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第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達
93 凱旋・報酬と特別ランク授与
しおりを挟む突発的大魔強襲を制圧し、第九大迷宮の最下層の魔神も重傷を負わせた。召喚獣も合わせて10人足らずでSSランクとも言われる、数万のベヒーモスの大軍を消滅させた俺達は、王国と冒険者ギルドから多大な報酬を頂くことになった。
王都は再びお祭り大フィーバー。そしてやっぱり多くの人々が街の城壁から見物していた様で、全く困ったもんだ、世界中から来ていたギルドマスター達が俺達の闘いを見ていた。勿論話題になる。そしてステファンがまたしてもイキった発言をしたらしい。
あの驚異を普通のSランク程度に制圧が可能なはずがない、それを少人数でやり遂げた俺達をSランクに留めておくには無理がある。幻とも言われるSSランク冒険者に、更に功績を上げれば3Sにしても良いだろう、とまあメチャクチャ言ってくれたせいで、俺達は勿論、登録もしてなかったアリアに親父、母さんまでもSSランク冒険者にされてしまった。女神と、元々死人の俺の召喚対象だよ。贔屓するにしてもやり過ぎだろ!?
もう決まってしまったので、仕方ないんだが……。王城でまあデッカイ庭だよ、どこの国も庭でパーティやんの? そこで表彰を受け、多額の報奨金を受け取った。まあ結果的には王都を守ったので結果オーライなんだけど、こういうのは毎回慣れない。毛根破壊を解いてやった、ほんのり毛が生えた元ハゲは相変わらずこっちをジロジロ見て来るしなあ。やだやだ、やっぱ目立つのは嫌いだ。
表彰が終わって、漸くみんなと飲み食いできる。大きなテーブルにメイド組も一緒に座ってのんびりしていたら、対戦したSランクの人達や他国のギルド関係者に王族までもが挨拶や雑談にやってくる。アジーンは相変わらずゴリさんに気に入られていたし、他のSランクも対戦したこちらのPTに声をかけられていた。うん、平和でいいねえー。と思っていたら、俺のところには元ハゲガノンがカセルとソフィアに連行されるように連れて来られた。この大人の二人が同伴と言うことは間違いなく謝罪や要らんことを言わせないためだろう。二人共擂粉木みたいな短い棒を持っているのは……、うん、気にしないでおこう。
背後まで気配を感じる距離まで近づいて来た。こいつは信用していないので神眼は発動中。真後ろでもよくわかる。
「なんか用か? 生憎俺はお前に用はない。その二人になら色々と冒険者としての話は聞きたいけどなー。まだ挑発したいのなら次は殺すぞ」
「くっ……、いや、そうじゃない……。この度は不敬な言動をし過ぎてしまった。申し訳ないと思っている……」
「ふーん、アリアー天秤は?」
左隣で大量に食っているアリアに尋ねる。右隣にはアヤが座ってこっちの様子を窺っている。
「ふぉうでふねー、明らかにDoutでふねー」
「ちゃんと飲み込んでから喋れよ」
「ううーん、ゴクリ。Doutですー。勝てもしないライバル心に嫉妬に妬み、英雄に相応しいのは自分だという驕りが心の中に巣食ってますねー。この二人に無理矢理連れて来られただけで本心はカーズに対する負の感情で一杯ですよー、このちょびハゲさん(笑)」
「だってさ、カセルにソフィア、わざわざ気を回してくれてありがとうな。でもコイツは根っから腐ってるらしい。ウチのアリアの固有スキルは嘘を暴く。コイツには何を言ってやっても無駄だ」
レオンハルト・クラーチの様にずっとハゲさせてもいいな。毛根破壊をもう一度撃ち込むと短く生えていた髪の毛がはらはらと散った。
「貴様! またしても妙な魔法を使ったな! この場で斬り捨ててやる!」
「ほらな、それがお前の本心だ。どんなに取り繕ってもお前はそういう奴だ。俺達の楽しい晩餐を再び邪魔した罪は大きい。もう面倒だ、一生夢の中で生きろ。後から育つ新人にも害悪でしかないからな。そういう連中を俺はあの世界で腐るほど見て来た」
「何だと……! おのれ、この場で斬り捨ててやる!」
「語彙力も少ねーな。思春期のガキか?」
「済まない、カーズ。後は頼む……」
「ええ、残念だけど彼と一緒にやっていくのはもう無理ね。信用できないもの」
「ちっ、カセル、ソフィア! お前らも寝返るのか!?」
「もう黙れ、魔眼解放・魅了!」
「うがああああ!?」
全力の魔眼を喰らわせた。魅了の威力じゃない。全神経がズタズタになる程の強力な魔眼だ。その場に倒れ込み、最早動くことも不可能。脳内では自分が永遠に今回のベヒーモスの大軍と闘っては殺される夢というか幻覚を見せつけられている。メンタルクラッシュ・イリュージョンを喰らわせても良かったが、どうせ発狂して終わりだ。それなら心底反省すれば解けるこの魔眼を喰らわせた方がまだ救いがあるだろう。コイツにそんな神経があればの話だけどな。
医療班に運ばれて退場するガノン。もう会うこともないだろう。カセルとソフィアも肩の荷が下りたという様子だ。どうせコイツに迷惑を掛けられて来たんだろう。ランク以前に人間性のテストを行うべきだろ、ギルドは。クラーチでもそうだったが、高ランクがクズだと新人戦力が育たない。
さて邪魔者は消えた。カセルとソフィアから色々と話を聞きたかったんだよな。
「なあ、二人はSランクの武器をどこで手に入れたんだ? その辺に落ちてるシロモノじゃないだろう?」
「ああそうだな、大迷宮の下層の方に進むと、魔素が吹き溜まりの様に視認できる場所が極稀に見つかるんだ。そこを守っている様なボス魔獣を倒すと、その吹き溜まりの凝縮された魔素が自分のジョブに合った武器に変化するんだよ。不思議な現象だったな」
「そうね、そして武器が意思を持ったかのように語り掛けて来たのよ。『私を使いなさい』って。でもそれ以降は声は聞こえなくなったわ。此方が話し掛けても返事はないしね」
「なるほど……、やはり大迷宮は何処も踏破する必要がありそうだな。アリア、知ってたか?」
再び食い続けるアリアに尋ねる。
「ふぉうでふねー」
「食ってから喋れ!」
「ゴクン。そうですねー、たまにそういうのは見た気がしますけどー、あんまり興味ないのでスルーしてましたねー」
「ああ、もう使えねえ! 何で調べねえんだよ!」
「だって自作の武器のが強いですしー。一々そんな小さい魔素の溜まり場所なんて気にしませんよー」
「そうだな、お前はそういうやつだよなー。なあこの二人に詫びも込めてアリアスピアとアリアロッドあげてもいいか? あんなクソでも一応Sランクだったからな。戦力ダウンさせた以上何かしら返してやりたいんだよ」
「うーん、そうですねー。この二人は天秤にかけても特異点とは言えないですが、それに近い強い魂を持っていますしー。問題ないと思いますよー」
(それにしても武器名を一瞬で変えるとはやりますねー)
(当たり前だろ、唯一神の名前付いた武器そのまま呼べるかよ)
異次元倉庫から槍とロッドを取り出す。許可して二人に渡す。
「この槍……凄まじい力だな。そうか、そのアリアさんが創ったから名前を取って名付けてあるんだな。じゃあ遠慮なく使わせて貰うとしよう。感謝するよカーズ」
「ええ、このロッドも手にしたら扱い方がわかる。このまま魔法を撃つこともできるし、メイスみたいな打撃武器としても使えるし、双節棍にも三節棍にも魔力で変化するなんて……。ありがとう、カーズにアリアさん。ありがたく使わせて頂きます」
ひらひらと手を振るアリア。因みにこれらの武器は使い手がやられると自動的にアリアの異次元倉庫に戻る様になっている。悪意あるものの手に渡ると危険だからだ。だが許可していない者が手にしても何万ボルトの電流が流れる仕組みだし、使うのは難しいと思うけどね。
てことで、今回のお祭りはおしまい。まだ暫くは続くらしいけどね。結局Sランク試合とか昇格試験を行うだけだった予定が大魔強襲にSSランク昇格と、もう予想外の結果となってしまった。まあ報酬が良くなるし、冒険者のランクが高いに越したことはないんだけどね。厄介な依頼が舞い込んで来そうで、何か嫌だ。こういうのに限って良く当たるからなあ。
リチェスターの屋敷に戻って来た時、イヴァが異次元倉庫からずんぐりしたどら猫を出して来た。どうやら大魔強襲の時にはぐれていたのを助けたらしい。猫娘が猫を拾って来るという妙にシュールなストーリーだが、俺も猫は好きだ。前世ではほんのり猫アレルギーであんまりモフモフできなかったのだが、この体なら耐性が高いので幾らでもモフれる。
「飼いたいのか? イヴァ?」
「うんなのさー。大人しくていい子なのさー」
「ちゃんと世話できるのか?」
「一緒に部屋で暮らすのさー。餌も散歩もちゃんとやるのさー」
「猫に散歩はいらんと思うぞ。それに好きに動き回れる方が猫にとっては良いと思う。ちゃんと世話できるのなら飼ってもいいさ。俺も猫は好きだしな」
とイヴァと話していると、アリアが乱入して来た。
「ほほうー、確かにカーズは良く猫のお腹に顔をうずめたいとか言ってましたしー。いいんじゃないですかー? それに、うーむ。この猫、幸運値が異常に高いですね。しかも周囲に影響を与える程の。飼っていたらラッキーなことが起こるかもですよー。で、名前は決めたんですか?」
「イヴァ、決めたのか?」
「うーん、イヌって名前にしようかと思うのさー」
「どんなギャグだ。ちゃんとした名前を付けてやれ」
「じゃあバステトはどうですかねー?」
「それは古代エジプトの猫の姿をした神だろ! そんないかつい名前つけてやんなよ」
「んー、じゃあカーズはどんなのがいいのさー?」
「そうだなー。茶色と白のどら猫だしなあ……」
グイッと持ち上げると尻尾だけが白と黒のぶち模様になっている。何だか珍しいな。まあ地球の猫とは違うんだろうしな。『なー』と鳴く声が可愛いらしい、よく見るとオスだな。ひょっとしたらこいつもこの世界に流れ着いたのかも知れないな。可愛がってやるか。
「尻尾だけぶち模様だし、ぶちとかぶっちーはどうだー?」
「おおー、じゃあそれでいいのさー」
「無難ですねー(笑)」
「バステトとか言うやつに言われたくねーよ」
「ほら、じゃあちゃんと世話してやるんだぞ、イヴァ。ま、みんなも可愛がってくれるだろうしな。アヤも猫は好きだったはずだし」
こうして我が家にぶちが加わったのだが、イヴァはルティにぶちと一緒に猫じゃらしで遊ばれていた。猫が二匹に増えた様な気がする……。まあいいか。俺の幸運値も増えたらいいなあ……。ぶちにお祈りしておくか。
数日後、充分に休息を取った俺達は今後の予定を決めることにした。先ずは大迷宮。内部の魔神がいなくなっても魔素は充分出ていたし、切っ掛けとなっている魔神はいなくても、巨大な魔石の存在で魔素の供給としては問題はない。ならば中にいる弱った魔神を排出した方が今後の憂いがなくなるということだ。
残る迷宮は8つ。なるべく早く攻略するには戦力を分散して挑むことだ。俺とアヤに武器としてルティ、アリアは一人で充分、エリユズコンビ、ディードとアガシャ&リンクス、親父にイヴァで5チーム。それでも3つ余るが、これはさっさと攻略したチームが行けばいい。大迷宮の位置まではアリアに転移を頼むしかないのが難点だ。リチェスターに戻ることはみんな出来るんだけどな。
第一、第九大迷宮は踏破した。残りは魔大陸と言われる中央大陸のロードスに第二大迷宮。
西大陸の南、軍国カーディスに第三大迷宮。クラーチの南東に第六大迷宮。そこから北西の大雪原の近く、自治国家ネロスとハイデンベルグ王国の間に第七大迷宮。リチェスター南西のバルドリード公国に第八大迷宮がある。
今回訪れた東大陸のアレキサンドリアの北に位置するローマリア帝国に第四、第五大迷宮。同じくアレキサンドリアの南に位置するバーズ共和国と多種族国家ユヴァスの間に第十大迷宮が存在する。
どこから攻略するかは順番通りで良いだろう。
朝食を済ませた俺は気になっていることを口にした。
「ルクスとサーシャから連絡がない。それとナギストリアがファーレと一緒に冥界で邪神狩りをしていること。地球の調査を頼んだゼニウスのオッサンからも連絡がないってことだ。ぶっちゃけ大迷宮よりもこっちの方が重要事項だしな。アリア、どうなってるんだ?」
「私にも連絡がないですね。それにまだニルヴァーナにファーレ達は帰還していないようですし。一度天界に情報収集に行くべきかもしれませんね」
「そうだな、俺らの修行もまだ途中だ。あの師匠が途中で投げ出すはずがねえしな」
エリックが口を開く。
「そうね、あの真面目な師匠がいきなりいなくなるなんてありえないわ。神衣も纏うことができたし、手合わせしたいのになー」
ユズリハもいつも通りだな。確かにあのまともな二人が消えるのはおかしい。膝に乗って来たぶちを撫でなでしながら、考える。お腹をモフモフすると、『なー』と鳴く。可愛いもんだ。幸運値高いんだし、異次元倉庫に入れて連れて行こうかな?
「じゃあ先ずは天界かな? みんな神格もあるし、行く資格はあるよね?」
「そうですねー、それではみんなで天界に行きましょうかねー。此方からの念話は聞こえてるはずなんですけどねー」
アヤの提案にアリアは頷いた。以前は置いてきぼりだったからな。まあ普通は行ける様な場所じゃない。親父と母さんはまだクラーチの人達とアレキサンドリアにいるみたいだが、いざとなれば召喚すればいい。
俺達は暫し休息を挟んでから、俺とアリアの転移で天界へと移動した。
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「くっ、……うぐっ! ハァ、ハァ……、今ので何体目だ……?」
冥界最深部、邪神狩りをしていたナギストリアにファーレがいた。最初にこの封印地に放り込まれてからどのくらい時間が経ったのか。最早ナギストリアには感覚がわからなくなっていた。
「200体目。さっき1体消えたからルキフゲが召喚したんだろうね。あれだけ邪神召喚はするなって言っておいたのに。悪魔は使えないねえ。で、そろそろ力がついてきたとは感じられないのかい?」
全身は血塗れ、手足にも損傷した傷だらけだ。最早意地で腰にしていた二振りの剣を振り回している。
「わからん、だが一体倒す度に何か光の様なものが体に吸い込まれて行くのはわかる。これが神格だろう……?」
「そうか、君はパズズの神格を取り込んで自我を得たんだったね。ならばもうわかるはずだよ。心の奥底にこいつらから奪った神格が『燃えろ』と訴えていることがね」
「……なるほどな、ならばこいつを燃やしてやるまでだ」
「そうだよ、それを燃やせば君にも神格を強く認識できるだろう。魔神衣を纏うことも可能なはずだ。さあ! 燃やしたまえ! 君のものとなった神格を!」
目を閉じ、心の奥底にある神格を強く意識するナギストリア。カーズに憑依していた時にヤツがやっていたことだ。ならばできる。ヤツは自分自身なのだから!
「ぐおおおっ……! 今こそ燃えろ、俺の糧となった神格よ! 全てを破壊し滅ぼすための力よ、来い! 魔神衣よ!」
ピキィイイイン!!! ジャキィイイイン!!!
黒と銀の混じり合った様なデザインの、黒く輝く魔神達が纏う魔の衣が赤黒いマントと共に装着される。初めての神格燃焼に全身が熱く燃え盛り、全ての傷と疲労が回復していく。その自分の姿を見て驚き、更に途轍もない力の上昇をも感じる。
「これが神衣と並ぶ魔神衣なのか……!? ククク……! 凄まじい力だ! クハハハハハ!!! 最早ヤツ、カーズに負ける道理などない! 残りの邪神共も皆殺しだ!!!!!」
ジャキッ! 背中に魔神衣と共に再生され、魔神器となった暗黒剣ジェノサイドを抜き放ち、残りの邪神共に襲い掛かるナギストリア。その目は最早人間のものではない程黒く濁った輝きをしていた。
「ハハハ、邪神の神格のみで魔神衣を纏うとは前代未聞だよ、ナギくん。だがその異形共の神格を溜め込んでおいて、いつまで人の形を保っていられるのか……? 実に興味深いね! アハハハハハッ!!!」
冥界の奥底でナギストリアとファーレの嗤い声がいつまでも木霊していた。
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