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第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達
87 Sランク対決イベント開幕
しおりを挟むSランク同士の興行試合の日になった。時間的には昨日と同じくらい。みんなリラックスしながら俺の部屋でスタンバっている。後は城の使いの人が迎えに来るのを待つだけだ。
昨夜の夜這い連中はアヤが目を覚ました時に、ベッドの左半分を占拠する様に鼾をかいてだらしなく寝ていた。そして事情聴取からの当然怒られていた。だからやめろって言ったのになあ。
「「「「次はうまくやるし/やります/やるわー/やるのさ……」」」」
まあどう見ても反省してないけどね、こいつら……。全く、なんでこんなことをするんだか……? しかもまたやる気だし…もう知らね。
「今日もアリアの姿がないということは……、やっぱり実況やるんだろうな」
「昨日楽しそうだったもんねー」
アヤが答える。だよなー、絶対面白半分でやるだろうな。
「盛り上がってたし、いいんじゃないの?」
「今更なあー、あの人に何か言っても無駄だろうぜ」
エリユズの言う通りだな。あのアホは面白いと思ったことに対しては全力で命をかけてでも取り組むやつだからなあ。取り敢えず俺は両親がゲストに呼ばれないことを祈ろう。念の為に後で念話も送っておくか。
「今日は恐らく昨日以上にレベル差がある分、更に一方的になるだろう。相手の仕掛けて来るスキルやら魔法、魔力撃も全て俺らに傷をつけられない。だから取り敢えずは一通り相手の手の内を見てやろう。俺達が先に仕掛けたら、そこで試合終了だ。一応イベントだし、多少は盛り上げさせないとな」
「面倒臭いけど、仕方ないわよねー」
「ちんたらしてたら先にしばきそうだけどなー」
この二人の戦闘狂なら充分ありえそうだが、折角の貴重な対戦だ。一瞬で終わらせるのは勿体無い。
「まあ、そうかも知れないけどなあ。一応相手の戦術やらを見てみようぜ。相手のが俺達よりも形式上は先輩なんだし。あ、そう言えば俺はあのハゲと対決させられるんだろうか? ぶっちゃけ嫌なんだけど」
「昨日の対戦順とかも勝手に決められてたし、違う相手かも知れないよ?」
アヤが言う様に、確かにプログラムとかもなかったし、世界的なイベントの割には意外と杜撰だよな……。勝手に実況までやってたくらいだし。盛り上がれば何でもいいのかね? 文化が中世だしそこまでキッチリじゃないのかもな。
「そうだな。まあ誰が相手でもいいか。あのハゲは豪魔剣士だった。エリックと同じジョブなら常に手合わせしてる俺らは手の内を知ってるようなもんだ。あいつは速攻で終わらせてもいいかな」
「寧ろ同じジョブならやってみたいけどなー」
「誰が来ても同じよ、折角だし楽しみましょ?」
ユズリハの言う通りだな。
「じゃあ楽しんで勝ちますかー!」
「「応!!」」
コンコン…! ノック音が響いた。呼び出しだ。
「来たか、出番だ。行こうぜ」
俺達はPTのアリア以外のメイド組も含めて、初日と同じく闘技場の裏手へと馬車で移動した。そして俺達が姿を現すと、昨日よりも遥かに大きな歓声がお出迎えしてくれた。昨日のウチのBランク組の闘いが凄かったしな。今日はもっと凄いんじゃないか、とかそういう期待だろうな。
「漸く貴様を斬れる……。待っていたぞ、神殺しのカーズ!」
先に入場していたハゲ達アレキサンドリアのSランク勢。そしてまたハゲが何か言い出した。全く面倒臭いなあ。此方をじろじろと見て来るので、わざとらしく後ろを向いて誰のことなんだろうっていうジェスチャーをする。
「貴様……、どこまでも舐めているようだな!」
ハゲが剣の柄に手を伸ばした時、残りのSランク二人に羽交い絞めされて止められた。
「舐めてるのはお前だ、ガノン!」
「一々絡むんじゃない! 試合で決着をつければいいでしょう?!」
向こうのSランクの、残りの二人。青銀の鎧を纏った男性と司祭の様なローブの女性、二人共このハゲより強いじゃん。どうせ俺は一番最後に回されそうだし、このハゲとは当たらないかもだな。
「何度もウチの馬鹿が失礼した。俺は竜騎士のカセル・フリードだ。こいつにはよく言い聞かせておく。世話をかけたな、カーズ」
「同じくSランクの上級聖職者ソフィア・アルフォードよ。今日は胸を借りるつもりでいくわ。よろしくね」
カセルとソフィアか、まともそうな人だな。レベルもこのハゲより上だし。だが三課題だな。
「よろしく、カセルにソフィア。互いにベストを尽くそう」
そっぽを向いているハゲは放って置いて、エリユズと一緒に握手を交わした。全く何なんだ、あのハゲは? そこまで敵意をぶつけられる覚えが全くないんだが。まあいいや、対戦相手になったら瞬殺しよう。ダメージ肩代わり魔道具があるから手加減しなくていいし。ボコろう。
みんなで昨日と同じ観戦席に向かう。席にはクソ親父に母さんもいる。良かった、今日自分の試合の実況なんてされたら堪ったもんじゃないからな。残りは昨日の王族やらギルドのクラーチメンバーだ。軽く挨拶を交わし、席に着く。多分そろそろアリアが放送を始めるだろうしな。
『えー、レディース&ジェントルメン! 会場の皆様聞こえますでしょうか? 本日は遂にSランク対決のメインイベントが行われます。実況は先日と同様リチェスターのマリー、解説はアリアさん、そしてゲストとして昨日と同じく、リチェスターギルマスのステファンにクラーチ国王フィリップ様です』
『ハイハーイ! 皆様お待たせしましたー、素敵なおねーさんのアリアでーす! どうせ瞬殺で終わると思いますけど、地元の冒険者をしっかり応援してあげて下さいねー! でも応援するだけ無駄ですけどねー、ぷぷーっ!』
また初っ端からアクセル全開で煽ってやがる。ほんと口悪いなこの女神は……。
『うむ、今日も我がリチェスターの精鋭に刮目するが良い』
『あの三人に勝てる者がいるのか想像も出来ぬからのう』
(おい、アリアー。今日の対戦相手って決まってんのか?)
念話で質問。
(おや? どうしたんですかー? 対戦は実況席でくじ引き形式でやるつもりなんですけどねー)
(あ、そうなんだ? なら俺が一々あのハゲとバトる必要はないんだな)
(そういうのフラグですよー)
(お前、中身透視とかすんなよ)
(まあ誰と当たっても一緒でしょうからねー)
(そりゃそうか、邪魔したな。あんまり相手を煽るなよ。交渉術SSの恩恵だろ、炎上しないのは)
(あははー、まあそんなものですー。では後程ー、少々危ないことが起こりそうですのでー)
(は? 危険なこと? なんだそりゃ?)
(すぐにわかりますよー。ではではー)
一方的に切りやがった。危険なことね……。対戦相手が危険な目には遭うが、それは肩代わり魔道具で問題はないしな。探知と鷹の目、千里眼も可能な限り遠距離まで展開してみるが、俺のスキルじゃ星の目程の遠隔は見えない。精々この王都全土がわかる程度だ。特に危険なことはなさそうだが、街の外と言うことか……? まあいい、どうせアリアには視えているんだ。その時になればわかるか。
『ではこれより対戦に移ります! 今回はくじ引きで対戦相手を決めさせて頂きます。昨日はレベル差やジョブの兼ね合いなど、ギルドの方で調整させて頂きました。ですが今日は厳正にくじ引きです! では最初はアリアさんにステファンギルマス、お願いします!』
箱らしきものをガサゴソやってる音が聞こえる。名前付きの紙かボールを取り出すんだろうな。
『はいっ、私が引いたのは我が弟子、バーサク魔導士のユズリハ・ラクシュミでーす!』
『うむ、此方はソフィア・アルフォード。ほほう…、中々の手練れじゃな』
さっきの司祭っぽい感じのねーちゃんか。ユズリハが相手とは気の毒に……。
『それではユズリハ、ソフィア両選手は舞台へ上がって下さい。昨日かなり破損したので、本日はアリアさんが固めに修理してくれています。アリアさん、この試合をどう見ますか?』
『そうですねー、ユズリハが魔導槍士という肉弾戦もこなせる全属性魔導士であることに比べ、ソフィアちゃんは上級聖職者という所謂ヒーラーでありバッファー、使える属性も聖・火・風の3属性だけですからねー。あの火力に何処まで耐えられるのか? 近接戦に持ち込まれたときにあの棍、ほうほう…中々の業物ですねー。あれで応戦できるのかがカギでしょうけど、かなり不利なことには変わりないですね。レベルもユズリハが2920に対して1380、倍以上の差がありますからー。厳しい闘いにはなるでしょうー、南無阿弥陀仏……』
『はぁ、ナムアミ…? どちらにせよかなりのハンデ戦になるということでしょうね』
「さーて、初戦とはいい気分ねー。いつもエリックだったし。んじゃ、瞬殺してくるから」
もうアドレナリンが噴き出てるな……、瞬殺すんなよ。
「ユズリハー、相手の出方見てからだぞ。もう忘れてるだろ?」
「あ、そうだったわ」
「いきなり行ったら、そこで終わるだろ……」
エリックも似た様なもんなんだけどな。そんなユズリハに仲間達から声援が飛ぶ。それに応えながら、『ダメージ肩代わり君』を起動させる。
腰に短くしてセットしていたグングニル・ロッドを抜きながら舞台へ向かい、ふわっと跳び乗る。伸縮をかなり自由にできる様に改造したけど、あそこまで収縮させてたのか。携帯するには便利だな。彼女の金と赤のマジックドレスが陽の光に映える。さて相手がどう崩そうとしてくるのか、注目だな。
逆方向から、白を基調とした聖職者の様なローブに内部には頑丈そうな銀プレートの軽鎧を纏った、ソフィア・アルフォードが上がって来る。赤いストレートのロングヘアにエメラルドグリーンの様な双眸。額に金色のサークレット。左腕の籠手には大き目のバックラー、右手には長いロッドね。鑑定、『シャルーア』という棍か。ネームドアイテムだな。アリアが業物と言ったくらいだし。
確か『シャルゥル』とも呼ばれる殴打する部分が7つに分かれた棍棒で、古代メソポタミアで語られている『シュメール神話』や、中東のイラク地方から発見された『ルガル神話』に登場する『豊穣と戦いの神ニヌルタ』の持つ武器だったはず。ホーミング自動攻撃、要はエリックに創った『フラガラッハ』に付与した『回避不可攻撃』の様な、まるで意思を持って、敵を討ち滅ぼすと言われる武器だ。ランクはSか……、Sランク連中はみんな何かしらの高ランク武器を持っているな。どこで手に入れたんだろうか? 大迷宮が候補だが、それ以外にも魔物がドロップするとか、ゲームみたいなことでも起こっているんだろうか? 謎だな。まあ教えて貰えばいいか。
しかし、見た目は銀色の普通の長い棍だ。両の先端の柄にも硬そうな槌が付いているだけだ。だが得体の知れない武器とやり合う可能性があることは、堕天神共との闘いで学んだ。ユズリハには悪いが、ノーヒントで闘って貰う方が成長には良いだろうな。
両者が舞台上で向き合う。闘志がぶつかり合ってピリピリするな……。
『ではSランクエキシビジョンマッチ第一戦、始め!』
一礼をし、互いに魔法職らしく一旦距離を取る。だがもう既にユズリハのロッドは槍の形態へと変化している。様子をある程度見たらグングニルでトドメにいくだろうな。
ピッ! ピピピピィッ!!! バチンッ! バチバチバチバチィッ!!!
バックラーで何とか威力を殺したが、ユズリハの指先からの高速魔法発動だ。相当手加減はしているが、あの程度なら際限なく撃てる程ユズリハには魔力量がある。アレを崩さない限り、一方的にハチの巣にされるだろうな。観客席も無詠唱からレーザーの様に放たれる連続魔法に驚き静まり返っている。
「くっ、無詠唱でこれほどとは…、しかもあらゆる属性に合成された魔法まで含まれている。凄まじいものだな……。ならば、ディヴァイン・リフレクト・シールド!!!」
カアッ! パアアアアアア!!
おお、上位の光の反射盾を構築する魔法か。ソフィアの前方に輝く光の壁が出来上がる。反射は厄介だな、どう崩すんだユズリハ?
ピピピピッ!!!
マジか、真正面からいくとは。だが放った魔法の軌道が変化して防御魔法を上や左右から掻い潜り、ソフィアに向かっていく。おいおい、遠隔操作までできるとは凄いな。
バチィ!!! ガガガガッ!!
しかし魔法盾を掻い潜った魔法はソフィアの左腕の盾で止められる。結構頑丈だな。しかもかなり魔力で強化している。崩すのはそれなりに火力が必要だ。
「うーん、盾が結構頑丈かー。魔法の威力を上げると貫通して終わっちゃうし、盾だけ貰おうっと」
ビッ!!! バリバリバリィッ!!!
ディヴァイン・リフレクト・シールドを貫通し、ソフィアの盾に魔法が撃ち込まれる。なるほど、聖魔融合で魔法盾も破壊したのか。指先で発動させるとはすげえな。
「くっ、これは!?」
放たれた魔法の威力がソフィアの盾の上で燻り、徐々に盾を黒く侵食する様に削り取っていく。本能的にマズいと感じたソフィアは盾を籠手ごと外してその場に落とした。落下した盾が徐々に、そして跡形もなく消滅した。驚きを隠せない表情をするソフィア。
「今のは…、一体……?!」
「聖魔融合。聖と闇の合成魔法は、その副次効果であらゆるものを消滅させるというふざけた魔法よ」
「逆属性の融合までこんなにあっさりと……。ここまで高レベルの相手と闘えるとは。ダメージ肩代わりの魔道具が無ければ、もう既にギブアップだったが、これ程の成長のチャンスはない! 胸を借りますよ、ユズリハ!」
ジャキッ!!
右手に持っていた棍・シャルーアを両手で構えるソフィア。バックラーにしてたのはこの為だったんだろうな。
「ハハハッ、いいわ! しょうもない様子見は終わり。此方もこれを使わせて貰うわ!」
ジャギンッ!!!
グングニルを構えるユズリハ。あーこの展開は……
「脳筋タイム突入だな」
「だよなー」
エリックが言う通り、もう武器を交える気満々だ。しかも今は神格譲渡でサーシャの神格、流派の技まで使える。出したら決殺だ。楽しそうに笑ってるなあ、早くこの状態に持ち込みたくて盾壊したんだろうな。魔法じゃ勝てないと思わせたら至近距離での武器の撃ち合いしかない。
「ハッ! 唸れ、シャルーア!」
ソフィアが振るった棍が3つに分裂し、ユズリハに迫った頭の部分が7つの蛇の頭となって襲い掛かる! あれは三節棍だったのか……。そして振るったときに恐らくどちらの頭からも蛇の頭が7つ変形して飛び出すんだろうな。リーチもあるし、思ったより厄介な武器だ。
『三節棍』は、通常長さ50~60cm、太さ4~5cmほどの3本の棒を、紐や鎖、金属の環などで一直線になるように連結した武器だ。複数の関節部分を持ち、振り回して敵を攻撃する、『多節棍』と呼ばれる武器の一種。振り回して相手を殴打するという意味において西洋の『フレイル』に近い武器といえる。『モーニング・スター』などが代表的だ。また、関節部分を接合することにより、一本の棒/棍として使用出来るものも存在する(一瞬で外せるボタン式、ねじ回しで接合する方式、紐を引くことで固定される方式など)が、接合部の強度などの問題もあり、純粋に棍術の棒として実戦で使用するには無理があるのだが、この世界には魔力がある。魔力で操ればそう言った弱点は無くなるだろうな。
こうした『多節棍』は、本来長い棍棒を短く分断し、馬の尾の毛などの丈夫な紐や鎖で連結した関節/連節を持つ武器だ。特に中国武術で発展を遂げ、鞭のような変則的な攻撃が可能だが、その扱いも熟練の技を必要とするものだ。
代表的なものがこの『三節棍』で、文字通り三つに分断されて二つの連節で繋がれたものだ。ほかにも五節棍や九節棍といったものも存在し、基本的には奇数倍で連結が増える傾向にある。トンファーやヌンチャクも多節棍の一種であり、中国で発展したものが琉球王国(沖縄)に伝来し、その後小型化が進んで現在の形に収まったものとされる。
創作などでは通常のまっすぐな棍としても使用できるものや、『蛇轍槍』のように多節棍化した槍も存在する。現実的に考えれば継ぎ目のある棒を格闘に用いるのは耐久性の面で不利となるが、変形ギミックを有した扱いの難しい武器というのはどうにもロマンを擽るためか、概してその使い手は実力者として描写される傾向がある。そういう類の武器だ。慣れてしまえば幾らでも隙が見えるだろう。ディードの連接剣とも似ているな。
ギャリリリィイン!!!
「くっ!?」
おっと、少々驚いたなユズリハ。恐らく初めて見た武器、しかも棍先が7匹の蛇に変化して襲いかかって来る。初見な上に奇妙な変化もする。だがグングニルは伸縮自在。冷静にいなせば間合いを制することは大して難しくはないだろう。それにあの蛇は相手を怯ませる為の幻覚だ。
『おおーっと、ソフィア選手の棍が変化して襲いかかる! ユズリハ選手は意表を突かれた様な感じですねー?』
『まあ、ちょっと穂先が変化する多節棍なだけでしょう。ユズリハの武器はカーズが創造した、神器にも引けを取らない性能です。目が慣れて来て間合いを制したら、そこで終わりですよー』
ギィンッ! ガキィイイン!! ガガガキィイインンン!!!
「よっ、ほっ、とっ!」
ズザッ! 三節棍の間合いから距離を取る。
「なるほど、面白い武器ね。でももう慣れたわ。次は此方の槍術を見せてあげる」
まだ余裕な表情を見せるユズリハ。だがこいつは途中までノースキルで闘っていた。そのせいで柄の先の奇妙な変化や棍の不規則な動きが予測できていなかった。俺は舐めて相手をしろとは言ってないんだがなあ。
だが途中から心眼や未来視、明鏡止水も使い始めた。さっきの連撃を無傷で掻い潜ったのはそれの御陰だ。自力でSランクまで上がってるんだから、舐めたら痛い目を見るに決まっている。そのことが漸くわかったんだろう。
「あいつ、相手のこと舐め過ぎだろ」
「お、やっぱエリックもそう思ってたか?」
「まあな、純粋な魔導士だった頃の癖だろうな。自分から距離を詰めるのはいいが、相手から予測できない攻撃で詰められたら一瞬だがパニックになる。神格者スキルがなければ一撃くらいは貰ってただろうな」
「ほー、よく見てるなあ」
「そりゃ付き合いが長いと味方の癖がわかるさ。まあもう立て直したし、終わりだろうな」
ユズリハが離れたところからグングニルを構える。伸縮するとしても間合いにはかなり遠い。さて、何をするのかな?
「やはりこのレベル差では見切られるか……。ならば次で勝負。しなれ、シャルーア! 三節棍武技・ファイアーウィップ!!!」
ダッ!! ブンッ!!!
ソフィアが距離を詰めて放った、鞭の様にしなった炎の魔力を纏ったシャルーアがユズリハを捉える!
ドゴォッ!!! バチィイイイッ!!!
だがその瞬間にホルスターから抜いた魔導銃でソフィアの一撃を相殺、残る右手で此方もしなる様な一撃を放つ!
「アザナーシャ流槍術スキル!」
ギュイーーーーーーィン!!!
右後ろまでぐるりと円を描く様に伸びたグングニルの穂先が、まだ技を相殺されて身動きが取れないソフィアの左後方の死角から、蛇が獲物を食いちぎるかの様な鋭い動きで突き刺さる!!!
ズンッ!!!
「サイドワインダー!」
「ぐ、あ……っ!?」
ドサッ! バキィイイイイイン!!!
『おっと一撃、一撃でソフィア選手の『ダメージ肩代わり君』が砕け散りました! 勝者ユズリハ・ラクシュミ! 第一戦目はリチェスター組の勝利です!』
『うーむ、意外と苦戦しましたねー、でも最後の槍術が背後の死角からソフィアちゃんの心臓にヒットしましたからねー、これで生きてたら人間じゃないでしょうねー。しかしユズリハはちょっと舐めプしましたねー。これから冒険者を目指す人達には知っておいて欲しいのですが、目に見えるレベル等の数値で全てが決まる訳ではないのです。人の強さは心の中にこそあるんですよー!』
『おお、名言ですねー! アリアさんの言葉ですか?』
『いいえー、カーズが常日頃から言っていることですよー。いやあ我が弟ながら良いこと言いますよねー、オホホホホー!』
『ほう、カーズの……。これはどの国のギルドの冒険者達、誰もが学ばなければならぬ言葉でしょうな』
『うむ、さすが我が息子カーズ! 良いことしか言わんのう』
おい、やめろ! くっそウゼえ!!! 実況席に手榴弾でも投げ込みてえ! 全く緊張感がないな、あの連中は。完全にホームでやってるノリだ。そんな中ユズリハが倒れたソフィアを起こしてやっていた。
「死ぬほどの痛みだったのに、傷一つないとは……。とんでもない魔道具ね……。完敗よ、ユズリハ・ラクシュミ。最初の指先からの高速無詠唱魔法、あれだけであなたは此方を仕留めることも可能だったでしょう。敢えて武器での勝負を選んでくれたことに感謝を」
「いいえ、もしレベル差がなければ負けていたのは私の方。心のどこかで私はレベル差に驕っていた。それを気付かせてくれてありがとう、ソフィア・アルフォード。またいつか再戦しましょう」
「ええ、約束よ。私ももっと強くなってみせるから」
バシッ!
ハイタッチをして、背を向けて歩み始める二人に大声援が飛ぶ。まああのレベル差でソフィアはよくやったよな。ユズリハが舐めプしたのもあるけど、勇敢だったな。気持ちのいい人柄だった。
此方に戻って来たユズリハは少々消化不良気味の表情だ。思ったより押し込まれたからな。みんなからの祝福に対しても、何処か上の空。まあこういう時もあるだろうさ。
「お疲れ、まあいつも思い通りにはいかないってのがわかっただけ収穫だろ?」
「舐めプするからだぞ。絶対お前舐め過ぎてたろ?」
はあ、と溜め息を吐くユズリハ。
「まあそうね。ちょっと驕りがあったのは確かよ。これが実戦なら危なかった。これを教訓にもっと戦略は考えないとね」
まあ、ちゃんと反省してるんならいいだろうさ。獅子はウサギを仕留めるのにもってやつだ。もう同じ様なミスをすることはないだろう。さて次は誰かなあ?
『さてインターバルも終わったところで第二試合です。今回は私マリーとクラーチ王でくじ引きさせて頂きます!』
ガサゴソと音がする。
「あーあ、あのハゲとは面倒臭そうだから嫌だな」
「そうだろうな。アイツは何であんなにカーズに絡むんだ?」
「どうせSランクに最速で到達したのが気に入らないだけでしょ? 小さいわよね」
「それにしては異常に絡んでくるからなあ」
「俺が当たったら瞬殺してきてやるよ。Sランクはカーズだけじゃないってな」
「ま、取り敢えずはくじ引き次第ねー」
『えーと、リチェスター組からはエリック・タッケンです。クラーチ王、其方は?』
『うむ、カセル・フリードだな。このエリックも先程のユズリハも我が国を救ってくれた英雄。しかと刮目せねばならんな』
『ということで、エリック選手とカセル選手は準備をしてから舞台へ上がって下さい!』
ガーン!!! 脳内で音が響いた気がした。マジかよ……、何でこういう時のくじとかって碌な奴が出ないんだ?! めんどくせー! あの竜騎士と闘ってみたかったなあ。
「悪いなカーズ、あんな雑魚は瞬殺したら終わりだろ? 面倒だろうけどよ。じゃあ行ってくるぜ!」
「おう……。気にすんな…油断するなよー、どっかのバーサク脳筋魔導士みたく」
「カーズ、もう言わないでー。反省してるんだからー」
(おい、アリア。細工はしてないよな?)
(ん? おやカーズ。あんなこと言うからフラグになっちゃうんですよー(笑))
(もうー、何で毎回変なのと当たるんだ……)
(あのハゲは豪魔剣士でしょー? 一撃で終わらせたらいいじゃないですかー?)
(それだと盛り上がりに欠けることないか?)
(変なところに気を遣いますよねー、カーズは。周りは気にせずボコってやればいいんですよ)
(単純だなお前は。まあそれもそうか、一撃で終わらせて来るか)
(そうですよー。では解説があるのでまた後程ー)
(ああ、やり過ぎるなよー)
くじの結果だし仕方ないか。俺達は舞台へ向かうエリックの背を見送った。
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