OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第六章 魔神討伐・神々の業

104 Man of The Match に機械文明の遺物

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『試合終了です! コルドヴァに新生誕生! このゲームはカリナ・カラーの独壇場でした! まさにファンタスティック! 異次元のプレーを見せてくれました!』

 実況席からアナウンサーの声が響き渡る。10万人はいる大観衆から大きな声援と歓喜の声が俺に注がれる。うーん、最初はどうなるかと思ったけど、意外と上手くいった。最初だけ、前世との身体との違いに戸惑っただけだ。柔軟性も瞬発力もボールタッチの際の足首の柔らかさもまるで違う。初めは自分の体のスペックに自分が振り回された。
 結界の影響で確かに普通の人間の感覚になっていた。そして魔族の人はヘディングしても支障がないように角が消えていたり、獣人族は尻尾が掴まれない様に消えていたりと、うまい具合に調整されていた。やるじゃんアリア。

 まあまだ新しい文化だけあって、俺の技術、テクニックや戦術眼が周りと格差があっただけだ。地球の方が歴史があって、その歴史分の経験や様々なプレーが俺の記憶や肉体には蓄積されている。要は先進国が歴史の浅い国に好き勝手やった様なものだ。
 ドリブルのテクニック一つとっても、俺のやるテクニックが相手には初見で手も足も出なかっただけだ。これは致し方ないだろう。さて勝利者インタビューに呼ばれているが、この状況どうやって説明しようかね……。

「ヘイ、カリナ。君は今日は助っ人という形で出場したって聞いてたけど、君のプレーはどれも見たことのないものばかりだったよ。あれ程の技術をどこで身に付けたんだい?」

 難問だ。親父から習ったり、自分で他の選手から盗んだりと前世で身に付けたとは言えない。困った。適当に誤魔化すか。

「小さい時から遊びでやってたのと、父親が教えてくれたんだ。こんなにも上手くいくとは思わなかったけど」
「それはすごいね! 今日だけの出場なのかい? 恐らくどのチームも君を獲得しようと躍起になると思うよ」

 おっと、それは怖い。そうなるとさすがにヤバいな。前世なら「いやっほい」なんだけどな。

「うん、今日だけだよ。気が向いたらまたやるかも知れないけど、基本的には冒険者だからね」
「そうか、それは残念だ。じゃあスタンドのみんな、5-2の勝利に貢献し、ハットトリックに2アシストのカリナ・カラーは間違いなく今日のマン・オブ・ザ・マッチだ。彼女に盛大な拍手を!」
「ありがとう」
「「「「「わああああああああ!!!!!」」」」」

 やれやれ、フットボールは何処の世界でも熱狂的だな。インタビュワーから逃げて、味方チームの下に戻る。そしてみんなにハグされたりと、これはこれで女性体だから大変だ。もみくちゃにされながら逃げる。

「すごいよ、カリナ!」
「どうやったらあんなプレーができるの?」
「私にも教えて欲しい!」
「うーん、アイデアと後は努力かな。色々なイメージを持って、先の先を考える。多分それの繰り返しだと思うよ」

 ベンチに戻ると監督から苦しいくらいハグされた。

「さすが会長が紹介してくれた選手だ。もうずっとここでプレーしないか?」
「いや、それはさすがにここの選手に悪いよ。それにここには次の任務までの息抜きで寄っただけだから。ここの選手を鍛えてあげて。『あたし』はまた時間があったら寄らせて貰うよ、頑張って」
「そうか……、残念だ。また会長にお願いしておこうかな」

 うーん、それは止めて欲しいな。だって出るときは女性体で偽名にならないといけないしね。

 ドレッシングルームに戻ると、アリアとアヤが転移でお迎えに来てくれていた。本当ならシャワーとか、ジャグジーにチームメイトと入るものだが、俺の装備は自動洗浄効果が付いている。着替えるだけで全身綺麗になる。二人に手伝って貰って着替える。

「会長、今日は助かりました。それどころか最早異次元の実力ですよ。見たこともないテクニックに、戦術眼。シュートもキーパーのタイミングをズラしているから手が出ない。あんなのは初めて見ました。世界には凄い逸材がいるのですね。是非残って貰いたいですが、無理なのでしょうね」
「そうですねー、まあまたあの子がプレーしたくなったら連れて来ますよー。普段は冒険者ですからねー。今も偶然任務の合間だっただけですからー。あ、ギャラは貰って行きますねー」
「残念ですが、またいつでも寄るときは仰って下さい。みんな待っていますから。ギャラは後で会長の方に振り込まれると思いますよ」

 ちゃっかりギャラの話までしてる。生臭女神め。着替えた俺はチームメイトと監督にお礼と挨拶をして、スタジアムを後にした。

「カー、カリナどうだった? 楽しかった?」

 アヤが尋ねて来た。

「うん、別の世界で夢が叶うってのも変な感じだけど楽しかったよ。あんな大歓声の中でできるなんて思わなかった。久々に人間らしい疲労感と満足感だね。あの結界の御陰かな、レベルとか気にせずプレーできたし」
「そっか、私も久しぶりに見れて楽しかったし嬉しかったよ」
「あの結界は危険なものとレベルと言う概念を消してくれる特殊なものなのです。元々の人としての身体能力や積み重ねたものはそのままですけどねー」
「道理でなー、魔法が発動しなかったもんなー」
「そりゃそうですよー、そんなの発動したら何でもアリになっちゃいますからねー」
「神様の技術は相変わらずとんでもないね……」
「まあでも御陰で楽しかったよ。色々な問題が全部片付いたら選手になるのもいいなあー」
「まだまだこの世界では歴史が浅いですからねー。カリナが見せたプレーは伝説になりますよー多分」
「まあその辺は仕方ないだろうなー。シザースにエラシコにヒールリフトに、ドライブをかけたシュートもみんな初見だったぽいし。これからまだまだレベルが上がると思うけどね。そうじゃないと面白くない」

 みんなビックリしてたもんなあ。「何それ?」って顔してた。プレーしてる分には相手を遣り込めるのは気持ちいいが、何百年という歴史の差が一つ一つのプレーに現れていた。レベル差があり過ぎるのも、それはそれで問題だ。必死でついて来てたけど、差があり過ぎると拍子抜けしてしまうし、楽しくない。もっともっとレベルが上がって欲しいなあ。
 でもみんな基本はしっかりしてたな。きっと凄い選手がそのうち出て来るだろうな。俺達神格者はずっと先の未来までこれからも見ることはできる。楽しみだな。

「楽しそうですねー、カーズ?」
「え、ああ。歴史が進めばきっと凄い選手が出て来るんだろうなあと思ったらね。なんか楽しい気分になったんだよ」
「そっか、まだ半世紀くらいだもんね、この世界だと。未来が楽しみだねー」
「そういうこと」

 まだ興奮冷めやらぬ雰囲気のスタジアムから離れて、アリアが予約をしていたらしい宿のスウィートルームにその日は宿泊した。残りの日もこの豪華な部屋に泊まることになるらしい。さすが商会会長。好き勝手やってる上に贅沢だ。高いビルの様な造りの一番上の部屋。夜景も綺麗だった。ディナーも御馳走。ベッドもふかふかで大きいし、ぐっすり眠れた。こんな贅沢しててもいいのかね?

 こうしてコルドヴァでこれまでの旅の息抜きをして過ごし、ステファンからの念話が一週間後に届いた。準備が整ったと。
 さあ女性の訓練もしっかりやったし、準備は万端だ、多分……。てことで、エルザさん達に挨拶をしてからバルドリード公国へと転移した。先ずは学院にて入学テストだ。何の対策もしていないが大丈夫なんだろうか?






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 少し時間は遡り、コルドヴァより南。軍国カーディスの領地内にある大砂漠。そこに突如現れた巨大ピラミッド。エリックをはじめ、ユズリハとアガシャ、ルクスにサーシャとティミスが調査に向かっていた。
 学者や調査隊が世界中から集まっていたが、守護獣ガーディアンが現れるということで近づけず、こっそりと近づいた者達は餌食になっていた。守護獣ガーディアンが出て来られない距離にキャンプを張って、それを倒せる猛者がギルドから派遣されて来るのを待っていたということだ。


「なあ、アレってどう見ても生物じゃないよな? デッケードラゴンみたいな見た目だけどよー」
「そうですね、どう見ても金属、というか全身がクリスタルで出来ている様にしか思えません」
「アガシャの言う通りよ。鑑定しても『クリスタル・ガーディアン』、弱点は頭部と体の側面にそれぞれ付いている10の赤いクリスタル。それを砕いたら止まるけど、心臓部にある妙な金属部分を解析しないと内部に入れないみたい。エリック、正面は任せたから。アガシャ、私は右、あなたは左側面のクリスタルを任せるわ。師匠達は援護を御願いします」

 金属で構成されている様なピラミッドには結界が張ってある。この守護獣ガーディアンを斃さなければ解除できないのだろう。この30m以上はある巨大な翼が付いた竜の様な守護獣ガーディアンを先ずは破壊しなければならない。戦闘態勢に入る三人を横目に一緒に来た神々は怪訝な表情をする。

「ねえサーシャ、これって……?!」
「恐らくティミスが想像している通りだろうぜ」
「ええ、お姉様。これは先史文明。我々が大虐殺で破壊した『機械文明』と言われるものの遺跡だとしか思えないわ。でも……」
「ええ……、大虐殺で文明も人類も破壊し尽くした後、我々は世界の時間をリセットし、ゼロから生物が誕生する世界を創った。当時の機械文明の遺産が残っているはずがないのよ……。何かのアーティファクト不可思議な遺物かも知れない」
「だが、現に目の前に当時の科学力で創られたと思しきゴーレムがいる。しかもあの機械仕掛けのピラミッド型の遺跡には俺達でも壊せない程の高度な結界が張ってある。あれが神々の行ったリセットに対抗出来ていたという事実になるだろ?」
「どうやら一筋縄ではいかない現実に直面したみたいね。特異点が7つ揃った影響、混沌の時代はこんなことがザラに起こるということなのでしょう……」
「先ずは弟子達の闘いを観察だ。遺跡の結界の外でリセットに耐えたとあっては、あのクリスタルのゴーレムは普通じゃない」

 戦闘準備に入るエリック達。

「来い、聖魔剣フラガムンク!」
「来て、グングニル!」
「力を貸して、ルーナ・クレシェンテ!」

 ガッ! バシッ! グッ!

 ファーヌスによって神器と化した各々の創造武器とアガシャは洗練された弓を手に取る。

「じゃあ行くぜ! 二人共左右に散れ!」
「「応!!」」

 エリックが神気を解放し、青く輝く神衣が装着される。顔面から突っ込んで来る守護獣ガーディアンの頭部に向けて、神器に昇華した聖魔剣を叩き付ける。
 フラガムンク、ファーヌスがフラガラッハとバルムンクを合体させて創り上げた聖魔剣。両方の刃に黒い魔剣の特性と白く輝く聖剣の特性をそれぞれ合成させた逸品だ。魔剣側で斬り付けると衝撃追加アディショナル・インパクトが強力に発動し、相手は粉々になる。聖剣側はフラガラッハの特殊能力である回避不可攻撃ホーミング・アサルト治療不可傷アンキュアラブル・ウーンズが付いている。敵の特性に応じて使い分けも出来るし、『聖魔融合』という機能で両方の特性を一度に発動できる強力な大剣にもなる。そして既にエリックはその融合状態にしている。

「おらあああ!!!」

 ガィイイイイイン!!!

 頭部に叩きつけた斬撃が弾かれる。

「ぐおっ、コイツ滅茶苦茶硬えぞ!」

 エリックの様子を見ながら右手に回り込んだユズリハは、側面に並んだ赤いクリスタルを一度に砕こうとグングニルを伸ばし、一気に斬り裂いた!

 ギャリィイイイイイイインン!!!!

「硬っ!? ヒビ一つ入らないなんて!?」

「なるほど、ただの斬撃等ではヒビ一つ入りませんか……。ならば、アルティミーシア流弓技スキル、コズミック・バースト・アロー宇宙を穿つ一矢!!!」

 ゴオオオオオオオッ! ドゴオオオオオオオ!!!

 魔力を強烈に込めた一矢で頭部に近い赤いクリスタルの一つを撃ち抜いた。

「グォオオオオオオオオオ!!!」

 守護獣ガーディアンが雄たけびを上げるが、アガシャが撃ったクリスタルには、ほんの少しヒビが入っただけだ。だが効果はあった。陽子ようしを砕く神気の一撃でも致命打にはならないが、傷は入る。

「ユズリハさん! 顔に近い位置から一つずつ確実に砕いて下さい! エリックさんは私達が側面のクリスタルを砕くまで注意を引いて下さい!」
「オッケー、アガシャ! 師匠達が動かないのは何か策があるのか、私達の成長を見てるのかはわからないけど、こいつくらい私達で攻略するよ!」
「よっしゃー! 前は任せとけ! こいつの額のクリスタルをぶっ叩き続けてやるぜ! マルクスリオ流大剣スキル!」

 バゴオオオオオオオッ!!!

キャノン・クラッシャー破壊の大砲!!!」

 ズシィイイイイインッ!!!

 エリックの強烈な一撃で巨体が地面に這い蹲る。だが額の赤いクリスタルにはヒビ一つ入らない。

「仕方ねえ、あの二人が左右のを砕くまでは時間稼ぎだ。そこから起きられると思うなよ!」

 ドゴオオオオオン!!!

 頭に衝撃を叩き付ける。強力になった衝撃追加で地面にめり込むクリスタルのドラゴンの頭部。その間に左右のユズリハとアガシャが側面にある10対の赤いクリスタルを次々に割っていく。同時に同じ箇所のクリスタルに衝撃を加えれば砕き易いことにアガシャとユズリハは気付いた為、残りのクリスタルを砕くのは早かった。

「これでラスト! アザナーシャ流槍術スキル、ペネトレイト・ジャベリン貫通投擲槍!!!」
ルナティック・スター・アロー狂月の星矢!!!」

 パキィイイイイイン!!!

 側面のクリスタルが砕けると同時に、額のクリスタルが防御のオーラを失い、赤く輝き始める。

「やっと出番だな、いくぜ! マルクスリオ流大剣スキル、斬鉄剣」

 スーッ!!! バキィイイイン!!! ズゥウウウウウウン!!!

「「やったー!!!」」

 前面に回って来たユズリハとアガシャが喜ぶ。クリスタル・ガーディアンは完全に沈黙した。

「やるじゃねーかエリック。これで動力部の結界を外せる」
「師匠、心臓部にあった機械みたいなやつか?」
「ああ、コイツを取り出してっと」

 バキバキバキ、メキメキメキッ!!!

「おい、俺らがヒビ一つ付けられなかった透明なクリスタル部分を素手で抉ったぞ……」
「エリックさん、ダメです。比較したら負けです」
「私達が必死に出したクリティカル・ヒットを呼吸する様に出すからね、神様って……」

 三人が溜息を吐く。

「いや、アレはルクスだから出来るのよ。あんな怪力と一緒にしないでくれる?」
「あはは、さすがにあそこまでは出来ないかなー……」

 そうしている間に、ルクスが心臓部にあった箱の様な機械を取り出した。

「ほれ、後は任せるぜ」
「ええ、ちょっと待って」
「謎解きはこっちの出番ね。文字は機械文明のもの?」
「そうです、お姉様。よくあるものですね」

 遺跡の結界を解除する物だが、サーシャとティミスが少し内部をいじると、遺跡を覆っていた結界は消えた。他の調査団達も近寄って来るが、危険と判断したルクスが新たに人避けの結界を張った。

「エリック、適当に説明しとけ、一般人が入ると死ぬってな」
「え、マジかよ……。はあ、ユズリハ頼む」

 仕方ないなあという顔をして、ユズリハが待機していた調査団に向けて、内部が危険な可能性があることや、自分達がSSランクの冒険者で、ギルドからの特別依頼を受けて来たことなどを説明し、渋々ながらも近くのカーディスと北東にある関所街のリランメルに引き返して貰った。目の前でどうしようもなかった守護獣ガーディアンを破壊した冒険者の言葉は重く響いたのだった。

「では内部の探索ですね? 何処から入るのでしょうか?」
「アガシャ、月には似た様な遺跡があったでしょう? 頂上から恐らく地下に続いているわ。気を付けて行きましょう。各自神衣カムイは身に付けておくこと。内部のトラップでレーザーが飛んできたりするわよ」
「マジかよ……、一体何なんだ? この黄金のピラミッドは……」
「わからないけど、機械文明の生き残りが存在している可能性もあるわ。此方に、特に神々に対して良い印象は持っていないはず。気を付けて行きましょう」

 サーシャはそう言って、頂上にあるエレベーターの様な造りの部屋にあるスイッチを稼働させた。



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