OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第六章 魔神討伐・神々の業

111 魔法演習に悪夢のプール

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 ドサササーッ!!!

 三人近くに設置して貰った下駄箱。下駄箱? というか登校してきたときに折り畳みの傘やらあんまり学校生活に必要ない物を入れるちょっとしたロッカーみたいな物の口がギチギチになってたので、開けると中から、お貴族様らしい小綺麗な便箋やら封筒やらが大量に落ちて来た。ナニコレ?
 一緒に寮から登校して来たアヤやアリアのロッカーにも、まあ鍵は掛かってるけど郵便受けくらいの大きさの口が付いていて外から物を入れられる様になっている。何枚か似た様な物が出て来ていたが、俺のは数が異常だ。どういうことなん?

「あははー、モテモテですねーカー、カリナー、ハハハハ!」

 アリアがお茶らけて背中をバシバシ叩いて来る。

「ね、ねえカリナは自分に認識疎外かけてなかったの……?」
「え? え、ええ?! 二人共かけてたのか?」
「だって、神格者の魅力は見た目だけじゃなくて、色々と影響を及ぼしますからね。当然使いますよー。魅了テンプテーションばら撒いてるのと同じですよー」
「う、うん、私もわかる人にはクラーチの姫だとバレる可能性あるからかけてたよ……」
「マジかよ……。迂闊だったー。それならそうと教えてくれよー」
「あははー、隠密依頼なんですからー。カリナも当然使ってると思ってましたよー?」

 嘘だ。こいつは絶対敢えて言わなかった気がする。アヤの言い分は尤もだが、こいつの場合は『面白そう』が先に来ている。その証拠にずっとニヤケ面してやがる。こんにゃろ、腹立つな。

「今からかけるよ」
「もう完全に認識されていますからねー。効果は薄いですよ」
「薄くてもいいわ。かけないよりはマシだろ」
「相変わらず肝心なところで抜けてるんだから……」

 アヤの溜息交じりの言葉が聞こえる。ツラい……。認識疎外を展開するが、恐らくクラスメイトや、同学年の生徒達が名前を呼んで挨拶して来る。マジで既に認識されてるから効き目が薄いんだな……。参った。

「お、カリナじゃん。おはよう」
「おおぅ、おはようカリナ……。いやあモテモテですなあー、二日目でこれとか……」

 丁度一緒に登校して来たヴォルカとリーシャが挨拶して来た。同じ部屋って言ってたしな。同時に足元に散らばった、ラヴなレターズを覗き込まれる。ハズイ……。まあこの世界の文明レベルじゃあ手紙が一般的でしょうね。でも俺が言いたいのはそういう問題じゃない。

 何で朝からこんな羞恥プレイを受けなきゃならんのだ。

「いやあ、ヴォルカさんや。モテる女子は悩みが多いことでしょうなあ」
「リーシャさんや、言ってやりなさんな。モテる本人にしかその悩みはわからんでしょうからのう」
「二人共、変な小芝居やめてくんない?」

 こいつら、おばあちゃんか? マジで処理に悩んでるってのに。

「あ、妹さんにお姉さんもおはようございます」
「カリナのことはお任せくだせえ」
「あ、はい。昨日休み時間にご一緒したお二人ですね」
「ムフフー、モテ過ぎる妹なのでよろしくしてやってくだいませー」

 何でこんなに馴染んでるんだよ? 取り敢えず落ちた手紙をささっと異次元倉庫ストレージに突っ込む。驚いた顔をされたけど、このまま周囲からジロジロ見られるよりマシだ。

「もういいよ、さっさと教室に行こう。二人共後で」

 すたこらとその場から逃げる様にクラスに向かう。

「ちゃんと読んであげるんですよー」
「ちょ、追い討ちかけたらダメだよ。ぷぷぷ」

 アリアとアヤが笑いながら何か言ってるが無視しよう。あーもう、認識されているということはこれが続く可能性があるのか? ……地獄だな。
 登校した直後にこの仕打ちは効いたぜ。さっさと切り替えよう。でもあの量を読む……読むのか? 嫌だ。絶対背筋がゾワッとするに違いない。

「カリナ待ってー」
「悪かったってー」

 急ぎ足で歩く俺を二人が追いかけて来る。はぁ、今日はこのネタでずっと弄られそうだなあ。やだやだ。


 ・

 ・

 ・


 クラスに入るとみんなから挨拶された。女子からは凄く優しく、男子からはカッコつけたキザったらしい感じで。学校ってこんなにキツイ世界だったっけ? もう覚えてねーわ。


「欠席はなしと。じゃあ今日は魔法演習と水泳に、午後からは歴史ね。カリナさんはまだ2日目だし、みんなフォローしてあげること!」
「「「「「はーい!!!!!」」」」」

 リディア先生の声にみんなが返事する。元気だねー若者は。儂は中身おじいちゃんなのじゃよ。寧ろその教壇に立っている立場だったのに……。朝から非常に疲れるもんだ。
 手紙はまあ、気が向いたらちょっとくらいは読んであげよう。誰かさっぱりわからんけど。そういえば前世でもスポーツの恩恵で結構貰った様な記憶があるな。
 でも差出人知らない人だと処理に困るんだよ。一生懸命書いたんだろうなって、文面からは伝わってくるからさー。その頃は『彩』のことがあったから結局処分する羽目になるんだけどね。
 今は性別が逆の状態で読むことになるのか……。うん、読まない方が精神にとっては健全そうだ。罪作りでごめんよ、男子諸君。確かにこの身体の『見てくれ』だけは美人だからね。だけど俺は任務で来てるだけだから。

「カリナー、魔法演習だし一緒に着替えに行くよー」
「あ、うん。今行くよ」

 リーシャに引っ張られて更衣室。魔法の演習場は昨日の剣術稽古場とは少し離れた場所。さっさとバトルドレスに着替える。リーシャには昨日白いのをあげたそれを、一生懸命着替えていた。所々手伝ってあげて着替え完了。
 女子の園にいる時は無心でいることにしている、と昨日決めた。アヤがちくちく聞いて来るからなあ。好き好んで見ようとしてる訳じゃないんだよ。視界に入るからどうしようもないんだ。神眼使ってもいいけど、目を閉じてたら逆に怪しいからね。


「魔法の授業を担当する、マリア・クラリッサよ。よろしくねカリナ・カラー。あなたの試験は見ていたわ。剣術も相当だとヨシュア先生からも聞いているし。私は上級魔導士アークウィザード。使える属性は水・風・聖よ。あなたは全属性を無詠唱で使えると聞いたのだけど、早速見せて貰えるかしら?」

 初期のユズリハの装備みたく魔導士って感じの帽子に装備をした、カールがかかったピンクブロンドのロングヘアをした先生。いきなり無茶振りしてきたよ。

「拒否権は?」
「ないわ。演習場のこのラインから的に向けて1属性ずつ魔法を撃ってもらえる?」

 即答かよ……。新入生に無茶振り過ぎでしょ。

「カリナ大丈夫?」
「うん、まあ何となくこういう展開が来ると思ってたし……」
「期待してるぜー」
「ヴォルカ……、庇ってくれよ」
「あたいは魔法苦手だからなあ。見て学習させてもらうぜ」
「ハイハイ、じゃあよく見とけよー」

 マリア先生が待機している側の、白いラインの上に立つ。前方20mくらいの所に大きめの、ふむ、分厚いミスリルの直径1m程の的が道路標識みたく設置されている。あれを撃ち抜けばいいのかな?

「属性はどの順番で撃てばいいですか?」
「うーん、火・水か氷・土・風か雷・聖・闇の順でいいかしら?」
「わかりました」

 体内で撃ち出す魔法を順に構築した。水か氷なんてケチ臭い事せず全部撃ってやるか。

 左の人差し指を的に向ける。じゃあさっさと撃ち込みますか。心の中でトリガーを引く。

 ドンッ! ドドカァッ! ババシュッ! バチィ! ドドドオオオン!!!

 順番に違う属性で的の中心を撃ち抜く。でも所詮ミスリルか、普通なら弾かれるんだろうけど、俺の放った魔法は全て的を貫通して後ろの壁を破壊した。まあ、こうなるよね……。どうせあの二人も無双してるんだろうし。

「終わりました。……先生?」

 ポカーンとした顔をしている、マリア先生の顔を覗き込む。瞳もピンクなのか。地球じゃあお目にかかれないなあ。

「え、あ、ああ、そうね! 呆気に取られてしまったわ。全属性、しかもどちらかでいいって言ったのまで全部撃ってくれるなんてね……」
「いえ、どうせなのでと思って。戻っていいですか?」
「ええ、ありがとう。みなさん、確かに全属性、凄いスピードの無詠唱だったけど見たでしょう? それに更に凄い部分があったことに気付いた人がいたら挙手して」

 何やら質問している間に、ちゃっちゃと元の場所に戻って座る。

「はい!」
「む、シュティーナ・トーケルか。よし、起立。言ってみなさい」

 少し離れた場所に座っている金髪の女子が立ち上がる。

「はい。全属性無詠唱……、それもとんでもないことです。ですが彼女の魔法にはまるで溜めがなかったことです。普通は魔法を撃つまでに何かしらの触媒で魔力を増幅させる必要がありますし、素手だとしてもその部分に魔力溜まりができるはず。なのに彼女の魔法は既に構築されたものが発射されただけの様に感じました」
「うむ、よろしいでしょう。あれ程の速度で多属性を撃ちながら、全く魔力のロスや淀みがなかった。私も試験の時に見ただけだったけど、身近で見て改めてわかりました。まるで体内で既に魔法が構築されていたかのような……」

 座ったシュティーナがこっちに手を振って来るので、軽く笑って頷いておいた。しかしレピオスから学んだことをよく気付いたなあ。鑑定。先生のレベルは150程か。魔法特化のジョブだけあってよく見ている。
 いや、それよりもそれを何となく見抜いたあの子もセンスあるな。うむむ……。

「てことで今日は折角これ程の使い手がいるので……。カリナに代わりに教えて貰うことにしましょう!」
「「「「「うおおおおおおおー!!!!!」」」」」

 うわー、マジかよ……。大人しく過ごしたいのになあ。

「私もカリナに習いたいなあ」
「おーし、あたいも魔法は上手く使える様になりたいぜ」
「ええー、お、『あたし』はただの生徒なのにー……」

 脱力しているとマリア先生が声をかけて来た。

「この世界は実力が全て。それを振りかざすのは間違っているけど、できる人から学びたいという気持ちは教師も同じなのよ。先ずは逆属性と無詠唱、それからさっきの的を寸分の狂いもなく撃ち抜いた、溜めのない魔法技術を知りたいわ」
「俺も知りたいです!」
「あんな魔法は見たことがない……。その理論を知りたいと思います」
「俺も!」
「私も!」
「はあ、わかりました。じゃあ先生の隣で指導したらいいんですか?」
「いいえ、私も今日は生徒よ。バシバシ教えて頂戴!」
「ええー……」

 嬉々として俺が座っていた場所と入れ替わるようにして座る先生。まあこういうのも普通じゃありえないもんな。折角だし元教師らしいところを見せるか。

 みんなの前に出て解説を始める。

「じゃあ、臨時講師のカリナ・カラーです。よろしく皆さん。えっと先ずは、魔法とはイメージの具現化であるということ。できないという偏見を先ず捨てて下さい。恐らく皆さんの頭の中には『逆属性は難しい、できない』というストッパーがかかっていると思います。その偏見を無くすだけで、こんな風に簡単に逆属性の発動が可能です」

 広げた両の掌、右に炎、左に氷の魔力を具現化させたものを見せる。

「「「「「おおおおおー!!!」」」」」
「「「すげー!」」」
「こうしてマジマジと逆属性を維持しているのなんて初めて見る……」

 うむ、素直で可愛いなこいつら。教師冥利に尽きるってこった。

「まあこれは余談ですが、この二つを合わせると……」

 バチバチバチッ!

 二つの属性を一纏めにして融合させると、炎を纏った氷が出来上がる。それを左掌の上に浮いた状態のものを見せる。

「魔法融合。ここから更にイメージを注ぐと、合成魔法というものもできます。ハッ!」

 ドゴッ!!! ビキキキキィ!

 的に向けて投げつけたその合成状態の魔法が、的を氷漬けにしながら炎に包まれる。

「「「「「えええええええっ!!!???」」」」」
アイスファイアボール氷炎球ってとこでしょうか? まあ鍛練したらこういうこともできます。ですが、聖と闇の融合は危険だし、魔力を極端に持っていかれるのでやらない様にして下さい。MPが枯渇して昏倒します」

 まあ体外で合成させた場合だが。そんな簡単なものじゃない。副次効果は危険だし黙っておこう。悪用する奴がいたら大変だし。

「じゃあ無詠唱ですが、多分みなさんは見たところロッドやスタッフなどを持っていますよね。そして魔法名を呼ぶことで、体内から適量の魔力がその触媒を通して増幅され、発動に至る。ですが、それは魔力が少ない間はいい。でも魔力やMPが増えても威力が変わらないので、無駄が多い。逆に無詠唱は使う魔法の威力を自分で決めることができる。触媒に依存せずに自分の魔力量に依存して、注ぎ込みたい魔力を自分で決めることができる点で、威力が格段に飛躍します。じゃあ的に向けて違いを見せましょう」

 違う的に狙いを定める。

「じゃあ最初に詠唱したのを。ファイアボール!」

 ドコッ!

 的に当たるが、ミスリルに弾かれて消える。

「次が無詠唱です。自分が望んだ量の魔力を発動させる魔法に注ぎ込むと……」

 ゴゴゴゴゴ……

 左手に巨大な炎の塊が具現化される。

「こんな風に同じ魔法でもまるで違ったものの様に見える。これに爆発するイメージや、直撃したものを燃え尽くすイメージ、姿を変えるイメージを付与すると、ハッ!」

 パアーンッ!!! ゴオオオオッ!!!

 巨大な火の鳥となったファイアボールが、的を飲み込みドロドロに溶かした。危ないので爆発イメージは込めていない。今のはアヤが撃ったファイナル・フェニックスの下位互換だ。

「とまあ、こんな風に術者の望んだ形態や効果を伴って発射できるということです」

 当然だがみんな口を開けてポカーンだ。いや、先生もかよ。まあこんなの見たことないだろうしな。俺もレピオスから細かく魔法理論を指導して貰えたから、こんな風に解説できるんだし。でも教師時代を思い出せてちょっと楽しい。

「ここまでで質問ありますかー?」
「はいはい、いいかしら?」

 マリア先生が挙手して来たよ。この人自分の立場忘れてんな。

「はい、マリア先生どうぞ」
「逆属性のイメージっていうのはどうすればいいのかしら?」
「うーん、先ずは出来ると信じることですかね。偏見を捨てて、属性に壁はないと思い込むことだと思います。使えない、できないと思っていたら、多分何事もできないですから。それを使う自分をイメージするところからでしょうね」
「なるほど……。為せば成るということかしら?」
「うーん、そういうものだと思って貰っていいと思いますよ。お、『あたし』の冒険者のPTメンバー達に姉妹も普通に使えますから」
「じゃあちょっと試させて貰える?」
「あ、はい、どうぞ」

 生徒に立場になったマリア先生が白いミスリル製のマジックロッドを持って前に出て来る。生徒よりやる気になってるよこの人。

「じゃあ無詠唱はまだ一度にやるのは無理そうだから、試しに火属性を撃ってみるわ。よし、私はできる私はできる……」
「先生リラックスして下さいね」
「ええ、燃える炎のイメージ……」

 先生のロッドに炎の魔力が集まっていく。さすが上級職、枷を外したらコツを掴むのは早いな。

「ファイアボール!」

 ドゥッ! バチィ!

 的に弾かれたがちゃんと発動した。あれだけ最初に追い込まれていたユズリハがかわいそうな気がして来る。アリアの稽古は体で覚えろって感じだったもんな。あいつは実戦派で理論派じゃない。スパルタドS女神だ。

「やった、できたわ! ありがとうカリナ! 壁を乗り越えたわ!」
「あ、はい。おめでとうございます?」
「マジか……。あんなに簡単にできるものなのか?」
「いや、でも現に逆属性の魔法が発動したじゃないか」

 生徒達もワイワイし始めた。再び元の場所に戻る先生。ガチ過ぎるなこの人。

「じゃあ最後に魔法を発動するのに、溜めがなかったという点ですが……。ぶっちゃけこれはかなり難しいです。技術的に難しいと言うより、体内で魔法を構築し、それを発射するというだけのことなんです。でも、余りにも強力な魔法を体内で構築すると、肉体がその魔法の威力に耐えられない可能性がある、危険なものです。恐らく先生のレベルでも、中級以上の魔法を構築すると肉体が耐え切れずに、下手したら死にます。極大魔法なんて以ての外です。なのでこの技術は初級魔法でのみ実践演習して下さい。いいですか、警告はしましたからね。後、コントロールは練習あるのみです。では、お、『あたし』からは以上です。ありがとうございました」

 最後に体内で構築したホーリー・レーザー神聖光線で的を破壊して、俺の講義は終わった。先生と場所を変わって貰って、生徒に戻る。拍手ありがとうございます。

「「「「「わ―――!!!」」」」」


「うむ、今日は魔導の高みを垣間見た気分だ。では各自、ペアで今習ったことを生かして、的に向けて魔法練習開始!」
「「「「「はい!!!!!」」」」」

 やる気スイッチが入りまくった生徒達は凄く一生懸命演習をこなしていた。まあ先生が一番楽しんでいたけどね。
 リーシャはマンツーマンで教えたので、直ぐにできるようになった。やっぱこの子のセンスは凄いものがある。冒険者に向いているなあ。
 その後は魔法が苦手なヴォルカや、色んな生徒に呼ばれて指導する羽目になった。一番熱心なのが先生だったけどね……。

 みんなの魔力が尽きる前に授業は終了。次は水泳なので先にティータイムだ。その後着替えてプールに集合だとか。

 久々に授業チックなことをして気疲れしたので、昨日と同じ屋外のカフェで一服だ。アヤにアリアもクラスメイトと楽しく過ごしているみたいだった。見つけると手を振って来る。そのやり取りを見ている周囲から、

「尊い……」
「美人三姉妹とは何て尊いんだ……」
「全員美人とか、普通はないよねー」

 などと意味不明な言葉が飛び交う。マジで何なの? 

 認識疎外の影響の意味がなくなった俺は、他のクラスや違う学年の男子達にもやたらと声をかけられたが、クラスの女子達が追っ払ってくれた。ありがとう。 

 適当にお茶やお菓子を楽しんでから、着替える為に前日より早めに、嫌だけど水泳の準備に向かうことになった。本当に嫌だけど……。

 リーシャに手を引かれてプールの更衣室へ。何でこの子は常に俺の手を引っ張って来るんだろうか? 

 外から見た屋内に設置されたプールは50mの地球で見る様な競技用のプールだ。周囲に25mのも、ウォータースライダーが付いた、明らかにアトラクション的なプールも、流れるプールまである。
 これはアレだ、絶対アリアの趣味だな。見たらわかるわ。あいつは何故こうも無駄なものを創るんだろうか? だが、この文化体系だと娯楽が少ないし、魔力で水を動かしているみたいな装置が付いてるから大丈夫なのか。屋内だし、いつでも泳げる温水プールみたいだ。

 
 更衣室、荷物から(異次元倉庫ストレージだけど)取り出した水着は紺色の旧スク水だった……。胸元から入った水がお腹の下から排出されるっていう二段階構造になっている、マニアが大好きな奴だ。……あーもう、あいつはどうしてこうも余計なものを投入するかなー。

 旧スク水。基本的には女子用ワンピース水着で股布から腰まわりにかけて前面が二重構造となっているものを指す。この構造は胸部に流入した水を抜きやすくして泳ぎやすくするためのものとされ『水抜き』と呼称されている。
 この構造から『スカート型』『ダブルフロント』とも呼称されており『水抜き』は伸縮に乏しい素材でも構造面で伸縮性を確保することにより身体にフィットさせるためとも言われている。
 背面の形状はほとんどがUバックだが、ごく稀にYバック(レーサーバック)の製品も存在する。背中のカットの深さは多様で、うなじしか露出しないものから、背中がかなりの面積露出するものまで様々である。前側に縦に走る二本のダーツ線(前面裁縫線、いわゆるプリンセスライン)も特徴。
 また製造メーカーによっては微細な差異があり、フロント部分が内側で完全に縫合されて『水抜き』が存在しないもの、股布がプリンセスラインではなく両脇の裁縫線で連結されているもの等(所謂旧々スクと特徴が混合したもの)が存在しているらしい。まあそんな知識はどうでもいいんだよ。

 と、この水着は背中が結構空いているUバックだ。これで白だったらあいつには奥義を喰らわせてやるつもりだったが、紺だしまだ許してやろう。でもげんこつ確定だ。余計な事ばっかしやがって。しかも俺の知ってる地球のよりも食い込みが激しい気がするぞ。

 しかし俺がこれ着るの? 見た目的には問題ないだろうけど、気持ち的に犯罪じゃない? 見学にさせて貰おうかな? 泳ぎは苦手だし……。うむむ……。

「カリナ、何唸ってるの? 早く着替えるよ。あ、慣れてないなら手伝ってあげよう、うひょひょ」
「リーシャ、変な笑い方になってるよ」
「あれ、まだ着替えてないのか? あたいも手伝ってやるよ。リーシャやるぞ、うひひ」
「「覚悟―!」」
「ぎゃ――――!!!」

 他の女子まで集まって来て、またもみくちゃだ。勘弁してくれ。まあ何とか着替えられたけど、水泳かー。苦手なんだよなあ。


「『あたし』あんまり得意じゃないんだけど……、二人は泳ぎ得意なの?」
「うーん、本格的にはここに来て習ったから何とも言えないけど。シャルキナは海に面しているから結構遊んだりはしてたよ。川や池とかでも泳いでたし。それに水の魔物と闘うことだってあるからね。泳げないと危ないんだよ」
「ま、あたいは獣人だし、基本的に得意だぞ。水の中は気持ちいいしな。ユヴァスも海があるし」
「へえー獣人はみんなそうなの?」
「みんながみんなじゃないだろうけど、あたいは好きだぜ」
「狼だからイヌ科か。そりゃ泳げるよなー」
「犬とか言うなよなー。ま、苦手なら教えてやるよ。魔法演習は世話になったしな」
「うん、その時はよろしく」

 二人に手を引かれてプールサイドへ。逆方向で既に集まっていた男子から歓声があがる。キツイ……。サッ、と二人の後ろに隠れる。ほう、ヴォルカの水着は腰の下の尾骶骨辺りに穴が作ってある。尻尾がある獣人専用ってことか。某走る娘の衣装みたいだな。制服もそう言えばそういう作りだった。

「ああいう異性の視線ってキツイんだけど……」
「仕方ありませんなあ、ヴォルカさんや」
「こんなわがままボディをしてたらそうなるもんじゃのう、リーシャさんや」
「その小芝居流行ってんの?」


 水泳も担当は体育と同じシオン先生だった。さすがにジャージを着てたけど。まあ授業の度に水着着て一緒にやってたらしんどいもんな。
 男子は剣術の時のヨシュア先生だった。男子のは水泳選手が着ている様なスパッツみたいな水着だ。ズルい。

「カリナは泳ぎはどうなんだ? 魔法も凄かったとは聞いているが」
「あ、いえ、実は結構苦手です。息継ぎすると沈みます……」
「ハッハッハ! お前にも苦手なものがあるのか。完璧過ぎると教えることがなくなるからな。結構なことだ。それにそんなデカい浮袋が付いてるんだから、浮かぶ浮かぶ!」

 女子がみんな笑う。今のは同性じゃないと捕まる案件の発言だな。気を付けよう。

「まあ、それはどうでもいいんですけど、出来ないのに結構なんですか……?」
「まあ気にするな。みんなに教えて貰え。先ずは準備体操をしっかりしてからシャワー浴びてプールに入れ。後から50mのタイムを計るから、各自それまでは自由練習。カリナにはー、じゃあリーシャとヴォルカが教えてやれ」

 颯爽と二人が挙手したのでお世話係になってしまった。ツラいなあ、神様は水泳と楽器の才能だけは俺にくれなかったんだよね。神様……。アリアの顔が浮かぶ。後でやっぱりげんこつしておこう。
 魔法で顔の周囲に空気の膜を作って覆ってやればできそうだけどな。まあ授業で使うものじゃないか。50mのタイムとやらの時までは真面目に指導されよう。



「そうそう、その調子。バタ足はできるんだね」
「まあそのくらいはね」

 リーシャに手を引かれてバタ足を練習する。何だろ、この年頃の女子に水泳を教わるという羞恥プレイは? どんどんメンタルが崩壊していく気がする。


「ほら、次は息継ぎだ。こうざばーんって」
「こう?」

 立ったまま動きだけ息継ぎの動きをする。うん、地に足が着いてたらできるよね。

「じゃあ次は泳ぎながらだ。ほら、ここまで息継ぎしながら来い」
「よーし……」

 ぶくぶくぶく……

「無理ゲー」
「何で沈むんだよ。デカい浮き輪が二つも付いてんだろー?」
「あー、また言った! 好きでこんなの付けてないんだよ。邪魔だし見られるし!」
「おいカリナ、薄いやつらをみんな敵に回す発言すんなー」
「知らないよ!」

 くそー、何で息継ぎしたら沈むんだよ。肉体の性能は明らかに上なのに、理不尽過ぎる。水泳スキルとかないんかい?!

 その後も無情に練習時間が過ぎて行った。

「はい、集合! じゃあタイム計るぞー」

 二人一組でどんどん列が進んで行く。魔法を使うか? いや、それはズルいだろ。ん? 50mくらい息継ぎしないでぶっちぎればいいんじゃないか? うん、もうやけだ。飛び込むのはできる。その後は無呼吸で端まで泳いでやる。

「次、カリナとシュティーナ!」
「「はい!!」」

 ああ、魔法のときの子か。ちょっと卑怯だが負けるのはもっと嫌だ。息継ぎなしで泳ぎ切る。水中では敏捷が半分まで落ちるが、気にせず行くか。

「よろしくね、カリナさん。負けないわよ」
「う、うん、シュティーナさん。お手柔らかに……」

 余裕の表情だ。勝ちを確信してるな。見てろよー……。

「よーい、スタート!」

 ババッ! バシャーン!!!

 スタートは同時だが、ちょっとジャンプで距離を稼がせて貰った。行くぜ!

 ドババババババッ!!!

 うん、この速度なら息継ぎは必要ない、一気にゴールまで行く!

「あー、息継ぎしないつもりだよカリナ」
「汚ねー! でもそれが一番速いかもなー」

 ほんの数秒で到着。これなら水中を走る方が速い気がする。スキルありきだけどね。

「ぶはっ!」
「カリナ速過ぎ。息継ぎナシとかどんな心肺機能してんの?」
「いやー、息継ぎしたら沈んじゃうから……。一気に泳ぎました」
「ぶほっ! カリナさん、ジャンプで距離稼ぎ過ぎでしょー」
「あー、バレたか。ごめんね」
「まあ、どの道あのスピードは追いつけないよ。先生、タイムは?」
「あ、しもた。計るん忘れた」
「「ええー」」

 三人で大笑いしてプールから出た。シュティーナも良い子だな。その後は自由時間だったので、リーシャとヴォルカ、シュティーナとも一緒にウォータースライダーとかで遊んだ。男子の視線から守ってもらいながらだけど。

 マズイなー、どんどん馴染んでしまっている。楽しいけどね、罪の意識が重くなって脳内で悶絶するんだよ。クラスの女子とは大体仲良くなったな。この子達が襲われるとか、絶対に阻止しなければ。
 そう固く誓ったが、シャワー&着替えでまたもみくちゃにされた。みんな同じ性別なのに何が楽しいんだ? ハタ迷惑過ぎるんだけど……。



 午後からの歴史授業。各国の成り立ちとか、色々なことがわかって結構面白かった。座学は大人しく聞いていればいいから楽だ。その内質問とかされそうで怖いけどね。


 二日目も特にこれと言って何も起こらなかった。寮の大浴場で友人達とばったり出会ったせいで、また色々と大変だったけど。
 後、取り敢えずアリアにはげんこつを喰らわせておいた。

 明日で3日目か……。相変わらず探知には靄がかかった様な感覚。ヤツがここにいるのは間違いない。女子に慣れ過ぎてしまうまでに何とかしたいなあ。ちょっとお腹が痛くなってきたので、その日は早目に休むことにした。変なもの食べたっけな?





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ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

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お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

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勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

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