OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第六章 魔神討伐・神々の業

119 VS英霊魔神

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 全ての軍隊を薙ぎ払ったエリック達の前に塔内部から転移して来た魔神達が立ちはだかる。この世界にはないようなデザインを施された魔神衣に身を包んだ、地球の過去の中華の英霊魔神達だ。

 三国時代から南北朝の初期になると、鉄鎧である筒袖鎧とうしゅうがいが登場する。この鎧の最大の特徴は、それまで平坦に綴られていた鉄の小札を鱗状に重ねて綴るようになった事である。
 南北朝の初期の筒袖鎧は約670㎏の威力を持つ機械仕掛けの強弩の矢でも貫通できない頑丈さを持っていた。同時にこの頃には、兜も鉄の小札で綴ったカバーがつくようになり、首やうなじのような太い血管が通る場所を保護している。
 また、筒袖鎧とうしゅうがいがその名前の通り袖がついて上腕部や腋の下も鉄の小札で覆われているのが画期的である。腋の下は心臓に近く、ここを剣や槍で突き刺されると致命傷になるのでカバーして死傷率を下げたということだ。
 三国志の時代には騎兵の鎧も独自の進歩を遂げ、裲襠甲りょうとうこうと呼ばれる鎧が登場した。これは、鉄の小札で覆われた胸甲と背甲で出来ていて二枚を腰の革製ベルトで結んで使用した。この裲襠甲りょうとうこうには筒袖鎧とうしゅうがいと違い袖の部分がないが、これは馬上で槍や矛を振るう騎兵の動きを優先した為である。

 これらの鎧の形状の魔神衣ディアーボリスを纏った中華の英霊魔神達。『大いなる意思』の介入により、無理矢理因果を捻じ曲げられて魔神として復活させられた彼らは、原初の七色の魔神達の手足となって動くように命じられている。その彼らがカーズ達によって塔が崩壊させられるより一足早く、ヴィオレの命でエリック達の前に立ち塞がる。これ以上は先に進ませないと言わんばかりに。

「魔神か? だがこれまで出会った連中よりも遥かに強いな……。師匠、こいつらは何者なんだ?」

 聖魔剣フラガムンクを構えてエリックがルクスに問う。

「鑑定したが、地球の英霊を無理矢理叩き起こしたみたいだな。死者の蘇生は世界の理を曲げる禁忌だ。魔神側には聖魔法のそんな技術はねえ。俺達も聖魔法の死者蘇生リザレクションは余程のことじゃなければ使えない。それをこれだけの人数……。やはり『大いなる意思』の干渉があったとみるべきか。だが因果を無理矢理捻じ曲げやがったな。性別が不一致な連中もいやがる。エリック、こいつは師匠からの試練だ。目の前のそいつを自力で斃せ。今のお前ならできないことじゃない。俺は冥王神と連絡をつけるからよ」

 ルクスの言葉に頷き、目の前の一人の男武将に剣を向ける。2mはある巨体に以前カーズが闘ったバアルゼビュートの持っていたという神器と似た様な形状の巨大な方天画戟ほうてんがげきを肩に担いでいる。武勇を誇るかの如き威風堂々としたその表情は戦場に居ることを喜ぶかのように見える。

「テメーは誰だ? ここに何しに来やがった? どの道俺が滅却してやるけどな」

 魔神の象徴のような角を生やしているため、兜は身に付けてはいないその武将が口を開く。

「……我が名は呂布奉先りょふほうせん。蘇りし過去の英霊が一人。且つては三国最強の飛将軍ひしょうぐんと呼ばれし者。夢界に眠っていたところを再び闘えと戦場に駆り出された。細かい事情は復活した際に知識として植え付けられている。ここ異世界で我が力が必要とされているということを。折角だ、小僧貴様で鈍った感を取り戻させて貰う」
「面白え。俺も雑魚続きで腕が鈍ってたところだ。ここらで魔神の一匹くらい余裕で蹴散らせるってことを見せてやるぜ」

 エリックが神器の聖魔剣を正眼に構える。呂布も肩に担いでいた魔神器である無双方天画戟むそうほうてんがげきを降ろし、両手で構えを取った。


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「また妙な奴らが現れたわね……。でもその角は魔神のもの。サーシャ師匠、ここは私に任せて下さい」

 ユズリハの目の前に現れたのは派手な装飾が施された黒い着物の様な魔神衣ディアーボリスを纏った妖艶な女性魔神。胸元は大きく開かれ、長い袖の中間辺りから背中に赤いストールの様な布が巻かれている。黒く輝く様な長い頭髪に瞳。同性でさえも美しいと思わせる外見的な魅力を備えている。手に持っているのは二つの扇。恐らくこれがこの魔神の魔神器であろう。
 
「わかりました、ユズリハ。単独で撃破しなさい。これから先の闘い、この程度の相手が沢山いるわ。七色の魔神も裏で糸を引いていたようね。この魔神達は地球の過去の英霊。英霊は伝承によりその力が大きくなる。本来は闘う力が無かったとしても、その力により万能の将となることもある。心してかかりなさい」

 サーシャの言葉に首肯し、自らの神器であるグングニル・ロッドの切っ先を向ける。

「アンタは何者? その角に魔神衣を見れば魔神だとはすぐわかるけどね」

 両手の戦扇せんせんを開きながら、その女魔神が声を発する。

「私の名は貂蝉ちょうせん。且つては富と権力に塗れた国を我が命を持って破滅に至らしめた一人の女。夢界で眠っていたところを再び暴力の蔓延る世界に解き放たれたのよ。英霊として強大な力を与えられてね。どうやら私の相手はあなたのようね。己の非力さを呪った過去とは違う。見せてあげましょう。私の力を」
「力を手にした途端に傲慢になるとは底が知れてるわね。アンタは私が叩き潰してあげるわ」

 槍状に変化させた神器を両手に構え、間合いを保つ。貂蝉は魔神器の戦扇を広げ、不敵に笑う。広げた二つの戦扇には瞳がない龍が描かれている。

「さあ、刮目しなさい。我が魔神器画龍天晴がりょうてんせいの能力の前に」
「チェトレの龍帝拳・臥龍点睛がりゅうてんせいと似た特性の可能性があるわね。此方の攻撃が最後の決め手となってその龍の瞳に光が宿るといった様に」
「ご名答。でもだからといって攻撃せずに此方を止めることはできないでしょう? あなたが来ないのなら此方からいかせて貰うわ!」

 ユズリハと貂蝉の闘いが幕を開けた。


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「どうやらわたくしの相手はあなたの様ですね。女性とは言え、さぞ名のある武将なのでしょう。それだけに残念です。魔神となったあなたを野放しにしておくことはできません。そして何よりもカーズ様の為、わたくしには負けることも無駄死にすることも許されないのですから」

 ディードの目の前に現れたのは中華の派手な出で立ちに肩や腰、腕や足が鎧の魔神衣を纏った、長い黒髪をポニーテールにした女性の武将。しかし発するオーラは男性のものといった何とも不釣り合いな雰囲気を醸し出している魔神だ。

「私の名は関羽雲長かんううんちょう。且つては義の為に闘い全うしたしょくの五虎大将が一人。何の因果か、再び闘えと冥府の夢界の奥から目覚めさせられた者である。だが因果を無理矢理捻じ曲げて蘇生させられた影響であろう。この肉体が過去のものとは違う性別であるのは。だがそれ自体はさしたる問題ではない。私は志半ばでこの世を去った。もう一度闘う機会を与えられた今、今度こそはその恩に報いてみせよう。この魔神器青龍せいりゅう偃月刀えんげつとうにかけて」

 関羽の背丈ほどもある巨大な薙刀の様な獲物を目にしながら、ディードは悲しく溜息を吐いた。

「あなたが名のある武将と言うことは間違っていなかったようですね。ですが、それだけに残念でなりません。それほどの信念を持っているはずの武人が、無理矢理目覚めさせられたとは言え、魔神と言うこの世界の悪に何の疑問もなく従っている事実に。仕方ありません、もう一度夢界で安らかな眠りに就いて頂きます。この神剣ライト・ローズ・ウイングで!」

 ジャキィイイイイン!

 ディードが連接剣の切っ先を関羽に向ける。三国最強とも言われた英傑との闘いが切って落とされた。


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 バチィ!!! ガギギギギィン!!!

 アガシャの射った矢と敵の魔神武将が射った矢が空中で一矢乱れずぶつかり合う。アガシャの弓の神器ルーナ・三日月クレッシェンテの長弓で放つ矢は魔力だが、敵の女性武将が放つ矢も魔力が弓の形を模したシロモノだ。

「ふむ、儂の弓と互角の競り合いができるとは大したものだ。名を聞いておこうか」

 紫のチャイナドレスの様な衣服と身体の要所を覆う様な鎧がこの魔神の魔神衣ディアーボリスなのだろう。左手には巨大な長弓と、背には象鼻刀ぞうびとうという長い柄の先に丸まった刃をつけた刀。その形は丸めた象の鼻のようであったという独特な形状をした武器を背負っている。この二つがこの魔神の魔神器に違いない。

「私の名はアガシャ・ロットカラー。ですが相手の名を聞くなら自分が名乗るのが礼儀でしょう? 魔神にはそんな礼儀などありはしないでしょうが」

 小柄な少女の様な見た目のアガシャにそのように言われ、自らを恥じ入るような表情をする中華の魔神。その武将が口を開いた。

「下らぬ任務はさっさと終えたかったものでな。まさかお主の様な童に言われるとは。無礼を詫びよう。儂の名は黄忠漢升こうちゅうかんしょう。且つては蜀の五虎大将の一人の老将に過ぎぬ。だが新たな生を与えられ、戦場へと舞い戻って来た。無理矢理の蘇生で因果が狂い、性別までも変わってしまった様だが……。そんなことは些細なことに過ぎん。再び其方の様な強者と刃を交えることができるとは僥倖じゃ」

 新たな肉体を喜ぶように、自らの右手を握ったり開いたりしている黄忠。

「なるほど、父上が教えてくれた三国志というお話の中に出て来た名前の武将ですね。弓の名手であり、近接戦闘でもかなりの手練れであるという。ですが、魔神として蘇った以上は滅却するしかありません。歴史上の人物と手合わせできるのは喜ばしいですが、父上の援護に向かわなくてはなりません。あなたは強い。それでも勝負を急がせて頂きます。ティミス様、ここは私が一人で闘います」

 後ろに控えているティミスへと声をかけるアガシャ。それを受けてティミスが答え始める。

「そいつはこれまでの魔神とは違う、かなりの化け物よ。戦国の世での経験値がそいつの身体には蓄積されている。決して油断したらダメよ。私はサーシャやルクスと話すことがある。それにこいつらの裏には原初七色の魔神が糸を引いているみたいね。まあいいわ、その程度の相手くらい捻じ伏せてみせなさい、アガシャ!」
「はい。任せて下さい。そういうことです。いざ尋常に勝負、黄忠漢升!」

 魔力を込めた矢を弓に番える。黄忠も派手な装飾を凝らした弓の魔神器・裂弩彎月れつどわんげつに矢を番えた。
 

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「ちっ、やっと無人の機械軍隊を蹴散らしたと思ったら、今度は魔神共が出て来やがった。しかも対峙するだけで相当強いのがわかる。さっさとカーズの兄貴の援護に行きたいってのに……」

 黒に金の縁取りの裲襠甲りょうとうこうを纏った、黒い短髪に顎髭の男魔神。派手な装飾の着物の所々に鎧を纏い、濃い茶髪の長髪を後ろで纏めた女魔神がアジーンとチェトレの行く先を塞ぐ。

「兄さん、油断しないで。本当にこいつら強い……。これまで大迷宮の奥で力を失っていた魔神と同じと思っていたら痛い目を見るわよ」

 二人の魔神がアジーン達に話始める。

「某は趙雲子龍ちょううんしりゅう。且つては義の為に闘った蜀の五虎大将が一人。魔神の誘いにより再び生を受けた。最初の相手が龍人とは……。どちらが真の龍であるか、いざ尋常に勝負!」
「おい、趙雲。お前は運良く同じ性別だからいいがな、俺なんて蘇ったのはいいが女の体だぞ。まあ身体的な能力に違いはないようだがよ。且つての五虎大将が見る影もねえ。だがそれでも女が相手ってのは気が引ける。俺の名は張飛翼徳ちょうひよくとく燕人えんひと張飛とは俺のことだ。女になったとはいえ、女相手は気が乗らねえ。ここは引いてくれねえか、嬢ちゃんよ?」

 アジーンと闘う気満々の趙雲と異なり、チェトレ相手にやる気が出ない張飛。両腕を首に掛けた蛇矛にもたれさせて、怠そうに話す。

「ふざけないで。同じ戦場に立った以上、男も女も関係ない。アンタにその気が無くても私は本気でアンタの首を狩るわ。あっさり死にたくなければさっさとその長矛を構えることね!」

 子供扱いされたことに頭にきたチェトレが強烈に神気を発する。

「張飛殿、今のは其方が悪い。戦場に出てきた以上、彼女も戦士であることに変わりない。本気で闘ってその礼を尽くすものであろう? ではいくぞ、龍人の戦士よ。我が竜胆戟りゅうたんげきを受けてみよ!」

 先端が三角柱の形をした巨大な槍をアジーンへと向ける趙雲。アジーンは落ち着いて、神器の両手の爪を伸ばして構える。二人の睨み合いが始まった。

「へっ、確かにその通りだな。だったらお嬢ちゃん、こっちもいかせて貰うぜ。この裂天蛇矛れつてんじゃほこの威力、しかと目に焼き付けろ!」

 通常の蛇矛は柄が長く、先の一刀の刃の部分が蛇のようにくねくねと曲がっているからこの名前が付けられたものだ。しかし張飛の魔神器は先端が二股になっており、それぞれが蛇矛の形をしている。あの形状の刃に斬り付けられたり、刺突を受けたなら酷い裂傷を刻まれることになるだろう。
 龍掌底波りゅうしょうていはの構えは不利になる可能性が高いと踏んだチェトレは神器ゴッドハンドの拳の爪を長めに伸ばし、リーチ差を減らす戦法を選んだ。

 ここにカーズPTと過去の三国の英雄達との決戦が幕を開けた。





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