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第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達
89 カーズの闘い・迫り来る危機
しおりを挟む舞台に乗ってストレッチをしていると、逆方向からハゲが上がって来た。
「「「ハーゲ!!! ハーゲ!!!」」」
うーん、凄い声援だが地味に悪意を感じるな。まあ、あんなのでも国民には愛されてるのかな? とでも思っておくか。俺が毛根破壊したんだが、ちょっと不憫だ。
「やはり貴様とは殺り合う運命のようだな。神殺しのカーズ!」
また変なことを言い始めたなあ。厨二か? やだやだ。それにダメージ肩代わり魔道具あるから死なねーよ。
「いやいや、偶々くじ引きでそうなっただけだろ? 俺もあの竜騎士と闘いたかったんだけどなあー」
「フッ、そうか。俺と闘うのが怖かったということだな」
「いや、あいつの方が強いだろ? 意味の分からん敵意をぶつけてくるから、ぶっちゃけお前は面倒くせーだけだ」
「おのれ…、貴様……!」
「聞いたけどさー、お前自分がSランクの最速保持者だったんだろ? 所詮記録なんていつか塗り替えられるもんだ。今の最速はウチのニャンコだ。そんなしょうもない程度のことでイラついてたらストレスでハゲるぞ? あ、悪い、もうハゲてるんだったな。ごめんなー、ストレスかけて。俺に勝ったら治療してやるよ」
まあこいつの態度次第だけどね。
「くっ……、貴様にはSランクの誇りは、プライドはないのか!?」
何だそれ? プライドチキンにプライドポテトか?
「ねーな。そんなのしょうもないもんがあったら20ギールで売ってやるよ。後、ウチのPTが美人揃いだとか、邪神を斃したとか、そう言うのが気に入らないんだってな? 只のやっかみだろ。お前はガキか? そんなことにエネルギー割くくらいなら鍛錬でもしろよ、くっだらねーな」
「貴様ああー…! 言わせておけば……!」
語彙が少ないなあ。そんなんで口で俺に勝てるとか思わないことだな。これでも元教師、アホなモンペのクレームとかで慣れっこなんだよ。いくらでも口が回るからな。
『さて遂に最終戦ですが、ここまで我がリチェスター勢は連戦連勝。そしてリチェスター及び、現在世界中のSランク最強のカーズさんが相手。ハ、ゲフンゲフン、ガノン選手には打つ手がありますかね? アリアさん』
『うーん、いや無理ゲーでしょー。レベルも3倍以上の開きがありますし、カーズはああいうヘイトばら撒く小物が大っ嫌いですからね。まあでも手加減しながら色々と技を見せてくれますよ。ウチの豪魔剣士のエリックと比べても雑魚オブ雑魚ですからね。ラストハゲさん、残念でしたねー! あの子はああいう輩には容赦がないですからー、お疲れっしたー! チーン!』
『ふむ、確かにあのような小物ではカーズの実力の万分の一も引き出せはしないでしょうな』
『ステファンの言う通りです。邪神から我が国を守ってくれたカーズにあのような口を訊くとは愚かな。クラーチでのAランク昇格戦でも悪漢をボロ雑巾の様にしたのを見ておりますからな』
『チャールズ国王はどうですかー? 無理ゲーですけどー?』
『うーむ、ハ、ガノンもこの国では貴重なSランク。勝敗は兎も角、善戦はして欲しいものですねえ……』
『フフフー、無理でしょうねー。余程手加減されないとカーズには触れることすらできないでしょうねー。「ハゲ」って声援も中々ウケますねー。マリーさん、あのやっかみは理由があるんでしょう?』
『ああ、はい。先日私のところに来て根掘り葉掘り聞かれましたけど、PTに美人が多いとか邪神を斃したとか、そういうのも全部気に入らないらしいですよ。最速Sランク記録を抜かれたのも。我々としては、リチェスターとクラーチの英雄であるカーズさんのことをそのように言われるのは正直気分が悪いですね』
『あはははー! ということでカーズー、サックリと適当に遊んであげてくださーい! 相手は礼儀知らずのガキンチョ、ほー28歳でハゲとは可哀想にー、ププーッ!!!』
「実況も完全にカーズの味方だな……。さすがアリアさんにマリーさんだぜ……、煽り方がぱねえ」
「まあ実際その通りだしねー。じっくり甚振ってやればいいのよ」
「さすがにあのレベル差はねー、私だったら棄権するよ」
エリユズにアヤの溜息が聞えて来た。ノイズ・コレクトを展開しておいたからな、何か起こるかも知れないし。ま、ぶっちゃけ雑魚には変わりない。
『では、カーズさんにとってはどうでもいいでしょうけど、ハ、ガノン選手にとっては只のやっかみの因縁の相手。そんな第三戦、最終戦始め!!!』
取り敢えず一礼。でもハゲは礼もせず背中から大剣を抜いた。仕方ない、こういうガキには礼儀を一から教えてやらんとあかんなー。一応元教師としては。
<スキル神眼・明鏡止水・未来視・弱点看破・標的化が発動します>
スキルの発動と共に目を閉じる。なぜかって? 反射して眩しいからね(笑)
「貴様! なぜ武器を抜かん!? それに目を閉じるとは、舐めているのか!?」
お、やっぱ怒った。もうちょい煽っておこう。
「は? ああ、舐めてるぞ。それに目を開けてたらその頭が眩しいんだよ。タオルとかバンダナでも巻いてくんねーかな?」
「くそがあああ!!! いくぞ!!!」
ブンブンッ!!!
大剣を振り回して突撃してきたが、うーむ…。初期のエリックみたいだな。その場からは動かずに上半身のバネと体の捻りのみの体捌きで悉く斬撃を躱す。そこそこの速度だが、直線的過ぎる。一生当たらねーよ。
「登録試験のときのエリックと同じねー、あははは!」
「おい、やめろ。思い出させるな」
エリユズの漫才が聞こえて来る。まあ確かにあの時のエリックと同じだな。
「くそっ! ちょこまかと……!」
既に10分以上大剣を振り回している。鑑定、アイスソードね。氷属性のSランク武器か。祝宴の時に俺が粉々にしたのはインフェルノソードとかいう炎属性の大剣だったな。火と氷の大剣か、もう1本だけだが、こいつには猫に小判、豚に真珠だ。もったいない。さてそろそろ飽きて来たな。
パシッ!
全力の打ち下ろしを左手、素手でキャッチする。ほうー結構ひんやりするが、その程度だな。
「なっ!? 素手で剣を掴むなど……!?」
「止まって視えてるんだよ、目を閉じてても。もう実力差がわかっただろ? まだやるんなら色々と実験台になって貰うからな、いいのか?」
「舐めるな! 誰が降参などするか!」
「だろうなー、まあ多少は手加減するから、精々楽しく踊ってくれ」
タンッ! ザッ!
後ろに跳んで距離を取る。魔法創造と体術の組み合わせを試してみたかったんだよな。
「はあああああ……!」
ピキィィィン!
両手で白鳥座のノーザンクロスの軌跡を描く! 凍気の影響で、舞台の上のハゲの周囲に雪の結晶がチラチラと降り始める。
「何だ!? 雪? しかも結晶のまま降って来るなど!?」
「俺が元いた世界では南北に行けば行くほど途轍もない寒さとなる。ここなら東西だがな。そこでは雪が結晶のまま降ってくるのさ。燦々と光り輝きながら降り積もる様は、まさに宝石の墓場のような輝き。だがその美しさも生物にとっては常に死と隣り合わせ。それを北極圏の人々は賛美と畏怖の念を込めて、こう呼ぶのさ!」
ドゴオオッ!!! ゴアアアアアアッ!!!
左拳から高めた凍気を一気に撃ち出す!
「ダイヤモンド・ダストー!!!」
「う、ぐあああああっ!!!」
ピキィイイイイン!
ちょっと手加減をミスってしまった。拳から放たれた凍気でハゲが凍り付いてしまった。
「手加減が難しいな……、ヒーラ!」
パキィイイイン! ドシャアッ!
黒と金の混じった色合いの全身鎧が少々砕けた程度だが、ハゲ自体のダメージは回復させておいた。
「ぐはっ…!? ハァ、ハァ……。俺は生きているのか……?」
起き上がりながらハゲが口を吐いた。
「すぐに回復させたからなー。じゃあ次は何にするかなー?」
「くそっ! これでも喰らえ! 大剣武技・真空斬!!!」
ドゴオォッ!
舞台に剣撃を叩きつけた。これエリックがやってたやつじゃん。さすがに二回目だ。そんなそよ風など通用しない。
「創造魔法・リフレクト・ウォール」
カッ! パアーン!! ドゴォオオ!!!
「うぐあああ!!」
俺の眼前に展開された光の壁に真空斬が反射されて、その衝撃を倍加されて喰らい、吹っ飛ぶハゲ。勝手に自爆すんなよな。俺の実践練習にならんだろ?
「ヒーラ!」
「ぐっ……! 俺の剣技がはね返って来るとは……?!」
肩代わり人形は問題ないな。回復させたら傷が治る。凄い装置だなマジで。
「勝手にくたばるな。じゃあ次は獅子の牙でも喰らってみるか? いくぜ、はあああああ……」
今度は獅子座の軌跡を両手で描く。さっきのもこれも魔法剣とは異なる、所謂魔法拳。拳に魔法を乗せて放つというシロモノだ。特に星座を描く必要はないが、その方が魔力が練り易い上に闘気も上乗せされるんだよ。何度か練習してみたが、実戦では初のお披露目だ。
「またしても剣を抜かないとは……! 貴様、ふざけるな!」
「拳なら抜いてやってるだろ? さあ受けろ、獅子の牙を! ライトニング・サンダーボルト!」
カッ! ピピピピィッ!!! ドゴオオオー!!
右拳から放たれた魔法が光の筋となって、ハゲの全身を切り刻む様に駆け巡る!
「うああああああっ!!!」
ドガアッ!!!
うむ、以前体を乗っ取られた時よりも威力も上がっているな。雷光にズタズタにされたハゲが吹っ飛んで転がる。
「ヒーラ!」
だがすぐに回復させているので、致死ダメージにはならない。でも防具にはダメージが入っているので見た目はボロボロだ。
「おいおい、ガノンのハゲが完全に子供扱いだ……。あいつは無駄に相手を煽るからああなる。自業自得だな。これで少しは反省してくれればいいんだけどな」
「カーズ・ロットカラー……。凄まじいわ……。どうやら相手が余りにも悪過ぎた様ね。私なら最初の一撃で降参よ。あらゆる面でレベルが違い過ぎるわ」
あ、向こうにイヴァが行ったときにノイズ・コレクトを展開させたままだった。カセルとソフィアの声が聞えて来た。まあいいか、あの二人は紳士的だし、やっぱこのハゲの扱いに困ってた様だな。過去のディードよりも余程タチが悪いもんな。
「うぐ……、貴様、それ程の力量がありながら……、なぜ一気にトドメを刺さん!?」
「いやー、何か気になる戦術とかあれば見てみたいなあとか思ってたんだけどさあ。お前は大剣を振り回すしか能がないのか? まあ後はお前に礼儀を叩き込む為だな。増長したガキ程タチの悪いものはないんだよ」
「くっ……、舐めやがって……! それに見た目は貴様の方が明らかに若いだろうが……!?」
「俺は神格で歳を取らない体質なんだよ。実際はお前よりもかなり歳上だ。少しは年長者を敬うことだな」
まあ、こいつにはもう大して戦略などもなさそうだな。よくこんな猪突猛進な脳筋でSランクになれたもんだ。
「やっぱ大した戦術はないか……。じゃあ次はこいつを試させて貰おうか。ゲート・オープン!」
ブゥンッ!!!
俺の周囲に100個程の空間の歪み、魔法陣が浮かび上がる。これは武具創造を戦闘に応用できないかと思って、試行段階だったものだ。
「なっ……!? 何だ!? その大量の魔法陣は!?」
俺の周囲に展開された魔法陣に驚愕するハゲガノン。さあお楽しみはこれからだぜ。
『圧倒的ですねー、カーズさんは。ここまでの展開は如何ですか、アリアさん?』
『まあ普通にやっても瞬殺ですからねー。かなーーーーーーーーーーーり手加減しながら自分のオリジナル技とかを試しているんでしょうねー。だからわざわざ回復してやってるんですよー。手加減しても一発で勝負がついちゃうと勿体無いんでしょうね。はーい、会場のみなさん、ずっとカーズの無双状態ですよー、そこに刮目して下さーい! お疲れっしたー!』
『やはりカーズは規格外ですな……。我がリチェスターとしては頼もしい限りです』
『うむ、絶対に敵に回してはならんでしょうな』
『あのガノンが手も足も出ないとは……。いやはや世界は広い。とんでもない逸材がいるものなのですね……』
相変わらずアリアの実況はひでーな。他の連中も調子がいいことだ。しかし、マジでこいつはどうやってSランクになったんだ? わからん。
「じゃあいくぜ。死ぬ気で凌げよー。いけ! ソード・バース!」
ヒュンヒュンッ!! ドッ! ドドドドドドッ!!!
大量の魔法陣から次々に創造武器が発射される。ランクはD~Bランク程度の無銘の剣や槍などだが、これは物量で相手を封殺する戦術。大量の雑魚相手や敵単体などにどのくらい使えるのかどうかのお試し技だ。勿論魔力の出力を上げればA~SSランクまで撃ち出せる。
ガギィンッ! ギギギギギィンッ!!! ガカアッ!!
「くっ、何だこの武器の嵐は!? キリがない!」
大剣を振り回して何とか捌いているが、あの大剣はそこそこの重量がある。この高速のソード・バースには対応できていない。こいつ、何か武技とかスキルとかはないんか? ハチの巣になるぞ。
ザシュッ! ドスッ! ギィン! ガキン!
「うぐ、ぐあっ!」
ダメだな、もう被弾し始めた。ま、技としてはまあまあ使えるな。MP消費はそこそこ速いが、俺のMPは15万以上ある。敵が相当数いてもある程度は薙ぎ払えるし、対応は可能だ。
ズドドドドドッ!!!
「うあああああっ!!!」
パチンッ! 指を鳴らして魔法陣を閉じる。1分も持たなかったか。
「ヒーラ」
「くっ、またしても回復を……。情けをかけているつもりか!?」
「いや、全然。あっさり終わったら客も楽しくないだろ? 後はお前の腐った性根を叩き直すのと、俺の新しい戦法のお試しだって言ったろ。だがもうお前に見るものもないようだな」
左手上に異次元倉庫を開き、そこからアストラリア・クレイモアを取り出す。アリアには一応ある程度の武器種を貰っているんだよ。戦術の幅を増やしたいからな。
ヒュヒュンッ! ジャキッ!
片手で大剣を振り回し、構える。さすがアリア特製だ、軽いぜ。
「大剣だと!? しかも異次元倉庫? お前は一体何なんだ……!? だが俺と同じ武器でやり合うつもりか? 舐め腐りやがって!」
「別に舐めてねーよ。同じ条件なら、お前のハゲ頭でも自分の敗北がよくわかるだろうからな。後は俺の大剣の扱いの練習だ」
「一々癪に障るな、貴様は……。ならばいくぞ!」
ダッ! ガキィ! ギィン! ガギイイインッ!!!
あらゆる斬撃を舞う様な足捌きとステップでいなす。目を閉じたまま、回転しながら背を向けていても後ろに大剣を置き、捌く。これぞアストラリア流ソードスキル・剣舞。剣を扱う際にはかなり有用なスキルだ。だが今までは難しくてあまり使いこなせなかったんだよね。俺もまだまだ成長してるってことかな?
「ハァ、ハァ……、おのれ…! なぜ当たらない!?」
ハゲは得意武器の衝突でも全く歯が立たないことに、最早怒りすら露わにしている。まあ、これは自分自身の未熟さに対してだな。いいことだ。悔しさを感じなければ成長はない。
「へぇー、カーズが大剣使うの初めて見たよ」
「私達も初めてよ。スピードと重量の問題で余り使う気はないって言ってたのにねー」
「俺も初めて見るが、何だあの足捌きは? まるで踊ってるみてえだ。アイツはどんだけ器用なんだよ? 確かにアストラリア流はどんな武器種にも対応可能だが、いきなりあのレベルかよ……。はぁ、自信失くすぜー」
「あの様子ではわたくしの連接剣でも軽々と扱ってしまいそうですね。ハァ……、カーズ様はもう何でもアリなのですね……」
相変わらずディードは意味不明なトリップしてるな……。でもアヤ達は俺の大剣捌きから何かを盗む様に見入っている。研究熱心で何よりだな、ウチのPTは。こちらの味方席のみんなは常に向上心を持ってくれている。いい傾向だね。力に驕ったり、自惚れた瞬間に成長は止まってしまうからな。
「ハァ、ハァ……、くそっ! 何なんだお前は!?」
「さあな、自分でももうよくわからんが……。人間なのは確かだ。じゃあもう見るべきものもないし、終わらせて貰う。これに懲りたら他人をやっかむのは止めることだな。器が知れるぜ。Sランクなら他者の手本となるべきだ。アストラリア流大剣スキル」
ぐっと、左手に持った大剣を突きを繰り出す様に引き、刀身に右手の親指と人差し指を添えて構える。
「おい! あの構えは……!?」
気付いたか、エリック。そうだぜ、これが……
スッ! ドゴオオオオオオオオ!!!
「シューティング・スターズ!」
バキィイイイイイン!!!
手加減したので計15発。ハゲの大剣が砕け散る! そして何も見えなかったであろうハゲは地面にがっくりと膝を着いた。
ピクッ! 何だ? 何かがこの王都に迫って来る! 最大展開していた探知スキルに何かが反応した。
(アリア! このことか!?)
(ええ、大魔強襲。それも人為的なものです。6柱の最後の1匹が残っていましたよね? ここで世界中のSランクや私達を纏めて仕留めようとでも思ったんでしょうねー)
(なるほどな、さっさとぶっ潰してやるか!)
「大変だ! ベヒーモスの大軍が第九大迷宮からこの王都に迫っている! 逃げろ!!!」
あれは見張りの兵隊か? 恐らく伝令だろう。闘技場に走り込んで来た兵が大声を上げた。その瞬間騒然となる場内! これはマズイな……、パニックになる。
(アリア、みんな、行くぞ! 親父に母さんも来てくれ!)
(よっしゃー! ぶっ潰してやらあ!)
(私は援護に回ればいいのねー、ナギくん?)
(ああ、頼む。俺達しか闘える奴らはいない!)
みんなからの返事も来た。
「来やがれ! サモン・ヨルム!」
ドオオオオオオーーーン!!!
舞台に所狭しと巨大なヨルムが出現する。観客はこいつを見てもまた驚き始める。だが一々気にしていられない。そのデカい頭に飛び乗る。他のメンバーも同様だ。
「待て! まだ俺は倒れていない! 勝負を捨てるのか!?」
「バカかお前は? 勝負は誰の目に見ても明らかだろ? 目の前の人々に危険が迫っている。それを救うことが優先に決まっているだろうが! お前は何の為に闘っている? 只の自己満足や力をひけらかしたいのなら二度と剣を握るんじゃねえ! 俺はな、こんな見世物なんかどうでもいい。ただ自分が護りたいもののためにしか本気の剣は抜きたくないんだよ。それにノブレス・オブリージュ、お前も腐っても貴族姓を名乗っているなら、力なき人々の為にできることを為せ! 行くぞ、南門だ! 飛べ、ヨルム!!!」
「了解だ、行くぞ! 我が主に仲間達よ!」
ギュアアアアアーーー!!!
高速で飛び立つヨルム。これならすぐに着く。
「くっ……、完敗だ…、カーズ・ロットカラー。冒険者としても、そして、一人の人間としてもだ……。俺も、英雄になりたかった……」
ハゲが何か言っていたがどうでもいい。それに英雄なんてものはなろうと思って成れるものじゃない。己が行動で周囲によって認められるものだ。俺には興味がない。
まあもう可哀想だから毛根破壊は解除しておいてやった。多少はあの性根もマシになるだろうさ。
『ハイハーイ! みなさーん、突発的に大魔強襲が起きてしまったので、私はカーズ達と制圧に向かいますー。ベヒーモスは通常のSランクが数人がかりで漸く倒せるレベルの魔物です。みなさんは大人しく避難していて下さいねー! 既にこの王都には私が大規模な結界を張ったのでー、安心でーす! 城壁の上から見物したいのなら自己責任でやって下さーい! ではアデュー!』
フッ! アリアもヨルムの頭の上に転移して来た。
『突発的な大魔強襲です! おそらくローマリアやカーディスを襲ったのと同様のもの! 観客の皆様は落ち着いて行動して下さい! たった今リチェスターの精鋭達が制圧に向かいましたので安心して下さいませ!』
『まさか…、ローマリア帝国を半壊させたという、あの大魔強襲が勃発するとは……。すみませんが、ここにいるSランク勢は彼らとのバトルで、装備が破損して満足に闘える状態の者は少ない。他のランクでは死にに行くようなもの……。我がアレキサンドリア連合王国民の皆様、国王が言う言葉ではないが、彼らの武運を祈りましょうぞ!』
「「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」
闘技場からマリーさんとアレキサンドリアのチャールズ国王の声がまだ聞こえる中、俺達は、アヤ、アリア、エリユズ、ディードにアガシャ、イヴァにルティ、アジーンとチェトレ、そして俺の両親を再召喚して、万全の状態のフルメンバーで南門の外へと飛ぶヨルムの頭に乗り、現場へと急いだ。
最後の1柱、ルキフゲ・ロフォカレか。待っていろ、これで6柱は全て滅却させてやるぜ。
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