OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達

88  竜騎士攻略・ハゲVSイヴァ?

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 魔導具を起動させて、エリックが舞台へと上がる。そして逆方向からは竜騎士ドラグーンのカセルが舞台へ跳び上がって来る。

「「「カセル!!! カセル!!!」」」

 凄い声援だな。先程のソフィアの時も凄かったが、この人は相当の人気だ。青銀と群青色の色彩の全身鎧だが、昨日の暗黒騎士ダーク・ナイトのサウロンよりは軽量だ。頭にも竜の頭を模した様なヘルム。FF4の竜騎士みたいな装備だ。そして武器はやはり槍か。穂先が結構長めのスピアだな。刺突にも斬撃にも対応可能な2m程の長さの槍。鑑定、ドラグーン・スピアね……。やはりSランクか。何処で手に入れたんだろうな? 後で聞こう。
 
 スピアとは英語で『槍』を意味する言葉の一つ。槍全般を指す場合は『スピア(spear)』が一般的だが、馬上槍は『ランス(lance)』、長槍は『パイク(pike)』など呼び分けはされている。最も、スピアタイプの槍をランスと呼んでいたりもして、呼称の使い分けは厳密ではない。  

 スピアとランスはよく混同されるが、決定的な違いがある。スピアは片手もしくは両手で扱うことができる歩兵槍のことだ。振り回し、先端に付いた刃で刺突・斬撃が可能。投擲用のスピアは『ジャベリン』とも呼ばれる。 
 対してランスは、中世から近代まで主にヨーロッパの騎兵に用いられた槍の一種。語源はラテン語で槍を意味する『ランケア(lancea)』、日本語では、『騎槍』とも訳される。単純に馬に乗った状態での専用武器のため、馬に乗ってない場合は全く使えないシロモノだ。
 戦場だけでなく馬上槍試合でも用いられたランスは、『兜・鎧・剣・メイス・盾』と並ぶ、騎士を象徴する装備の一つであり、ファンタジーRPGなどでは、細長い円錐の形に『ヴァンプレート』と呼ばれる大きな笠状の鍔がついたものがよく描かれているが、必ずしも全てのランスがその形状をしているわけではない。
 ランスと他の槍との決定的な違いは、基本的に刃物がついておらず、棒の先が尖っているか、前述した円錐型をし、敵対者を突き刺して攻撃するのが最も効果的な武器である点だ(この先端の形状は国によって異なる)。また、長さも特徴の一つで 一般的な片手武器の中でずば抜けて長く、4~5メートルを超えるものもあり(一般的なランスは扱い易くするため2m前後だが、それでも片手武器では一番長い)、接近戦闘用の武具である。つばが付いているものが多く(付いていないものにも鍔の代わりに溝をつけるなどした)、つかを含み、全体が頑丈な鉄で形作られている場合が多く、人間が扱うため、太くても腕よりは細く作られる。槍が長くなったのは騎兵が苦手とする『槍衾やりぶすま・ファランクス』戦術をはる槍兵の槍に対抗するためであるが、敵の槍兵もこれに対抗するためにパイクのようなより長い槍を使用したので結果としてここまで長大になった。
 携帯する場合は馬具に付けられた専用のホルスターに先端を天に向けた状態で刺しこみ、その先端には旗が付けられている場合もある。
 振り回すのに適していない形状のものもあるため 馬に乗った状態ですれ違いざまに突き刺す攻撃が基本となる。馬の走力が乗れば、先端が尖っているため強固な鎧を貫通させることも不可能ではなく、重装備の相手に効果的である。一方でその長さと重さは 乱戦ではあまり有効とは言いがたく、別途に刀剣やその他の武器も携帯するのが一般的である。広義の意味でのランスは比較的短く刃も付いていた為、ある程度の白兵戦は出来たが、それでも通常の槍ほど短くはなく、突撃の威力を増しその衝撃に耐えるために重く丈夫に作られていたので乱戦では役に立たないことに変わりなかった。鎧のなかには、騎兵が突撃する際にランスをそこへ乗せるための引っ掛けるパーツがあり、この部分を『ランスレスト(Lance Rest)』という。
 一見すると西洋剣術など、難しい小手先の技を求められる武器よりも扱いが安易に感じられるが、刀剣よりもはるかに重く、揺れる馬上から正確に狙いを定めて突き刺し、その衝撃にも耐えなくてはならないため(ランスは手から離して使う武器ではない)、それなりの熟練と体力を要する武器である。
 『パイク』や『サリッサ』は、より長いリーチを求めて作られた武器、『サリッサ』はギリシア・マケドニア(アレキサンダー王)の時代に対歩兵戦対策で競争のように槍が伸ばされ作られたが、ジャベリンなどの武器とそれを使った機動戦術の登場により姿を消した。『パイク』はランスを使った騎士(乗馬している)の突撃対策に作られ、当時あった槍(スピア)が非常に長く伸ばされた、基本両手持ち(片手で持つことは不可能)で比較的軽い防具を着用する。ほぼサリッサと同じように扱われ、対騎兵戦、対歩兵戦に投入された。しかし、銃の大量配備と銃剣の発明により徐々に姿を消していったものだ。
 うーん、やっぱ誰でも使える銃火器はいまいち浪漫に欠けるよな。まあ俺の下らない知識はどうでもいいか。試合に集中しよう。

『では第二戦に移りますが、エリック選手は豪魔剣士ですけど、カセル選手は竜騎士ドラグーンというこれまたレアなジョブですねー、アリアさん』
『そうですねー、レベルはエリックが2990、もうすぐ3000ですねー。会ったときにはまだ40程度だったのに早いものですねー。それに対してカセルさんが1390ですかー。差は大きいですけど、竜騎士ドラグーンは槍の扱いに長けているのと、本来は飛竜を召喚して背に乗って闘うジョブですが、この舞台だと少々手狭ですねー。純粋に槍と大剣の勝負でしょうかー? そして跳躍ジャンプを生かした空中からの奇襲が決め手になるでしょうかねー? エリックもさっきのユズリハ程じゃないですが、脳筋なのでねー、撃ち合いにはなるでしょうねー。付き合いの長いステファンさんはどう見ますかー?』
『そうですなあ……。エリックにユズリハはカーズやアリア殿に出会うまでは少々伸び悩んでおったのだが、この短期間で異常とも言える急成長をしております。確かにバカですが、元々のバトルセンスは高く、野性的な勘も鋭い。今なら竜騎士ドラグーンの攻撃を見切るのも容易いでしょうな』
『うむ、私も救国の英雄の彼には剣聖の称号を与えたいと思っておるのです。実に楽しみな試合ですな』

 残念王、まだそれ言ってんのか……。嫌がるからやめろよな。

『まあ完全アウェイですけど、エリックは油断して舐めプするタイプではないですからねー。観客の皆さんはがっかりするでしょうねー。ざんねーん! お疲れっしたー!!!』

 相変わらずひでー解説だな、あのバカ女神。だが確かにエリックは舐めプするタイプじゃないし、どう攻略するのか楽しみだ。相手が跳躍ジャンプしようが、此方にはペガサスブーツがある。空中戦になろうがハンデはない。寧ろ宙に留まっていられる此方のが有利だ。

『では注目の第二戦、始め!!!』

 マリーさんの合図と同時に一礼する二人。さあどうなるのかな?

「いくぞ、エリック・タッケン! 竜騎士ドラグーンの一撃を受けてみろ!」

 グッ……、ダンッ!!!

 その場にしゃがみ込んで足に魔力を纏わせ、カセルが跳躍ジャンプした。しかもかなりの高さだ。マジでFFじゃねえか。エリックも既にバルムンクを抜いて、高速で下降して来るカセルを目で捉えている。カウンターを体に合わせたらぶっちゃけ一撃で終わるな。

「竜騎士武技《ドラグーンアーツ》! メテオ・インパクト!!!」
「おりゃあっ!」

 ガキィイイインッ!!!

「ぐっ、なにィッ!?」

 ダンッ、ズザーッ!!!

 空中から槍を構えて頭から突っ込んで来るカセルの、突き出した槍にバルムンクを回転する様に振るい、切っ先に寸分の狂いもなく剣閃を合わせて相殺した。バランスを崩したカセルが辛うじて着地する。

「「「おおおおおおおおおおっ!!!」」」

 今ので決まると思っていたんだろうな。観客席から驚きと称賛の声が上がる。確かに上手いな。だが躱しながらカセルを一刀両断もできただろうに、まだ相手の引き出しから戦術を出させるつもりなんだろう。思ったよりも冷静じゃないか。人間にとって頭上からの攻撃は死角であり弱点だが、来るとわかっていればいなすのは容易い。普通の人間には無理だけどね。

「初見で今のを相殺するとは……、やはりお前達は伊達ではないな。ならばもう一度喰らえ!」

 ドンッ!!!

「あちゃー、また跳ぶのかよ」

 あ、呆れてるな……。

「またとか言って。もう見切ったから飽きたんでしょ」
「やっぱユズリハもそう思う?」
「あれだけ大袈裟な武技アーツだとねー。さすがに直線的過ぎて見切るのも容易いからねー」
「でも武器の武技アーツじゃなくて、ジョブの武技アーツは初めて見たな」
「上位のジョブならそういうのもあるらしいけど、神格を受けてからは師匠の流派の方が先に浮かぶのよねー。カーズなんて武技アーツ使ったことないでしょ?」
「あー、そう言えばそうだな。ずっとアストラリア流ばっかりだし。使おうと思ったこともないな」
「所詮人族のスキルだからね、何かしら欠点があるのよ」

 そういうもんか……。こうして話してる間にもエリックは既に何度もメテオ・インパクトを薙ぎ払っている。あれしかないのか?

「なあ、あれって……」
「多分アレが一番強力な武技なんでしょ? 他のじゃ通用しないって理解した上で連発してるんでしょうねー。あーあ、もう仕留めたらいいのにー」
「ユズリハの方が飽きてるんじゃないか?」
「そりゃ同じ展開ばっかり見せられちゃあねー、ぶーぶー」

 
 ガギィンッ!!!

「そろそろ飽きたんじゃねーのか?」
「くっ……、こうも止められるとはな……!」

 片手に持った剣の腹で槍の一撃を受けながら、エリックが声をかける。跳躍攻撃は諦めたのか、着地したカセルがエリックの正面で槍を構える。地上戦に切り替えたか、エリックもわざわざ飛翔しなかったしな。

「仕切り直しだ。いくぞ! ハアアアアッ!!!」

 ビビュン! ズドドドドドドドッ!!!

「へー、まあまあの速さねー」
「お、槍使いとしての意見か?」
「まあねー、でもあれくらいなら普段から立ち合いしてるから止まって見えるでしょ」
「まあスキル差とレベル差が違い過ぎるしなー」

 先程からカセルが繰り出す高速の突きや薙ぎ払いの斬撃は、全てエリックに紙一重で躱されている。そして躱しながら少しずつ前進し、距離を詰めていくエリック。

「チッ! まさかかすりもしないとは!?」

 ザッ! 後方に跳んで距離を取るカセル。汗だくで既に肩で息をしている。まああれだけ避けられたら息も乱れるか。

「なあ、もう終わりかー? 隠し玉があるなら早く出せよー。じゃないと次で終わりにするぜー」

『うーん、カセルさんはエリックに一太刀も浴びせられませんねー。もう完全に見切られてますねー。エリックはそろそろ終わらせるつもりでしょう。はい、会場の皆さんお疲れでーす!』
『あれ程の攻撃が掠りもしないとは……。いやはやアリア殿やカーズとの鍛錬の御陰でしょうな』
『ええー、それほどでも……あるけどー! エリックー、終わらせちゃいなさーい!』

 解説が何つーこと言いやがる。まあでももう特に見るべき点はなさそうだな。

「ここまでの差があるとは……。ならば次が俺の最大の攻撃だ、いくぞエリック!」

 ドンッ! 

 あ、また跳躍ジャンプか。でももう読まれてるな。

「よっと!」 

 ダンッ!

 エリックも同じくらいの高さまで飛翔した。大体100mくらいか、それでも地球の人間からしたらエグいんだけどな。

「なっ、ここまで跳躍ジャンプできるとは!? くっ、ならば受けろ! 槍武技スピアアーツ! 千本槍!」
「何だ、ただの連続の突きか? がっかりだぜ、じゃあなカセル・フリード。マルクスリオ流大剣スキル!」

 ピッ!!! スーーーーッ!!!

斬鉄剣ざんてつけん
「な……!!?」

 無音で振るった幾重もの剣閃が、カセルの全身を一瞬で横に千切りにした、様に見えた。

 ドゴオオオーン!!! バキィイイイイイン!!!

 スタッ! エリックの着地とカセルが舞台に墜落するのと同時に、魔導具が粉々に砕け散った。

『し、勝負アリ!!! カセル選手の落下と同時に『ダメージ肩代わり君』が粉々に砕け散りました! エリック選手の勝利です!!!』

「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 一瞬信じられないと言わんかの様にしーんと静まり返った場内だが、次の瞬間には歓声に変わった。カセルの防具はズタズタに斬られているが、彼自身は無傷だ。いやマジスゲーな、あの魔道具。小さくして持ち歩きたい。

「うぐっ……。俺は生きて、いるのか……?」
「普通なら死んでるけどな。あの魔道具はウチの初代師匠の創ったものだ、ちゃんと肩代わりしてくれたみてーだな」

 俯せに倒れていたカセルの手を引いて起こすエリック。あんだけ派手にやっておきながら、装備以外はノーダメージかよ。兜も砕けて、ライトブルーのツンツン髪をしたイケメンが顔を出した。おー、あんだけイケメンなら人気も出るだろうなあ。

「完敗だ、エリック・タッケン。ここまで手も足も出ない相手がいるとは。世界は広いということを痛感した。俺も世界を回って修行しようと思う。見事な剣技だった。最後の技は何一つ見えなかった」
「いーや、俺もまだまだだしな。もっともっと強くならなくちゃならねえ。またいつか再戦しようぜ、カセル・フリード」
「ああ、次は勝負になるように鍛え直すさ。じゃあな、エリック」

 バシッ!

 ユズリハの時の様にハイタッチして背を向ける両者。いいなー、俺の相手のハゲじゃあ絶対そんな爽やかに終われねーだろうなあ。やだやだ。
 両者に拍手が送られる中、それに手を振って応えながらエリックが戻って来た。そしてみんなが片手を上げてハイタッチする。まあ貫録勝ちだな。常に神と手合わせしてるんだし、今更普通の人族じゃあ勝負にすらならないか。

「「「「「「「おつかれー!」」」」」」」
「おうよー」

 いまいち消化不良気味な表情だな。まあこっちから仕掛ければ一瞬で終わってたし、仕方ない。ユズリハの隣に座ったエリックに声を掛ける。

「おう、お疲れさん。退屈だったんだろ?」
「まあなー、跳躍ジャンプ一辺倒しかなかったからなー。もうちょい奥の手とか期待してたんだけどよー」
「普通はその必殺の型だけで勝負が着いてたんでしょ? ちまちました小技連発する奴ほど弱いもんね」
「へー、そう言うもんなのか?」
「そうだな、もし戦場なら同じ相手とまた闘うなんてことは滅多にない。確実に仕留めるための、必殺の一発を鍛え上げる方が効率がいいからな」

 なるほど、新選組の隊長格が自分の得意技を必殺の一撃までに昇華させたのも、確かそういう理由だったな。幕末の最後の剣客集団、彼らがやっていたことは間違ってはいないということか。

「しかし最後のルクスの剣技は凄かったな」
「ああ、斬鉄剣か。心を落ち着かせて無音の剣閃を空間魔法を纏わせて放つ連撃だ。相手は理屈はよくわからんが完全に空間ごと断ち斬られる。ぶっつけ本番にしちゃあ上手くいったぜ」
「おお、マジで理屈がわからん……。さすが神の流派だな」
「でもまだまだ奥義は使えねえ。鍛錬あるのみだな」
「アレは立ち合いで使わない方がいいぞ。今回の魔道具みたいなのがないと死ねる」
「確かにな。アレは上手く使わないと味方にも被害が出そうで怖いぜ。って次はお前だろ、カーズ。一気に終わらせてやった方がいいんじゃねーのか?」
「だなあ、取り敢えずお前との立ち合いをイメージしてやるよ。同じジョブみたいだしなー」
「俺より遥かに雑魚だけどな」
「全くだ。一発でも当ててくれたらハゲ解除してやるかー」
「とんでもねーハードルだな」

 二人でケラケラと笑う。男同士は気楽だ。そうやって話していると、会場の魔道具が新しいのに交換されて準備が整えられていく。あーあ、ぶっちゃけあんなのとやり合いたくないなあ。一瞬で終わらせてもいいが、盛り上がりに欠けるだろうしなー、トリだし……。うーん、悩む。

『えー、予定よりもかなり早く2試合を消化したので、ここで30分程のインターバルを挟みます。会場の皆様、御手洗いや売店など、ご自由にお過ごし下さい。ゴミは各自お持ち帰り下さいませ。昨日と同様、投棄されますと住所へと罰金の請求が行きますのでご注意下さい』

 うーん、やっぱ凄いな、ゴミで住所に請求とか。

「どうしたの? 難しい顔して」

 左隣に座っていたアヤが話しかけて来た。さっきの試合の時は右にいるユズリハとばっか喋ってたしな。どうやって勝負つけるか顔に出てたかな?

「ああ、いや、最終戦のハゲはどうしようかなあとね……」
「あーあの失礼なハゲだね。一撃で決めちゃえば?」
「うーん、今から30分もインターバルした後に楽しみに戻って来る観客に悪いなあとかね」
「本音は?」
「一撃でマットに沈めたい。リングじゃないけど」
「だよねー、でも何であんなに絡んで来るのかな?」
「全然わからん。別に知りたくもないしなあ」
「まあねー」
「カーズ様、アヤ様、あのガノンというハゲのことですが……」

 後ろに座っているディードが声を掛けて来た。何だろう?

「どうしたんだ?」
「昨日祭りの時に偶然マリーさんに会いまして。ガノンはカーズ様が最速でSランクになるまでは、自分が最速での記録保持者だったそうですよ。それでカーズ様に抜かれたのが気に入らなかったのではないかと。マリーさんはそう言ってました」
「心底下らねーー。そんなんどうでもいいよ。ていうか今もう最速Sランク俺じゃないだろ? ウチの……誰だ?」
「最初にSランクマッチをしたイヴァじゃない?」
「そうですね。あの子が今の最速ですよ」
「もう俺関係ねーじゃん!」
「後はマリーさんに色々と聞いて来たらしいですが、PTに美女ばかり連れているとか、邪神という得体の知れないモノに勝ったとか、そういうのが気に入らないみたいですよ」
「完全に只のやっかみじゃねーか。もういいわー、ハゲ解除するのやめた。ゲヘナってジャハンナムして最後にアーマーンしてやるわ」
「一発目で終わりだよ、あははははっ!!!」
「そうですよねー、あははははっ!!!」

 こんなしょうもない小ネタで笑ってくれるとは。ウチのPTは平和だ。まあ確かに美女は多いけど。俺が一番そういう顔面なのが困ってるところだというのに。

「おーい、イヴァー!」

 離れたところでルティと遊んでいるイヴァを呼ぶ。二人一緒にこっちに来た。仲良いなこいつら。

「どうしたのさーカーズー?」
「なになにー? おもろいことー?」
「いや大して面白くはないんだが、何でルティも来た?」
「うーん、ノリ?」
「まあいいや。俺の対戦相手のハゲがいるじゃん。あいつは俺の前に自分が最速Sランク記録だったから、俺に八つ当たりして来たんだってさ。でも今の最速はイヴァだろ? もう関係ないぞーって言って来てやれ」

 まあ冗談だけどねー。

「ほー、わかったのさー。んじゃあのハゲのところにいってくるのさ」

 だがダッシュで向こう側の観戦席まで向かうイヴァ。

「ちょっ、冗談! あーあ、マジで行くとは……」
「イヴァおもろいねんなー」
「問題になりませんかね?」
「イヴァがのしちゃうかもしれないよ?」
「だよなあー。でももう遅い。あいつ光歩で行きやがった。念話も聞いてねえ。仕方ないノイズ・コレクト雑音・音声収集で聞いてみるか」

 みんなに聞こえる様に展開する。イヴァとハゲの声が聞えて来る。

『お、ハゲー! 元気なのさー?』

「「「「「「「「ぶふーッ!!!」」」」」」」」

 あいつ容赦ねえな……。

『何だ、貴様は? カーズのところにいた剣聖とかいう猫か。何の用だ?』
『お、ハゲで通じたのさー。カーズが最速でSランクになったのが気に入らないらしいけど、今の最速はボクなのさー。残念だったのさー、ニャハハハー!』

「「「「「「「「「ブーーーッ!!!」」」」」」」」」

 ドストレートだな。これは誰でも怒るだろー。

『そうか…、貴様、死にたいらしいな……』
『死にたくないのさー。勝負してあげてもいいけど、ハゲは弱すぎるのさー。カーズの獲物だし、どの道一瞬で死ぬ目に遭うのさー。バイバイなのさー!』
『待てっ! 貴様あああ!!!』
『『ははははっ!!』』

 ビューン!!! 一瞬で此方まで戻って来た。笑ってたのはソフィアとカセルだな。

「言って来たのさー」
「ハイハイ、良くやったなー。でも次からは冗談かどうかよく聞いてから行こうなー」

 猫耳頭をよしよしと撫でてやる。嬉しそうな顔をするイヴァ。何だかなあー。

「「「「「あははははっ」」」」」
「「はーはっは!!!」」

 此方のPTは全員大笑いだ。冗談のつもりが只の煽りになってしまった。何万年も寝てたんだったよな、そう言えば。そりゃ齟齬が合わなくもなる。これは俺が悪いかあー。まあ笑わせて貰ったし、別にいいか。

『えー、ではゲストの到着です。ここアレキサンドリア連合王国の国王チャールズ様です。此方へどうぞー』
『んー、コホン、ここの国王のチャールズです。いやはや、ゲストで呼んで貰えるとは嬉しいですな』
『『よろしくお願い致します』』
『ステファン殿にクラーチ国王も実況ご苦労様です。盛り上がって何よりです』

 マジで謙虚だなここの王様。見習えよ残念王……。

『ハイハーイ! 国王様、しくよろでーす! どうですかー、ここまでの試合は?』

 アリア…、誰が相手でも同じだな。ブレねえ……。

『うむ、此方が呼んだSランク勢が手も足も出ない。さすがは世界を救ったと言われる英雄達。お見事としか言いようがないですね』
『最後はハゲとウチのリーダーのカーズとの試合ですがー、ハゲに勝ち目があると思いますかー?』
『ここのデータを見る限り……、うーむ、難しいですなあ。これほどのレベルに到達できる人族がいるなど、信じがたいですが……。ウチも最後くらいは頑張って欲しいものですね』
『あのハゲにですかー? 無理ゲーですよー。しかし何でハゲたんですかねー? ストレスですかねー?』
『うーむ、凄まじい重圧がのしかかったのかも知れませんね。あの若さでハゲてしまうとは……』

「あいつわかってて聞いてるな、性格悪すぎるだろ……」
「アハハハハッ、でもアリアさんらしくていいねー」
「あの人を今更止められねーよ」
「アリアさん最高ー!」
「さすがですね、あの勢いは……」
「アリア様ぱねえっす!」
「アリア様面白過ぎるわー!」
「せやなー、あのセンスはイケとる」
「アリアがいたら退屈しないのさー」
「止まりませんね、アリア様……」

 ウチのPTはワイワイだな。アウェイでここまでやる実況は普通にいねえ。

『勝てばカーズが治してくれるかもですよー。頭全部ー』
『ははは、ではウチのハ、じゃなかった、ガノンを応援しましょうかね』
『無駄でしょうけどねー。ずっとハゲの十字架を背負って生きて下さいー、ナムー!』

 言い方! 調子に乗りまくってやがる。危険がどうとかってどうなったんだ?

(おい、アリア。危険ってどうなったんだ?)
(おや、カーズ。まだ大丈夫ですよー、その時になったらわかります)
(そうかよ。あんまり調子に乗るなよなー、今更だけどさ)
(あいあいー、大丈夫ですよー。ではトリはお任せでーす)

 ……切りやがった。楽しそうで何よりだよ全く。

『さあ休憩も終了しました。ではこの祭典の最終戦、リチェスターのSランク、神魔法剣士ゴッドルーン・セイバーのカーズ・ロットカラー選手とアレキサンドリアのSランク、豪魔剣士のハ、じゃなかった、ガノン・ドロフィス選手は準備してから舞台へ上がって下さい!』

「「「おおおおおおおおおお!!!!!」」」

 うおっ、すごい歓声だな。最終戦だしなあ。

「「「ハーゲ!!! ハーゲ!!!」」」

 お、応援されてんじゃん。ハゲ呼びだけど。

「さて、行って来るよ」

 立ち上がってぐるんぐるんと腕を回し、軽くストレッチする。

「カーズ、頑張ってね!」
「適度にやれよー」
「微塵切りにしちゃっていいわよー!」
「カーズ様、ご武運を!」
「父上、勝って下さいね!」
「兄貴ー! やっちゃって下さーい!」
「ボコったるんやでー!」
「がんばなのさー!」
「カーズー、終わったら私と子作―――もごごっ!?」
「「チェトレは黙っていましょうねー」」

 PTは相変わらずだな、残りのみんなも声を掛けてくれた。さあサクッと片付けてしまおうかね。
 俺はみんなに背を向けて魔道具へと歩き、起動させてから舞台へと跳び乗った。











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