OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第六章 魔神討伐・神々の業

102 久々のギルド訪問

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 ガチャリ、と総合組合ギルドの大きな扉を開ける。何だかここに来るのも久々な気がする。俺がいない間、みんなは生活費稼ぎに多少クエストをやっていたみたいだけどね。報奨金とかが山ほどあるからそこまで必死にやるようなものはないんだが、定期的に顔を出すクセがついているんだよな。
 ただ高ランクの依頼は俺達がやらないとギルドが困るから、そういうのは優先的に回してもらっている。偶には他の国や街に行ったりもする。そういうのは高ランク冒険者が足りていない国や街の高ランククエストだ。大迷宮攻略などで、もうほとんどの国に行っているので、各自が転移で向かうことができる。

 俺達のPTはSランク以上ばかりの為、他国からの救援依頼がかなり来るらしい。その為、アリアがもういっその事と、転移門を都市長の屋敷に設置した。そのせいで、隣国クラーチから残念国王やアラン、レイラ兄姉にそろそろ慣れて来た末っ子ニコラスも我が家に来ている。騎士団長のクレアも稽古に何度か来たとのこと。他にもSランクのお祭りに参加していた他国のSランクさん達が同じく稽古に来たり遊びに来るんだと。俺がいない内にそんなことになってるとはね。
 世界中に知り合いが出来たが、彼らを巻き込むわけにはいかない。家に来てくれるのは喜ばしいが、制約ギアスがかかっていない相手には言葉を選ぶのが大変になる。ディードのときみたくうっかり巻き込まない様に気を付けないといけないんだよな。

 あんまり大人数で押しかけても話しにくいので、俺とアヤとアリア、それとここの古株のエリユズというメンバーでステファンに面会する予定だ。最初に一緒にクラーチに乗り込んだメンバーだね。まだそんなに経っていないのに懐かしく感じるのは、それだけ短期間に濃密な経験を色々としてきたからだろうな。

 入口から右手に向かい、他のギルドの人達にも声を掛けられたり挨拶してマリーさんのいるカウンターへ。リチェスターの冒険者達とも軽く挨拶し、ステファンに繋いで貰った。俺達が態々面会を求めて来たので、ただ事ではないと思ったのだろう。マリーさんは直ぐにギルマスの部屋に案内してくれた。事務は他の職員に任せて、彼女も同伴だ。



「――――てことで、ここ一ヶ月くらいで奇妙な事件とか起きてないかな? 他の国のことでも構わない」

 ステファンにこれからのことで協力して貰う為には致し方なし。それに相談相手という名目で必要になるだろうし、マリーさんも『魂の制約ギアス』で縛ることになってしまった。世界の脅威を取り除くためだが、関わった人にはこうして迷惑を掛けてしまうのは何とも心が痛い。

「ふむ……、不思議じゃのう。初めて会ったときから『アストラリア流』とは一体何のことやらと、疑問に思っておったが……。まさか唯一神様にその血を分けた存在であったとは。エリックにユズリハが異常な成長をしたことにも納得がいった。そしてその二人も他の神々に認められる程になるとは。もうバカ呼ばわりはできんのう、ハッハッハ!」
「そうですね、最初からぶっちゃけとんでもない子が来たなあって。此方の常識が通じないのは当たり前だったんですね。そしてあの成長速度。今こうして真実を聞いても、ああやっぱり何処か違ってたんだなあーって。すんなりと腑に落ちましたよ」

 普通なら頭がおかしいと思われるレベルのことが起きているんだが、俺達が足を突っ込んでいるのはそういう世界だ。非常識なことが当たり前なんだよね。この二人は最初から俺達に対して何かしらの違いを感じていた様だ。
 まあ俺の見た目からして普通じゃないもんな。これで男とか見たことないレベルだしね。そして俺の見た目に似ている唯一神様。どこの街や国にも石像が置いてあるが、アリアの見た目はそれのそのまんまだ。石像だからぱっと見じゃわからないけどね。まあ神々の関係の話はアリアにして貰ったが、二人共今更って顔だった。

「すまんなジイさん、巻き込むことになってよ。でもそれくらいヤバい闘いを俺らがしてるってことだ」
「そうね、もし神格譲渡を受けていなかったら……。私達二人も死んでいたかも知れないし」
 
 エリユズも悪いと思っているのだろうか? 歯切れが悪い。

「ハハハッ、気にするな。お前達悪ガキが世界を背負って闘うようになるまで成長した。まだ初心者のときから見ていた私にとっては喜ばしいことだ。そしてカーズが現れてから次々と世界で色んなことが起き始めた。それが特異点という者の宿命なのかも知れぬのう。何にせよ、私達が協力しなければ世界の危機とやらも回避できない訳じゃな。アストラリア様、どうぞこやつらを導いてやって下され」
「いやー、私は初代師匠なのでー。今は別の神々に鍛えて貰ってますから。それにこれからの経験でもっと彼らも成長するでしょうしね。それよりも最初のカーズの質問に合う様な条件の事件や出来事は起きていますか?」
「ふむ……、実は今のところ2つ程そういう案件がある。一つは南部の魔王領手前の軍国カーディスの首都から西にある大砂漠で巨大なピラミッドが突然現れた。各国の学者達がこぞって調べているが、謎だらけ。内部にまだ入ることもできないらしいし、行方不明者も出ている。ここの調査を頼みたい。それとここから南西の国、バルドリード公国の首都バルドリードには、アリア商会が創設した貴族学院がある。そこで女生徒に不可思議な現象が起こっている。高ランク冒険者を数名送り込んだが音信がない。そこに女生徒として侵入し、事件の謎を解いて欲しいのじゃ」

 女生徒ね……、嫌な予感しかしねえな。

「具体的にその現象とは何なんだ?」
「それは……」
「私が説明します、カーズさん」

 ステファンが言いにくいことか。まあいい。聞かせて貰おう。

「実は、数日行方不明になった女生徒が何人もいるのですが……、それがみんな妊娠した状態で見つかっているのです。そして直ぐに子供が産まれて来るのですが……、それが全て魔獣であったということです。出産までが早過ぎる上に、魔物が生まれてくるなど異常です……。学院もギルドも総出を上げて捜索しているのですが……。何も掴めていないのが現状です。そして被害に遭った女生徒達はまだ目が覚めていないまま国の医療機関に入院しているということです……」

 なるほど……、魔獣が生まれる様な性交渉か。これは産まれて来る者が人間ではないということで十中八九ロキ、ローズルキーの仕業だろう。恐らく若い純血の女性から生命力を性交渉で奪っているのだろう。胸糞悪いな……。これは俺達が行くべきだ。やっと尻尾を掴んだぜ。

「マリーさん、そいつはほぼ間違いなく探している魔神の仕業だ。そこには俺とアヤとアリアで行く。女生徒としてってのが引っ掛かるが……、四の五の言ってる場合じゃない」
「ではこちらで擬装用の貴族カードを出そう。お主達はSランクの祭典で名前が知れ渡っておる。実況をされていたアリア様もそうじゃ。3人共別々のクラスで女性として行動してくれ。学院側にも内密に侵入することになる。一応試験もあるが、剣と魔法にペーパーのテストじゃ。16歳からコースによっては20歳までの世界中の貴族や王族の子息が通う学院、普通にやれば落ちることはまずないはずだ。期限は特にない、解決までしっかり頼む。此方で入学の準備を内密に行っておこう。一週間程かかるが……、アリア様であればもっと簡単に侵入出来ますかな?」
「うーん、そういう細かい経営はスタッフに任せてますからねー。ギルドのやり方で構いませんよ。会長の名を使えば逆に目立ってしまいますからねー」
「まあ、それもそうだね……。逆に注目を集めてしまうと問題だし。ギルマス、私は王族時代に18歳で卒業していますから、勝手はわかっています。そこで色々と提案があります――――」

 アヤの作戦はこうだ、一番被害者が多い2、3年生、17~18歳の部に俺とアリア、1年生の部にアヤが侵入する。寮だけは同じ3人部屋にして貰って情報交換する場所にして貰うということ。俺としてもアヤが一番幼く見えるし、なるべく危険に晒したくない。それがわかっているんだろう。そして俺が2年生の部、アリアが3年生の部に入ることになった。
 設定は中立都市で貴族になっていたが、それまでは転移門が無かった為、自主的に勉強していた3人姉妹。それが転移門の設置により、学院に来ることが容易になった為、晴れて入学となったというもの。俺の身体的な特徴も話したので、後は名前を決めるだけだ。貴族姓は『カラー』で行くことにした。それから名前を偽名にするのに時間が掛かった。

 アヤは『アヤナ』、アリアは『アリストラ』、俺は『カーラ』にされそうになったが、それじゃロードスの灰色の魔女だ。必死で練って『カリナ』に落ち着いた。自分の名前を決める方が難しい。

「では済まないが、この厳しいクエストを任せる。だが決して無理はしないでくれ。アリア様がいれば大丈夫だとは思うが、自分の命は最優先で頼むぞ」


 エリユズ達は数名でカーディスのピラミッドに早速明日から向かうらしい。俺達学院組は手続きが終わるまで一週間かかる。その間にアリアが商会本部の色々とエンターテイメントを見せたいとのことなので、翌日から南の商業都市コルドヴァに向かうことになった。
 中立都市の北部にもデカい建物はあったが、本社やそこで催されている出し物は全然規模が違うらしい。まあ1週間後にはまた戦場みたいなものだ。偶にはのんびりしても構わないかな。解決は急がないとならないが。
 
 自宅に戻ってから、アヤとアリアに手伝って貰って渡された制服を着てみた。勿論女性体になってからだが、胸が少し苦しい。ボタンボーンしそうなので、アリアが裁縫スキルで修繕してくれたが、スカートが短いのはちょっとハズい。「任務の為だ、仕方ない」、そう自分に言い聞かせて泣く泣く下着も付けた。胸のアレもだ。後ろで留めるのが難しいので練習させられる羽目になった。それを見にわざわざ女性陣が押し寄せて来るからたまったもんじゃない。
 女性服は防御力が少な過ぎる。股がスースーするのがこれほど落ち着かないとは……。せめてスパッツに出来ないかなと聞いたが、なぜか却下された……。

 制服は上が濃い紺色のブレザー、シャツに赤系統のチェックのスカート。黒か白のニーソにブーツだ。これ絶対地球の文化だろうな。肩には貴族ぽい飾り付けがしてある。肩章けんしょうとかいうやつかね? 金色の布で出来ている。ここだけ見るとカッコいいのになあ。腰にあるベルトに剣を装備できるようになっている。無難にソードを使うか、刀にするか悩みどころだが、アリアが刀にしていたので、ソードにしておいた。アヤはレイピアだしな。魔神戦を考慮して、ルティはアヤが召喚解除して連れて行くことになった。俺も臭いを追ってくれるかもしれないのでぶちを連れて行くことにした。

 そしてアリアから戦闘にすぐ入れるようにする為に、異次元倉庫ストレージから装備品を一瞬で付け替えできる『換装かんそう』と言う技術を学んだ。自分の魔力と同調させておいた装備を今着ている装備と入れ替えるというものだ。
 以前天界でナギストリアと闘ったとき、アリアの義骸が消えて神衣カムイの下の装備がいつの間にか変わっていたが、アレが換装だったのだろう。魔力で自分の装備を纏わせるだけなので簡単に出来た。確かにこの制服で魔神とはやり合えない。いいことを学んだ。休日に外に私服で出ていても一瞬で戦闘に入れる。まあそんな事態はそうそうないだろうけどさ。そういえば私服はアリア製だからSランクだし問題ないか。

 そして一番キツかったのが、言葉遣いだ……。

「はい、いきますよー。はじめまして、あたしはカリナ・カラーです!」
「はじめまして、あ、ああああ、あた、あたたあたたたたた……!」
「あははー、北斗神拳継承者ですかー?」

 口元が全力で嫌がって拒否、ひくひくする。こういうときはホント腹立つなアリアめ。演技だとわかっていても体が必死に抵抗して来る。

「まさか一人称を変えることがここまでの苦行だとは……。心が折れそうだ」
「大丈夫、『鋼の意志』があるんだから。ね、カー、じゃないカリナ!」
「アヤも楽しんでるだろ? あれは精神攻撃とか外部からの干渉、何か起こっても心が簡単にブレない程度だよ。自分から落ちたら苦しいんだよ」
「折角可愛いのにー。自信持とうよ、ね、カリナ?」
「そうですよー、これで堂々と三姉妹ですねー(笑)」

 クスクスと笑いながらそんなことを言ってくるアヤにアリア。絶対に愉しんでやがる。取り敢えずはみっちり特訓させられたせいで女子の所作はある程度身に付けた。地獄だ。絶対にさっさと解決してやる。そして慣れる為に入学までの1週間は女性体で過ごす様にとのアヤ&アリアからのお達しが出された。キツイ。
 キツイけどやるしかない。その両方の葛藤で更にキツイ。言語統制は辛すぎる。

 その日は女性体で眠りに着き、翌日エリユズにアガシャ、それぞれの師匠の三人の神々、彼らの星の目スター・アイで何かが見えたらしい。何なのかまではハッキリわからないということだが、その六人がピラミッドに調査に向かった。
 ディード達は居残りで自主鍛練だ。アジーンをよく鍛えておくようにディードに頼んでおいた。

 そして俺達はアリア商会のお膝元の商業都市コルドヴァへと向かうことになる。女性体になった時用にファーヌスが改良を加えてくれていた、いや特に要らないんだけど、バトルドレスの女性体仕様、切り替えは好きに出来る、それに着替えてからアヤとアリア会長と共に転移で移動した。


 さてさて、どんなアトラクションがあるのやらだ。少しは楽しむのも悪くないだろうさ。



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