OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第六章 魔神討伐・神々の業

106 被害者救済

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 大騒ぎの、と言っても周囲がだけど、試験が終わって、学院長に学院近くの医療施設へと案内してもらった。まだ意識が戻らない被害者の救済が目的だ。衰弱状態は回復魔法で何とかなるだろうが、嫌な記憶はどうしようもない。夢見る女の子達に外道なことをやってくれたものだ。体力の回復は俺が何とかできるが、記憶の操作などはアリアに任せよう。問題は初体験が悍ましいものとなってしまった彼女達の心のケアだ。男性不審にもなるかも知れない、というか間違いなくトラウマものだ。

「こちらです」

 病院の様な、教会みたいでもある造りの建物に入り、受付を通過して面会謝絶の部屋に入る。そこのベッドに七人の犠牲者達が青い顔をして眠っている。何人かは魘されている様子で看護師のシスター達が聖魔法で症状を和らげているが、余り効果が見込めていないのがわかる。

「これか……。酷いな」
「未だに悪夢に魘されている状態ですね……。ある意味呪いです。この状態でも精気を少しずつ吸われているみたいですね」

 アリアが細かく鑑定して診てくれた。

「女の子達にこんなことをするなんて絶対に許せない……」
「そうだな、あいつは絶対に滅却してやる。アリア、吸われている精気からその発信源はわからないのか?」

 アヤは怒りに震えている。ここの卒業生だし、後輩がこんな目に遭わされているんだ。そりゃ頭にも来るよな。

「うーん、上手く隠蔽していますね。吸い取っている精気もわずかな量です。ここから逆探知するのもヤツの権能で不可能です。先ずは体力と魔力の回復と、この吸い取られている状態から彼女達を解放しましょう」
「じゃあそれは俺が担当しよう。アリアは解呪を頼む。それで意識が戻るのか?」
「いえ、そこで意識を戻したらまた経験した悪夢の様な出来事に苛まれるでしょう。体の違和感も消えません。記憶の消去を行います」
「俺やアヤにかけていたものか? 切っ掛けがあると思い出すんじゃないか?」
「それはそういう封印でしたからね、今回は抹消です。トラウマも消えるでしょう。その時のことはさすがに聞いても何も覚えていないはずでしょうからね。軽く記憶を覗きましたが、自分を襲った相手に関する部分がすっぽりと抜けています。催眠状態だったのでしょう」
「なるほどな……。胸糞悪いが、それならそれでいこう」

 そのとき黙っていたアヤが口を開いた。

「でも……、それじゃあこの子達は傷物にされたまま。私が処女性を復活させる魔法を創るよ」
「そうか……、そういうデリケートな部分が残るんだな。じゃあ任せるよ、アヤ」
「うん、先ずは回復と解呪を御願い。記憶の消去も。そして意識を回復させる前に私が創造魔法を使うから」

 アリアと向き合い、頷く。そして二人で少女達に処置を施す。

エリアヒール範囲回復ヒーラガHP・体力完全回復。そしてマジック・トランスファー魔力譲渡
「カーズ、かなり衰弱が進んでいるのでゆっくりと回復させて下さい。では私も、メモリー・イレース記憶消去キャンセレーション解呪きょく

 カッ! パアアアアアアッ!!!

 暖かな光が彼女達を包み込む。そして慎重にゆっくりと魔力をコントロールして回復させていく。思ったよりもキツイなこれ。

「『悪しき存在によって失われし処女性よ、今再び蘇り罪なき乙女達に純潔を与え給え!』創造精霊魔法・リザレクト・ヴァージニティ処女性復活!!!」

 ガカアッ!!!

 アヤがかざした右手から黄金の光が降り注いだ。 

「うおっ、これか?!」
「むむー、さすがの魔法の才ですね。精霊魔法を創造してしまうとはー」
「ふぅ……。これで大丈夫。彼女達の純潔は再生したよ。神格に宿っているルティに手伝って貰ったの」
「よし後は回復させて、意識を戻させる」

 数分かけてじわじわと彼女達の体力に魔力を完全に回復させた。後は意識を戻すだけだ。

「じゃあいくぞ、キュアルガ状態異常完全回復!」

 聖魔法の光が輝き、少女達へと吸い込まれて行く。これで目も覚めるだろう。

「う、うう……ん?」
「あ、あれ……? 何でこんな所で寝ているの……?」

 徐々に全員が目を覚ましたが、まだ寝ぼけている様だな。アリアが最初に目を覚ました女生徒の両手を取って、目を合わせて話しかける。

「名前は言えますかー? これまで何があったかわかりますかー?」
「え、あなたは? あ、はい、私はローザ・ハーヴィです……。これまで? え? 何で私はここに……? いえ、何も思い出せません……」
「あなた達は魔人、悪魔が関係している事件に巻き込まれたのです。ですが、もう私達が解決しましたから安心して下さいね」
「そ、そうだったのですか……?! 全然覚えていません」

 辛そうな顔をしていたローザという学生は、解決されたということで少し安堵した表情をした。そしてアヤも上から手を重ねて語り掛ける。

「私は元クラーチ王国のアヤです。あなた方はもう大丈夫ですが、念の為暫く自国に帰って休養して下さい。後は学院長にお任せしますから」
「ええ?! あ、あの魔法の天才と言われたアヤ姫様ですか?! は、はい、よく事態は飲み込めませんが、あなたがそう仰るのならそうなのでしょうね……。後は学院長の指示を仰ぎます」

 少し離れた位置から、マーティン学院長と看護のシスター達は俺達が行った治療に驚いた顔をしていた。だが、被害者達がみんな目を覚ましたことに喜びの声を上げる。

「ありがとうございます。これで彼女達は救われました。ご指示通りに故郷に暫く避難させます。後のことはお任せ下さい。明日の入学に備えて今日は寮に用意した部屋でお寛ぎ下さい」
「じゃあマーティン、後は任せますねー。では行きましょうか。カーズ、アヤちゃん」


 学院側から用意されていた学生寮の三人部屋に、受付のメリムさんに案内されて移動した。デカいレンガ造りの3階建ての建物だ。入り口に近い動き易い場所に部屋を用意してくれたようだ。ありがたいことだな。

「それでは明日の入学に備えて、教室や施設の地図をお渡ししておきます。でも荷物が無いようですけど、どうされるんですか? 一応部屋には生活に必要な設備は揃ってはいますが……」

 まあ手ぶらで来る奴は普通いないよな。仕方ない。空間に手を突っ込み、異次元倉庫ストレージからそれっぽいカバンを出す。

「ここに全部入っているので、制服とかも前以て頂いています」
「それは、ロストマジック?! あなた方は一体……? あ、いえ、詮索は良くありませんね。あなた方は何かしらの目的で来られたのでしょう。普通の学生とは違うみたいですから。では明日は遅刻しない様に気を付けて下さいね。それでは失礼します」

 一礼してメリムさんは学院へと戻って行った。

 広い三人部屋に入って念の為に音が漏れない様に結界を張った。これでここで作戦会議ができる。もう既に日が傾いている。後は風呂と食堂で夕食だ。

「ふぅー、やっと落ち着けるな。ずっと女性体は慣れないもんだ」
「カーズお疲れ。それに上手く誤魔化したね、アリアさん。悪魔関係の事件って」
「まあ魔人は人類共通の敵ですから。魔神って言っても混乱させちゃいますしねー。でもアヤちゃんは救うことに凄く一生懸命でしたね。何でですか?」
「んー、女の子の初めてはとっても大切なんだよ。それをあんな下衆魔神にメチャクチャにされるなんて、あっちゃいけないことだから。本当はメキアでも出来たら良かったんだけどね。ずっと心残りだったから、今度は救ってあげたかったんだ」
「そっか、アヤは優しいな。俺もそういうところに気を遣える様になりたいもんだなー」
「カーズは超鈍感朴念仁ですもんねー。明日からが楽しみですよー」
「どういう意味だ、この大食い女神」
「あはは、確かに明日からずっと女子で通せるのか心配ではあるよねー」
「ですよねー、ちゃんと演技して下さいよーカーズ」
「本番はちゃんとやるよ、その時になったらさー。噛むかもだけど……」

 絶対に何かやらかすと思ってるな。取り敢えず話題を変えよう。

「結局情報は得られなかったな。ここからどうやって対処していくかが問題だ」
「うん、ここにいるのは間違いないけど探知に引っ掛からないのは厄介だよね」
「現場を押さえるしかないでしょうね。性魔術を行使していたらさすがに魔力や気配が周囲に漏れるはずです。今でも探知に違和感を感じるように、完全に遮断するということはできないはずですからね」
「もどかしいな。誰か犠牲が出るのを待たないといけないってことだし」
「うん、おとり調査みたいだし、犠牲者が出るのを待たないとってのはね。やっぱりもどかしいね」
「そうですねー。臭いや魔力の残滓から追えればいいんですけど……。あ、カーズ、ぶちを召喚してみて下さい。警察犬じゃないですが、犬は人間の100万倍、猫は数万から数十万倍の嗅覚を持っているはず。召喚獣であれば更に能力は何倍も増しているはずです」
「なるほどな、来い、ぶち」

 ボムッ!

 胸元に小さいサイズのぶちが現れる。ぐいっと持ち上げてそのもっちゃりとした顔を見る。うーむ、可愛いな。

「ぶち、魔神の匂いや魔力の残滓を追えるか? 俺達には難しいんだ」
「なー」
「できると言っていますね。今日被害者が発見された場所は一通り聞きましたから、ぶちに先行して行ってもらいましょう」
「アリアさん、猫ちゃんの言葉がわかるんだ……?」
「一応召喚獣なので意思の疎通はできますよ」
「そうか……。じゃあぶち、今から学院内を探索してくれるか? アリア、学院の地図から印を付けた場所を教えてやってくれ。できるか、ぶち?」
「時は来た」
「喋ったよ!? ぶち喋れるの?!」
「時来てるぞ!」
「時しか言わねーな。大丈夫なんだろうか?」
「まあまあ、やる気になってるんでしょう。じゃあぶちの脳内に学院内のイメージとマップを送ります。召喚獣は姿と気配を消すことができます。学院内を堂々と猫がうろつくのはマズいでしょうから、その状態で捜査してもらいましょう」
 
 アリアがぶちを受け取り、額を合わせる。互いが目を瞑ると、合わせた額が青く光った。イメージの共有をしたのだろう。ぶちを床に降ろすと、スーッと透明化して見えなくなった。神眼を発動するとそこにいるのがちゃんとわかる。確かにこれなら誰にも知られずに行動できるだろう。

「ぶち、頼むぞ。行け!」
「なー」
「頑張ってね、ぶち」
「時来てる」

 謎な言葉を発しながら扉を通り抜けて、ぶちは行ってしまった。『時が来てる』って何だ?

「あの台詞は何だったんだ?」
「活躍する時が来たとか言ってるんじゃないですかねー?」
「わかるんじゃなかったのか?」
「ある程度しかわかりませんよ?」
「完全にできるみたいに言ってたのにー」
「もうちょっと進化したらちゃんとわかるでしょうけどねー。捜索はぶちに任せるとして、召喚獣はあと4体いましたよね?」
「えーと、ヨルムにケルコア、フェリスとグリフだな。どうするんだ? みんなデカいぞ?」
「小さい形態で召喚して学院の東西南北の四方から監視してもらいましょう。これでかなりやり易くはなります。幻獣達は人間よりも五感が発達していますからね。さっきのぶちの様に姿を消して任務に就いてもらいましょう」
「なるほどな、俺達の直接目が届かない場所をカバーしてもらうってことだな」

 小型化した状態で4体を召喚し、学院の各所に移動してもらった。これで此方の網に掛かるのが先か、事件が起きてからになるかはわからないが、彼らに期待しておこう。


 それからお風呂に夕食だったが、寮の女子風呂にしか入れないのには困った。さすがに恥ずかしいし、目のやり場に困る。二人が上手くガードしてくれたが、ずっと目を瞑っている訳にもいかない。昼間に実技試験で目立ったからね、周囲からの視線が凄かった。まだ話しかけるのは憚られたのだろう。声を掛けて来る子はいなかったが、居心地が悪かった。解決するまでこれが続くのか……。キツイなあ。

 夕食は食堂でビュッフェ形式だった。そして目立たない様に食べたかった。だがしかし、此方には腹ペコ女神がいる。積み上げる皿の数が半端ない。周囲からの溜息や感嘆の声が聞えて来て、これまた居心地が悪かった。こいつには遠慮とかないんだろうね。言っても無駄だから言わないけどさ。
 もう本当に今更だが、目立たなくするとか絶対無理だ。諦めたよ、これから入学だってのにさー。

 一応学生らしくカバンに荷物を少しだけ詰めて、嵩張るものは異次元倉庫。制服の確認やら色々と細々したことを済ませた。水着もあったけど、もう今はいいや。考えるのもしんどい。

 そうしてやっと目まぐるしい初日は終わった。色々と気疲れしたので、その日はさっさと寝ることにした。寮の部屋は二段ベッドと通常のベッドだったので、普通のベッドを使った。アヤとアリアは下と上にじゃんけんで決めて別れていた。

 さて明日は入学、学期途中だから転入生だ。何事も起こりませんように。




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