこそ神眼が役に立つが、まさにスキルの無駄遣い。でも実際こんなけしからん大きさのものが付いてる女性は大変だろうなあ……。

「おおー、今日もカーズの桃はお湯に浮いてるのさー」

 城の大きな浴槽、浴槽でいいのかこれ? 最早プールの広さだが、その真ん中にあるオブジェみたいな岩にアヤともたれ掛ってのんびりしていると、黒猫娘が絡んで来た。この前はスイカって言ってたよな?

「毎回確認しないと気が済まんのかー? 自分のが浮く様に努力しろー(棒)」

 毎回このやり取りをやらされるのはもう飽きたぞ。普通の話をしてくれ。うんざりして天井を眺める。

 たぷたぷたぷたぷ……

 勝手に人のご立派様をたぷたぷ持ち上げて来る。因みにこれはもう既に全員から微妙な嫉妬や怒った様な感情をぶつけられながらやられた。何で勝手に触っておきながら舌打ちをされるのか、未だに謎だ。女心は複雑らしいからなあー、俺にはよくわからん。

 たぷたぷたぷたぷ……

「おーい、そろそろやめろー」
「あ、バレてもうた!」

 途中からルティも参加してやがった。このいたずらっ子達め。

「おい、イヴァ。ルティは結構大きいんだからルティにしてやれ」
「むぅー、仕方ないのさ」
「ええー、嫌やー!」

 イヴァに追いかけられてペット枠二人が遠くへ行った。ヤレヤレだぜ。もうバスタオルを巻いておこう。

「さーて、今日のカーズのおっぱいチェックの時間でーす!」

 入れ替わる様に、全身を全く隠す気もなくチェトレがやってきた。いや、もうマジでやめてくんない? 何なんだよそのチェックは?

「アヤ、助けてくれ。一番の問題児が堂々と変態発言して来た」

 左に座っているアヤと、目線でディードにヘルプを訴える。

「チェトレ、カーズはそういうのは苦手なんだよ。いい加減理解してるでしょ?」
「あーん、またアヤが邪魔する―! いいじゃんおっぱいくらいー!」

 それは男が口にしたら捕まるレベルだぞ。

「よくありません。カーズ様はリラックスの為に入浴時は女性体になっているんです。それを邪魔したらリラックスできません」

 後ろからディードに肩を捕まれるチェトレ。いつものパティーンだ。終わったな。

「むぅー、アヤにディードめ……。でも今日は助っ人がいるんだからね! クレア―、レイラ―!!」
「は?」

 いやいや、この城にいるのはわかっているが、何でその二人を呼ぶ? ってここに今いんの??

「フフフ……、漸く出番か。クレアに聞いてからずっと興味はあったんだが。折角だし、どれだけけしからんのか……、チェトレに頼まれて見に来ていたということだ、我が弟カーズよ!」

 レイラ姉……それ悪役の台詞だろ? 近衛騎士隊長がそれでいいんか?

「なんて厄介な……。カーズ、姉は興味が湧くと手段を選ばなくなるのよ!」

 いや、この状況だとマジで厄介だな、コノヤロー!

「カーズ殿、久々に拝ませて頂きますよ! そのけしからんお胸を!」

 レイラと並び立ち、クラーチの両騎士団長が恥じらいもなくズンズンと進んで来る。こいつら本当に羞恥心ねーな。俺がどんだけ羞恥に耐えてると思ってんだ?

「クレア王国騎士団長様まで、これは一筋縄ではいきませんね……」

 え? 何その喋り? ディードまで演劇でもしてんの? そしてみんな頼むからタオルくらい巻いてくれ!

「おっとチェトレ、私抜きでこんな楽しそうな催し物を用意してたなんてね。私も参戦するからね!」

 隣で双子の妹のユウナギが止めようとするが、このお祭りハーフエルフ、ユズリハは絶対に楽しそうなことに便乗して来る。ああもう、なんで毎回こんなことになるんだよ。頭が痛えええ……。

「では私は父上のお胸を死守しますよ」

 アガシャが岩の影から顔を出した。娘に守られるとか、なんなん一体? しかも『お胸』だよ?

「お祭りを司る私を差し置いてこんな出し物を計画していようとは。やりますね、チェトレ。ピュティア、私達もカーズのバインバインを狙いますよー!」

 いつ『お祭りを司る女神』になった?

「はい、アリア様! カーズさんお覚悟して下さい!」

 つーか、こいつは一体何処にいた? さっき飯食ってただろ? しかし、アリアの命令の時は妙に勇者らしくなりやがるな、元ジャンヌちゃんは。そう言えば初対面から『お胸』とか言ってた子だった。

「アカン! イヴァ、乗り遅れとる! ここは敢えてカーズを助けて『お礼にぽよぽよ』させて貰うんや!」
「お、おおー、なのさー。じゃあカーズの味方に付くのさー!」

 このなんちゃって関西弁娘もノリ易い気質だった。追っ払ったのに二人で仲良く戻って来る。こいつら人の迷惑なんて全く考えてねーな。

 そしてこの後、魔法まで飛び交う酷いキャットファイトが展開された。こいつら…、何でこんなに元気なんだ? 俺が休めるのは一体いつなんだろう。こんなにデッカい浴場だというのに……。



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「エリックさん、女風呂やけにうるさくないですか?」

 湯船に浸かりながらアジーンが隣のエリックに尋ねる。隣の女湯からは嬌声が上がりまくっている。

「もうアレは恒例だ。そっとしておいてやれ。一番気の毒なのはカーズだからな」
「はぁ……、そうなんすね。兄貴も大変なんすね……」

 エリック達二人は、半分露天風呂の様になっている場所から静かに外の月を見上げ、黄昏ていた。



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 酷い湯浴みだった……。もう一人でこっそり男湯に入ろう。あれだけ暴れ回っていたのに女性陣は元気で、しかも仲が良い。一体何なんだ? 肉体は女性になれはするが、心の内までは全くわからない。結局あの後はみんなから色々された。もう黒歴史を増やさないで欲しい。

 男物の部屋着兼寝間着に着替えて、漸く男性体に戻れた。ものすげー疲れたわ。でもみんなは結局俺の兼アヤの同室のここに集まって来るんだよな。
 で、何をしてるって? 酒盛りだよ。俺はどうせ飲んでも耐性が高過ぎて酔わないからちびちびと飲んでるだけだ。メイド組は朝早いからと、少し飲んでから自室に戻って行った。今ここにいるのはバトル組、アガシャは手伝いが楽しいらしいので明日に備えてもう部屋に戻った。うむ、いい子だ。
 レイラにクレアもいるが、クレアは絡む機会が多いのでこの際魂の制約ギアスで俺達のことを色々と知って貰った。驚いてはいたが、これまでの俺達のやって来たことを考えると『充分納得ができる』と、あっさり理解してくれた。まあこの人はたまに変だが、信頼できる。他言はしないだろう。兄のアランは城内や城下でナンパしまくってたらしく、今は行方不明。クラーチ王国には碌なのがいないな、全く! 

 そして今は『アリア商会』について、アリアに色々と尋問中だ。

「で? アレは一体何なんだ? お前神のくせに商売してたのか? 前にディードが痛い子になった原因の本も『アリア文庫』とかだったよなー?」
(※アリアコーナー第6回参照)
「いやー、たまに下界に降りて美味しいものを食べようにもお金がかかるじゃないですかー? だったら自分が商売を始めたらねー、困らなくなるかなあと……」
「まあおかしいとは思ってたんだよ、最初この世界に来た時にパンパンのがま口渡してくれただろ? 何で神様がそんなもの普通に持ってるんだろうってな。謎が解けたよ。ていうかそれならそれ以降の食費もお前が出せば良かっただろ!? 人の、俺らの稼ぎでアホみたいに食いやがって。会長なら金銭面くらいはどうにかしろよー。で、それ本社とかあんのか?」
「はー、あの世界的に有名な『アリア商会』の会長がアリアさんだったとはねー。ただの偶然だと思ってたわー」

 ユズリハが感嘆の声を上げる。世界的に有名ね……どこかのとある星のネタを持ち込んだな。

「それってリチェスターの南の商業都市コルドヴァに本社があるところだよ。大きな都市には大体巨大な支社があるし。クラーチにも東部の方にあったはず」

 そこの姫のアヤが言うくらいだ、間違いないな。

「ほほう、んで何を売ってるのかね? アリア会長? この世界で見た和風系の文化は間違いなくお前の仕業だろ……?」
「はははー、相変わらず鋭いですねー。和風の食事やその材料などは地球からちょっと拝借して、ニルヴァーナの気候に順応できる様に、神の技術で遺伝子操作をですねー、こうちょちょいっとねー」
「ちょいちょいじゃねーよ。これはゼニウスのオッサンに報告だ。で、いつから事業を始めて、今の年間の売り上げはどのくらいあるんだ? キリキリと答えて貰おうか?」

 何度目だよ、こいつをこんな風に問い詰めるのは?

「えーと、アヤちゃんを探し始めてからなのでー、まあ40から50年くらい前からですかねー? 年間の売り上げは大体平均300億ギールくらいでしょうかねー? あはははー……、ごめんなさーい」
「お前今後自分で出せよ。俺らがここ最近で稼いだ金やら報酬が小銭に思えて来た……」
「私は自分がお腹を満たせる程度しかお金は貰ってませんよ? 基本的に孤児院や公共施設を経営したり、大魔強襲スタンピードで傾いた国に復興の寄付したり、人材を派遣しています。社員はそれなりに給与もいいですが、私の権能で面接を通過しないといけませんからねー。信用の置ける人材しかいません。途轍もなくホワイト、もう透き通って底が見える深い海の如しですよー!」

 段々調子に乗って来てやがる。喋りのテンションが高くなって来てるからな。

「ふーん、食べ物、和食以外には商品は何を扱ってるんだ?」
「うーん、チョコとかスウィーツ的なものですねー。スパイスみたいな香辛料に…。あと冒険者用の装備も値が張りますけど扱ってますね。特殊鉱石なのでドワーフの職人さん達に技術を教えて造ってますねー」
「アストラリアソードみたいなの売ってないだろうな?」
「あれは人族には製造は無理ですね、今みんなが着てるドレスやリング、グローブみたいなのもね。あんなの1本あるだけで戦争になりますよ。あくまでAランク性能くらいが関の山です」
「そりゃそうか……、秩序が崩壊する様なものはさすがに市場に並べてないんだな。孤児院の経営やらって言うことは、エリックやユズリハ姉妹もアリアが幼い頃から間接的に関わって来たってことになるんだな……」
「そうみたいですねー」

「「アリアさん、ありがとうございます!!」」

 エリユズが突然お礼を言った。まあこの二人は義理堅いもんな。

「いえいえー、これも世界を保持し、助けられる命は救う為。管轄者として当然ですよー」
「まあそういう点ではいい仕事してるな。だが、あの本は何だ? ディード持ってるか?」
「あ、はい、一応持ち歩いてます」

 ディードの異次元倉庫ストレージから文庫本の様な本が出て来る。それを受け取った。

「これだ『俺の幼馴染の貴族令嬢がバナナで無双する件』。お前マジなんでこんなの書いてんだ? 俺とアヤを探す間に片手間に書いて、自分の商会から売り出しただろ? こんなののせいでディードが痛い言葉遣いになったんだぞ」
「ああー、それって一時期ベストセラーになってたような……」
「私もちょっと借りて読んだ気がするなあ……」

 これがベストセラー? この世界末期だな。アヤとユズリハも知ってるとは。

「この世界は娯楽が少ないんですよー。だからライトなノベルで楽しさを述べるくらいいいじゃないですかー?」

 コイツ……ノベルに述べるをかけて来やがった。余裕あんな。

「でもそれは貴族の子供達が変な喋り方をするからって、問題にもなった本じゃないですか? 丁度私の年代の子供達が影響を受けてましたからね」
「え、マジで? レイラ姉も知ってんの?」
「私も一応貴族姓はありますので、そういう教育機関で有害図書扱いになったということは耳にしていますね」

 あー、クレアもアーデスとかいう貴族姓だったな。神が有害図書を書くとか、頭が痛いな……。

「ほう、ディードはこれをどこで手に入れたんだ?」
「古書店ですね。まだまだ稼ぎも少なかった頃に買ったので……。お恥ずかしい」
「いや、ディードは世間知らずだったから、里の外で目にするものが何でも興味を惹いたんだろう。でもよりによってこのタイトルはねーわ。あ、お前、以前『カーズ戦記』とか書くとか言ってやがったな!? 絶対に書くなよ!」
「ええー、もう結構進んでいるのにー」
「あはは、進めてたんだ……」

 アヤが呆れた笑い声を上げた。こいつは本当に油断も隙もない。

「それもう書くな。原稿は没収する。異次元倉庫ストレージ開けろ」
「面白そうだけどなー」
「私もそれなら読んでみたい、だって絶対私達も出て来るじゃないの!」
「あ、そうか。登場人物沢山だしね」
「わたくしもカーズ様と同じ本に載りたいですね…」
「途中から竜王も出て来るわよね?」
「おお、兄貴と同じ本とか感動っすね!」

 エリユズにアヤ、ディード、更にチョロゴンの二人まで釣られた。

「クラーチ奪還に大魔強襲スタンピードの最速撃退も含まれるな」
「レイラ様、我々も載るかも知れませんよ」
 
 更にレイラとクレアまで……、これは引き下がるしかないか。

「わかったよ、みんなが乗り気なら止められない。でも多少は自重しろよー」
「ほっ、危ないところでした。こうなったら超大作にしなければ!」
「「「「「「おおーーー!!!」」」」」」

 パチパチパチパチ……!!!

 もう周りの方が乗り気だ。お願いだから黒歴史本になりませんように。

「さてそろそろお開きにしようか。俺とアヤの膝で猫と精霊のちびっ子が寝てるしな。おい、イヴァ、ルティ、自分の部屋に戻れー」
「じゃあ私は寝まーす。カーズ、明日は試合なんですからあんまりエキサイトしたらダメですよー」

 こいつは本当に発言が痛いな……。ぶん殴りてえw

「やかましい。さっさと寝ろ、下ネタ女神が」

「そうだな、明日は俺らは試合だしな」
「ま、どうせ一瞬で終わるんだけどねー」
 
 エリユズよ、言ってやるな。神格持ちに勝てる奴はまずいない。

「イヴァ、行きますよー」
「ルティ、起きてー」

 ちびっ子二人も、むにゃむにゃ言いながらディードとチェトレに背負われて行った。みんなと互いに『おやすみ』を交わしてから、ちょっと早めだがベッドに寝転がる。
 もうアヤと二人切りだが、明日は格下とは言え試合だ。頑張って昇格したアヤを労ってやりたいが、風呂で無駄に疲れた、試合とかよりもよっぽどだ。

 部屋のマジックランプ灯りを消してから、アヤとキスしたり、暫くイチャついていると眠気が襲って来たので一緒に目を閉じた。普通は寝たらトイレくらいしか目が覚めない。そのまま朝までぐっすりなんだけどね……。

 ・

 ・

 ・

「ん…んむぅ……」

 暫く寝ていると、どうにも息苦しい……。誰かに上に乗られている様な感覚?がする。うつらうつらしながら、金縛りか……? などと、考え、る。でもそんなの、かかったこと、ないし、なあ……。ダメだ、眠い……。


 ぴちゃ、ぴちゅ……

「……んん……?」

 唇に柔らかい感触がする。アヤか……? やっぱ昇格の御褒美をあげなかったから……、求めて来たのか……? でもアヤの顔は左向こうを向いているのが俺の左腕に感触として伝わって来ている。眠いのは眠いが、さっきよりは少し頭が回り始めた、気がする……。

 ぬるっ……、ぴちゅ……

「ん、ハァー……」

 声? 溜息? が聞こえた。アヤの声じゃ…ない? 誰かの舌が俺の口を押し開けて、自分のそれと絡ませて来る……。こんなことをやって来るのはチェトレくらいだろう。人の上に乗って腕を首に絡ませてキスをしてきている……んだろうか? 声を出してアヤに気付かれたら、殺される! 目もそろそろ慣れて来たところで、容疑者の顔の頬を掴んで引き剥がす。
 
(え? ディード?! お前何やってんだ?)

 さすがに声は出せない。念話に切り替える。

(Sランク昇格のお祝いに、わたくしを貰って頂こうかなと……)

 うーん、お前が貰うべきじゃないのか? 色々とおかしいぞ。しかし、いつも妄想を垂れ流している姿は見るが、まさか行動に移してくるとは……。しかも体全体を押し付けて来ているから、女性特有の甘い香りと柔らかさにクラクラする。これはマズイ!

(お前マジでヤバいって、すぐ隣にアヤもいるんだぞ!)
(天井の染みを数えている内に終わりますよー……)

 こいつはどこでそういう言葉を覚えて来るんだ? そんなんで終わる訳ねーだろ!

(いいか、よく聞けディード。もし行為に及んだらベッドが軋むし音も響く。それにもしお前が初めてだと絶対に痛い。ってそういうことを言いたい訳じゃない!)

 ギィー……

「お邪魔しまーす……」
(誰か来た! 誰だ? 神眼! やっぱチェトレかよ……)
(あの子も懲りませんねー……)
(この状態でそれを言っても全く説得力がねーぞ)

 足音が近づいて来るが、後ろにもまだ誰かいる。上手く気配は消している様だが……。

「カーズー! あなたのチェトレが来て――もごっ!?」

 間一髪で口をディードが塞いだ。こいつ、夜這いに全力の大声で来るとは……。

(静かにしなさい、チェトレ。先ずはわたくしの番なのですから)
(ディード!? フフフ、私は見抜いていたわよ。いつか何かを名目にこういうことをするだろうなってね! 私もカーズの上に乗るんだから!)

 ドムッ!!

「ぐえっ!?」

 つぶれたカエルみたいな声を出してしまった。こいつ、容赦なく飛び乗って来やがった。

(お前ら……、マジでやめろ。アヤが起きたら殺されるぞ……!)
(ここまで来て、最早引けません!)
(女には勝負をかけないといけない瞬間があるのよ!)

 聞いたことがねえ。絶対今勝手に考えたろ!?

(お邪魔しまーす、なのさー)
(ウチも一緒やでー、強い子種を頂きに参ったのでござる)

 やっぱこいつらか! 何だよ『ござる』ってのは?

 上半身にはディードとチェトレが密着してキスしたり舌を這わせて来る。下半身の方にはイヴァとルティがくっついて服を脱がそうとしてくる。さすがにこの密着状態はヤヴァイ!!! そういう気分じゃなくてもこの若い肉体では生理現象が起きる! そしてそれがバレたらこいつらはもっと調子に乗るに違いない。全く……人の体に乗って好き勝手しやがってー……!

(よーし、そういうつもりならこっちも対策があるからな)

 スゥー……、魔力のコントロールを解く。危険なナイフが消えて胸が膨らむ。全身が少し縮み、線が細くなる。女性体になれば最早何をやっても無駄だ!

(あー! 女性体になったら子種がー!)

 チェトレ……ドストレートだな。引くわーw

((ああー、ウチ/ボクの子種がー!))

 このちびっ子達は念話でも息ぴったりかよ……。

(ふふふ……、女性体でも構いませんよわたくしは。この子達とはカーズ様への愛が違うのですから!)

 なんて重い愛だ! 重過ぎて窒息する! しかも表現方法が普通にイカレてやがる。

(なら私だってそうだし! 負けないわよディード!)
(あなたなどわたくしの敵ではありませんわ! オホホホホー!!!)

 おい、アホな喋り方に戻ってんぞ。

(せや、髪の毛一本でもあれば遺伝子情報を因子として子孫くらい作れるんやった)
(何それ? ボクにも分けて欲しいのさー)

 おいおい、俺が『何それ?』だよ! 恐いわ! こいつら全く懲りねえな、もう百合ハーレムみたいになってて、全然離れてくれねえ。寧ろ同性状態だからか遠慮がなくなって来やがった! 人の上でバタバタとキャットファイトが始まる。さすがにこれはアヤが起きる、仕方ない……お前ら全員夢の世界へ旅立ってもらうからな! 落ちろ!

ディーペスト・アスリープ最深の眠り!!!)

 カッ! バタバタッ!!

「「「「ぐぅー……」」」」

 全員が一瞬で眠りに落ちた。取り敢えずアヤの方へ抱き締めるように寝返りを打つ。襲撃者達はもうベッドの隅で豪快ないびきをかいている。ユズリハが来なかったが、あいつはどうせその内エリックとくっつくだろ。来られたら更に危ないことになっただろうしな。
 危機一髪でモンスターウチの女性陣達からの貞操の危機を免れた俺は、アヤを背中から抱き締めてまた眠ることにした。何かあると怖いので女性体は維持しておこう。性別を変えられることにこんなに感謝した日はないな。

 もう、何なんだ今日は? 女性陣のテンションが高過ぎて、いや、いつも高いんだけどさ。旅行気分で浮かれてるんだろうか……?
 わからん、取り敢えずこいつらは朝になるまで目は覚めない。起きたらアヤに説教して貰うとしよう。いい加減マジで精神的にも肉体的にも疲弊した俺は、アヤを抱き締めて眠るのだった。普通が何かわからなくなってきた……。

 こんなんで明日の試合大丈夫かなあ?










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