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第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達
98 皇帝との再戦・明かされる真実?
しおりを挟むみんなと召喚獣達が飛び出した後、俺は遅れて封鎖地の穴から外に飛翔で飛び出た。恐らくここの上空で行われていたファーレとアリア達神々との闘い。その結果が眼前に突きつけられる。
探知では五対一だったハズ。それがアリア、サーシャ、ティミスにハーデネスとペルピアまでが全て倒れている。ここまでの差があったというのか?
「おい、アリア! しっかりしろ!」
アリアの上半身を抱き起こし、様子を見る。真紅に輝く神衣が斬り裂かれ、全身ボロボロだ。
「う……、カーズ? すみません、彼女がパズズの神格を取り込むまでは此方の優勢でしたが、あれはナギストリアが集めていた数百と言う邪神の神格……。アレを取り込んでから異常な力を発現させたのです。特に超速再生は厄介極まりない。私達も最善を尽くしましたが、パワーアップしたアポカリプスがあそこまで凶悪だと……は、ぐっ!?」
「エリアヒール・ヒーラガ!」
神気を籠めた回復魔法。倒れていた神々が目を覚ます。そして、アリアを召喚解除し、これまでの経験値を上乗せして再召喚する。
ドゴオオオオオオオッ!!!
アリアから放たれる神気が強力になり、俺の神衣同様背中に翼が、アリアのは真紅の翼が生えて装着される。
「これは……?! 再召喚したことでこれまでの経験が上乗せされたということですね。サーシャ、ティミスに冥界神達、援護を御願いします。ここは私とカーズで行かせて貰います!」
「仕方ないわね。援護は任せて頂戴。回復ありがとうカーズ」
「私も弓で援護するわ。好きに暴れなさい」
「ふぅ、冥界の危機を神特異点に任せることになるとは……。だが恐らくゼニウスはこれを狙っているんだろう? 彼の驚異的な成長を」
「ええ、そうですなあ。じゃあ全力でサポートさせてもらいましょ」
神特異点? 一体何のことだ? ゼニウスは何かを隠しているのか? いや、今はそんなことはどうでもいい。ルシキファーレ、こいつは過去の俺までも利用した。絶対に痛い目を見て貰う!
ス―――ッとファーレのいる高さまで飛翔し、対峙する。後ろからはアリアがファーレを挟む様に飛翔してきた。
「アハハハ、漸く出番かい? 『反抗者』達のリーダー、カーズ。パズズ相手に苦戦していたようだけど、そんなんで今の私に果たして勝てるかな?」
「へっ、邪神の神格でブーストしなけりゃ負けてたんだろ? そういうのは勝確してからほざけ! それにテメーの神器の能力は既に知っている。ネタが割れた手品程下らねー出し物はねーんだよ! 勝てるかどうかじゃねえ、勝つんだよ」
相変わらず余裕綽々で涼し気な態度を取って来やがるな。大量の邪神の神格を取り込んだせいか、魔神衣が動き易そうな黒紫のローブの様な布状に変化している。背中からは相変わらず八つの黒い翼。以前はオーラの様に見えた側頭部からの角も完全に頑丈なものに変化している。
だが、手にしているアポカリプスは二刀の状態で黒い輝きを放っている。あの不可視の斬撃を二刀で使われたら厄介極まりないな。
(アリア、俺が先ずは仕掛ける。神格がデカくなったコイツの武器の特徴はどうなっている?)
(それがハッキリとは鑑定できていません。短くなった接近戦の射程でも、遠距離でも衝撃波が飛んで来る。しかも二刀になったことで以前の0.5秒の隙を突くことが難しいのです)
(なるほどな……、仕方ない。なら被弾覚悟で同時にいくぞ。リーチが短くなった分斬れる範囲は狭い。先ずはアストラリア・エクスキューションをぶっ放してくれ)
(わかりました。何か策があるのですね?)
(ああ、取り敢えずいかせて貰う)
「どうしたんだい? 念話での作戦会議は終わりかな? さあどこからでも来るがいいさ!」
「良いでしょう! 先ずはこれを受けなさい!」
ゴオオオゥッ!
アリアが両手で頭上に掲げた神器、クローチェ・オブ・リーブラから強大な神気が立ち昇る。並の相手なら消し炭すら残らない程の力だ。先程の再召喚で一気にレベルアップしたアリアからは底が見えない程の神気を感じる。
「フフフッ、アストラリア・エクスキューションかい? いいだろう、撃ってみたまえ! 私に届くのならね」
チキッ! アリアに合わせるように俺は抜刀術の構えを取る。これから俺がやろうとしていることは2つの選択肢だ。
1、ファーレがアストラリア・エクスキューションを消し去らず躱されたなら、神龍でその剣閃を飲み込み、反射する様に奴に撃ち返す。
2、奴がアリアの奥義を不可視の斬撃で消し去ったなら、その0.5秒の瞬間にこれまで出していない抜刀術を叩き込む。
どちらも相殺されたらどうしようもないが……。その時は致死ダメージが一度無効になる俺がこいつを被弾覚悟で超接近戦で抑え込む。『斬りたいものを斬る』という縛りはそう簡単に覆らないだろう。超至近距離ならアストラリア流の二刀の連撃スピードに対応するのは難しいはず。後は残りの神々の援護射撃に賭ける。既にアリアには伝えた。さあ勝負だぜ、皇帝サマよ。
「はあああああ! 受けよ正義の女神の奥義を! アストラリア・エクスキューション!!!」
カッ!!! ドゴオオオオオオオッ!!!
「フッ、対角線上にカーズがいることをわかっていないのか? こんなのは躱すまでだ!」
シュン!!!
短距離の転移ですぐ上に逃れた。作戦1、発動!
ダンッ! ガカァ!!
「神龍・突!!!」
空間に放った打突がその虚空に丸く鋭い斬撃痕を作る! そこに飲み込まれたアストラリア・エクスキューションが方向を変えて圧縮され、ファーレに迫る!
「くっ……!? まさかこんなのを狙っていたのか?!」
キィーン!!! ドゴオオオーーン!!!
納刀! まさかの直撃だ。絶対に相殺しに来ると思って敢えてアリアに大技を撃たせたというのに。これじゃ余りにも拍子抜けだな。こんな戦術があるとは思っていなかったというような反応だった。
「すごい……、あれがあの二人のコンビネーションとは」
「まさか奥義を奥義で撃ち返すなんて発想が……。私達神々にはない柔軟な発想ね……」
互いを支え合いながら立ち上がったサーシャとティミスが驚きの声を上げる。
「これが人間の発想……。なるほど、これが神特異点か。そして行動を共にして来たアリアには彼への信頼が感じられる」
「ええ、あたしらには思いつきませんなあ……」
ハーデネスとペルピアも感嘆の声を上げる。それ程までに二人のコンビネーションは凄まじいものだった。
「おい、皇帝サマよ! まさかこれで終わりだとか腑抜けたことを言うんじゃないだろうな!?」
爆発の煙が晴れ、ファーレが姿を現す。神の奥義の二連発だ。全身の魔神衣が損傷し、両腕からも激しく出血している。どうやら不可視の斬撃を出す隙も無かったようだな。だが相変わらずしぶといぜ。原型を保ってやがる。
(次いくぞアリア!)
(ええ!)
二人でファーレが回避した同じ高さまで飛ぶ。
「はああああああ! もう一度受けよ! アストラリア・エクスキューション!!!」
「ちっ! 不可視の斬撃!!!」
両手の二刀を振るった。ここから0.5秒の隙ができる! いくぜ!
「アストラリア流抜刀術! 飛龍!!!」
ドゥッ!!!
抜刀した勢いそのままに刀を相手に投擲する!
ギィン!!!
弾かれた。これ単体なら大した威力じゃないからな。だがここからが俺のオリジナルだ! 0.2、0.3!
ガギィン!!!
「ぐっ!」
一気に距離を詰め、鞘での薙ぎ払いで二刀の1本を腕を強打して弾き飛ばす! そして魔力の糸で柄を繋げていた飛龍の一撃が手元に戻って来る! 0.4!
ザヴァシュッ!!!
「ぐあああああ!!!」
「双龍・参の型!」
0.5! 武器を手にしている両手を断ち斬った! 最早回復するまでこいつは達磨も同然! 一方的に此方の攻撃が入る! アリアと同じタイミングで神器を二刀に変化させる!
「「アストラリア流二刀スキル!!!」」
「ミラージュ・ブレード!!!」
「ストーム・プレデーション!!!」
二刀スキルの挟み撃ちの連撃でファーレの五体を斬り裂く! 超速再生は間に合わない。このまま肉塊にしてやるぜ! そのとき援護役の四人から声が響く!
「離れて! スターライト・ブレス!!!」
「フェニックス・ドライヴ・アロー!!!」
瞬時に離れた俺達二人のいたところにサーシャとティミスの奥義が爆発する!
ドゴオオオオオオ!!!
「まだだ、受けろ! 冥王神の奥義を! カースド・アンキュアラブル・バスター!!!」
「魂ごと葬送されよ! ソウル・クラッシュ・リーパー!!!」
ザヴァアアアアアン!!!
ハーデネスの魔剣とペルピアの巨大鎌からも黒い輝きの奥義が放たれる! 神々の奥義が完全に決まった。これでトドメだ!!! 大剣に変化させた神器でアリアと同時に奥義を放つ!
「「アストラリア流大剣スキル奥義!!!」」
ズッ!!! ゴオオオオオオオオオッ!!!
「「リーブラ・ジャッジメントーー!!!」」
神々と俺の奥義が全てヒットした。アレが全て決まっているなら五体満足ではいられないだろう。冥界の最奥にある邪神の封印地全てが粉々に吹き飛ぶかと思ったほどのとんでもない威力だ。そして爆発で巻き起こった霧が徐々に晴れていく。
「なっ……?! あの連撃でまだ原型を保っているとは……!?」
驚いた俺の声に反応する様に他の神々からも驚きの声が上がり始める。赤い球状の結界の様なものがファーレの身体を包んでいる。こんな小さな結界であれだけの攻撃を凌ぎ切ったのか?!
「ふぅ……、さすがに今のは危なかった。でも私が一番得意なのは結界術なんだよ。ここの封印を解いたのは誰だと思っているんだい? だがこのアブソリュート・ブラッドシェルをここまで破壊するとはね。やはり君は危険だ、カーズ。君が加わった瞬間にこの三流の神々が異常な力を見せるとはね。最早不可視の斬撃など小手先のスキルにしか過ぎないか。ならば、この邪神共の神格で得た圧倒的な力で粉砕してあげよう。来い、アポカリプス」
二股の槍の状態のアポカリプスが超速再生されたファーレの右手に収まる。不可視の斬撃など小手先の技と言ったな。そしてパズズにトドメを刺したのはこの形状だった。ならばこの状態のこいつが一番ヤバイと言うことになる。それにこいつのスキルを俺は知らない。
「カーズ、一旦退きなさい! 危険です!」
「アリア……、もう遅い……。俺はこいつの間合いの中だ。背を向けた瞬間に死ぬ……」
「フフフッ……、漸く理解できたかね? 不可視の斬撃などただの能力の一端だと。そんな程度の技術だけで神が務まるとでも思っているのかい?」
「まあ、そりゃそうだな……。それじゃただの一発芸人と同じだ。どうやら甘く見ていたのは俺達の方だったようだな。じゃあその槍捌きをしっかりと見させて貰うぜ。戻れニルヴァーナ、ソードフォーム」
一刀のやや長目のロングソードへと変化するニルヴァーナで水平よりもやや上に刀身を上げ、剣先を相手の眉間に向けた『信剣の構え』を取る。リーチ差がある以上、見えない一撃が致命傷になる。バアルゼビュートとは同じ槍でも扱いの差は段違いだろう。こうして構えて向き合っているだけで額から汗が流れて来る。鑑定、あれ程の数の邪神の神格を取り込んだせいだな、レベルが10,000を超えてやがる。これは普通にやっても勝てないな……。
「さあ年貢の納め時と言う時かな。先ずは喰らいたまえ! 魔帝幻朧拳!」
ビシィ!!!
ファーレの右指の人差し指から魔拳が放たれる。それが俺の額を貫通した。だが痛みはない。そして心の中にファーレの声が響いて来る。
『さあ、私は味方だ。今こそ天界の裏切者のアリア達を撃ちたまえ!』
「う、ぐ……」
両手で剣を持ち頭上高く構える。さあ、燃えろ俺の神格よ! 限界まで熱く! 今こそ悪を討つ為に! 煌け! 輝け神気よ! 極限まで強く!
「か、カーズ……!?」
ドンッ!!! アポカリプスを押しのけ、零距離から渾身の奥義の一撃を叩き込む!!!
「アストラリア・エクスキューション・ゼロ!!!」
ズッ!!! ドパアアアアアアン!!!
「ぐああああ!!! くっ、何故だ?! あの魔拳を受けて何故?!」
自慢の血界の内部に奥義を一閃。確実にダメージが入ったはず。だが、俺ももう連戦続きでガス欠気味だ。
「ハァ、ハァ……、『鋼の意志』。俺に精神攻撃は一切通用しない。その魔拳は俺との相性は最悪だ。だが、御陰でテメーに一撃入れられたぜ……」
「なるほど……、神の試練を突破した人間がいたとは。益々持って素晴らしい! じゃあいかせて貰おうか!」
ガギィン! ギィン!! ガギギギギィン!!!
「くそっ、速えーな!」
「まだまだ!」
ギギィン! ガギギギギィン!! ドゴォ!!
「がはっ!?」
スキルなど関係ない。兎に角槍捌きが異常に速くて上手い! 此方の攻撃を繰り出す隙が全く無い。迂闊な攻撃には先程の様な柄などのカウンターが来る。マズイな、ジリ貧過ぎる。更に超至近距離でやり合っているので味方も迂闊に手を出せない。ニルヴァーナを二刀に切り替えて応戦するが、レベル差も倍以上ある。徐々にスピードに付いて行けなくなってきた。
ザシュッ! ドシュッ!! カカカッ!!!
「ぐっ、うぐっ!!!」
神衣が削られ、隙間に切っ先が突き刺さる。マズイ、このままでは確実に負ける! ならば……!
「ミラージュ・ブレード!!!」
ギャリリリリリリリィン!!!
「遅いな」
二刀の最速連撃があっさりと相殺された。くそっ、これ程までの差があるとは。
「まだまだ真の力には目覚められない様だね。ゼニウスもがっかりするだろう! じゃあ手っ取り早く怒りに目覚めて貰おうか! これが本当のスキルと言うものだ! フラッシング・ロンギヌス!!!」
ピッ!!! ドシュッ!!!
未来視が捉えたのは、アポカリプスが光の矢の様な速度でアリアを射抜く瞬間だった。間に合え! そう思って転移したアリアの眼前に立ちはだかった俺の胸の中心にアポカリプスが突き刺さる。進化した神衣の装甲をまるで紙切れの様に貫き、肉体に深いダメージが入った。神気の一撃で全身に閃光が駆け抜ける様な衝撃が走る。
「う、ぐっ、がはっ!!! ちきしょう……!」
「カーズ! カーズ!!!」
「ヤレヤレ、誰かが犠牲になれば怒りで目覚めるかと思っていたが……。転移してまで人間が神を助けようとするとは。まあこれはこれで興味深い。さあどうする? 三流の神々達よ! この愚かな人間の為に怒って向かって来るかい!? できないだろう!? それは所詮君達が神だからだ! 勝てないとわかっていながら立ち向かうという感性を持っていない! だからこそ神魔大戦の再現を恐れる! この神特異点に何を望んでいるのだ!?――――」
くそ、何言ってやがる……? もう、何も、聞こえなくなって、来た……。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------
「―――気付いているんだろう!? 次の神魔大戦が近いということが! 今のままでは神々は魔神軍に、『大いなる意思』に飲み込まれるだろう!」
ファーレの語り掛ける様な叫びにアリアが答える。
「もう既に魔神の走狗となり下がったあなたが一体何を言っているのですか? それにカーズが神特異点とは?! ファーレ、それにゼニウス様は何を知っているのです?!」
「フッ、アリアよ。若過ぎる君には知らされていない様だね。恐らく古参の神々なら誰もが知っている。魔神に抵抗できる『反抗者』達を創り上げ、良くも悪くも諦めが良い君達神々と違う、人族の闘士を育て上げて魔神に当てるという計画を! 魔神側の戦力は強大だ。奴らは幾らでも悪の神格を撒き散らす。だが神々はどうだ? 先の大破壊以降は争いを恐れ大人しくなってしまった。それでも暴力に支配され、大虐殺如きで殺戮に取り憑かれて堕ちていく。実に下らない存在になったものだ。彼、カーズは我らの希望だが、まだまだ余りにも弱い。時は迫っている。さあ、大世界全てに眠っている魔星・魔神達よ! 目覚めるがいい! 大迷宮の最深部で眠りについている魔星達よ、今こそ覚醒のときだ! エターナル・アウェイク!!!」
ファーレがかざした右人差し指が白く、黒く輝き始める。
「バカな……!? 何ということを!」
「なぜ神魔大戦を早める様な真似を!?」
ティミスとサーシャの姉妹が叫ぶ。
「神々の戦力と神特異点が育ち切るまで、まだ時間が掛かる……!」
「それなんに無理矢理魔神共を目覚めさせるとは……!?」
冥界神の二人も苦々しく口を開いた。
「最早100年も猶予はないだろう。神特異点とその仲間達を鍛え上げない限り、神々に勝機はない。ああ、そうそう、カーズの勘は当たっていると思うよ。だがどうやってあの世界に潜伏している7色を引き摺り出すかが問題だ。愚かな神々よ、いい加減重い腰を上げるべきだ。無駄死にしたくなければね! そして邪神を討伐した神特異点の仲間達よ、強くなりたまえ! では暫しの間……、さらばだ!」
シュン!!!
ファーレの気配が消える。残された神々達は助かったという安堵と、世界に解き放たれた魔神達の処理という難問に苦悩することになる。
その後、邪神達を一掃したアヤ達が合流し。重傷を負ったカーズに治癒魔法をかけてから天界へと帰還することになったのだった。
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